第43話 ホームルームの前に
休みが明けて今日は学校だ。
ミケーに起こされた俺は自分の身体とクローンの身体を器用に操り、制服に着替えて学校に行く準備をする。
一応休みに起こったこと、クローンが一時的に幼児化や二つ体を操れるようになったことは一通り、一夜先生に昨日の朝にメールで送っている。
土曜日の夜から日曜の朝にかけて言うべきか、言わないべきか考えて結局報告することにしてメールで送ったのだが、先生からの返信が無い。一夜先生はきっと忙しくて返信が遅れないのだろう。メールの内容は見てくれているはずだ。
一夜先生は学校の先生+メテオの対策をしている秘密組織に忙しいのだろう。校舎が襲われて崩壊した部分の修復作業や強襲犯捜索もしているかもしれない。
一学生である俺には関係ないことだ。一応報告したことだし、土日のことで怒られることは無いだろう。きっと。
「ったく、まだ六時前じゃないか。もう少し寝れたのに起こしやがって」
俺が寝ていたベッドに潜っているミケーに悪態をつきながら、クローンを引き連れてリビングに降りた。
あの猫ベッドを独占したいがためにクローン共々追い出しやがったな。
「あら、おはよう。起きたのね」
「おはよう。ああ、早起きは三文の徳って言うしな。って言うのも変か。実はミケーに起こされたんだよ。月希はって、アイツは普通に寝ているとして、周は?」
「八代さんは洗濯機をまわしているいると思うわ」
キッチンには雹が朝食と弁当の用意をしていた。
雹に周が起きているのか確認したところ彼女は洗濯をしているそうだ。
彼女達ばかり何かやらせているのも悪いので雹と朝食を作ることにした。ただ雹が気持ち悪いことをぬかしているが気にしない。あまりにも酷いので朝食の準備をやめて洗濯の方の手伝いに行こうとしたが、月希と雹は別にして周はお年頃の女の子だ。同級生の男に自分の下着を触られたくないだろうと思って雹のうわ言を我慢しながら朝食づくりに勤しんだ。
いきなり真顔で夫婦の共同作業って言われると本当にビビるよな。雹は普通にしていれば綺麗な女子高生なのにな。
今日の朝食はシンプルにトーストとサラダだ。それと昨晩のオカズの残りだ。
朝食作りはほぼ終わり、雹に頼まれて月希を起こしにクローンで月希の自室へ向かった。
本体の俺はまた雹と一緒に食器を並べたり、朝食作りで使ったフライパンや包丁を洗っている。何故か本体の俺で月希を起こしに行こうとしたら止められた。
こっちの俺と準備がしたいそうだ。クローンも本体の俺も一つの人格だからそう変わらないのに。
月希を起こしに向かった俺はハエトリソウの葉にとまった虫のごとく月希の怪力に抵抗できず、ベッドに引きずり込まれて捕まった。しかも小柄な体つきに対して不釣り合いな胸に鼻と口を塞がれて息ができない。
必死に月希を起こそうとしたが寝ぼけているのか「もう少し寝かせてー」とふざけたことをつぶやいていた。このままだとクローンの俺が死ぬだが。
テーブルに食器をやめてすぐさま本体でクローンの救出に向かう。
「おい!月希寝ぼけてないで起きろ!」
月希の胸をかき分けてクローンの呼吸を確保する。間に合った。数秒遅かったらkぅローンが窒息死するとこだった。
周や雹が見たら、俺がクローンで月希の胸に顔をうずめて本体の手で胸を揉んでいるように見えるだろうが、
「ふぁー、もううるさいな。っえ?ユッちゃん何しているの?さてはルイを夜這いしに来たな。ルイ、ユッちゃんならいいよ。ルイが壊れるほどめちゃくちゃにして」
