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 私に負けた八木は話題を変えてきた。

「とにかく、国語の先生に聞いたら、今回は真面目にやればとれる問題だったって言ってたよ。一日にどれくらい勉強してる?」

 真面目にやってもとれない問題なんて、高一の定期考査では出ないでしょ、と突っ込むのを我慢して、「全然してなーい」と軽く答えた。と同時に窓の外に目を向ける。八木はどういう反応をするだろうか。


 投げやりな態度の私に対して、八木は「一日二時間は勉強するんだよ」と、自分の見解を押し付けてきただけだった。それからは、「将来についての見通しはあるの?」とか「就いてみたい職業は?」とか「第一志望の大学は?」とか、ずっと先のことばかり聞かれた。

「未来は不確定だから、あまり希望を持たないようにしてます」とはぐらかしてみても、「あっという間に来るんだから考えておかないと」としつこい。

 そりゃあ八木は半世紀以上も生きてるから二年でも五年でもあっという間なんだろうけど、キラキラの十五歳にとっては、この今が長くて大事な時間なのだ。未来じゃない。

「今時間を無駄にすると後で後悔するよ」

「今時間を無駄にしてるとは思いません」

「先生は後から後悔してほしくないと思ってる。一年生のうちからコツコツ積み上げておけばよかったって、先輩たちも言ってるんだから」

「私は後悔しません。だって過去は変えられないから。後悔したって仕方ないじゃん」


 こんな調子で、面談は平行線のまま終わった。八木は最後にもう一度「一日二時間ね」と念を押すように言った。それを言うために面談をしているみたいだった。

 個人的には、八木の「後から後悔」は「馬から落馬」と同じで変な言い回しで気になった。困った生徒のせいで、八木は頭痛が痛いのかもしれない。面談が終わると、私は放送室に直行した。


「何聞かれた?」とコトが聞いて来たので、私は「何でそんな勉強しなくちゃいけないんだろう」と疑問で返した。するとコトはきょとんとして、こう言った。

「え、勉強しなくちゃいけないの?」

 そのあまりに自然な驚きっぷりに、私は声を出して笑ってしまった。

「ははははは、コト最高! コトのそういうとこ好き!」

「ありがと~」

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