第12話 クラスメイト
途中の廊下で雹たちとばったり出会い、そのまま月希に引きずられて、遅刻ギリギリで1ーBの教室に辿り着いた。
二日、三日登校できなかったが、教室は思春期らしい空気が漂う明るく、元気なクラスメイトたちが昨夜のテレビ番組や今時のオシャレの話などの話題で盛り上がっている。
俺達が教室に入ると急に話し声が無くなりお通夜の如く静まり返っりクラスメイトの痛い視線が向けられている。
えっ?クラス間違えた?何このアウェー感。月希たちと同じクラスだからついていけばたどり着けると思ったのだが、雹も月希も人間。誰にでも間違いはある。まだ一回しか学校に行ってないからクラスを間違えても許容範囲に十分入る。
「おぉぉーーー!可愛い女子きたーーーーー!」
「巨乳女子!」
「四女神降臨!」
と男子たちがそんなバカな雄叫びに近い大声を合図に俺達四人に大津波の如く男女問わず群がってきた。
一瞬、一部の
「ねーねー。君たち二人ってトラックに撥ねられた子たちよね。ケガとか、もう学校来て大丈夫なの?」
「元気そうでなにより。変な男子はほっといていいから、これから仲良くして行こうね」
「はははー。可愛い女子が二人追加。写真、写真を撮りたいから今度、撮らせてよ」
三つ目は二つ目の言葉通り聞かなかったことにしてほとんどが俺と周の心配だったり、挨拶だったりとした声ばかり、クラスメイトの勢いが強すぎて俺達二人はただうなずくしかできなかった。
「みんなで詰め寄っても二人を困らせるだけだからここまでにしようよ」
委員長ぽい人が人波を掻き分けて、迫ってくるみんなを沈め4人の前に立ちはだかる。
「この1ーBのクラス委員長をすることになった山元
山元さんは「よろしく」の所を強く強調した言い方で自己紹介をした。
「俺、僕は水淡 雪。高校では部活を作ろうとしているから入りたかったら声を掛けて」
女が俺と名乗るのはおかしいと思うのでみんなの前では僕とボーイッシュな感じで名乗ろう。先生にも言われた通りみんなには自分のことは知られたくはない。元男だし。変態と扱われたくない。
「私は八代 周。雪さんとはたまたま一緒に轢かれたみたいでそんなに覚えていないです。でも雪さんみたいに堂々としていきたいです」
「本当に二人ともほんとに可愛いわね。二人のことをどうやって呼んだらいいかなんだか、複雑な気持ちになるわね。それとね。水淡さん、あなたと同じ名前の人がいるよね。それが男子なんだよ。今日は来ていないみたいだけど入学日の朝なんだけど、偶然その男子も事故に遭ったみたいなの。具体的なことは先生が中途半端な説明だったから、まだ知らされていないけどさぁ。あれは絶対重傷に違いないわ」
俺達四人はその男子生徒が俺のことであるのは分かりきっている。中途半端な説明だと一夜先生あたりが説明に来たのかな。
それにどう呼ばれようと俺は構わないけど轢かれ女とか変な仇名で呼ばれるのはちょっと困ることもあるけど基本的になんでもいいから月希から呼ばれている仇名でもいいや。
「呼び方に迷っているんなら、背が高い方をユっちゃん、ドジっ子をアマネンと皆で呼ぼうよ。あだ名なら誰もが呼びやすいと思うの」
山元さんが俺と周をなんて呼ぼうか決め兼ねていた時、月希が提案をし、俺をユっちゃん、周をアマネンとあだ名を教えた。
「ユっちゃんにアマネンか。いいね。海北さん、ありがとう。あだ名で呼ぶと仲良くなれそうだし、私も仇名で呼ぶわ」
自分が呼んでいるあだ名をそのまま認めてもらって嬉しかった月希は満足したのかドヤ顔をかましていた。
「私たちもあだ名で呼びたいな。ユっちゃんにアマネン?」
「ユっちゃん、アマネン、可愛いあだ名?」
「ユっちゃん!アマネン!素敵」
周りにいた双子のクラスメイトが山元さんに便乗して呼び始めた。
「それだと私たちが困ります。そうですよね。雪さん?」
「お、僕は別にかまわないよ」
「そんな!」
クラスであだ名が馴染み始めてきたと思ったら周の否定の声が聞こえた。
「ユっちゃんさんちょっといい」
教室にユっちゃんアマネンコールが響いてる中クーデレ風の女の子の手が俺の胸についている大きな物をみんなの前で途惑い無く堂々と鷲掴みした。
教室内に女子は「きゃあ??」と黄色い声を上げて、男子は「羨ましい、あの手になりたい」とほざいて、皆の視線を俺の胸に集めつつあった。
はい。男子ども一回死んできてください。
「むっ、見た目よりも大きい。柔らかさは上々」
「クーちゃん大胆!」
皆からクーと呼ばれている女の子は鷲掴みをしたと思ったら、今度は無我夢中で一生懸命に胸を揉み始めた。
「・・・っん」
抵抗できずムニムニと胸を女の子クーに揉まれ、声にならない喘ぎ声を出して耐える。
っく、意外に胸を揉まれるって意外に恥ずかしいのだな。知らなかった。
それに周りの視線が痛いほど見られている。
視線の中に雹が殺気を放ちながら睨んでるのだけど。小声で羨ましいとか言っちゃてるし、何が羨ましいのか女になってから日が浅い俺には分からんというか知りたくはない。
その後、適当に自己紹介をにこやかに済ませ、あたり見渡すと噂通り、この学園は女子の人数が多く、男子の数は九人程度しかおらず、その中にさっき消えた白城の姿があった。
しかも闇を纏って座っている。
そうか。あいつと同じクラスだったのか。
あたりを見渡すと双子やら胸揉み少女やらがいて、中々面白い面子がそろっていて楽しい学園生活になりそうだ。色んな意味で。おっと。真琴がこちらに向いたと思ったら睨まれてしまった。
意味が籠ったまなざしでも見える。
「【自分に関わるな】か。本当に女子と関わりを持ちたいとは思ってないようだな」
さすが少年M、自分の世界に入ってますな。
白城の前の席に座っている佐々木と目が合い笑顔で手を振ってくれた。
「ところで雪さーん、いきなり私たちを置いてどこに行っていたのですか?」
「つまらない理由だったら何をしましょうかしら」
俺と月希より一歩早く校舎の中に入った周と雹が教室に来るまで俺を探していたらしく二人ともとてもご立腹なご様子。
「わりぃ、試しに一人で行ったところ迷った。あとカバンを忘れた。」
誤魔化す様に棒読みで適当に言い訳し、学校生活に必要な物が入っているカバンを忘れて困っていたのでことついでに報告。
「それなら雪君のカバンなら私がしょうがなく未来の結婚相手のために骨を折ってここまで運んでおいたわよ」
雹の結婚うんぬんの冗談はさておき、彼女の手にはカバンらしき物がなく全部冗談なのか疑わしくなったが人を簡単に疑ってはいけない。
結婚部分はきっと冗談で、早業でカバンを机の上に置いてくれたのだろう。
こういう時に気回りができる雹は早業で俺の机に確かに置いたのは確実のはずだが自分が四十席あるうちどの席なのかは不明。
まだ自分の席はどこなのか分からない。席順が書かれているプリントはどこにも見当たらない。席に名札も記されていない。たぶん入学当日は黒板に書かれていたパターン。
そもそも怪物でない限り早業で机に置けない。俺の早業妄想は大失敗。
「ちなみに雪君のカバンはこれよ」
雹が差し出したのは俺のカバンではなく、カバンに似ていてもいない俺の愛用の筆箱。中身はシャーペン(三本)、消しゴム(一個)、四色ボールパン(一本)の至ってひどく平凡なデザインの物しかはいってない。そもそも今の俺には昨日目覚めてから自分のカバンらしき物を見かけていない。
それに雹、何故お前が俺の筆箱を持っている。
「確かに学校の始めの頃は筆箱ぐらいしか必要かもしれない、逆に今日はほとんど見学やオリエンテーションとかで筆箱も使わないかもしれない。これじゃ、ほぼ手ぶら同然じゃないか」
「ええ、そうよ。筆箱だけでは手ぶら同然、何か問題があるの?」
黒髪をなびかせながら小動物みたいに可愛らしく首を傾げた雹は当然なことを言っている様に筆箱を握っていた。
あるに決まっているとは口が裂けても言えず、雹の迫力に圧倒された俺は悲しいことに黙るしか選択肢はなかった。ここは穏便にするために雹に逆らわずに筆箱だけで今日は乗り切ろう。運よくば、本当に筆箱以外使わないかもしれないし。
