40

 放課後、私とコトと優子は、生徒会室にいた。気が付けば、生徒会長選挙まであと二日に迫っている。

「学校に自由を――諸規則の撤廃を目指します。ってのはどう?」と、私は自分が考えたスローガンを披露する。すかさずコトが「いいね~」と賛同を示した。

 無言で優子を見つめる。プレッシャーを感じ取ったのか、優子も口を開く。

「諸規則というのが具体的に何のことを言っているのか、ちょっと分かりにくくないですか」

「あ、それママにも言われた! 具体的に、って」

 私は予期せぬ一致にささやかな感動を覚えつつ、「髪の色の自由化!」と、ママに言ったことを繰り返す。

 今度は優子が無言で私を見つめた。顔が「それから?」と、続きを促している。

「……」

 しかし、私は何も答えられなかった。

「それだけでは少し弱くないですか」

「そうだね。じゃあ他にも考えよう、マニュフェスト。何にする?」と笑いながら、内心は「浅薄さを一瞬で看破された!」という動揺が止まらない。優子はさすがだ。


 そして優子は「大衆迎合的なのはどうですか。最近流行ってるじゃないですか」と言って顎をさすった。ワタルみたいなことを言うなぁ。私が「迎合的?」と聞き返すと「おもねる感じっていうか」と言葉の意味を説明してくれる。余計分かんないよ。

 スマホに打つと「阿る」。漢字は「阿鼻叫喚」で見たことあるやつだ。意味は「人の気に入るように振る舞う」とある。要するにゴマすって媚びを売る感じね。

 なんてやってる間に、コトが「お金配るのどう~?」と提案してきた。すかさず私は「いいね!」と賛同を示した。「お金ほしい!」


 というわけで、明後日の生徒会長選挙、私たちは三本柱の方針で戦うことになった。

「その一、文化祭のクラス予算を一律五千円引き上げます」とコトが宣言する。

「その二、生徒会執行部の活動を透明化します」と発案者の優子が言う。

「その三、髪の色などの諸規則を撤廃し、学校を自由にします!」と私は勢いよく立ち上がった。演説は全部私がやるんだけど、三人が一つずつ出し合った案がマニュフェストなんて、ちょっと素敵だと思わない?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る