第2話 えっ?改造されちゃった

半ば絶望していたら、どこから声がした。しかもすぐ近くで声が聞こえた気がした。この部屋には俺しかないと思いこんでいたのだが、どうやら誰かが来たみたいだ。


 照明がついてから自分の体が女になっていたことに気を取られてしまい、周りを見過ごしていた。

 しかし、さっきは人の気配は皆無だと思っていたが。


 コツンコツンと足音がしたのでその方向に視線を向けるとそこには二十代ぐらいと思われるリクルートスーツの上に汚れ一つない純白の白衣と縁なし丸メガネをかけた血に飢えている印象の荒々しい女性が仁王立ちしていた。


(この人は誰だ?いつからそこにいた?)


「んあ?どうした?いきなりあらわれて驚いているのか?まっ、無理もないか。初めて目のまで瞬間移動で現れたんだからな。そりゃー誰でもビックリするか。つい最近まで瞬間移動装置が発表されたばかりだもんな。私らにとってはあんなのただのレトロな機械程度なのによ。世界中は今頃、日本の最新技術と本気で思ってたまげているだろうな。日本の企業はついにどこにでも行ける移動手段を発明したてかーっ。皮肉なもんだな」


 開いた口が塞がらず、目の前にいる女性のマシンガントークがとてつもなく長く感じた。彼女の言葉は単語ごとでしか聞き取れずにほとんどが耳からとおり貫けて全然頭に入ってこない。

 ただ目の前に突然現れた荒々しい獣の目をした女性を無言で眺めているだけで自分は何をしているのか分からないほど脳内でパニック状態に陥っていた。


 そんな無言の状態が長く続いて気に障ったのか、その女性は俺の頬を往復ビンタでパシパシとはたいた。


「おい、おーい。やっぱりこいつは失敗か。適性値が異常なほど高かった事故者のDNAを媒介して作ったって言うのに失敗か。道理でこいつの脳波から反応がないわけか」


 事故者の部分だけが綺麗な音声として耳に入った。


 事故者って俺のことなのか、それでDNAを媒介して作ったっていうのはクローン人間を作ったと言うことか。

 なら、この体は本当の体ではなく俺のDNAを媒介した俺のクローンなのか。

 なんで今まで男として生きてきたのにクローンは男のままのクローンじゃないんだ。

 いや、クローンの性別を自由自在に操作させるための人体実験も含めてクローンを作り出したということか。

 ところでなんで俺はこの体を動かしている。俺のクローンと言ってももはや他人の体と等しいはず。それなのに今、俺の意識は今もなお、体を動かしていられる。


 俺はパニック状態から少し回復し、今自分に起きた状況を整理した。

 女性はいろいろ考え込む俺の表情に気付いた。


「ちゃんと意識があるじゃねーか。真面目な母ちゃんに教えてもらえなかったのか? 人様に尋ねられたらちゃんと律儀に返事をしろって。ってクローンだからいろいろと教えてもらえなかったか。そもそもクローンだしな」


 女性は俺に意識があったことが分かったのか安堵した。「おい、意識は確認したが黙ったままだが、お前ちゃんと話せるか?まっ、目覚めたばっかのクローンだから話せないのも当然と言っちゃ当然か」と言いながら笑っていた。


 最初の一斉は迷った。

 目の前の初対面の女性に対し、敵か味方か分からないままずっと黙ってバカにされ続けているのは気に食わないし、それにいろいろ聞きたいことが沢山あった。

 一番聞きたかったことは・・・。


「今ここにいる俺はクローンなのか?そして俺の、いやトラックに撥ねられた人は死んでしまったのか?」

「?!」


 俺がしゃべり出すと同時に女性は器用なことに言葉にならない声で絶句しながら首を傾げた。

 彼女は話せるのに無言のままでいたことを驚いているのではなく、俺に意識や知能意外に記憶をあることが分かったために絶句していたようだ。(後で聞いた)