と凄く可愛く言っているが、こっちはクローンが死ぬかの寸前でやっているのにまだ寝ぼけたことを言っていやがる。こいつの頭にゲンコツでもいれてやろうか。
「寝ぼけてないで力を緩めろ。シマっているからクローンが死ぬ」
俺が必死に月希に訴えるってようやく月希は状況を理解してクローンを解放した。海北だけに。
「酷い目にあった」
「ユッちゃんいきなり酷いよ。ルイのおっぱいを揉んでおいて」
「それは悪かったって言っているだろう。でもこっちはこっちで必死だったんだ。もう少しでクローンが死ぬところをだったんだぞ」
「ううー。それでもびっくりしたんだから」
月希の胸を揉んだことは悪いと思っているが、クローンが死ぬところだったからしょうがない。許してほしい。このことは雹や周には内緒にしてほしいところだ。
「早く着替えて降りて来いよ。朝ごはんができているから」
「ほーい」
何とか月希を起こした俺はリビングに戻った。
「あ、雪さんおはようございます」
「おう、おはよう。いつも洗濯ありがとな」
「いえいえ、私はこれくらいのことしかできないので雪さんのお役にたててとても嬉しいです。雪さんの洗濯物はあっちに干しておきましたので。それとたまにはパジャマを洗濯に出してほしいです。着ていたパジャマずっと着っぱなしじゃないですか。クローンの分もそうです。いくら男の子だからって洗濯しないと不潔ですよ。しかもクローンの方は女の子ですから」
「まあ、そのうち出すよ」
「今夜、出してください。いええ、今雪さんの部屋に行って洗濯機に入れてきます」
周にはかなわないな。てか、お母さんみたいなことを同級生の女の子にこんなことを言われて立つ瀬がないな。
周達と暮らし始めて一週間が経って少しは慣れてきた。昔から月希はパンイチで出歩くのは知っていた。目のやり場に困るから治してほしい癖なのだが、月希に訴えるのは諦めている。言っても変わらないし、月希に向かって訴えたら俺が月希を意識している思われるのが嫌だ。
悲しいことに月希が風呂から上がるタイミングは部屋に籠るしか選択肢がないのが現状だ。昨晩だってそれで乗り切った。裸の月希に出くわしても、月希は悲鳴すら投げずに裸のまま絡んでくる。
俺を男と認識していないのだろうし、俺も今更女子の裸を見ても何も思わなくなったが、男の本能というヤツが反応するから困る。それでも女の身体を手に入れてからは俺の価値観がガラリと変わったと思う。
「朝ごはんできたわよ」
「ふわー。みんなおはよう」
「おはようって、ちょっとルイ?また寝癖が直っていないわよ?洗面台で直してきなさい。朝ごはんはその後よ」
「えー。朝ごはんの後でいいじゃん。ご飯食べたら歯を磨くしね」
「後にするとやらずにそのまま学校に行こうとするでしょ?寝癖を直して行って、それと雪くんも一緒にね」
何故か俺も月希と一緒に髪を梳かすことになった。梳かす髪を俺のではなくクローンのだ。綺麗な髪なんだからちゃんと梳かしなさいと言われたので静かに従う。
めんどくさいがクローンは女の子だから身だしなみを整えないと周と雹がうるさいので、俺とクローンと月希の三人で洗面台に向かった。
「ヒョウちゃんはこういうところが細かいよね」
「清潔でいて欲しいってことだろう。だらしないと不潔って思う人もいるし、こればかりはしょうがないだろう」
隣で月希が呟く。
