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次の日、私たちはやっぱり放送室にいた。
前提Ⅰ「試験前は部活動が禁止なだけで、部室が立ち入り禁止なわけじゃない」
前提Ⅱ「放送部の活動は下校放送だから、放送室でのお喋りは部活動ではない」
結論「以上より、試験前に放送室で喋っててもいい」
という理屈である。そんなこんなで、私たちは考査前日まで毎日放送室に入り浸っていた。この部屋に二人きり、というのは新鮮だ。二人がここにいると知っている人は誰もいない。だから、皆にとっては今、私とコトは存在していないのと同じなのだ。
何となく指が操作盤に伸びる。マイクの横のボタンに触れる。押し込む。
「ピンポンパンポーン!」と、校内アナウンスのチャイムが鳴り響いて、私は慌てて指を離した。マイクのランプは消えている。大丈夫、チャイムが鳴っただけ。放送は職員室からでもかけられる。発信元が放送室だとは分からない。はず。
一分経った。二分経った。しかし何も起こらなかった。職員室側の操作ミスだということになったんだろう。少し安堵する。
こう見えて、私だって勉強しようという気持ちはある。しようとは思うんだけど、なぜかそこに辿り着けないのだ。勉強しなきゃいけないことも分かってる。今やらなかったら後でもっと大変な目に遭うんだろうってことも分かってる。何なら、何をやればいいかまで分かっているのだ。後はやるだけ。それだけでいい。なのに、できない。この不思議な症状に誰か名前を付けてほしい。コトも同じ気持ちなんだろうか。
試験前の教室に漂うピリッとした空気が苦手なのはコトも同じみたいで、二人して「教室は何かいたたまれないよね」と合意している。
私は思い切って聞いてみることにした。
「コトはなんで勉強しないの? 私が聞くのも変だけどさ」
できるだけさらりと聞こえるように言った。コトが首をもたげて、「何を聞かれているのか分からない」というような顔をして私を見た。
その時、ドアが四回ノックされた。私はドキッとして背筋を伸ばす。見られて困る物は何もないはずだけど、慌てて目が机の上をさらった。そして、ゆっくりとドアが開いた。
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