15
事件は整列した直後に起こった。
「何だそれは」
金子はまっすぐに私の顔を見ていた。予想外の事態に驚いているみたいだった。マカナが「やっぱりダメだったんだぁ」と言いたげにこちらを見ているのが分かった。他の生徒たちも心配そうに成り行きを見つめる。
「何がですか」
「何がですかじゃないだろ。その髪はどうしたんだ」
「これですか?」と、私は悪びれる風もなく赤いエクステをつまんで、「運動会を盛り上げようと思って」と答えた。おそらくこの時点でクラスの半分は私の勇気に敬服したと思う。
金子は一歩も動かずに「外せ」とのたもうた。
私も引かずに「なぜですか」と言い返す。
金子が何か言おうと口を開いたところに、始業のチャイムが鳴り響いた。
金子は校内で一、二を争う若手教師だと思う。いつもジャージだから、ぱっと見は生徒にしか見えない。そのくせ偉そうで、初めの授業の時から気に入らなかった。
「いいから外せ」
「なぜですか」
「外せって言ってるのが分からないのか」
「先生が言ってる言葉は分かってます。分からないのは外す理由です」
チャイムも鳴ったし準備運動を始めたいマカナ――彼女は体育委員なので、授業の初めの体操を担当することになっている。――も、ただ立ち尽くすばかりだ。
「そんなこと一々俺に説明させるな。体育の授業を受けるのに相応しくないだろ」
次第に声が荒々しくなる。これ以上怒らせるとキレるだろうか。それは試さないわけにはいかないと思った。
「なぜ相応しくないんですか。ちゃんと運動できる服装だし、靴も――」
「もういい」
金子は私の発言を遮った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます