第13話 クラスメイト2

 当然ながら今の俺の股間にはある物がない。

 皆さんと同じ仕組みでできている下半身なのに、みんなニコニコ笑顔で固まっている。


 トランクスを履いていたことは確かにおかしいと認めるよ。けどそれなら「くく、何、あの子、男性物の下着を履いてる。おっかしー」だけで済むのに。裸でいる人は俺以外でもほかにいるだろ。なぜ、白ける。


「あはは、ユっちゃん。ごめんごめん」


 月希は月希で申し訳なさそうに笑っているし、周は鼻血を出しながら美しい物が見れて幸せって感じで燃え尽きてるし、雹は雹で鼻血を出しながらカードフォンをカシャッカシャッと構えている。そしてみんなニコニコと俺を見ている。

 どういう状況なのか昨日の鉄球スライムと戦う直前以上に状況が分からない。


 男だった頃は人並に空気が読めたんだが女子になったことでKYになってしまったのかな。


 もうこの空気に耐えられる自信がない。月希に下げられたハーパンでトランクスを隠しながら履いて、その上からスカートで隠しながら履いていたハーパンを脱ぐ。恥ずかしさを紛らわすように箱の中に一つだけあった七分丈を履いたら周囲ががっかりした声を上げた。


 お前ら本当、こんな俺に何を期待している。解りやすく説明してもらえると助かるんだが。

 これを運命と呼ぶのだろうか。目に入ってサイズすら気にせず手に取った七分丈のハーパンは風通しも良く、スタイリッシュの上、夏場でも涼しいように熱を逃がしやすい作りの生地が意外にも薄くなく春から秋まで使えそうだ。


 下半身にフィットするピッタリ感を感じる着心地のよさ。

 これぞ、運命と言わず何と表現したらいいのか俺には言葉が足りなすぎた。


 何気ない運命的な七分丈は魅力的に思えた。


 後はみんな同様に担当の先生にサイズやハーパンを報告して、これを履いたジャージ姿で身体測定をするだけだ。


 改めて周りを見るとほとんどが採寸を終わらせており、どんくさく残っているのは俺含め、雹、月希、周の四人が残っていた。


 担当の先生が早くしろとガン垂れていることを気にせず、マイペースに記入用紙をゆっくりと書きながら月希たちを待とうとしたら、阿吽の呼吸なのかそれぞれ記入用紙を書き始めた。

 記入用紙を先生に提出しつつ、三人がどんなハーパンを選んだのか気になった。


 月希はオシリのラインが丸見えのセクシースパッツパンツ(スパッツ)を選び、周はパンツの上にパンツをはいた様なおかしな絶滅のブルマを選んで、雹はそれしかなかったのかぶかぶかのハーパンを選んでそれぞれ記入用紙を先生に渡した。


 四時間目の身体測定は男子とほぼ変わりなく座高、体重、身長を測り、結果を見るとなんと男だった時と比べ座高と身長が約十センチぐらい縮んで体重は十八キロも減っていた。


 男子から女子に体だけ変わったが、ほんの十センチ程度でここまで体重に違いがあることに驚きを隠せなかった。

 女子は見た目より体重が軽いことを生まれて初めて知った。だからか女子は体重を気にするのは。


 後はバストやヒップなど女性特有の身体測定を測り、もっと時間がかかると思われた1―B女子の身体測定がほんの三十分程度で終わった。


 意外と早かった身体測定が終わり合計二時間の暇な時間ができた俺達1―Bは教室で寝る者、食堂に行く者、図書室に行って真面目に勉強をする者、無意味にプラプラする者に別れそれぞれ自由に時間を過ごす。