「い、今なんと言った」

「いや、だから撥ねられた方のお、トラックに撥ねられた人は死んでしまったのか?」


 俺も少しは反省しようと思ったけど、知らない人に対して何か聞く時に敬語を使わないなんて失礼と思うがこっちは身動きできないし、同意を求めずに勝手に自分のクローン人間を作られたから敬語とか丁寧語とか紳士的な言語使わなくていいよね。


「そ、それはクローンのお前に対しては関係ないことだ」


 彼女は動揺しているようだが律儀に返答してくれている。


「大有りだ。だって俺の体だからだ‼」


 俺は彼女に対して怒鳴って見せた。


「なら、本当にお前が事故者の意識だというなら一つ、私の問いに答えろ」


 彼女は俺が怒鳴ったことにより、動揺が切れ何かを理解して試しているように見えた。


「分かった。答えられたら俺の体がどうなったのか教えてくれ」

「ではまず、お前の家族構成について答えてもらおう」

「父に母、姉に妹の五人家族」


 女は満足な答えが聞けたのか悪者顔で「ほう、正解だ」と言って口をVの形にしながらも震えていた。


「よ、予想外のいい収穫だ。あの事故者がここまで高性能と思わなかった。分かった。約束通り質問に答えよう。き、お前の体は見るに損傷が酷かったが一命をとりとめた。しかし、実験のために体は改造した。悪く思わないでくれ。これも全ては日本のためだ」


 動揺しているのかところどころ声が裏返っているが、人の人権を無視して勝手にクローンを作ったことについて悪びれている様子は今はない。約束道理、事故後の俺の体現状を説明してくれた。


 改造って、俺の体改造されたんだ。どう感じに改造したの?片腕にサイコガンでもついてるの?目と口からレーザーを撃てる化物にしたの?

 くそっ。昔の週刊少年誌の漫画の設定みたいなことしやがって、勝手に改造されるこっちの身にもなってほしいよ。って、高性能ってなんだ。


「それで実験とやらの結果は?」

「何の実験かは深く知らないが結果待ちのところだったが、私が君を見て君を媒介して作ったクローンを君が動かしている。大成功と言ったところだろう」


 女性は左手でメガネをクイッと上げてズレを治した。


「っで、なんでこんなことしてしたんだ?」

「理由は二つ、一つ目、現在、他国に都合のいいように使われる日本の立ち位置の改善という目標。二つ目、地球外生命体 通称【メテオ】の討伐だ」

「は?」


 二つ目の中二病発言に目が点になった。


 そもそも国際的な日本の立ち位置も俺の可哀想な知能では全くもっていまいち分からない。先進国じゃ、ダメかな。そんなバカで間抜けな答えは完全にダメだろうな。

 こうなると分かれば春休みの間に、ニュースを見て、真面目に現代社会をコツコツ毎日予習復習を欠かさずにやっていればよかった。


「くっ、いちいち順を追って説明が必要か。丸く言うと日本の立ち位置というのは、ほかの国にカモられていると言って間違えない。そしてその現状を見限った他国は日本を簡単に捨てるべきだと判断するだろう。だから、日本は核に対抗できる新たな抑止力欲している。我々日本は日本という竿に新技術の餌を付けた」


 要するに都合のいいカモの標的にされている日本は核保有国の裏切りを防ぐために秘密裏に進めてきた技術を新技術として餌に日本は「私たちはまだ利用価値ありますから核の傘から追い出さないでね」とアピールということだ。しかも、その技術は途中半端な物だから自分たちでやるよりも日本に任せて美味しい所を持っていく判断だそうだ。核保有国は。


「その技術というのは?」

「瞬間移動装置だ」


 まさか。瞬間移動装置って最近、無駄にテレビであげられるあの装置のことか。


「ほう。心当りあるようだな」

「ああ。お天気お姉さんが好きだからな」


 今の発言で女は俺を可哀想な人を見る目で見ていたが気にしない。

 ニュースでたまたま見かけた時、偶然見ていた天気予報の後を何気なく見ていただけだから強気でいえないけど。そもそもだいたいの俺は瞬間移動装置なんて信じていなぞ。


「それとメテオというのはなんだ?」


 負い目を感じたので話を逸らす。

「闘うお相手」

「はぁっ?どういう意味だ!」

「そのまんまの意味だ」


 全く理解ができない。頭が可哀想な俺でもわかるようにもっと具体的で簡単に説明して欲しい。


 女性はフォンカードを取り出し、俺の手足の枷を外すように操作をした。


 フォンカードというものは現在の日本ではそう珍しい物ではない。超IT化が進んだこの世界では携帯電話をさらにコンパクトを求めてカード型にした物。今では安い値段で普通にお店に並んでいる。


 その名もフォンカード。

 持ち運び便利、機種にもよるが大体財布にも入る。超便利アイテム。

 フォンカードとは一昔前のスマートフォンという携帯電話をさらに薄く小さくした物。大きさはそれぞれ種類に別れるが、売りはICカードほどの薄さがいいらしい。


(俺は普通に使えればいいが)


 見た目は使いにくそうに見えるがそれは見た目の問題で案外使ってみると不思議なほど使いやすく、衝撃を中和する特殊合金でできているらしい。よほど強い衝撃でない限り誤って落としても簡単に壊れない。

 一説によるとどこかの国の大統領が胸ポケットに入れていたフォンカードが暗殺者の弾丸から守り、弾丸を受け止めても余裕で使えた伝説がある。

 さらに無駄に大きくて邪魔な機種は操作でスマートフォンよりも前の携帯電話、ガラケーの様に半分に畳むことができる機種もある。

 当然といったカメラやメール、地図といった昔からのなじみ深い機能もついていて、充電方法は充電装置にただ置くだけで自然と充電ができる。多彩な機能も操作も楽々できてデメリットがない携帯電話なのである。


(本当は自分は知らないだけであって本当はデメリットがある代物かもしれない)


 はい。フォンカードのキャッチコピーを丸々パクった説明でした。

 今とは関係ないがある高校の生徒帳ではフォンカードとIDカードと合わせた様な生徒手帳を使っている学校もあるらしい。


 ピッと音と共に手足が解放された。


「起て。そのお相手さんとご対面だ」


 俺はチンプンカンプンのまま、自由になった手を使い体を起こした。

 起ち上がろうとした時、視界が揺れ酷い頭痛とめまいに襲われた。いわゆる立ちくらみというやつだ。

 ガクンとふらついたが、数十秒で立ち直り、不思議と頭痛やめまいがどこかに消えた。

 周りを見渡すと目の前がガラリと変わっていた。周りにはさっきの荒々しい女性の姿はなく、そこには代わりに荒々しい女性と同じ服装をした三人の女性と俺の顔見知りの少女がいた。

 どうやらさっきいた場所から瞬間移動装置を使い、別の場所に瞬間移動したようだ。


「遅れてしまい、すまない。少々手こずってな。そちらの方は無事に目覚めたようだな」

「なっ?!」


 どこから現れたのかさっきまで話をしていた荒々しい女性が同僚に詫びて、俺に似た少女をお姫様抱っこして俺を見ていた。


「こっちはついさっき目覚めたところだ。もし目覚めなかったらそのまんま入れようかと思ったよ」


 三人のうちの一人の女性は死んだ魚みたいな目で恐ろしいほど甘く笑った顔に若干引きつつも俺は何を言っているのか分からなかった。あまりにも恐ろしい発言だったため無意識うちに脳がスルーしたのだろう。


「ほら!起きろ」


 荒々しい女性は引き気味な表情でお姫様抱っこをしていた少女を床に下ろし、彼女もスルーすべく俺に似た少女の頬をぺしぺしと叩いて起こした。


「ほえ?」


 寝起きなのか上の空な少女の間抜けな声と共にグウンとくぐもった音をたてながら壁のようなトビラが開いた。


「さあ、お前たち入れ、これは実験だ」


 彼女たちは理不尽な上官の如く、荒々しく言った。俺達四人はよく分からないまま扉に入っていた。


 トビラが閉じる寸前に白衣姿の女性たちは口をそろええて「闘え」と聞こえて振り向くと先ほどあったはずの扉が消えていた。


 事故に遭う前の春休み、ぴかぴかのランドセルを買って貰った小学一年生みたいな気持ちで一人暮らしを始めた新生活のあまりの嬉しさに何度も鏡越しに映った自分が今度通う学校の男子生徒の制服を着て見た醜態を思い出す。