身だしなみに細かいのはいいことだと思う。人に清潔な人だなとか綺麗とか思われて異性にモテると思う。俺は男にモテても嬉しくないが、月希達と住み始めて女子にモテてもあんまり嬉しくないことに気づいた。
どういう心境の変化なのかは俺にはわからないが、好かれるなら怪奇現象だな。怪奇現象の響きだけでも好奇心が刺激される。ポルターガイストとか味わいたし、火の玉がゆらゆら飛ぶのも見てみたい。
メテオで地球外生命体のイメージが払拭されてしまったが、宇宙は広いから知的な宇宙人もいるはずだ。ドロドロなアメーバの寄生虫が地球外生命体すごくがっかりだけど。
夢は壊れても憧れは壊れずにそのままあり続ける物だ。
お?これいい言葉じゃないか。後でカードフォンの俺の名言フォルダにメモしておこう。
その後、朝ごはんを食べて身支度を整えホームから学園へテレポートした。
「みんあーー!おはようーー!」
月希は教室に入ってそうそう元気よく朝の挨拶を叫ぶ。
相変わらず、朝から元気な奴だ。
「水泡くんおはよう」
「おいおい、朝から女子に囲まれて登校かよ。羨ましいじゃねえか」
「道面、おはよう。佐々木、それはやっかみか?文句を言うなら勘弁してくれ。朝から月希のハイテンションに付き合わされる身になってほしい」
鞄から教科書を出していると道面と佐々木が絡んできた。嫌味たらたら絡んできたのは佐々木だけで、道面は挨拶をしただけだ。
「あれ?白城は?風でも引いて休みか?」
白城の姿が見えなったから二人に聞いてみた。
「白城くんはトイレに行っているよもう少ししたら来るよ」
「腹が痛いんだってっさ。今頃トイレで下しているんじゃないのか?そんなことよりさぁ、マジで女子を紹介してくれよ」
ホームルームまで二人と駄弁っていると、クローンに話しかける女子がいた。
「ユっちゃんさん、ユっちゃんさん。おはようございます」
クラスメイトのクーが話しかけてきた。
俺は本体の方で道面と佐々木としゃべっているので二つの身体で同時に離すことができないのでクローンの顔をあげてクーの方に向く。
「今日の放課後、二人だけで遊びに行きませんか?」
と言われた。
クーと二人きりで遊びに行くのだろうか。二人きりだといろいろボロが出そうだ。
クーと仲のいい子と複数人で行くのも少し嫌だな。人見知りではないと自負していたが、月希や雹みたいな女子との付き合いが増えたから煩わしいと感じるのか、それとも白城の女嫌いがうつったのか。わからないが、ただの顔見知りのクラスメイトの女子と遊ぶのは遠慮したい。
クーのお誘いは断るのは簡単だ。だが、今の状況でなければ。
回りには普段俺のそばに離れなかった月希も雹もいない。周は日直だったらしく、今は職員室に行っている。
なので今は俺しかいない。女子とのお誘いを幼馴染の女の子やその従妹を使って断るのは相手に失礼だと思う。
「ごめん、今日の放課後は、水泡くんと約束しているの。ごめんね。今度、埋め合わせするからね」
男の俺と遊ぶがあると言って約束を先送りにした。
雹達が聞いたら茶番でしかないだろう。
「そうでしたか?埋め合わせは明日でどうでしょうか?」
「それでいいよ」
またあとでっと言い残して自分の席に戻って本を読み始めた。
明日に先送りしてしまったが、今日の夜に月希達に相談して俺とクーの後をつけさせよう。
なんで俺なんだ?ほかに女子は他にもいるのだが、まさか。クーもメテオの存在を知っていて、俺みたいないろいろ秘密が多い生徒に接触していろんなことを企んでいるのではないのだろうか?
