第3話 メタルなスライムモンスター

 考えることをやめ、今何が起こったか状況を理解する。


 今自分に起きている状況は、明るい茶髪のフワフワなショートボブの小柄な少女が自分を押し倒している。彼女は氷を思わせるクールな雰囲気や圧倒的な存在感が大和撫子に似合う別のクールな少女の顔を思い浮かべる。

 彼女は氷のような冷たい表情をしていたが目尻には余裕がないことを表すように目を細め、涙を貯めていた。

 彼女は激しくぶつかった音の方に視線を向けている。俺も見習って音の方に視線を向けると微かだが埃ようなものが舞う中に何か動くものがいた。


 そして理解し思う。彼女はあれから自分を庇ったのだと。

 そして埃の中で動いていた何かが煙のように消えた。


「ゆきくん!上ぇぇーーー!」


 少女の叫び声が聞こえ、言われた通り上に意識を集中していると上から何かが勢いよく来るのが感覚的にわかった。


 とっさに少女を左に飛ばし、その反動で自分も反対側に体を飛ばした。


 ズッゴ―――ン


「あっぶねー。助かったのか?」


 口から命拾いした安堵の言葉が胸を撫で下ろすことができなかった代わりに出てきた。

 転がった瞬間、自分と少女の間にまた、さっきと同じ金属が壁にぶつかる同じ激しい音が聞こえた。


 今度は壁じゃなく床だ。


 何とか俺と少女は何かから危機一髪で避けれたみたいだ。


 彼女との間に落ちてきた何かを見る。

 その姿は銀色に金属光沢で輝いていて、サッカーボールくらいの大きさの物体。


 姿を見た瞬間、あの大人気RPGゲームの最初のレベル上げしか必要のないメタルなスライムモンスターを連想した。

 誰もがあの物体を見たら、絶対に某RPGゲームのメタルなスライムモンスターを連想しただろう。


 メタルなスライムモンスターは体をグニャグニャと形を変えて、自分たちから距離を取るように形を変えながら後ろに飛んで、また煙ように姿が消えた。


 しかしながらヤツの動きが読めん。瞬間移動で移動しているのか、または目には見えない速さで移動しているのか。どちらにしろ、今の場合は予測できずに攻撃をギリギリで裂けるしかない。二つとも目には見えなくて同じようなことだ。


 だから俺は対処しやすいように姿勢を整え、素早く察知できるように周囲を警戒しながらキョロキョロと消えたメタルなモンスターを目で探す。


「どこ行った。・・・・・いた」


 メタルなモンスターは部屋の片隅で目は見当たらないがこちらの隙を伺うようにジッと動かない。それにかさっきちらっと見たより光沢が濁って見える。


 濁って見えるのは疲れているのだろうか。疲れているとしたら、今は休んでいるのだろうか。さすがに消えるように移動するのはさぞ疲れることだろう。本当に疲れているのなら数分は襲って来ないだろう。動けなくなったのはこっちにとって不幸中の幸いと言っていいだろう。


 一時的とは言え、休んでいられるのなら無理なことしない休める時は休みたい。対策だって考えられる。


 隙あれば攻撃だって仕掛けられる。(パンチとかキックがどのくらい通用するのかは知らないが)


 十分助かったってもんだ。


 俺は再び状況を整理しようとするとあの声の主に話しかけられた。


「大丈夫?ケガはしていない?」


 黒髪の少女、艶やかな黒髪ロングのスレンダーで表情豊かな少女が家族を心配している雰囲気で髪が乱れるのも構わず心配そうに駆け寄ってきた。この少女も顔は知っているが前と会った時と全然雰囲気が違う。それに下唇を噛んで上目遣いで見ている。