「てめーら、HR始めっから席に着け」
一目でだるそうに見える副担任の一夜先生が入ってきた。
今日が初登校の俺と周はクラスメイト席に着く中、二つ空いている席を見つけ座った。
座る途中にちょっとした疑問を抱きながらHRが始まった。
HR後の一時間目と二時間目連続でバリバリ教科書とノートを使う数学だった。
数学はノート代わりに前の席に座っていた雹からルーズリーフを貰い、教科書は右隣の席の女の子から見せてもらい何とか乗り切れた。
だが三時間目以降が問題だった。
三時間目は運動着の採寸、四時間目に身体測定(前)、昼休み挟んで五時間目に身体測定(後)、SHRで学校が終わると放課後の予定で雹たちと枕を買いに出かける。
元男の俺にとって最悪の時間割だ。
三時間目は、当然男子と女子に別れるのだが間違えて男子更衣室に入ってしまったりしないか不安である。その上でスカートの中に危険物、男性物のトランクスを履いているのである。
スカートの中身を見られたら「くすくす、あの子おかしい」とか思われるのではないかとさらに不安が倍増して頭痛と腹痛で今にも倒れそうになる。
四時間目の前半組と五時間目の後半組の二つに別れる。その前に女子の身体測定で何をやるのかいまいちわからん。身長や体重を測るだけならいいが追加でバストやヒップとか測ったら恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。
最後の雹たちと買い物。これは完全に嫌な予感しかしない。
なんとなく真琴の間抜けずらを眺めていたらキーンコーンカーンコーンと三時間目を知らせるチャイムが鳴った。
「ユっちゃん、ルイたちのクラスは前半組みたいだから行こう」
まだ身体測定の時間は早いのではと戸惑いながら月希に手を引かれ、雹と雪と共に教室を出た。
月希の話によると運動着の採寸も前半と後半に別れており採寸が終わり次第、連続で身体測定を行うらしい。そして身体測定が終われば自由していいみたいだ。
採寸をする教室の場所が分からない初登校の俺と周がオロオロしながらも前に来たことがある雹と月希の後について行く。
「おい、本当にこっちで合っているのか?」
不安な気持ちを和らげようと生徒手帳の機能に付いている校内マップを見ている雹に尋ねてみると。
「ええ、きっとこっちで合っているわ」
曖昧に答えた氷結女さんは不確かな足取りで廊下を進んでいる。
階段を上がったり、廊下を右や左と曲がったりして四人揃って進むと1ーBの女子が列になって並んでいる空き教室に少し焦った様子の山元さんがソワソワしていた。
「水泡さんたち遅い。十分前行動をしてよ。後があるんだから予定道理に進まないと私が先生に怒られるの」
ぷんすかと可愛らしく怒る山元さんが怒るときのくせなのか地団駄を踏んでいる。
「ごめんごめん、広かったから迷ちゃって」
「水泡さんたちは初登校の上学園案内がまだだから仕方ないけど、校内マップがあるから次からは気を付けてね」
仕方なく四人の中でリーダーシップを取って山元さんに言い訳すると器用に地団駄を踏みながら「仕方ない」とジェスチャーで表しながら担当の先生に「全員揃いました」と報告しに行った。
山元さんが行った後、俺達は列の後ろに並んで空き教室に入った。
採寸とは言ってもバストなど図らずにセルフサービス方式で生徒が自分のサイズに合う運動着を選んで先生に報告する形だ。
この学園は何がしたいのか知らないが郷に入っては郷に従えの通りにするまで。
運動着は何種類かあるかなと思って手に取ると半袖、長袖長ズボンはごく一般的なデザインのジャージだった。種類があったのはハーパンの方、全部で四種類、一般的なハーパン、絶滅したブルマ、セクシーなスパッツパンツ、夏場熱そうな七分丈がそれぞれ綺麗に折り畳まれ箱に入っていた。
中でもメジャーなハーパンと半袖を手に取ってみると中々いい素材でできていて手触りも滑らか、とても機能的なセットを眺めていると。
「その下着カワイー」
「ちょっと胸触らないでよ。折角よせてあげてるんだからブラがずれちゃうでしょ」
