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 四月下旬、コトが何日か続けて学校を休んだ。八木は「プライバシーだから」の一点張りで、何も教えてくれない。私がこんなに心配してるのに。連絡も来ないし、どうしたんだろう。マカナは「そのうち来るでしょ」と気楽で、私は一人気を揉んでいた。


 そういうわけで、私は放送部に入り浸っている。ダンス部に入ったマカナは放課後そっちに行っちゃうし、クラスには他に友達もいないし、家に帰っても誰もいない。放送部は私とコトを入れても全部で八人だけの小規模部活で、狭い放送室も隠れ家みたいでちょうどいい。


「コトハちゃん心配だね」と一番心配してくれるのは、三年生のミッキー先輩だ。ソフィー先輩に彼氏がいるとはショックだったけど、相手がこの人なら仕方ない。ミッキー先輩は控えめに言って、天才で優しい。何なら私も彼女にしてほしい。浅黒い肌と丸い顔、お茶目で可愛い目をしている。

 三年生はもう一人、齋藤先輩がいるが、この人は活動に来ない。医学部目指して勉強中なんだそうだ。よく分かんない。

 二年生の二人も変わり者で、一人は片浦理人。理人(リト)先輩。ミッキー先輩は彼を「放送室の住人」と言う。私に言わせれば「放送室の一部」だ。放課後はもちろん、昼休みも常に機材の前に座って何かしている。理人先輩は、コトが休んでいることに関して何も言わない。そもそも、常に何も言わない。彼と何らかのコミュニケーションをとることは私にはできない。

 もう一人は白金悠富(ユウト)先輩。コトは「ハッキン」と呼ぶが、本当はシラカネだ。「コトちゃんどうしたんだろうね」と言うその言い方が軽いというか、何というか、軽い。この人とは絶対に何も約束できない。本人にそう言うと「俺もそう思う」と明るく笑った。でも楽しい人だからいい。

 私とコトともう一人の一年生は、同じクラスの藤原渉(ワタル)だ。「皆さんに迷惑をかけないように」と自己紹介していた出家男とまさか同じ部活に入るなんて、微塵も思っていなかった。彼は私がコトを心配しているのを知ってて、「もしかしたら重い病気になって入院しているのかもしれません」と無表情で言ってくる。

「そんなわけないでしょ。意地悪」と言うと、「意地悪で言ったのではありません。あくまでも可能性として述べただけです」だって。キィー! って感じ。ほんとムカつく。


 そんな八人が、放送部の全て。私がハッキンとゲームしてる横で、ワタルと理人先輩が仕事してる。三年生は来たり来なかったり。そんな感じ。

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