第18話 今、助けに行く
「結局これからでどうするのよ。私達を監視してるの学園側の人なんでしょ?」
「どうするって俺が思うにただの監視だとは思うぞ。俺達にとってこの仕事は初めての大きい仕事だから様子を監視してるじゃないのか?」
「何よそれ。話が矛盾してるじゃない。それだったら警戒なんかしなくていいじゃないの?」
「確かに矛盾してるかもしれないが俺はどうも学園を信用してはいけない気がして仕方ないんだ。俺らに簡易な説明だけしてこんな化け物戦わせる学園を信用できる理由を教えてくれよ」
森の中で鉄と鉄がぶつかる音が響いた。
誰かが亡骸を小突いたのだろう。
俺達みたいな学生がメタリックカラーな化け物相手に戦う目的を聞いていたが核心をついた理由は聞いていない。
メテオ専門の戦う組織的な存在があってもおかしくはないはずだなのに俺達はこうしてメテオを討伐する為に駆り出されてる。
「あんたがわからないなら私達もわかるわけないじゃない」
「話を戻すけど私達を監視している人達のことどうするの?このままにしとく?私は別に構わないけど」
「そうだな。ただ監視しているだけだからな。実害がでない限りそのまま放置で良さそうだな。お前もそれでいいだろ?」
「わかった」
「それでいいの?男二人はいいとして、澪まで。ストーカーみたいで気持ち悪くないの?」
「えっ?だってただ見られてるだけだよ。ストーカーとは違うよ」
「違う。話を聞かれているだけ。視線は感じない」
「何よそれ。ネクラくんよりなおさら気持ち悪いじゃないの」
「おいおい、またアイツって言うのか。勘弁してくれよ」
「アイツって言うのは白城くんの運命の相手だったりして」
「チクショー。ガチのリア充かよ。なんでこいつばかりが。朝だって水泡ちゃんの胸揉んでいやがったしよ」
「違う!あれは事故だ。俺は悪くない」
「水泡さんって車に跳ねられたあの胸の大きい子ね。男子ってなんで胸の大きい子が好きなのかしら。死ねばいいのに」
「うぅ。」
白城(仮)は俺達がいる位置を知っているような口ぶりだ。チームメイトにディスられているがこれ以上の情報はなさそうだ。
あの四人組の気が変わる前に退散でもするか。
「ユッちゃん!男の子に胸揉まれたの!?」
「それな。ちょっと白城を押し倒されてな。それでアイツの手が俺の胸に」
「なるほどBL展開な訳ですな。フムフム。だから体育の時マット上で熱いのを」
「BL!!」
「反応するとこそこなの?!周、声大き過ぎるよ。静かに。それにあれはだな。柔道の授業だっただけだろ。なんで話をややこしくする」
「雪くんそれ本当なの?」
「そうだが。最初に別に周が思っているようなことは全然ないぞ」
白城との間には恋愛感情一切ない。ふざけあってじゃれあい程度はするが特にはBL的な関係ではない。
柔道の時だって真面目に取り組んでいたよ。上手いか下手かは置いといて押し倒したり、倒されたりして真面目に。あれ?第三者目線から見るとかなりBLもんだぞ。そもそも柔道の授業光景事態BLに不思議と見える。
隣でバスケの授業していた一部の女子からの視線ネットリとしていたのはそういう風に見えていたのか。
「そうだね。今のユッちゃんは女の子だもんね。男の子と女の子の関係ならBLじゃなくて純愛だもんね」
「純愛!!」
「声、デカイって。それに恋愛じゃないって」
「ごめんなさい」
「朝のことが本当なら私行ってくるから」
雹が日本刀を強く握りしめて四人組の元へ向かおうとする。
俺は慌てて雹の手をつかんで必死に止めた。
「雹さん。そんな物を持って今どちらに向かおうとしてましたか?」
「雪くん離して。あの男に不埒な真似をしたことを後悔してあげるから。とりあえず股に生えている物を鄭切って」
恐ろしげなことを口走りに始めた雹を白城(仮)の貞操の為、必死に押さえ込んだ。