「黒ですな。大胆な下着を付けてますな」
女子が下着姿で自由に品なく、わいわいがやがやと騒いでいる。
覗きに夢見ている男子に見せたら幻滅どころか自殺しちゃうレベルの出来事がここにはあった。
中にはパンツやブラを外して全裸で窓の外に生まれたままの姿を晒している子までいる。それを見たほかの女子が「何のサービスだ」と馬鹿笑いしながら突っ込んで窓を開けようとしている。
女子は女子だけになるとこんなにフリーダムになるのかと呆れていると。
「ユっちゃんさん、試着しないの?後々合わないことに気がついて困ることになるよ」
ピンクのブラとパンツ姿のさっき俺の胸を鷲掴みしたクーデレ風の子、クーがブルマを手に話しかけてきた。
「今付けている下着がダサくて恥ずかしいから試着するか迷っていて」
恥ずかしげに小声で言うと
それを聞いて何を期待したのか目をキラキラさせてブルマを押し付けてくるので黙って受け取ってブルマが入っている箱に戻す。
一部始終を見ていたほかの女子の舌打ちが聞こえた。
クーの言う通り、試着しないでいると後でキツキツだったり、ダボダボだったりすると本当に困るので、まずは手に持っていた半袖とハーパンのセットを試着することにした。
「最初はこれにするから」
ブレザーとブラウスを脱ぐと周囲が「キャアァー」と本日二回目の黄色い声を上げ、ビクッと驚いて身構えてしまう。
スカートが捲れて中のトランクスでも見えたかと思いスカートを素早く確認するが三百六十度捲れて無く完全にスカートの中は見えて無かったことを確認する。
覗きでも現れたのかと周りを見回してみると1―Bの女子全員が黄色い声を上げながら俺の胸に釘づけになっている。何がどうして、みんな俺の胸を見るんだ。俺のを見てもつまらないのにそんなとてもいい物を見ているみたいな目で見ないでくれよ。
「おい周、なんでみんな俺の胸に釘づけなんだ。これじゃ、恥ずかしくて着替えにくくてらんないぞ」
「皆さんは雪さんの大きくて形が綺麗で柔らかそうなお胸が凄すぎて見惚れているんですから気にしない方がいいと思います」
みんなの視線に耐えられなくなって顔の温度が着々と高くなって八つ当たり気味に近くにいた何も悪くない周にクレームを言うと周は自分の胸と比べて落ち込んでた。
周に言う通り気にしない様にするんだが、逆に視線が気になって、なんだかんだでこの痛々しい視線と底知れぬ恥ずかしさに耐えられなくなった。
これが噂に聞く視線攻めと言うやつなのか。恐ろしい。
頭がオーバーヒートして煙が出そうだ。
「赤くなってカワイー。でも言うほどダサくはないと思うよ。そのブラ」
「そうよ。白いレースが可愛いブラよ」
「白は純粋を表す色。とても似合っていると思いますよ」
人の気持ちを知らないでこの女子どもは眼福眼福と言っているみたいな仕草で人様の胸を見やがって、俺は男だぞ。間違えた、今は女だった。
俺が女だったとしても見ている物は白い布を付けた丸みを帯びた肉の塊過ぎないというのに。
顔が熱いまま騒ぐ女子どもを見ない様に無視して上半身ブラ姿のまんま脱いだブラウスなどを近くの椅子に掛け、スカート下からハーパン穿いてスカート脱いでハーパンに手をかける。
ハーパンは一回り大きく結構ゆるゆるだった。それもそのはず、男だった時の基準の見た目の大きさで「このぐらいかな」のノリで選んだのだからゆるゆるなのは自業自得。
脱いだスカートもブラウスと一緒に椅子に掛けると
「おーと足が滑った」
隣でブルマを履いていた月希が足をブルマに引っかけワザとらしく転んだ。
その拍子に月希は転ぶエネルギーを抑えるために何かを掴もうとしたのか反射的に俺のゆるゆるのハーパンを掴んで同じくゆるゆるだったトランクスごとズリ下げた。
「るっい、なっ!」
周囲がニコニコ笑顔で固まっていた。
異様な雰囲気の教室の中俺はいくつもの思考を巡らしていた。
なぜ、みんな固まっているのかと?
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