第16話 野生の動物達
グァン!
メタリック塗装でもしたかのようなダルメシアンが飛びかかるが俺が造り出した壁に遮らえそのまま壁を蹴って後退した。すぐに壁は何も無かったように消えた。
「ユッちゃん、ヒヤヒヤさせないでよ」
「だって、ここに来てすぐに出会すとは普通思わないだろ?」
「それが命取りなんだよ。サバゲーでも開始直後に全力疾走で敵陣に向かう人がざらにいるから気が抜けないの」
「それは自分のこと言っているのか?前に開始してすぐに敵陣に突っ込んでヒットを稼いだって喜んでなったか?」
「それは別の話で違うの。雹ちゃんも何か言ってよ」
「雪くん、ここはあの子達のテリトリーなのよ。ぼさっとしてると死んじゃうよ。だけど雪くんのことは守るから安心して」
「雹さん、それってすごく矛盾していませんか?」
「ふふふ、そうかしら。でも私はみんな守るつもりだけどねっ!」
雹が飛びかかってきたダルメシアンを刀で払うがダルメシアンは華麗な身のこなしで体勢を整えて木の影に消えてしまう。
刃に当たっても火花が散ってあのダルメシアンがメタリックな見た目に比例して相当固いことがわかった。今ならあれが鋼鉄出てきたロボットでしたって言われたら信じられそうだ。
「中々素早いわね」
「動きが俊敏過ぎて照準が定まらないよ。誰かあのわんちゃんの動き止めてよ」
「すみません。私、犬がダメなんです。昔襲われてからどうもトラウマになってまして。犬が怖いですから私使い物になりませんよ」
犬っころ一匹を前に1名が戦力外になった。
トラウマなのはしょうがないと思う。
俺も嫌物にはできれば触れたくない。それでも敵の動きの妨害するなりして周には頑張って欲しかった。
俺の後ろに隠れる所が可愛いから許す。
しかし、俺達にとって森の中は場所が悪すぎる。
木の影に隠れながら素早く移動して俺達の死角から襲いかかる。俺達の攻撃は相手が素早すぎてほとんど当たらないが相手の攻撃も決まらない。ダルメシアンは速さ重視なのか攻撃は軽いし、ダメージが小さい。
速いとは言っても防げない程ではない。月希は威嚇射撃して先手を打っているし、雹は刀で防いでいる。
俺も先程と同様に壁を造り出して防いでいる。
月希の威嚇射撃はただ弾丸をバラ撒いているようにしか見えないがダルメシアンに当たらなくても動きに制限掛けてるからいいとしよう。
「木が邪魔くさいから雹ちゃんルイ達の周りの木を切り倒しちゃって」
「わかったわ。はぁっ!」
俺達を中心に半径5mにあった木が雹の手で切り倒された。それはでいい。問題は切り倒した木は消失する筈もなく倒れている。視界は広がったがダルメシアンが隠れる場所が増えて倒れた木が邪魔になってしまって余計に見つけにくくなった。
指示を出した本人は見易くなったと喜びダルメシアンに向けて弾丸を撃っている。
「雹ちゃんありがとう!」
「どういたしまして。狙い安くなったからって私達に流れ玉を当てないように」
「はーい」
本人達はそれでいいのか構わずに隠れていそうな倒木を狙い攻撃をしている。ダルメシアンはダルメシアンで移動するさいに倒木が邪魔をして先程みたいに素早く移動できなくなって限られた方向からしか攻撃が来なくなった。
少しだけ俺達に有利になり、月希がバラ撒いてる弾丸も10発中1ぐらい当たるようになった。
「そういえば、この犬ってシンプルな攻撃しか仕掛けてきませんね」
俺の後ろに隠れている周がダルメシアンの行動に対して疑問を言ってきた。
「アマネン。あのわんちゃんのどこが変って言うの?ルイにはどこが変だかわからないよ」
「変って言いますか。え~とですね。昨日のゲル状の生き物に比べて特殊な攻撃をしてこないな~と思いまして」
「あの子が奥の手を隠しているかもしれないと言いたいわけね」
「そこまで言っているわけではありませんがちょっと疑問に思っただけですから気にしないでください」
「そうだね。昨日倒したスライムズに比べてあの犬はメタリックな見た目の割に特殊能力みたいなのがないね。攻撃方法もワンパターンで捻りがない飛びかかるだけだしね」
「雪くんたら、妙なネーミングね。確かにスライムみたいな生き物だった上、5匹だからってスライムズはセンス無さすぎじゃないかしら」
