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「合間にルール説明を入れるといいと思うよ」とアドバイスをくれたミッキー先輩の実況は、プロのアナウンサーみたいだった。
「続いての競技は、一年生がクラス全員でバトンを繋ぐ、クラス、リレー! 実況替わりましてミッキー=チャンがお届けいたします!」
先輩の肌はインド人くらい浅黒いが、先輩の日本語は日本人よりも流暢だ。そして英語の発音はイギリス人レベル。とにかく色々とずるい。
「クラスリレーは一人一〇〇メートル×四〇人で争われ、一位のクラスには一〇〇点、二位には九〇点、以下、十点刻みで点数が与えられます。もしここで赤軍の二クラスがワン・ツーfinishを飾ると、何と一挙に一九〇点を獲得! 一気に首位に躍り出る可能性もある大chance! お、トラックをご覧ください。この戦いを応援しようと、担任の先生方も登場しています。さぁ続いて各クラスの第一走者を紹介しましょう――」
まだ走り始めてもいないのに、よくこれだけの言葉がとめどなく流れ出てくるものだ。マーライオンか。
一方、ハッキンの実況は頼りない限りだった。私が実況に飽きたから無理矢理連れてきたんだけど、「あ、あ、マイク入ってる? こんちはー」と挨拶してから、「マイクテスト、マイクテスト。あーあーあー」と言っている始末だ。そしてそのまま競技が始まってしまった。
見かねたワタルが横から「一回戦は黒軍対青軍です」と囁くと、マイクに向かって「そうなの? ありがとう」だ。あまりのとぼけっぷりに客席は盛り上がったけど……。
放送席には選手名簿もあったはずなのにどこかへ失くしちゃうし、自分のハチマキはなぜか二本あるし、ハッキンは本当に身の回りが煩雑だ。
ワタル――藤原渉。同じクラスの男子で、「皆さんに迷惑をかけないように」という自己紹介は傑作――はその点では対照的だ。選手名簿からルールブックまで何でもファイリングして持っている。そのくせ自分は絶対にマイクを持とうとしない。私が「やりなよ」って言っても、「私がやるより綾雲さんが実況した方がいいと思います」の一点張り。いつも猫背に重そうな鞄を背負って、今日だってよく晴れた運動会なのに、一人長袖のシャツを着て放送席で肩を丸めている。
コト、紫藤琴葉は、猫みたいに寝ていた。
そして結局マイクが私に回ってくるのだ。
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