2
入学式が終わると、また教室に入らされる。さっきの平らな顔が「えー、少し時間があるので、一人ずつ自己紹介をしてもらいます」と言って、教室が少し静かになる。
「えー、ではまず私から。改めまして、A組担任の八木です。えー、みんなの数学Aの授業を担当します。それから、八木の漢字は、エイトに、ツリーです」
二人くらいの鼻が笑ったような気がした。つまらないオヤジギャグだ。
「それを言うならtreesだろ」と心の中で突っ込みを入れていると、「えー、ではまず綾雲さんからお願いします」と声がして、みんなの視線を感じた。
「心の準備ができてないので後ろからにしてください」
平らな顔がどんな反応をするかと思ってそう言ってみたけど、「とりあえず名前と何か一言だけでいいですよ」と無視された。
いや、この何とも言えない空気を作っておいて「何か一言」とか、無茶振りにもほどがある。私が何を言っても盛り上がらないでしょ。
「綾雲咲姫です!」
私はその場で勢いよく立ち上がって振り返ると、小学生みたいに「です!」に力を入れて名乗った。それから、天井を見上げて名前の漢字を説明する。
「『あや』はあやっていう字で、『も』は雲、『さ』は花が咲くの咲くで、『き』は姫です。家は、結構近くに住んでて、高校では何か楽しいことができたらなーって感じですね。要するに、JKを満喫したいですっ☆」
最後は笑顔でキメてやった。
苗字が綾雲なので、一番廊下側の一番前の席だ。他人の視線が飛んで来づらい端っこでよかったかもしれない。たぶん、私は初日にしてクラスから浮いたと思う。
「勉強をついていけるように頑張りたいです」
「人見知りだから沢山話しかけてほしいです」
そんな、猫をかぶっているのか、根っからの猫だかの自己紹介を何人か聞いているうちに、私一人がバカだったんじゃないかって思えてきた。別に私が最後だったとしても、他人に合わせようとは思わないけど。一番の傑作は、「皆さんに迷惑をかけないように」と挨拶した男子だ。いや、どんな高尚な精神の持ち主だよ。すぐにでも出家しちゃえよ。
そんなクラスの中で、私は二人の女子に焦点を合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます