赤いエクステ

13

「運動会っていつだったっけ?」

 ママがキッチンから顔を出す。

「忘れた。五月のいつか」

「あ、ベランダからジャガイモ取ってくれる? 二つお願い」

「えー」と言いながらも、早く夕食を食べたい私はママの言葉に従う。窓からは新宿のビル群が見えた。よくあんな高い建物が何度も地震に耐えたものだと感心する。

「さきスカート短くない?」

 今度はジャガイモを受け取りながら、私の格好にケチをつけてくる。

「それよりママ話題替わるの早すぎじゃない?」

「そう?」と言いながら、ママはもうジャガイモを洗っている。

「私のはいいの.。誰にも怒られないし」

 高校にはスカートの丈を規制する校則は無かった。そんなものあってたまるか。

「ふーん」と言うママは大して興味も無さそうだ。

 あっという間に皮をむかれて白くなったジャガイモを横目に、私は無性に腹が立った。「ふーん」て何だ、「ふーん」て。それ以上言いたいことが無いなら、最初から何も言わないでほしい。部屋着に着替えるため自分の部屋に戻った私は、夕食が出来上がるまでスマホと戯れることにした。


 私は恵まれている方だと思う。パパは商社マンで、ママは教育公務員。都心のマンションに住む一人っ子。でもだからって自分の人生に満足してるかって聞かれたら、イエスと答えられる自信はない。私は赤いエクステを机に置いた。

 運動会は連休明けの金曜日だ。種目決めも終わり、明日からは練習も始まる。A組は南軍なので、シンボルカラーは赤だ。別に運動が得意なわけでもないけど、どうせやるなら楽しみたいし、負けたくない。

 右耳の後ろに赤いラインが入る。生徒手帳に「エクステ禁止」という記述は見つからなかった。染髪禁止は誰かが口頭で言ってた気もするけど、それすら書いてなかった。続けて十枚の爪を鮮やかな赤に塗る。何となく強くなったような気がして嬉しくなった。


「さきー、ご飯できたよ」とママの声がして、一分くらい無視してから部屋を出る。

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