「ぷぷっ。スライムズって、ユッちゃんそれ戦隊物みたいでカッコいいよ。ユッちゃんらしいよ。じゃっ、じゃあユッちゃんはあのわんちゃんのことなんて呼んでるの?」
「ダルメシアン」
「ブフッ、ハハハ。ダルメシアンときたか。もうダメ。お腹痛いハハハ。もうやめて」
俺が小声でボソッと言うと高らかに月希に笑われた。雹も肩を震わせているのがわかる。
バカにしやがって、呼び方なんて何でもいいじゃないか。
もういい勝手に笑っとけ。
「私は雪さんの呼び方、好きですよ。柄がダルメシアンみたいで呼びたくなる気持ちわかります」
周の笑顔と優しさが痛い。
周は自身は頑張って俺をフォローしているつもりだろうけどその頑張りがダメージに変わっている。
「あらあらお友達が来たわ」
雹が指した茂みからぞろぞろと狐に猪が現れた。
どちらもダルメシアンと同様にメタリック塗装の体だ。大きさはダルメシアンに比べて猪は一回り程で口から伸びたキバが特徴だ。狐はダルメシアンと同じ大きさで狐特有の膨らんだしっぽがメタリック塗装のせいで鈍器に見える。
木の影から出ると光が体に反射して目が痛いほど光沢が眩しい。
「そうそう、この間狩人の人に猪のお肉食べさせてもらったんだけど、食べさせてもらった肉がオスだったからすごく柔らかくて美味しかったよ」
「でもこれは流石に食えねぇだろ」
メタリックな猪を見るに固そうだ。
ヨダレを垂らしている月希にロックオンされた猪が後退りをしたのは気のせいではないはず。主食に金属でも食べているのか体中の光沢がすごくて食べられそうにない。
ダルメシアンもだが、街中にある公園に銅像的なオブジェクトとしてありそうである。
「私にはどう見ても戦闘ロボットにしか見えません。口からレーザービームとかミサイルとか出そうに見えます」
「私もそう思うわ。生き物より機械に見えるわね。死にそうになったら自爆しそうだわ」
言われれば確かに見える。滑らかなフォルムに金属みたいな光沢。こいつらが人を襲っていたら軍治兵器に見えそうだ。
「SF映画に出てきそうだね」
「そうだな。コイツらは見た目的にもすごく固そうだ。さっきも雹の刀を弾いていたしな」
「私の刀は雪くんとの愛の力で何でも切れるから問題ないわ」
「そこは[私達の友情の力で何でも切れる]ではないでしょうか」
「別に変わらないでしょ?」
「ニュアンス的にもイメージ的にもすごく変わるよ。てか愛とか重すぎるからやめて!」
突っ込みを入れたものの雹は軽口でみんなの緊張を解す為に言ったに違いない。チラチラとこちらの表情を確認する謎行動は理解できないが何かを求められているのはわかった。ここはサービスでウィンクの一つでもしといてやろう。
「ふふっ」
「ユッちゃんの愛し合う力で撃ち抜くよ」
「ハイハイ、月希も便乗しない」
「じゃあ、私は雪さんの愛の力で倒しちゃします」
「周まで?!」
ウィンクしたら嬉しそうに手で口元を隠してガッツポーズする珍しい雹も見て、月希と周が便乗してきた。
月希は何となく予想できていたが周まで言うとは思わなかった。
「あれっ?ユッちゃんウィンクは?雹ちゃんだけにしてルイ達にはないの?」
「うぅっ、ひどいです。これは差別です」
スルーしたらクレームがきた。
敵が威嚇している前でふざけている余裕はないのだがどうして自分達もウィンクしてもらえると思ったのか不思議だ。
フゴー!
ふざけあっている間に猪が突進してきた。
ストレートに突っ込んで来る猪を軽く避わして猪の目の前に金の壁をイメージして生成させる。
壁に猪を激突させるつもりで置いたが壁の前でUターンして再び突進を繰り返した。
「みんな眼を閉じろ!」
壁を消して今度は左手から出した光の球体を出して目眩ましに爆発させた。放った強い光は一瞬の間すべてを呑み込み何も見えない白い世界へ誘った。
猪の眼を封じて次に狐とダルメシアンに向け槍状な物を生成して投げる。槍状な物は狐のしっぽで明後日の方向に打ち返されてしまう。
だが。
「雹!」
「わかってるわ」
雹の刀がダルメシアンの右前足を切り落とす。
キュッン!
