会長選挙
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全校生徒が体育館に集まる。じわじわと列が出来ていく様を、私はステージから見下ろしていた。演壇を挟んで、下手側には対抗馬の二年生が座っている。私が彼の冴えない顔をどんなに睨んでも、彼は絶対に私を見ない。
司会のあっさりした制度説明の後、相手の政治家みたいな演説が始まった。
「今回生徒会長選挙に立候補いたしました、安倍文則でございます」
演説は、いきなり私への批判から始まった。「入学したばかりの一年生に、本当に生徒会を任せていいんですか」と訴えている。そして、現三年生役員の傀儡と化すだけだと断じてくる。私が一年だからってなんだ。そんなことで人を決めつけるなんて気に入らない。
それ以降は顔に見合った大人しい内容を淡々と話していた。委員会活動の活性化のために支出を見直すとか、生徒会会則を改定するとか。演説はほどほどの拍手で幕を下ろした。
さあ、いよいよ私の番だ。
私が演壇に向かうだけで会場がざわつく。運動会で絶叫したお陰で、知名度は抜群だ。演説で大事なのは掴み。おふざけと思われたら終わり。ゆっくり息を吸って、大きな声で言う!
「一緒に自由を勝ち取りましょう!」
マイクがキーンと叫び、私の声を打ち消した。
構わずに「自由を勝ち取りましょう!」と、もう一度言う。今度はマイクに乗った。
「え? 自由ってどういうこと? 具体的に言ってくれないと分かんない! って思うでしょ? ね?」
私はわざとらしいくらいに大きく身振りを使って語りかけるが、聴衆の反応が鈍い。「一体何が始まったんだろう?」って感じだ。
「え、思わない?」
マイクを口から離して手を耳に当て、「聞こえない」ポーズを取る。すると、ようやく調子のいい男子が「思うー!」と答えてくれた。
「そう! 思うでしょ? じゃあ教えます!」
笑いが起きて、会場が温まった。こうなればこっちのもの。みんなが私の次の言葉を待っている。何だか私も楽しくなってきた!
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