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 事件は整列した直後に起こった。


「何だそれは」

 金子はまっすぐに私の顔を見ていた。予想外の事態に驚いているみたいだった。マカナが「やっぱりダメだったんだぁ」と言いたげにこちらを見ているのが分かった。他の生徒たちも心配そうに成り行きを見つめる。

「何がですか」

「何がですかじゃないだろ。その髪はどうしたんだ」

「これですか?」と、私は悪びれる風もなく赤いエクステをつまんで、「運動会を盛り上げようと思って」と答えた。おそらくこの時点でクラスの半分は私の勇気に敬服したと思う。

 金子は一歩も動かずに「外せ」とのたもうた。

 私も引かずに「なぜですか」と言い返す。

 金子が何か言おうと口を開いたところに、始業のチャイムが鳴り響いた。


 金子は校内で一、二を争う若手教師だと思う。いつもジャージだから、ぱっと見は生徒にしか見えない。そのくせ偉そうで、初めの授業の時から気に入らなかった。


「いいから外せ」

「なぜですか」

「外せって言ってるのが分からないのか」

「先生が言ってる言葉は分かってます。分からないのは外す理由です」

 チャイムも鳴ったし準備運動を始めたいマカナ――彼女は体育委員なので、授業の初めの体操を担当することになっている。――も、ただ立ち尽くすばかりだ。


「そんなこと一々俺に説明させるな。体育の授業を受けるのに相応しくないだろ」

 次第に声が荒々しくなる。これ以上怒らせるとキレるだろうか。それは試さないわけにはいかないと思った。

「なぜ相応しくないんですか。ちゃんと運動できる服装だし、靴も――」

「もういい」

 金子は私の発言を遮った。

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