第14話 クラスメイト3

「ユっちゃん達危ない」


 月希の声が響いたそんな時、歩も動かず優真の大鎌を防いでいる雹と雹に守られている無防備な俺は月希と周が戦っているはずの真友の大槌の大きな的にされた。

 大槌を受け止めることができなかった俺は雹とともに横に吹き飛ばされ無機質な鉄色の壁から雹を強く抱き留めて庇い、背中から思いっきり叩きつけられた。背中が痛い。奇跡的に意識は保てていられるものの体中の骨にひびが入った様な酷い痛みが背中を駆け巡っている。


 抱き留めていた雹を見ると幸せな表情で気を失っている。


 二人はとても強すぎる。武器を体の一部の如く操れてこの破壊力。俺は真面にやりあってもこの二人には勝てない。


 一つの能力だけじゃ。


「おっ!今気付いたけどユっちゃんってもしかしてか。珍しいやつ?」

「おねぇ、ユっちゃんは自分の体内にある異生物質メテオシルバーを金色に変えられるみたいだよ」


 メテオシルバー?先生たちが言っていた物質のことか。

 あれは確か、メテオの体を構成している物質で、エネルギーを与えると空間的に影響があり、その性質に利用して瞬間移動装置によく使われる物と先生たちが言っていた。それと生物に対して突然変異をもたらす物質とも言っていた。


「マジで言ってんの真友!異生物質メテオシルバーを金に!」

「宮守先生が口を滑らせた機密情報ではそうみたい。おねぇ、もっと金を出すところ見せてもらう?」


 宮守先生、なんで機密情報を滑らせてるんですか。


「そしたらさ、指輪やネックレスの形に作ってもらって売ろう」


 優真の目はお金という感じで目の色を変えて見せた。どうも見た所、能力で作り出した金を換金しようと考えているみたいだ。


 昨日の先生たちの話をある程度覚えていた俺は二人の言っていることがなんとなく理解できた。金に換えられる物なんか持っていないとは言えないだってこの体に少なからず金に変えられる謎の物質が少し入っているからだ。その物質がどのくらい金に変えられるのかは知らない。そもそも一般に機密にしているそんな得体のしれない物質を換金できるのかが問題だ。


「ねえー。模擬戦闘が終わったら私たちと遊ぼう」

「遊ぼうって、絶対、俺の能力で何か金目になるような物作らせようと思ってません?」


 ていうか先生、この二人、俺の能力に興味津々ですけど。俺達に自分達が危なくなるからとあれだけ厳重に誰にも言うなって言っといて自分たちで言っているじゃないか。


 先生が金を出せることを話したと言うことはこの二人は宮守先生たち側の人かな。先生たちは信用できないが、頼るところない俺達は今、先生たちしか頼れない。


「残念でした。ユっちゃんはそもそも、放課後にルイとおニューの枕を買いに行くという大きな予定デートがあるの!」

「そうです。雪さんは私たちとお買い物をする予定があるのです。ってえっ?デートですか!」


 月希の言葉に驚きつつ周は真友から離れ、月希は優真と真友に向け弾丸をばら撒く。二人は器用に弾丸を綺麗に鎌と槌で火花を出しながら綺麗に弾いている。


「そもそも模擬戦闘って時間制限とかあるの?」


 話が個人的な欲望が見えてきたので話題を変えてみる。それと背中痛みが引くまで、できるだけ話を長引かせる。


「宮守先生はHRまでに戻れって言われているからそれまでに教室に戻れば問題ないと思うよ」

「私たち以外にも一年で模擬戦闘をやっているみたいだし。しかも大勢のチームで」


 模擬戦闘のチーム戦か。

 チームワークと信頼関係で勝敗を分ける。どんなに強いメンバーがいてもチームワークが取れないと格下チームにも負ける。


 昨日だって調子に乗って一人でミズライムと戦ってみたけど結構苦戦したし、背中を預けられる仲間はいいもんだ。

 今の俺達はバラバラでチームワークのかけらは毛ほどもないが信頼だけはあると信じている。


 先生たちに聞き忘れたことで気になることが一つある。


「俺達って昨日なったばっかりで疑問だったが、物を出したり消したりする摂理がよくわからんのだがどういう仕組みになっているんだ」


 これの質問は効率的に金や光を出すために聞きたかったことだ。


「仕組みって言うほどじゃないけど、体に取り込んだ時、メテオシルバーが脳を読み取ったイメージによってイメージ通りの形、性質、構造、大きさになるみたいですよ」

「簡単に言うと想像して出してんの。イメージだよ」


 と言うことらしい。


 となると月希は想像やイメージで銃の機密な構造を熟知して再現しているということになるわけだがそれだと月希は銃刀法違反にも関わらず銃を普段から触れていることになる。

 俺に至っては金や光の造形も同じく俺の想像でできていることになる。

 俺の力は分子を無視して作りだしているわけだし、光にいたっては形がない何をもとにして作り出しているか不明。


 雹の日本刀は形をイメージして、鋭さは身近な刃物を想像すれば出そうだし、周は体に礫を付けたりするだけで簡単そうだ。


 一番シンプルそうなのが周だ。拳をガントレットの様に包み込んで殴って戦っている。


 曖昧で説明された体の中にあるメテオシルバーの仕組みは結論、謎の多い物質ということで俺の中で疑問を無理やり閉じたが不思議は残っている。


 意味不明な力を振るうには想像力が乏しい俺がイメージできるのは雹の日本刀の形を鋭さ抜きに形だけを真似したような簡単な物しかしかできない。逆に周の様に真似はできるが調整などのことを聞かないと腕の骨がバキバキになりそうだ。