「ユッちゃんこれからどうするの?私たちは三人で食堂に行くけどユッちゃんもどう?」

「食堂か。俺はいいや」

「そうなの」


 俺の暇の潰し方は月希たちから離れ、散歩がてら人気がない場所を探し無意味にプラプラと探索することを選んだ。


「とりあえず行くところもないし、外に出てみるとするか」


 校庭に出てみると三年の男子が授業の体育でサッカーをしていた。

 三年の中に一人だけ見覚えの人物が三年と一緒にサッカーをしている。あれは真琴だ。


 三年の先輩を軽く避けてドリブルでゴールに向かう姿は先輩後輩の関係がまるで感じられない。同級生かの様に一緒にサッカーをしている。


 おいおい、いいのかよ。先輩たちは一応授業でやっているだけだぞ。白城、楽しそうにサッカーやりやがって、どんだけサッカーが好きなんだよ。お前。後で先生に怒られたってしらねーぞ。


 先生を目で探すと先生は先生で校舎の影に隠れてタバコをのんびりと吸っていた。


 人それぞれの人生だ。白城が三年の授業に混ざっていたことも先生が学園内でタバコを吸っていたことでその先生が首になったって俺の知っちゃこっちゃない。


 先生が学園内でタバコを吸っていた所なんて俺は何も見て無い。

 グーの音も出ない俺は人気がない良さげな場所を求め移動する。


 途中、間違えて男子トイレに入って、運悪く用をたしていた男子に騒がれ、「ビッチ」と吐れたりして男子トイレから逃走したり、男子更衣室の扉を何気なく開けたりして時間を潰していた。


