委員長渡邊ララ
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「今年度の予算執行、次年度の予算編成と折衝、補正予算の編成、決算……」
放課後、優子が引継ぎ資料を見ながらぶつぶつ言っている。コトが喜びそうなお金の話ばっかり。そういうことは彼らに任せておこう。
「綾雲さん」
「え、何?」
優子が急に顔を上げて話しかけてきたので、私はパンを食べる手を止めた。
「学園祭実行委員会に企画書を出さないといけないんじゃないですか」
「そうなの?」
「いずれにしてもタイムテーブルを調整される前にステージは申請しておいた方がいいと思います。そうしないとステージ使用を断られてしまうかもしれません」
それは困る。委員長の名を聞くと、「二年E組の渡邊ララという生徒だそうです」とのことだ。
「ちょっと行ってくる」
私は即座に廊下へ出た。直接話をつけようと思ったからだ。
「渡邊ララって人いませんかー」
教室に残っていた十人くらいが、一斉に私を見る。それからは時が止まったみたいに誰も応えてくれない。
「いないの?」と一人の男子と目を合わせると、「ぶ、部活じゃないかな」と小さく答えた。
「何部?」
「……ダンス部」
「ありがとう」
歩き去る背後から、ひそひそと「会長」とか「あやも」とかいう声が聞こえてきた。
足の速いマカナも、優等生のアカリもダンス部だ。ダンス部も色んな人がいるなぁ、なんてことを考えながら、私は階段を下りていって体育館のドアを開ける。
「1,2,3,4,5,6,7,8」
手拍子しているボーイッシュな人に向かって、全員が同じ動きをしている。私はしばらくの間その様子を眺めていた。どれが渡邊ララ?
しばらくすると、手拍子していたカッコイイ人が「五分休憩」と指示を出して、こちらにツカツカ歩いてくる。そしてそのまま私の目の前に来るや、「何か用?」と短く言った。身体から放射される熱気を感じて、私は思わず一歩下がった。
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