バーサーカーと化した雹相手にか弱い俺は手も足も出ずに呆気なく振り払われてしまう。
「雪くん。邪魔しないで」
「一体どうしたんだよ」
「少しは落ち着いてください」
「ねぇ。ひょうちゃん、ユッちゃんとマッコちゃんは親友なんだよ。ユッちゃんが男の子だった時の話だけど。親友ならそれぐらい普通だよ」
周と月希も一緒になって雹を宥めるが日本刀の柄を持つ手を緩めずにいるが三人係りで押さえ込んでいることに成功した。
このまま雹が落ち着くまで押さえ込んでいると足下の地面がズブンとドロドロな物体へと変化して俺達を底無し沼の如く呑み込んでいく。
「なにこれ?うごけなーいよー」
「これって昨日のスライムみたいですよ」
「みんな動くなよ。動くと余計に沈んで動けなくなるぞ」
「雪くん。このままだと私達危ないわ。助けを呼ばないと」
「そうですよ。雪さん、このまま窒息死は嫌ですからあの四人を呼びましょう」
「おい!だから暴れるなって言ってるだろ。四人組を呼ぶ前に沈むは」
「ユッちゃんもう遅いよ」
俺達は助けを呼ぼうとしたが沈むスピードがだんだん早くなりドロドロの物体に飲み込まれてしまい意識が途絶えた。
目が覚めた場所は見覚えが一室だった。
綺麗に折り畳まれた部屋着とシングルベッドしかない寂しい部屋は朝とは変わらない様子だったが何かぽっかりと空いた空間に感じられた。
「この部屋はなんで。いや、俺はこの部屋にいるんだ?さっきまで月希達と森の中にいたはずなのに俺は」
さっきまでの出来事が実感がない夢に思えたが心の奥こそから不安感だけが溢れてくる。酷い目覚めだった。
ベッドから体を起こして見ると異様に胸が軽いことに気づいた。着ていた部屋着の上から胸元を触れて見ると確かにあったはずのそれが無くなっていた。
そして確かめる様に恐る恐る股にも触れてみた。うれしいことに期待した物があり歓喜な声をあげた。
俺は男に戻っていたのだ。
「まさかの全部夢落ちとかなら笑えるだがな」
今の俺ならそんなことわかる。今日起きたことの今まで全てが現実で何一つ夢だったことはないと信じられる。
ドロドロの物体に飲まれた月希達のことが心配で仕方ない。
ここの空間には時計がなく、時間を知る術がない。
あのときから時間が過ぎたかは時間の間隔がわからない俺にはわからない、知る術がない。
ただわかる物がわかる。俺のクローンの存在だ。何故にわかるか知らないが生きていることだけがわかる。
そこに月希達が必ずいる。
不安を抱えとりあえず部屋から出てみる。
早く月希達の元へ行かなければならない気がする。変な感じでモヤモヤする。
「ここから出る方法を探さないと」
灯台もと暗しを嫌って手始めに月希達の部屋から探索を始めた。
女の子の部屋を入るのは勇気がいる。決して年頃の女子の部屋を入ってみたいだなんてそんな私情がない。
月希→雹→周の順番で入る。
幼馴染みの月希の部屋は昔から入った事があるのでそれほど気になる物が無かった。
部屋の中身も服が散乱している以外俺の部屋と変わらなかった。他の二部屋を軽く覗いたがベッドと私服が置いてあるだけでまったく変わりはなかった。
「俺達の部屋は服とベッドがデフォルトなのかよ。ホームレス女子高生になり損ねた俺にとってはそれだけでありがたいけど」
先生もインテリアは自分達で好き勝手に用意しろと言っていた。ベッドだけ準備していた先生達の優しさが目に見える。
先生に案内されなかった部屋を見たが何もめぼしい物なんて無かった。ベッドすら無かったただの空き部屋だった事がわかったこと以外の情報がない殺風景な部屋の数々だった。
しかし、ここは四人で住むには大きい過ぎる。一つの部屋でさえ十畳以上があるのに同じような部屋が把握できないほどある。
こんなに空き部屋があれば何十人が住む予定だったと思われる。
本当に無駄に広過ぎる。ここに謎解き要素とホラー要素があればフリーホラーゲームの完成だ。
