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 金子は、私とのやり取りの時間がもったいないと思ったんだろう。「もういい」と言うと、「今日は見学してろ。後で担任の先生には報告しておくから」と言い捨てた。それから不機嫌そうに「体操始め」とマカナに指示した。


 しかし、それで私が大人しく見学するはずもなく、みんなと一緒に準備運動を始める。背を向けていた金子が振り返るや、憎しみを込めて睨んできた。


「お前ちょっと来い」

 私はグラウンドの隅に連れていかれる。あぁあ、これから一年間体育の授業が気まずくなっちゃうなぁ、と思いながら、素直についていく私。

「お前どういうつもりだ」

「体育の授業を受けるつもりです」

「じゃあそれを外せ」

「なぜエクステが体育の授業に相応しくないんですか」

「決まってるだろそんなの」

「聞いたことありません」

「今言った。それで理解しろ。大体、ダメなこと全部列挙しておけるわけないだろ。制服で体育の授業を受けるな、裸で体育の授業を受けるな、とかも全部言っておかないといけないのか? 常識で判断しろ。常識で」


 常識――。嫌いな言葉だ。「常識を身に付けろ」という言葉で、みんなと同じようにしろ、みんなから浮くな、ということを強制してくる。そして、この常識というやつを正義だと信じ込んでいる人間が沢山いる。金子もその人種だ。


「私は非常識なので理解できません。どうしても禁止したいなら、校則として明記してもらえませんか」

「そんなことしたら大変なことになるぞ。全部ガチガチに決めて、固めて、息苦しくなるのはお前たちだからな」

「目に見えない『常識』で怒られる方が余程息苦しいので大丈夫です」

「ふんっ。そうか」

 金子は不敵な笑みを浮かべた。それから、「今日は特別に猶予しといてやる。これ以上は時間の無駄だ」と、負け惜しみともとれる言葉を残した。これは実質的に私の勝ちだと思う。

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