 まるで茶髪の少女と入れ替わったようだ。


「うん。俺は何もケガとかしていないから大丈夫」

「私も大丈夫。心配しなくていいわ。それに多分だけど、あの物体は少しの間動かなそうに見えるから今のうちに息を整えましょう」


 クールな彼女も俺と同じくメタルなモンスターは必要以上に全力を出し過ぎたからバテ疲れているから休んでいるのだろうと判断したようだ。


「ほんとに?無理とかしてないの?」


 不安が溢れ出しそうな顔でクールな少女を見つめている。

 クールな少女は彼女を安心させるために頷いて見せる。


 あれ?俺はスルーですか。

 そして俺は不思議な心境なる。

 それはなぜか、黒髪の少女と茶髪の少女がいつもとキャラが違う。


 黒髪の少女とは久しぶりに会ったのだが、いつもの黒髪の少女なら今の庇ってくれた少女のように笑顔がなく冬の空気みたいに冷たい表情をしているのに、今はある。

 そして、いつも会っている茶髪の少女もいつもとキャラが違う。いつもの反対に笑顔がなく無表情で冬の空気みたいに冷たい。いつもなら今の黒髪の少女のように優しく暖かい笑顔があるのに今はない。


 ややこしくが、本当にまるで二人が入れ替わったみたいだ。

 分からないことが多すぎて頭がお祭り状態だ。


 そんな二人の唯一の共通点は美少女。

 黒髪の少女はストレートで滑らかな黒髪に真平な胸以外はモデル顔負けのスタイル。

 仕草や口調から察するに体を動かしているのは、俺を庇い飛ばされた体の持ち主にして俺の幼馴染、海北 月希。


 俺を庇い、俺に飛ばされた少女、茶髪のフワフワなショートボブに大きな胸。表情は氷みたいな雰囲気と圧迫感のある存在感から推理すると中身は雪月花 雹で違いない。


 しかし、幼馴染で小中同じだった月希はともかく雪月花さんとはもう小学五年生の時以来会っていなかったけど不思議と思い出せた自分が誇らしく思う。初めて会った時の印象がスゴ過ぎて忘れなかったのかな。


 この二人の様子を見る限り、たぶん入れ替わっている。



 何故、入れ替わっているのかまだ理解できないが、考えるより現在の状況を把握するのが最優先だ。


 頭の中で状況を整理する。

 今の状況は、男なら普通は天国な夢と思うだろう。何故なら自分を含め、女全員全裸なのだから全然天国ではない。一番面白くないのは、メタルなモンスターに襲われ、自分が動かしている体が女なの上、裸だからだ。


 それといろいろあって忘れかけていたが雪月花さんの後ろに俺によく似た一人の女の子が一言も話さず一心不乱にメタルなモンスターを苦虫でも噛み潰した表情で睨んでいた。


 よく似たというけれど男だった時の方でほんとによく似ている。

 俺には姉と妹がいるが彼女はどちらにも目元とか似ているがそれは兄弟姉妹レベル程度にだ。ふと思った彼女は俺の姉弟、親の隠し子じゃないかって。

 待てよ。雪月花さんと月希が入れ替わっていることを前提に考えて、あの女の子って俺のクローンじゃないのか。


 そして彼女と目が合った。すると彼女は俺を見て幽霊でも見たかのように軽く「ヒッ」と悲鳴のような替えを出してみるみる顔が青ざめていった。


 他人の空似かもしれないがいったい誰だろうと思って、目が合ったついでに半信半疑で声をかけようと試みる。


「もしもしー」


 電話に掛けるみたいにバカらしい声のかけ方に自分でも「ちょっとまずったな」と思いつつも反応を見たがその少女は気が動転しているようで返事が返ってきそうにない。

 返事がない。気が動転しているようだ。


 諦めずに頬っぺたに触れても返事がない。叩こうにも自分に似た顔なので叩けないから頬っぺたを弄るが気が動転しすぎて固まっているようだ。

 彼女はとりあえずスルー。


 ちなみにこの俺が動かしている体は、女性の体なわけで。


 普通に周りを見て入れ替わったと考えてこの体の持ち主は誰になる話だけど、現実はそんなに水平に単純でストレートな簡単に答えがでてくるはずではないが、俺は奇跡的と思えるほど偶然知っている。


 もし、俺が入れ替わっているのなら一人しか浮かばない。この体の女性の名は八代 周いって俺と一緒にトラックに轢かれた少女である。

 なぜ、名前がわかるのか。理由を述べると簡単な話ここに入れられる前に偶然に俺達をここに入れた人たちがあの子について話していたのを聞いて今までつっかかっていたからだ。

 彼女と共にトラックに引かれたことだけ、ただそれだけが強く残っている。


 トラックに轢かれてから数時間前の記憶がぽっかりと開いている様な錯覚に陥り、ぽっかりと空いた数時間分の記憶が思い出せない。


 逆にいえばあの日の記憶は彼女と共に轢かれたことしか思い出せない。

 その日の朝、何時に起きたか

 朝食を取ったか。

 何をしていたか。

 テレビを見ていたか。

 その数時間分が何故かどうやっても思い出せない。


 完全に記憶が消えているみたいだ。

 その日以外のことならな何でも思い出せるのに不思議な感覚だ。唯一、思い出せるのはただ彼女と出会ってトラックに轢かれたことぐらいだ。


 最近で思い出せることで最も嬉しかったことは俺が通うこととなった高校、俺が憧れていた私立流桜学園〈しりつりゅうおうがくえん〉に入学できたことだ。

 今は何年何月の何日なのかは定かではないがトラックに轢かれたあの日は確か入学式が予定されていたはずなので確実に入学式には参加できなかったことは確かだ。


 新しい記憶で今思い出せる範囲で思い出してみる。

 今度、入学する高校の制服を楽しげに眺める自分のアホ面が浮かんだ。


 その高校と言うのは流桜市流桜町に位置する私立流桜学園は、生徒の教養と愛国心を育てている少し変わった私立校でもあって、田舎と都会の間の街並みの風景が広がる流桜市で少し名を知れた進学校なのである。


 数年前にできた進学校なので校舎が新しく綺麗で、何といっても敷地が東京ドーム何個分(東京ドームがどのくらい広いのか知らないが)と思うぐらい馬鹿でかい学園だ。


 その学園の近くには大きな川があって、桜の木が橋を跨いで何十本も千本桜の如くズラリと川に沿って両岸の土手に立ち並んでいる。


 俺が好きな景色の一つ、季節が春になると桜の薄いピンク色をした花びらが桜吹雪を起こして風に乗った桜の花びらが優雅に舞いながら川に落ちて流れていくというとても綺麗で優雅な眺めである。


 その光景は桜の花びらの川に見えて心が落ち着くが如く。


 それはいわゆる流れ桜という現象でこの場所で毎年多くの人々の目を楽しませている。ここら辺の人間は桜を見るときたら花見より多く流れ桜と連想してしまう。


 この川の現象、流れ桜のれをとり二字熟語に直して流桜とここの土地名や学校名になったのである。


 俺がこの流桜学園に入った理由の中で一般的なのは学食がレストラン並みのメニューと学園の風格が気に入ったから入学を決めた。理由はほかにもいろいろあったけど。


 流桜学園の食堂は広く、窓側は壁一面ガラス張りになっていて、丁度流れ桜の川が見えるテラス席。


 食堂は全体的に座るスペースは三百人ほどが席に就けるぐらいのテーブルとイスが設置してある。その食堂にはメニューが豊富で安くてうまいという噂を聞いたことがある。


 その人気メニューはカレーうどんとカツ定食が俺の通うことになる学園の食堂の人気メニュー。


 もう一つ噂で聞いたことで流桜学園の食堂の中には年中無休のカフェテリアのエリアがあると聞いた。しかも流桜学園のカフェテリアはそん所そこらの喫茶店やコーヒーショップなんか目じゃないくらいの本格的ドリンク、多種多様で四季折々の味が楽しめるスイーツ。


 これが全て手頃な値段で楽しめるなんてまるで天国と見間違えてしまうではないか。


 そもそも学校の食堂にカフェテリアを作ろうと考えた人はきっと神様に違いない。


 神よ。ありがとうございます。


 カフェテリアを使う生徒の多くはもちろんほとんどが女生徒だろう。そのカフェテリアを使う理由は噂話や恋話などにスイーツを頬張りながらガールズトークに花を咲かせていることだろう。