痛みの悲鳴を上げるダルメシアンに雹の刀の追撃が迫るがそこに狐が邪魔に入った。
「雹ちゃん!」
バンッ
鈍器のようなしっぽで雹の刀をいなしてダルメシアンを守っている。切り落とした足に痛みはないのかダルメシアンは狐が作った隙で雹に飛びかかるが月希の弾丸が腹に当たり攻撃を断念する。
「月希、ありがとう」
「エヘヘ。木を切り倒した雹のお陰で見易くなったからそのお礼だよ。でも相手は1体じゃないから気をつけてね」
「言われなくてもわかってるわよ。私よりも雪くんに言って欲しいわ。今だっていきなり眼を閉じろって言われてもそう簡単には閉じられないわ」
「でも最終的に閉じたんだろ?」
「それは雪くんが言ったことだから閉じようとしたけど雪くんに背を向けていたから八代さんの二の舞いにはならなかったわ」
「眼がぁ~、眼がぁ~」
俺の足元には周が眼を押さえながら踞っていた。直接閃光を見てしまったんだろう。
猪も視覚を封じられたせいで倒木が吹っ飛ぶ程暴れている。
「雪さんやるならやる前に言ってくださいよ。いきなりやられたらこちらがビックリするじゃありませんか。お陰で目の前が真っ白ですよ」
「ごめんごめん。後で何でもしてあげるから」
「約束ですよ」
「雪くん、私も雪くんのせいで眼をやられたわ。すごく痛いわ」
「えっ!?今、大丈夫そうじゃなかった?」
雹が急に両目を押さえた。
「帰ったら雪くんに膝枕してもらわないとなおらないわ」
「ユッちゃん、ルイも。スコープ覗いてやられたよ」
「使っている銃にスコープついてないだろ!」
「ルイも膝枕してもらいたいよ」
月希が今使っているアサルトライフルにはスコープがついてないから絶対ウソっぱちだ。月希はそもそも元気に猪達に弾雨を浴びせているので説得力がない。
彼女達が思っているほど俺の膝枕に価値はないと思う。いや、女の子になった今プニプニの肉厚の太腿は最高の寝心地になったかもしれないな。
後で触って確かめてみなくては。
「ユッちゃんあれ見て。わんちゃんの足がっ!」
「動いてますよ」
雹が切り落としたダルメシアンの前足が鉄球スライムようにドロッと溶け出した。
水銀のようになってしまった前足が近くにいた狐に引き寄せられるように近づいている。そしてパクリと狐がダルメシアンの前足を食べた。
食べた狐に変わった様子は見られない。
何かしらの変化があるかもしれないので十分警戒が必要だ。
「「「あっ」」」
今閃光によって視覚を封じられていた猪に狐が突進を喰らった。猪のキバが体に刺さり苦しそうにもがいている。
もがけばもがく程キバが奥に食い込み狐の体が光沢を失っていく。それがメテオにとって死を表していることを知っている。
「やっと1体片付いたか」
「仲間割れでやられるとかルイにとって物足りなすぎ」
「あれは仲間割れではなく、眼が見えない中暴れていたらその先に仲間がいて巻き込んじゃった。ただの事故ではないでしょうか」
「そうとも言う」
「周、月希に突っ込んでいたら身がもたいぞ」
「ユッちゃん、何なの。その言いぐさは?まさか、アマネンに妬いてるの?」
「あっけなかったけど1体は片付いたわね。話してないで残りの2体も片付けるわよ」
猪のキバに刺さった狐の亡骸はやはり死んで時間が経つとドロドロに溶けるようだ。見るに無惨な姿に変わった狐に群がろうとするダルメシアンを月希が軽口をぼやつきながら邪魔をして食べさせないようにしている。
ようやく眼が回復した周が回復しききってない猪の横腹に拳を叩きこんでいる。
「手負いの犬は後で簡単に片付けられるからあと回しでいいわよね」
「えっ?雹ちゃんって犬好きだからあのダルメシアンと戦うの避けていたと思ってたのに。ルイがトドメしなちゃって」
「確かに私は犬が好きだけどあのダルメシアンは犬とは思えない。形だけ似た別の生き物って割り切ってるわ」
雹は犬が好きなのか。だから昔会った時、たまたまスカートの中身が見えちゃった時のパンツの柄が可愛い犬のプリントされた物だったのか。
当時は冷たい女の子が可愛いプリントが入ったパンツを履いていたのが意外でびっくりしたものだ。
この事は本人にはないしょの話で言えない。
雹の反対に周は犬が嫌いなので直力近づかないようにしている。相手が犬じゃなければダルメシアンの一回り大きい猪相手でもぶん殴っていくスタイルらしい。
周に殴られている猪にダメージが入っているかは話が別になるが本人が頑張っているから水をささないでおこう。
「そのまま押さえといて!」
「雹さん!何を?!」
雹がくり出した一閃に2本のキバが切り落とした。
「これで突進の攻撃力が大部下がったはずよ」
「雹ちゃんヤルー!」
「もうぅ、危ないじゃないですか。もしも、私が前に出てたらどうしたんですか!」
「その時はその時でジャンプして猪の体に刀を突き刺していたと思うわ」
「そんな無計画な」
「キバを落としたことだし結果オーライじゃないのか?」
「雪さんまで」
「怪我とか無かったのなら別にいいじゃないか。でも雹はもう少し声かけをした方がよかったな」
「それを雪くんが言う?」
「雪さんも同じですよ。少しの時間だけでしたけど眼が見えないっていうのも怖いですから」
今のに危険がなかったとは言わないが雹はちゃんと周の位置を確認していたからキバを落とすことができた。簡単に言うなら周の行動を予想して刀を入れる位置を判断した上で切断したのだろう。
そのことでフォローしたらさっきの閃光の件でクレームがきた。閃光で視覚を失った猪が暴れたお陰で狐を倒したから水に流して欲しいな。
ドッゴーン!!!
地震と錯覚してしまう振動と爆音の中、俺達の前から猪が消えた。
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