疑わしきはなんとやらの精神でクーを少し警戒したほうがいいのだろう。学園に通っているってことはテロリストやメテオを使って悪さを企んでいる組織の可能性は低いが、決してゼロではない。学園に潜入して諜報活動に勤しんでいるスパイって可能性もある。
危険なことかもしれないけど、そういうヤツと仲良くすれば学園側が隠していることを教えてくれるかもしれない。
クーが一般人でただ俺と仲良くなりたい可能性もゼロではない。
「水泡くんどうかしたの?ボーとしちゃって」
「いや。昨日の夜に読んでいたオカルトサイトの怪談話のオチがどうなったかなって思っただけだ。最後まで読んだはずなんだけどそれが思い出せなくてな」
「何?オカルトサイトを読めば女子にモテるのか?水泡、ジュース奢るからお前が読んでいるサイトのURLを教えてくれ」
「オカルトサイトを読んでもモテないと思うけどな。女の子は怪談話が苦手な子が多いから逆効果だと思うけど」
斜め上ことを言う佐々木に道面がツッコミを入れる。
オカルトサイトはみんなに読んでもらいたい。
オカルトサイトの中には政府の陰謀論が中心に書かれている物もあるが、怪談、UMA、宇宙人、怪奇現象などはめちゃくちゃ面白いからおすすめしているのだが、俺の回りにいる奴らは全く読んでくれない。白城はホラー映画やゲームは嗜む癖にそういうサイトには興味を示さないし、月希はホラーの面白さが分からないのか詰まらなそうに読んで最後に「これ何が面白いの?ちょっと内容がわからないよ」と言う。
俺には趣味を語り合う同士がいない。しかし、これで佐々木が興味を持ち始めて読み始めてくれれば趣味を語り合える。
これを機に佐々木を沼に引きずり込んでやる。
「俺が読んでいるのはオカルトチャンネルっているサイトだな。投稿者は廃墟や墓地に行って一人肝試しをやっている動画もあるし、オカルト話もみんなが知っている話からマイナーな話まで面白いサイトだ。夏の怪談話のネタに最適な宝庫さ」
佐々木にサイトの良さを説明する。佐々木の表情はいまいちのようで興味はわかなかったようだ。
こんなに面白いのに人生を損しているぞ。
「それのどこがおもしろいのか俺には理解できないけどよ。人の数だけ趣味はある。人それぞれの趣味に口出しはしない」
「おらーテメーらホームルームの時間だ!座れー!」
教室に一夜先生が入ってくると同時にキーンコーンカーンコーンとホームルームを始めろとチャイムがなる。
俺を含め、友達と喋っていた生徒は次々と自分の席に座り、ホームルームが始まる。
一夜先生は適当に出席を取り始めて、俺とクローンと目が合うと驚きはしなかったが、興味深そうに頷いた。驚かなかったのは昨日の俺のメールを読んでくれたということか。
そして金曜日に起きた事故について話し始めた。
もちろん近隣住民や一般生徒向きとしての話だ。事故はガス爆発により校舎の一部が崩壊したと先生は言うが、今朝一夜先生から送られたメールには学園側と敵対関係しているテロ組織による犯行のこと。
それだけのことしか書かれてなかった。
犯人の目的はただ単に学園の嫌がらせで校舎を破壊させたわけではない。何か目的があって犯行に及んだに違いない。
そこら辺のことを先生に聞いてもゲンコツが帰ってくるだけだろう。しかし調べる手段がない。ネットで検索欠けても出てこないだろうし、手段がない。
犯人が学園の秘蔵っ子である俺に訪ねてこない限り、知りえないだろう。
いや、待てよ。
俺はクーのことを思い出した。
このタイミングで声をかけてくるならそういうことではないのか?クーはスパイなのでは?クーなら何か知っているのでは?
俺の中で憶測が飛び交う。
憶測を頭の中でかき混ぜていると、気づけば時間が過ぎていった。
時間はお昼となった。
「ユッちゃんお昼にしよう」
「わりぃ。弁当を持ってきてないんだわ。俺は白城達と食堂で済ませるわ」
白城達が食堂に向かったのを確認して月希達にそう話した。
クーの一件は月希達には夜話すとして、高校になってからは他の男子+女子の視線を感じる。
中学時代は月希に付きまとわれて男子の視線を感じていたが、高校になって最近女子の視線を感じるようになってきた。
月希と俺が付き合っているとか噂が流れているようだから今日ぐらいは月希達とky利を置いて白城と食おうかなと考えていた。
けれでも月希の後ろの人物はそれを許してはくれなかった。
三つも持ってきているし、それって俺とクローンの分か。ありがたいが、いや作ってもらっといて食わないのは流石に失礼か。
「そうかと思って持ってきたわ。ちゃんっと作ったのに持って行かないんだもん。私がしょうがなく持ってきたわ。それに私達に何か話したいことがあるんでしょ?」
雹はなんでもお見通しのようだ。
「今日は晴れていることだし、人がいないお外で食べましょう」
俺達は外に向かった。
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