中間考査
26
「姫災難だったね~」
放送室に寄ると、コトがそう言って迎えてくれた。私は「でも八木に負けなかった」と勝利報告する。
「よし」とコトは立ち上がると、「じゃあ帰ろ~」と鞄を背負った。
「え、帰るの?」下校放送という放送部最大のミッションを放棄して?
部屋を見渡すと、確かに私たち二人の他には誰もいなかった。真面目なワタルも、機材の一部と化した理人先輩もいない。こんなの初めてだ。
私が戸惑っていると、コトは「今日から考査一週間前だから部活ないんだって~」と微笑んだ。高校に入って初めての定期考査が近付いてきていた。
考査前と考査中は部活動が無い。正確に言えば、禁止されている。その理由を八木に聞いてみると、「勉強に集中できるように」ということだった。裏を返せば、普段は部活があるから勉強に集中できなくても仕方ない、ということだ。八木にそう言うと、「勉強はいつだって一生懸命やるけど、ただ、考査の期間くらいは勉強だけに集中しようってことだよ」と、はっきりしない答えが返ってきた。
学校は部活動を奨励している。現に、ほとんどの人が何かしらの部活に入っていると思う。なのに、考査の前だけ一転して禁止だ。これでは、毎日の積み重ねより、考査直前の一夜漬けを推奨しているようなものだ。何が積み重ねだよ。それを言うなら考査中に部活したっていいじゃないか。
「学校が生徒を信頼してないんじゃな~い?」というコトの言葉に、やけに説得力がある。「積み重ねなんてどうせできてないでしょ。考査前は部活禁止にしてあげるから、せいぜいそこで詰め込みなさいって」
私は「なるほど。確かに今私の中に何も積み重なってないわ」と同意する。
「禁止にしたから勉強するってわけでもないんだけどね~」
「それな」
「あ、分かった。パフォーマンスじゃない?」と、またもコトが閃いた。
「どういうこと?」
「学校の、生徒に勉強させてますよっていうパフォーマンス、アピールなんだよ~」
「誰にアピールしてんの?」
「ん~。世間?」
「何それ」
「さぁ」
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