 自分でも思うが変な噂が立ちそうだ。


「水泡ちゃんじゃん!こんなところでどうしたの?俺みたいに学園の中を冒険してたら迷ちゃった感じ?」


 プラプラしていたら今朝白城と一緒にいた佐々木隼人と出会った。

 こいつは俺と同じで学園の中をプラプラしてたらしい。


「いえ、僕は用事があったので今から向かっているんです」


 関わるのは少しめんどうなので適当にでっち上げて退散しとく。


「タメなんだから敬語じゃなくていいよ。それに今どき僕っ娘なんて流行らないから私に直したほうが男子にモテると思うよ」

「そうなんですか。でも自分のことを僕って呼ぶのなかなか治らないですよね」


 あと元は男だから男子にモテても困るのだか。


「だよね。本当に水泡ちゃん私って呼んだほうがいいよ」


 佐々木はそう言い残して言ってしまった。


 いったいなんだったんだ?まぁいいか。


 佐々木と別れたあと適当に進めそうな道は進んで桜を横切ったり、花壇に沿って進んだり、扉の中に入ったり出たり、階段を上がったり下がったり、目的も無しに通路を進む。


「なんでここに着くんだよ」


 そして俺が最終的に行き着いた先は昨日、スライムたちと戦った場所の扉の前に来てしまった。


 行ける道を進んできた俺は、どの道のりで来たのか覚えていない。だんだん廊下や壁が変わってきたらさすがに気付くハズなんだが全然気づけなかった。


 自然と行きたくもなかったここに来ちゃったのである。


「引き返しえして戻ろうと」


 後ろを振り向くと今きた通路がなくなって、壁になって固く閉ざしている。


「あー!ユっちゃんだ☆見つけた」

「あら?どこかしら、ここは」

「雪さん、ここはどこですか?私は雪さんを探してて気がついたらここに」


 どこから来たのか、月希、雹、雪が何気なく立っていた。話を聞いたところ三人とも俺を探していたら、いつの間にかここに行き着いたらしい。


「おー来たか。お前ら」


 振り返ると扉の前に一夜先生が椅子に座って新聞を読んでいた。


「お前たちを呼んだのは他でもない。お前たちには模擬戦闘をやってもらうために来てもらった」


 ここに来てしまったのはたまたまで、ここにたどり着いたわけで自分の意思で来たわけではない。そもそも先生に呼ばれていたなんて初耳だ。


 昨日と今日で俺達はまた何かと戦うんですか。しかもガキ使い風に言って。

 断っても強制的に戦う羽目になってしまうだろうから半分諦め。


「昨日みたいな化物と戦うのは嫌です」


 周が明確に嫌なことは隠さずいうとは珍しい。


「今度の相手はゼリー野郎ではない。二人ともお前らと同じ人間だ」


 こちらの人数から考えて四対二で戦うらしい。


「なーんだ。相手は人間か。つまんないの」

「ルイに賛成。相手が人間なんて切応えがなさそうね。私達相手ならいっそのことドラゴンやら魔王が相手ならよかったのに」


 相手は人間か、あーよかった、よかった。じゃない、嫌だ。嫌だ。戦いたくない。しかも二人か。てか、月希と雹。なんでお前たちはそんなに好戦的なんだよ。スライムからドラゴンや魔王、どんだけランクアップしてるんだよ。魔王にいたってはラスボスクラスじゃねーか。


 何を間違えてこんなことになった。特に思いつかない。人気がない場所を求めて移動しただけなのに。

 あのままサッカーを見ていればよかった。


 扉がギギッギギとゆっくり開く、重い音が響き渡る。


「水泡に八代、嫌そうな顔すんな。案外弱い相手かもしれねーぞ」

「そんなっ」


 一夜先生は俺と周を扉の中に楽々と放り込まれた。


 思いっきり顔面からダイビングした俺はあまりの痛さにのたうち回る。四つん這いで扉の方へ手探りで向かうとゴチンと鉄の壁に頭をぶつける。


「痛っー」


 薄っすら見上げるとあったはずの扉が跡形もなく消えていた。


「ユっちゃんはドジだな」


 壁に頭をぶつけた俺を月希はけらけらと笑われている。その後ろでカードフォンを構えている雹は荒い息をたてながら、何やら写真を撮っているようだ。そして周は顔面ダイビングに失敗したのか痛そうに顔を抑えてもがいている。


「四つん這いになって頭をぶつけるなんて可愛い」

「ほんとに素敵です。セクシーなオシリが愛らしくて、男子っぽい仕草に惚れ惚れしてしまいます」


 四つん這いのまま後ろを向くとクラスメイトの双子が全身銀色の大槌と大鎌を肩に背負っていた。


「あっ!同じクラスの。えーと」


 同じクラスだった為、顔は覚えていたが一方的に自己紹介したからほとんどのクラスメイトの名前が分からない。


「そういえば、ユっちゃんたちには自己紹介がまだだったね。私は野須原 優真のすはら ゆまだよ」

「妹の真友まゆです」


 俺と雪が自分たちの名前が分からないことに気付いて、二人合わせてゆままゆ姉妹と付けて欲しくなってしまうフレーズで大鎌と大槌を一回転させながら自己紹介が行われた。


「二人合わせてゆままゆ姉妹だね」


 俺が思ったフレーズを月希はそう言うと隣にいる雹が困った溜息を吐く。


(えーと。ポニーテールで活発そうで大鎌が持っているのが姉の優真。地味目のツインテールで大人しそうで大槌の方が妹の真友か)


 双子だから当然だがとても似ているが二人は個性的に正反対に見える。


 平和な自己紹介はここで終わり。一夜先生は模擬戦闘と言っていた。だから本当にこの二人と四対二で戦うみたいだ。


 道に迷って着いた場所でいきなり戦えって言われて、「はい、そうですか」って素直に戦えるほど俺はそこまで精神的に強くないし、戦う気もない。

 だが、この二人はご丁寧に自己紹介をしてくれて、相手の俺達が来る前から健気に戦闘体制に入って待っていたんだから戦う気満々だ。


 何が楽しくて戦いたいんだが気がしれない。


「ユっちゃん達はなんでこの学校に入ってハンターになろうとしたんですか?ここと同じ学校はいくらでも負ったのに」


 姉の優真がそんなことを聞いてきた。


「ん?ハンター?」


 キョトンとする俺達四人。


 何のことだ。そんなウサギや熊を狩るような職業に進もうとした覚えはないんだが。それともフィクションのハンターかな。ホラーチックなモンスターとかを倒して人を救う?


