16
金子は、私とのやり取りの時間がもったいないと思ったんだろう。「もういい」と言うと、「今日は見学してろ。後で担任の先生には報告しておくから」と言い捨てた。それから不機嫌そうに「体操始め」とマカナに指示した。
しかし、それで私が大人しく見学するはずもなく、みんなと一緒に準備運動を始める。背を向けていた金子が振り返るや、憎しみを込めて睨んできた。
「お前ちょっと来い」
私はグラウンドの隅に連れていかれる。あぁあ、これから一年間体育の授業が気まずくなっちゃうなぁ、と思いながら、素直についていく私。
「お前どういうつもりだ」
「体育の授業を受けるつもりです」
「じゃあそれを外せ」
「なぜエクステが体育の授業に相応しくないんですか」
「決まってるだろそんなの」
「聞いたことありません」
「今言った。それで理解しろ。大体、ダメなこと全部列挙しておけるわけないだろ。制服で体育の授業を受けるな、裸で体育の授業を受けるな、とかも全部言っておかないといけないのか? 常識で判断しろ。常識で」
常識――。嫌いな言葉だ。「常識を身に付けろ」という言葉で、みんなと同じようにしろ、みんなから浮くな、ということを強制してくる。そして、この常識というやつを正義だと信じ込んでいる人間が沢山いる。金子もその人種だ。
「私は非常識なので理解できません。どうしても禁止したいなら、校則として明記してもらえませんか」
「そんなことしたら大変なことになるぞ。全部ガチガチに決めて、固めて、息苦しくなるのはお前たちだからな」
「目に見えない『常識』で怒られる方が余程息苦しいので大丈夫です」
「ふんっ。そうか」
金子は不敵な笑みを浮かべた。それから、「今日は特別に猶予しといてやる。これ以上は時間の無駄だ」と、負け惜しみともとれる言葉を残した。これは実質的に私の勝ちだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます