第4話 お互いの認識の確認

「皆さん、逃げましょう」

「ダメよ。どこにも逃げ場なんてないわ。もし、あったとしてもそう簡単に逃がしてくれるかしらね」

「じゃあ、どうすればいいんですか?」

「私に言われても困るわ。ねぇ、貴方はどうすればいいと思う?」

「逃げ場がないならアイツと戦うしかないだろう」


 って、自分で言っておいて全裸のままどうやって戦えって言うんだ。俺のバカ!

 固そうな鉄の塊を俺の華奢な素手で殴れば拳が粉砕しちゃう。でもこのままじゃ、理不尽なデスゲームの参加者の如く、メタルなスライムの体当たて文字通りぺっしゃんこだ。

 俺達四人には後がない。では、どうやって闘う? 何でもいいこの場で有利になることを思い出せ。


 俺はここでやってはいけないことをしてしまった。それは棒立ちのまま敵に隙を見せてしまった。

 敵のメタルなスライムは隙作った俺の頭に目がげて飛んできた。


 あっ、死んだ。


 死んだと思った瞬間、目に見えるの全てだんだんスローモーションに見えてきた。周りを見ると三人の少女が俺を見ている。

 三人は青ざめていたり、驚いていたりと様々な表情をしていた。


 そうだよな。人の顔に鉄球に似たものが飛んできているからな。

 目を閉じると脳内に走馬灯がなだれ込んできている。家族の顔、友人たちの顔、小さい頃に何で遊んでたこと、最近のニュースのこと。さっきの会話のことも。

 全ての記憶が脳内に流れる。


 走馬灯って何でも思い出すんだ。ん? 最近のニュース?

 最近のニュースに何かピンときた。

 そうだ。ニュースだ。


 ニュースの瞬間移動装置や未確認生命体のこと、特殊能力を持つ凶暴化した動物がいることを思い出した。

 その動物とは瞬間移動装置の発表と共に人里に現れるようになった不思議な力を使い、化物の様な姿をした未確認生物のことだ。まったくテレビでは報道されていないがその不思議な力は様々な物があるらしく、あまりにも危険なために現れたら周囲の人は確実に避難命令が出ると言われている。


 噂によるとその動物は底知れぬ食欲と凶暴性を持っており、動くものを片っ端から襲い、体に入れられる物を食い尽くす習性をもっている。星化する動物は魚や犬猫関係なく命ある物は星化するといった病気的なものである。そして星化する動物は年々日本国内に増え続けている。


 これらのことがニュース番組で生物兵器なのでは?と取り上げられている。


 こいつは全然早くなんかないんだ。俺がそう勘違いしていただけでこいつは星化した動物の様なものでただ不思議な力を使って瞬間移動をしているだけに過ぎない。


 そのを予想して簡単に避けられる。

 だが、今頃気付いても奴は顔に向かってきているからもう遅い。

 当たると思って強く目をつぶった。


 ズッゴ―ン。


 音は聞こえたのだが不思議に痛みはなかった。


 これが噂に聞く即死という死に方か。死ぬのは酷く痛いと思っていたが案外呆気なかったな。目を開いたら目の前が一面花畑なんだろうな。

 目を開けて見ると目の前の光景は変わらず鉄の壁の空間だった。


 あれ俺生きてる? なんで、頭にもろに受けてぺっちゃんこと思ったのに。


 だが、立っていた位置が変わっていることに気付いた。周りにいた三人の少女たちがいない。後を振り返ってみるとそこには壁に深くめり込んでいる鉄球みたいな物体と少女たちの姿があった。


 あんな固そうな壁にめり込むなんてどんな破壊力だ。


 状況から見ると俺は瞬間移動をして助かったみたいだ。

 俺にこんな力があったなんて知らなかった。いや、改造してもらったからのできた芸当なのかもしれない。


 手を見ると右腕が輝く金色の金属になり、左腕が透ける白い光に包まれて解けていた。


「なんじゃこれぇぇぇぇ――――‼」


 腕が異常なことに金属になり、光になっていることの驚きに思わず叫んだ。


 手が、手が、変になってるー! なにこれ、ど、どんな病気なのこれは。瞬間移動による空間のズレってやつか? 右は消えていないからいいとして左、左はやばいよ。徐々に消えているよ。って言うより腕が光になっているよ。


「・・・・・・」


 視線に気づき、視線がした方を見た。そこには三人の少女が俺の真後ろにいた。俺の叫び声や動揺で不審が気になったのか近づいてきたようだ。


「あなたの腕、私たちなんかより随分面白いことになっているわね」

「それじゃあ、ひょ、ではなくて、雪月花さんも?」

「あら?私はいつ名乗ったかしら」


 茶髪のショートボブの少女、俺の幼馴染の海北月希の皮をかぶった雪月花さんだった。


 月希に聞いた話しによると雪月花雹は我流の天才、剣豪家と俺は思っている。中学三年の時に剣道部に入り、三年生の最後の大会で優勝したと聞いている。だが、優勝したのもかかわらず雪月花は大会までの部活に週一のペースでしか来てなかったようだ。練習内容は基本を意識したものの素振りしかやっておらず、ほかの部員や顧問は雹と関わろうとしなかった。

 それが我流の天才と呼ばれた理由だ。

 雪月花さんの手元を見るとその手には刃がない日本刀と思われる銀色の柄を握られていた。


「今、雹って言おうとした? なんで君が雹ちゃんの名前を知っているの?雹ちゃんを呼ぼうとしたことは、君って・・・さては雹ちゃんのコアなファンだな」


「なんでだよ」と突っ込み入れた直後に二人は何故か俺に似た女の子に視線を向けた。

 あともう一人、武器を手にしている者がいた。


 それは今ボケた女の子、雪月花の姿をした海北月希だ。その手にはフルオート製の銀色の拳銃が握られていた。

 海北月希は日本最強サバゲー女チーム「ウーマン」のリーダーにしてチーム最強のプレイヤー。チーム内ではオールと呼ばれライバルチームに恐れられている。あまりサバゲーのことはよく知らないが本人が「日本のサバゲー界では最強なんだよ」とよく自慢を言っていたのでそれを真に受けて信じている。


 月希はその銃を鉄球になった鉄球スライム(今後鉄球スライムと呼ぶことにした)に向けて引き金を引くが出ない。そもそもこの銃に弾が入っていないようだ。しかも弾倉を替えようとしても弾倉の部分が見当たらないから取り替えることができないから今話し合うべきと言っていた。


 この二人は持っていた武器で殴るなどの物理的攻撃以外では役にたたなそうな物を手にしていた。


 あともう一人、手がおかしくなっていた。それは雹と月希が視線を向けた俺に似た少女だ。その少女の両手には手の骨に沿って銀色の粒が埋め込まれている。

 自分の手を見て彼女は何か思いつめた表情で考えているように見えた。

 何か腑に落ちないことがあるのだろうか。


 鉄球スライムがまだ壁にめり込んでいて出てきそうにないことを確認し、彼女に話しかけてみることにした。理由はこの体の持ち主、加害妄想な女の子かどうかを確かめるために。


「君って八代さんだよね?トラックに撥ねられた」


 俺は彼女がこの体の本人と思っていた。彼女が動かしている体は俺のクローンの体。そう、さっきまで俺が動かしていたのはクローンと推理している。


 雪月花さんと月希が入れ替わっているイコール俺と彼女は入れ替わっていると思うからね。


「ふえ?そ、そ、そうと言いますが、私あのことあやふやに覚えていて、自分が撥ねられたかどうかはわからないです」


 自分の顔に話しかけてキョドル彼女の言葉を聞いて「やはり」と思った。

 この女の子を動かしている意識は八代さんだ。これでいろいろ確かめられた。


「ユっちゃん!この子と知り合い?」


「私もそのことに知りたいわ。答えてくれるわよね。雪君」


 と月希と雹は言ってそれぞれ違う人物を見た。互いに首を傾げている。

 月希は八代さんに、雹は俺に。

 ユっちゃんというのは俺のあだ名。幼いころから月希にそう呼ばれている。


「?」


 八代さんはユっちゃんと呼ばれた覚えがない愛称にきょっとんと困った表情と頭上に?を立てていた。


「ねぇ、ユっちゃん。なんで困った顔するの? それに雹ちゃん、初対面の人にわけわからないこと聞いきゃダメだよ。可哀想でしょ」


 わけわからないことを聞いているのはお前だ。それに可哀想なのもお前だと俺はそう思っているぞ。


 月希は雹が自分とは違う人物に視線向けたことが疑問に思ったようだ。

 雹は昔会ったとき感が鋭かったのにはびっくりした。それに人間観察力もずば抜けてるから俺のことに気がついたのだろう。


 五年ぶりなのによく俺だと分かったなーと感心した。


 それにくらべて月希は別の意味で感が鋭い。いや、自分の五感を信じやすいため、それをありもしないこと向けて妄想する傾向があったり、表面で物事を判断したりと自由というか天然というかは今の俺には判断ができない。


「なんでルイはその人が雪君だと思うの?」

「だって、見た目がユっちゃんにそっくりだったから事故った影響で女の子になちゃったユっちゃんかなーって、それでルイたちみたいに注射みたいなことされた以外に体を改造されちゃって女の子にされてここに入れられたと思ったの。雹ちゃんはユっちゃんに似てない冴えなそうな顔がにあいそうなその子だと思ったの?」

「ううっ」


 八代さんからぐさっと言葉が刺さる音が聞こえた。

 これは即死間違えない会心の一撃だ!


「私はこの子から雪くんと同じものを感じたわ。それに雪君も私たちみたいに入れ替わっている可能性が高いと思うの。それに雪君の超絶的な冴えないオーラも感じるわね」

「グッ」


 俺の心に雹の言葉の棘が刺ささる。深く致命的じゃないがこの棘は死ぬまで一生抜けそうになさそうだ。


「そうだよね。入れ替わってるかもだよね。本は表紙で判断するなって言うし、見た目が似ているからってユっちゃんじゃないだろうし。よく考えてみると今までの言動でその子がユっちゃんって思えてくるよ。ルイもヒョウちゃんと入れ替わっているし、もし君がユっちゃんなら説明してくれるよね」


 月希は可愛らしくクルっと一回り、俺と向き合った。

 雹の姿で可愛らしく回るのはやめてくれ五年ぶりとはいえ初めて会った時と違うからなんか怖い。お互い裸なんだし目のやり場に困る。


 できるだけ裸のことをスル―しとく。


「おいおい、軽いな。まいっか。今までというか事故からのことを包み隠さず話すと言いたいことだがその時のことがぜんぜん思い出せないんだ」

「私は事故のことも含めて、事故の前のところから知りかったけど思い出せないならいいわ」


 雹はちょっとがっかりした様な仕草をする。


「私たちは本当に入れ替わっているのですか?確かに目の前に自分がいますが」

「ああそうだな。きっとこれも何かの実験かもしれないな」

「はいはーい。ルイはそれでもユっちゃんとその子が出合ったところから知りたーい。話さないと抱き付いちゃうぞ☆」


 月希は俺に抱き付いてきた。そんな光景は女の子たちが裸で抱き合っていて清純で妖艶な香りを出しているアダルティーな感情を現場の目撃者二名が出していた。


「何やっているのですかー? そ、そ、そんな羨ましいこと。じゃなく、それは私の体なんですよ。抱き付いてもよくないですよ。ただ中身は雪さんなだけで抱き付いてもいいことないですよー!」


 なんでだろう。自分の体に抱きつくなと主張したいだろうけど中身が俺の部分が調協していてるんだろ。少し傷ついたよ。だが、八代さんは中身が俺だと理解しているようだ。


「中身だけではないよ! 見た目可愛い女の子だよ」


 ってさっき冴えないって言ったのはどこの誰だ。


「そ、そ、そんなもったいないお言葉を」

「そうだよね。君は可愛い子だ」


 自分も同意というように月希の言葉に便乗する。


「そんな雪さんまで」


 八代さんは真っ赤な林檎の様に赤面して「そんなそんな」と連呼した。


「なになに、ユっちゃんナンパ? ルイ、妬けちゃうな。そんなことをする悪い子はお仕置きだ」


 月希はいたずらめいた表情をして色んなところを撫で回した。


「?」

「どったの? ユっちゃん。あっ、雹ちゃん全然しゃべらないね」


 と雹が途中から会話に参加してないことに築いた。

 みんなで雹の方に向く。


「あの生き物について考えていたの。あまり時間がない。雪君、思い出せる範囲で話せることを話して欲しい」


 どうやら雹は鉄球スライムのことを観察しながら壁の窪みの方向を見ていた。雹の中では俺のことがよっぽど気になっていたみたいだ。しかし、雹は怒っているようで子供っぽく拗ねた可愛らしい素振りをしているのに無表情で凍り付くような視線が俺を突き刺すように睨んでいた。こんな表情をしてる女性を可愛いと思うのだが、この女の子 雹は視線で可愛らしい表情を殺しているから可愛いというより美しいと思う。


 そして俺は事故のことを思い出せる範囲と目覚めてからの番長口調の女性ことまでを雹たちに話した。


「こんなことがあって俺はさっきまで八代さんが動かしているクローンの姿をしてたんだ」


 八代さんの意識が動かしている俺のクローンを指さした。


「でもなんで雪君のクローンは女の子なのかしらね」

「それは俺にも分からないんだ。クローンを作った研究者がそういう危ない趣味の人だったんじゃないのか」

「そうだよねー。世界には色んな人がいるから、ユっちゃんは運悪く女体化萌えの性癖研究者の実験台にされたんだよ」


 月希は哀れむような目で俺を見た。


 もー、運が悪い程度どころじゃないよ。こっちは撥ねられた挙句、改造された体をクローンの培養に使われたんだから不幸だよ。


「数ヶ月前のトラックに撥ねられる前に戻りたいよ」

「ねぇ。何言ってんの。雪君がトラックに撥ねられたのは最近よ。だって私たち、貴方のお見舞いに行こうとしたところで拉致されて今まで監禁されていたの」


 雹は無表情のまま「いつレイプされるのか怖かったわ」と自分の体を震わせ抱き締めながら言った。

 花を恥じらう女の子がレイプと言ってはいけません。


「お見舞い?ここは病院なのか?」

「たぶんそうよ。ここが病院じゃないならトラックに轢かれた重傷者のあなたをどこに運んだのかしらね。怪しい研究所に怪しいことをするために重傷者を運ぶなんて気味悪いしけど面白いと思うの」


 俺はずっと眠っていたと思い込んでとんだ勘違いをしていた。事故が最近と言うことはクローンの体は早くて2日で高校生まで成長したと言える。

 最近の医療科学もここまで進化していたのかと驚きながらも大体状況が分かってきた。


 トラックに撥ねられた俺と水泡さんを見舞いに行こうとした雹と月希は、それぞれの経緯でここに運び込まれてそれぞれ改造というか、分からない物を注射されたらしい。


 しかしその注射がどんな影響を与えるのかは分からないらしい。


「あのー、お取込み中すいません」


 八代さんが手を上げ、壁を指した。


「今にも抜け出しそうです」


 忘れかけていた鉄球スライムが自ら突っ込んで身動きが取れなくなった壁から一生懸命出ようとえっちらおっちらしていた。

 俺達は慌てて防御態勢に入った。


「くっ、せっかく人がトークを楽しんでいたのに水を差しやがって」

「しかたないわ。それよりもあのモンスターを倒すのに集中しましょう」

「鉛玉も出ない銃なんて使えないなんて言ってらんないよねー☆」

「ううぅ、戦いたくないですよ。怖いよー。帰りたいよ」

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