「おねぇ、最近なったばかりらしいから、自分達がハンターになったことの自覚がないんだよ」


 チンプンカンプンな表情をしていると察して真友がフォローしてくれた。

 模擬戦闘とは言ってもこれから戦う相手に気遣うなんて優しい子なんだ君は。


 何はともあれ、最近なったばかりってあれか。特殊能力のことなのか。昨日、目覚めたがそれとハンターとどういう関係がある。

 まだわからないことが沢山あるこの体は一部を自由に金や光に変えられて戦うことがハンターと言われるより化物やモンスターの方がしっくりくる。


「そっかー。新人か。相手が新人でも私と真友は手加減なんかしないからなー。私たちは目標のために強くならなければいけないからね」


 それを合図に二人は大鎌と大槌を構えて殺気って走り出す。


 やっぱり二人と戦うことは避けられないようだ。まだ目覚めてから二日しか経ってようやくこの体になれて歩き回るのにやっとというのにとんだハードプレイだぜ。


 二人とまともに戦えるのか不安だ。


 もし二人が手元が狂ったら呆気なく俺は簡単に死んでしまうかもしれないというのに。


 昨日はいろいろ試したが使うたび体を削っている様に感じる。本当に体の一部を金と光に変えて使っているみたいだ。たぶんだが、この力は使うたび体の脂肪や血液を金や光に変えて自由に使える力だと思うんだ。だからあ力を使いすぎると血が足りなくなって死ぬかもしれない。

 もしかして昨日戦ったからさっきの身体測定で測った身長やら体重やらが大幅に減っていたのってこのせいだったりしてな。


「こう思うと戦いたくねーや」

「なーに独り言?よそ見してると首落とすよ。真友、私はユっちゃんとやるから残りの三人はお願い」

「ケーキを奢るなら引き受ける」


 優真が大鎌を大きく振りかぶって俺の右肩を狙いに来る。

 真友は月希たちの足元を大槌でバランスを崩そうと床を叩き付ける。


 雹が使っていた日本刀の形をイメージして両手で一本、日本刀を生成する。


 全身金で作った日本刀で大鎌をギリギリのところで弾いた。

 刀の防御が右肩に集中がいってがら空きになった胸の制服を寸前のところで掠り切れるぐらいに回避できた。ギリギリ防げたが切られた部分から血は出ていなかったが正面から雹から借りたブラがチラリ顔を出すぐらい切り込まれていた。


 ところがそれはフェイントだった。


 弾いた大鎌は一回しで胸に振り下ろされる。

 とっさに後ろ側へ体を逃がしたが誰かに背中を受け止められた。

 その誰かは銀色の柄を握り、金色の刃で大鎌を受け流した。


 奇天烈な刀で誰だかわかる。それは雹だった。


「雹、助かったよ」

「いえ、お礼を言うのは私の方よ。何せ雪君を抱きしめることができたから」


 変なことを言う雹にキョトンとした俺は雹の背中を守るように金壁をイメージして作り出した。


 出したと同時に月希の流れ弾が壁に弾ける音がした。


「月希、味方を撃つな」


 周と一緒に真友を足止めをしている流れ弾の犯人に文句を言う。


「模擬戦闘中にイチャイチャとは妬けますね。フューフュー。ルイも後でユっちゃんを抱きしめたいな」

「私もユっちゃんを抱きしめたいな」


 俺の文句に耳を貸さない月希に便乗して優真は次々と大鎌の斬撃を放ってくる。

 俺はあらゆる方向からくる月希の流れ弾から雹を守り、雹は右手で日本刀を持ち大鎌の斬撃を軽く受け流して、俺を空いている腕で抱く様に守っている。


 クローンの体は男の時と比べて小柄だ。そのおかげで背の高い雹の左腕の中にすっぽりとはまっている。


 どっちが男だか分からなくなるが、今は両方女だが。


 その左腕で雹がギュっと強く抱きしめてくるから俺の胸と雹の平らな胸が押し合っていて見るに堪えない。

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