 新一年生というところは変わらないけど。

 今、訳が分からない現実を逃避すべく溜息ついでに下を向く、視線の先は自分の胸の部分。そこには大きくてふっくらした立派な胸・・・・・・・女性ならではのふっくらしているマシュマロのような柔らかそうな物が胸についていた。


 さっき見たより縮んでる?


 男として産み落とされた身のはずなのに今は全裸の女性の姿をしているのか未だに脳が理解しようとしない。しかも今は全裸だ。

 この姿で街中に出たら痴女扱いされ、運が悪ければ性病を患ってる男性に話しかけられるがあいにくここは屋内の密閉された空間。周りには男性の姿が見えない。

 ああ、あの時は男子高校生になったことが実感できてあんなに幸せだったのになぜこうなっしまったのか全く見当もつかない。いや、これはきっと夢だ。何かしらの悪い夢を見ているに違いない。あの時から今まで全部悪い夢に違いないんだ。今は高校の入学式の日で自分の寝床に寝てるんだ。だから入学式の日のことが思い出せないんだ。


 そうだ試しに頬を抓って見よう。

 恐る恐る頬を両手で思いっきり抓る。


 ぎゅっ。


 抓った部分が神経を通じて脳に向かって痛みが走る。


 痛い、だめだ。これは夢じゃない。残念なことにこのパターンはアニメなどでよくある夢落ちではないらしい。これが悪夢でも幻でもなければ、ここから出るため、生き残るためにこの場をなんとかやりすごさなくてはいけない。


 この広い鉄の部屋に連れてこられて二・三十分ぐらいが経った。

 てか、部屋に連れてこられる前に「闘え」と言われたが何と闘うのかわからない。


「落ち着け、落ち着くんだ俺」


 リラックスするように自分に言い聞かせて一回深呼吸をして冷静になり、周りを見る。

 窓のまの字も見当たらない鉄でできた頑丈な壁、同じく床と天井、それにここに入る時に使った頑丈で内側から開けることができなく、今はないオートデリート式の扉と周囲を警戒する少女が三人。(消えた扉があった壁は調べたがただの壁だった。周囲の探索は脱出ゲームの基本)


 ここで戦うとしたら三人の少女と物騒なバトルロワイヤル的な殺し合いでもするのだろうか。するとしたら何故に自分たちは裸なのだろう。

 平和主義の俺は人同士で戦いたくない。

 もし戦うのならゲームに出てくる簡単に倒せてしまう雑魚モンスターと簡単に戦いたいな。


 俺たちは、この鉄の部屋(俺のネーミング)と呼べる空間に実験のためとか理由を付けられて無理やり入れられたわけである。しかも完全な密室状態の空間の中で全裸な格好で放置されている。

 この部屋でいかがわしいヌード撮影でもするのか?この部屋に入れたヤツ放置とかあんまりだろ。


 誰か、説明してよ。ねぇー!元男子高校生の純なハートをズタズタにする気なの?

 マジ、全裸で放置しないで・・・・この年で異性にされて全裸のまま放置されるのはきついからせめて下着だけでもかまわないからお願い。


 願っても体を隠すものが出てこないのは分かきっている。

 ここは気をとり直して、この密閉された空間で生き残るために何かできるか思う。

 俺が置かれる状況を考え、次にここで何か使える物は・・・。


「危ない!!」


 ズッゴーーーーーン


 近くからソプラノボイスの聞こえたと思ったら急に視界がぶれて後の壁に金属のような硬い物が激しくぶつかる音が耳に響いた。

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