47

「渡邊ララって人を探しに来ました。ダンス部だって聞いたので」

 私は正直にそう答えた。しかし彼女は気に入らないことでもあるのか、「だから何の用?」と冷たい。

 仕方なく私は「文化祭実行委員会の会長さんとお話ししたいことがあって――」と続けるが、それも遮られた。

「見ての通り部活中だから、また今度にしてくれる?」

 彼女の大きな目が一段と大きくなり、すごい目力だ。私もせっかくここまで来て簡単には帰りたくない。「渡邊ララって人を二分貸してくれるだけでいいんだけど」と食い下がる。すると、彼女は意外なことを言った。

「ならもう貸したから帰って」

 この時私はようやく理解した。この人が渡邊ララだ。名前が名前だからソフィー先輩みたいなのを勝手に想像してたけど、思い込みは怖い。可愛い男の子みたいな人だとは思わなかった。

 渡邊ララは「音漏れるからどいてくれる?」と私を体育館の外に追い出すと、ぴしゃりとドアを閉めた。明日は土曜日。お休みだ。


 月曜日、マカナに聞くと今日もダンス部は踊るらしい。渡邊ララに会いたければ、昼休みに突撃するしかない。 

 他学年のフロアっていうのは雰囲気が違う。知ってる人がいないとかそういうことじゃなくて、何か「色」が違うような感覚だ。私はE組まで来ると、前のドアを大きく開けた。人が多い。私は渡邊ララのショートヘアをすぐには見つけられなかった。

「渡邊ララさんはいませんかー」と大きな声で二回言うと、窓際で談笑していた彼女がスッと立ち上がった。それからサッと真顔になり、大股で目の前まで来て言う。

「何の用?」

 その瞬間、クラスの注目が一気に集まったのを感じた。

「二次企画書を提出しに来ました」

 私は家で書いておいた二次企画書を、捜査令状のように彼女の前に掲げた。使用希望場所は体育館のステージと書いてある。しかし、渡邊ララは受け取ってくれなかった。

「二次企画書は先週の委員会が締め切りだったはず。締め切りを過ぎたものは一切受け取らないことにしてるの。残念だけど」

 完全アウェーの教室で、渡邊ララとの攻防が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る