いや、一つだけ謎解き要素がある。ここの玄関というか出入口が見当たらない。
ここから脱出するための出入口がないから考えて探さないと出られない。そもそも入り方は生徒手帳の画面を長押しで出入りしたから瞬間移動とか次元移動みたいなテレポーテーションのような感じで入ったような気がするから元々出入口がないのかもしれない。
「詰んだぞ。生徒手帳がないからここから出られない。俺には時間がないのにいったいどうすればいいんだよ。クッソ!」
だんだん焦りが強くなっている俺は窓を無意味に殴りつける。
殴りつけたのにびくともしない。
今の俺の筋力がどのくらい衰えているか知らないががむしゃらに殴ったから割れなくても罅だけは入ると思ったが変化はなく痛みだけが神経を通って帰ってきた。
「下のダイニングに降りて考えるか」
ダイニングに降りてみるとテーブルの上に冷蔵庫に入っていたキッチン用品が置かれていた。
月希達が登校する前に食材と入れ換えたのだろう。
ダイニングを見回すとふとテレビが目に入った。
「テレビだ!なんで俺は気づかなかったんだ」
時間を確かめる為ソファーに転がっていたリモコンで電源をつける。
予想通りテレビ画面の左上に17:06と標示されていた。そしてこの時間にやっていたニュース番組をBGMにダイニングの探索を開始する。
朝は朝食を作って食べただけでまだ見ていないことろが沢山ある。自分のフォンカードさえ見落としたんだ。もっと俺が見落としていそうなところから探していく。
テレビ、冷蔵庫、ソファー、テーブルどれを調べてもここから出るための鍵になりそうな物が見つからない。念の為に出口も探したが出口のでの字も見つからなかった。
「完璧に詰んだぞ。どうやってここから出ればいいんだ」
何もできない自分に絶望して、ひざを突いて項垂れる。この体がどうやってここに現れた理由すら見つからない。
「ハハハッ。あーあ、情けないな」
無能な自分に笑いが出てくる。
ここから出られない俺ができることは月希達が無事でいることを祈ることとここでじっと待つぐらいだ。
クローンの存在が月希達の無事というのは確かだ。藁にすがる気持ちで感じ続ける。
「無事でいてくれ」
焦りを紛らせようとニュース番組を聞き流し、ソファーの上で自分のクローンの存在を強く感じ、先程までにいた森の様子を思い出す。
風の音に、鳥の声、葉っぱが囁く。だんだんと自分があの森にいるような感覚思い出す。
目を瞑り、上下左右でしたがわからなくなり。体が浮いている錯覚を味わう。
言わばトランス状態になり、空間を移動しているかのようだ。
そんな状態を数分続けていると聞き流していたニュース番組が聴こえなくなった。その代わりにリアルに風が肌を撫でる感覚、鳥の声や葉っぱが囁きが鼓膜を震わせる。
リアルな感覚はまるで外にいるかのようだった。
そんな中人が歩く音が聞こえる。一人ではなく複数の足音だ。話し声も聞こえる。
だんだん近づいて来るのがわかる。
「それじゃあ。監視しているヤツラが突然消えた訳だし、これからどうするよ」
「どうするって。そんなこと決まってるじゃない。メテオを殲滅するのよ。なんで私達がここに来たと思っているの?ただメテオから襲われた人達を避難させる為に駆り出されたとでも?」
「そうだね。学園側は信用できないって話だったけど私達裏切る気ないもんね」
「でもさ、よかったの?」
「何をだ?」
「監視している人達に私達の話を聞かれていたじゃない。記憶とか消されないかしら?」
「私達が話していたこと全部筒抜けだったね。だからそれを学園側に報告するために消えたかもしれないね」
声が聞いたことがあると思ったらさっきの四人組の声だ。本当に近くにいるみたいだ。
声がこんなにリアルに聞こえるなんで自分の妄想も捨てたもんじゃないな。
