八木と面談

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 翌週の半ば、さらに憂鬱なイベントが待っていた。担任との個人面談だ。八木と喋ったって何も面白いことなんてないのに。始まる前からテンションは海の底だ。


 八木は終わったばかりの考査の成績表を印刷してきていた。採点が終わってない科目が空白になっている、暫定版だ。

「私の下に三人もいるんだ。この人たちやばいね」

 私の総合順位は、下から四番目だった。

「他人のことは気にしなくていいから自分の心配をしなさい。三十七位も十分やばいでしょう」

「他人のことは気にしなくていいんですよね。だったら、上に三十六人いても気にしません」

 八木は一瞬考える間をおいて、「まぁ順位はいいとしても、問題なのはそれぞれの点数です」と、各科目の点を読み上げる。「えー、古典四十四点、数学三十三点」

「すごい! ぞろ目じゃん!」

 しかし、八木は私の発見を無視して話を進める。

「古典は平均点も高かったんだから、四十点台はまずいよ」

 確かに、平均点七十八点と書いてある。これは私が見たって綾雲咲姫の成績が悪いことは明らかだった。が、私はそんなことはどうでもいい。八木の気に食わない発言に食らいつく。

「平均点も気にしなくていいんじゃないですか。だって、他人のことは気にしなくていいんですよね」

 八木は「あのねぇ」と一息ついた。どう言おうか考えているのか、自分の不用意な発言を後悔しているのか、とにかく軌道修正を図ってきた。

「必要以上に他人と比べることもないし、自分が昔の自分と比べてどれだけ成長できたかが大事なのはその通りなんだけど、最終的には大学受験するんだから、他人ができていて自分にできていないことがあるんだったら、それは克服していかないといけないと思うよ」

 私が「じゃあ他人のことは気にしなくていいなんてことはないんですね」と追及すると、八木は「まぁそうだね」と発言を撤回した。それなら、初めから受験の競争に出遅れてるぞって、正直に言えばいいのに。


「他人のことは気にしなくていい」とか「他人じゃなくて自分と比べる」とかっていうのは、学校が創り出した不可思議な綺麗ごとの一つだと思う。「勉強で競争に打ち勝て」って言ってくれた方が、絶対に分かりやすい。だって、それが真実でしょ?

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