 そんなどうでもいい話は置いといてカフェテリアにはどんなメニューがあるだろか。どんな種類のコーヒーや紅茶があるだろうか。パフェはあるだろうか。裏メニューや季節限定メニューとかもあるだろうか、あったらうれしいと思う。


 カフェテリアのメニューを考えるだけで期待と楽しみが倍近く膨らむ。早く流桜学園に通いたくてしょうがない。


 楽しみ過ぎて待ちきれない。早くカフェテリアに行けないだろうか。


 未来人よ。頼む、もし存在したらお前のご愛用の秘密道具で時間をトラックに轢かれる前まで戻してくれ、何ならお前の愛車のタイムマシンで連れて行ってもいいぜ。


 いや、お願いします。


 私立流桜学園の隣には大きくて立派で凄腕の有名な流桜病院がある。その病院にまつわる都市伝説がある。それは裏で肉体改造の人体実験しているといった「いかにもこれは都市伝説です」って感じのどこにでもあるような信じがたい都市伝説がある。


 俺の可哀想な推理だが今いる所はその病院の地下だろう。


 その都市伝説は信じていなかったが本当に人体実験をやっているとは夢にも思わなかった。何せ自分の女クローンを作られたいい例があるからな。


 この都市伝説を流した奴と会ってみたいぜ。(現在、体験中)


 もしも学園内で大きなケガをしたら、この病院で見てもらおうと思ってみたがこの病院はやめとこうかな。


 身の安全のために悪い噂がないほかのクリーンな病院で診察してもらうとしよう。


 それから校門から道路の向こう側には一般的より大き目な造りのコンビニエンスストアがある。そこで毎朝多くの生徒が校内に食堂や購買があるのもかかわらず弁当やお菓子を大量に買い込んでいくらしい。


 生徒を含め学校関係者や病院の人達も時間関係無く利用するだろう。何故そこで時間が関係するのかというと我々生徒は当然平日、校則でスクールタイムの間、学園内から出られないからだ。


 当然、抜け出したら罰則が待っているのだが、罰則を恐れずにスクールタイムの間、学園外に出る生徒は少なくないらしい。学校から抜け出す生徒の多くはそのコンビニエンスストアらしいが、コンビニのほかにゲームセンターやカラオケに行っているバカな生徒もいるらしい。


 スクールタイムの間、どこに行ったこと関わらず生徒は教師に一度でも見つかったら絶対に内容不明の重い罰を食らうと噂されている。


 だが、暗黙の了解で教師に見つからなければOKらしい。


 そこのコンビニエンスストアは一般的に繁盛して、流桜学園の生徒(+学園関係者も含め)のお陰で凄く忙しいに違いない。そして日本中のコンビニエンスストアの中で売上は日本一に違いない。


 羨ましいことに本社は流桜学園の目の前に置いたことで大喜びのウハウハだろう。


 話を学園について戻す。


 この学園は開校から今まで共学なのだが、男女生徒の比率が二対八と分かれて、理由が知らないが異常に女子の人数の方が多くハーレム目的で入学する男子生徒が少なからずいるらしい。


 この学園は男女関係なく生徒がいつの間にか失踪していく生徒がいて男女の人数比率があやふやになっている噂がある。


 生徒が失踪してしまうことが学園の七不思議の一つになっているが何故かニュースとかで報道されることが少ない。

 俺がこの学園に決めた一番の理由、これが気になって好奇心100%で入学を決めた。


 他に大きな理由があったが今は思い出せない。

 いろいろと謎が多い学校ではあるがオカルトが大好きな俺にとちゃ楽園の様なものだ。


 私立流桜学園の入学式は午後かららしい。

 なぜ、午後からというと午前中は先輩方の始業式や入学式の準備で手一杯らしいことなので入学式は午後からということになったとかで。


 悔しくも最終的には行けなかったけどな。

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