「別に気にしなくていいんじゃね?」
「なんでよ。なんでそんなに暢気なのよ。少しは自分の身でも心配したら?澪もよ」
「えぇー。私も?もう終わったことだから気にしても無駄だと思うよ」
「そもそもさ。俺が監視する側だったらあの時に殺っちゃってるぞ。何だって学園側は俺達の能力とかさ知ってる訳だから有利だし。反対に俺達は監視のヤツラに関してはわからない部分が多すぎる」
「だから早い段階で私達が喋っている時に油断を突いて反乱分子を始末されているって」
「そうだ。俺ならそうする。っておい!あそこに人が倒れてるぞ!」
「雪!!」
ふっと目を開けると目に写っていたのは先程のリビングではなく森の中に変わっていた。視界が一気に森へと変わっていた。
木々の間に風が吹きぬけ葉っぱが踊り、暖かな太陽を浴びて生き生きとしてる。
とても夢や幻覚には思えない。
「ちょっとあんた、大丈夫?」
女の子の声に目を向ける。
そこに白城と佐々木の他に知らない顔の女の子が二人いた。こいつらがさっきの四人組だったら片方の女の子の名前は予想がつく。
とりあえず、いつも通りの挨拶をしとくか。
「久しぶり、少年M」
「おやすみなさい」
白城とこのやり取りしないと始まらない。
「今までどこに行っていた?交通事故に遭ったと聞いていたから心配した」
「わからないな。今までずっと寝ていた気がする」
「そっか」
何気ない白城とのやり取りを数分して、ここが先程の森なら必ずいるはずだ。
ホームのリビングで感じていたクローンの存在が近く感じる。そしてクローンがいる方向まで感じる。
ちょっとだけ安心した。
「ちょっと待って、白城そいつ誰だよ」
「その人って白城くんの元彼なの。佐々木くんライバル登場だよ。修羅場展開だよ」
「澪ちゃん、俺は白城の彼氏じゃない。BL方面に話を持っていくの本当にやめてくれない」
「澪いい加減にしなさい。ネクラくんそいつ誰なの?説明してくれる」
「...」
いきなり現れた俺に白城以外の三人に警戒されているようだ。学園側を怪しんでるんだしょうがない。
自ら自己紹介をしなくては。言ってはいけない物はいわないけど。
「白城は昔の影響で女の子と話せないから、自己紹介としよう。水泡 雪。多分同じクラスだと思うんだよね。よろしく」
月希達の元へ行かなければならない焦りを抑え、簡易的に自己紹介をした。
「私が聞きたいのはそう言うことじゃないの。なんでここにいるって聞いているのよ!」
「まさか。俺達を処分する為に学園側が寄越した刺客が来たのかよ」
「噂をすれば影ってこの事ね」
いろいろと誤解を招いてしまったようだ。
伏せなければいけないことを伏せながら説明しとくとしよう。
「俺は君達をどうする気はない。それに長い昼寝にも飽きてきたから軽めの散歩をね。俺のことは誰にも内緒ね」
「ねぇ!ちょっと待って。水泡 雪って名前、女の子のユッちゃんと同じ名前。顔もよく見るとユッちゃんとそっくりだよ」
「ほんとだ!瓜二つだ。双子でも同じ名前はおかしい。おい白城、コイツのことしってるだろ?説明しろ」
クローンの顔とそっくりなのは俺のクローンなのだからそっくりなのは当然だ。
警戒を解こうとしたのにこれじゃ逆に混乱させてしまった。
そのせいで白城も俺のことを警戒している。すごいめんどくさい状況にしてしまった。
ここは惚けさせてもらおう。そして逃げよう。
「雪とは小学生の時から知っているが女の方は知らない。姉と妹を見たことあるが違う」
「女の方?何のことだろうか俺に似た女の子でもいたの?あっ!用事をを思い出したから俺はここで失礼するよ。後、俺のことは誰にも話してはいけないからよろしく!」
四人から離れ、クローンの存在をたどり急いで月希達がいる方向へ走った。
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