 一応は映画とかを見て銃を真似て形だけは作れるが、その中が銃口から弾が出る機密な構造になっているかは話が別だ。イメージ以前に銃について知らなすぎて中がどうなって銃弾を出しているかなんて知る由もない。


 火薬の力で銃弾を押し出していると聞いたことがあるが銃の構造と仕組みを無視して想像で弾が出ると信じれば出るだろうか。

 いいや、独特の構造は陳腐な創造力じゃ、無理だ。そんな銃はただの鈍器に過ぎない。


 本物を触れ、構造を学び、使用しないと初めて同等な物を作り出せないはずなんだが月希はなぜ出せたのかは不思議である。


 その分、目の前の二人の武器はカマにハンマー。アニメや漫画などのキャラクターの武器をイメージすれば簡単に作れる造りに見える分、二人の武器は雑に見えなくもないがたやすく壊れそうな見た目には見えないが想像で作り出したものは強度はどれくらいなものだろう。


 いとも簡単に作り出せる武器は壊れたら、体内のメテオシルバーが尽きるまで新た物を作りだして使えばいいのだからそれほど強度は必要がないのかもしれない。


「いっくよー真友」

「ハイハイ。おねぇ。私は先程と同じようにメガネの周さんの相手をします」


 一息入れた所で続いてのゆままゆ姉妹の攻撃は大槌は周を襲い、片方の大鎌は雹の刀の刃を叩き切ろうと振り下ろした。


 大鎌の攻撃から助けるべく幸せそうな顔のまま気絶している雹を思わず抱き抱え、距離を取ろうと後へ行く。そして月気が援護射撃で大鎌の足止めをする。

 優真は器用にも弾丸を防ぎながら雹を抱えた俺を襲っている。まるで踊っている様な攻撃だった。その攻撃をギリギリでかわし、刃と時々襲ってくる月希の流れ弾を金板を生成させて防ぎながら雹が目覚めるまで月希と周には頑張ってもらう。


 大鎌の攻撃から逃げながらも俺はゆままゆ姉妹にトラップを仕込んでいた。トラップとは言っても二人に怪我を負わせる物ではなくバランスを崩させる程度の物だ。

 と見せかけられて雹を抱きかかえたまま足払いされ体制を崩させられた。反撃する暇もなくもう後方に大槌で飛ばされてきた周にまだ痛む背中にぶつかり、後方の方で援護射撃をしていた月希を巻き込んで壁に叩き付けられた。


「ぐっ」


 更に打ちどころが悪かったのか背中に強烈な痛みが走る。


「わわ。雪さん⁉」

「ふふ」

「ユっちゃんはもう」


 あまりの痛さにもがいているうちに三人の少女たちに絡み合ってしまう。周は驚きに声を上げ、雹は幸せ風に息を漏らし、月希は楽しげに言った。


 月希がさりげなく服とスカートの中に手を入れてきたのでもがきながら転がって逃げた。


 逃げた先に力強く振りかぶる気配を感じすぐさま右に体を転がす。その結果、転がった先にみずみずしく華奢な二本の脚を巻き込んで足元から押し倒す形になった。


「どっちだか知らないが片方のバランスを崩そう」

「キャッ」


 ゴスンと重い物を落ちた音が近くに聞こえ、フワリした布と共に視界が暗くなった。


「暗くなったと思ったら花のいい匂いがする。それに柔らかい感触」

「ひゃっ。ユっちゃん?チョットそこに顔を突っ込んじゃダメ」


 起き上がってみると真友が顔を赤らめて口をパクパクさせている。


「早く、頭どかして、待って!なんでスカートめくるの⁉」


 髪が乱れて掻き上げようとしたら真友のスカートの絶対領域に入っていた手を上げたらスカートを捲った形になり、真友は花を恥じらう十代の乙女の如くスカートを抑えさらに顔を赤くした。


「おっ、ごめん」

「真友。いいアングルだよ。ユっちゃんも。ハハハ」

「おお~‼ユっちゃん大胆!」

「羨ましい」


 優真と月希が腹を抱えて爆笑していた。そして凍り付くような目で俺と真友を睨んでいた雹のことは見逃さなかった。


「帰ったら、冷蔵庫に入っているおねぇのケーキ速攻で食べちゃうから」

「ええー。私だけ!ケーキを出すのはずるいよ。真友」


 二人ののほほんとした反応を見る限り俺は転がる勢いで真友のスカートの中に顔を突っ込んでしまったらしい。


 安物のトランクスを履いている今の俺と違って女の子らしいデザインのパンツを履いていた。ちなみに真友のパンツの色は純白の白のショーツだった。


「そんなに赤くなっての?女の子同士なのに」


 今現在、女の子中な俺が真顔で言うと。


「それはユっちゃんが全然女の子じゃないからです。もう」


 うつむきながら可愛らしく言う。


 ヤバッ。バレた!


「ほんとっに真友の言う通り、全然女の子オーラを感じないもんな。むしろ男子オーラがバリバリ出ているのが分かるよ。分かるよ。真友の気持ちがそういうの!」


 そう言ってドスと鎌を振り下ろす。

 オーラって何のことだ。言いたいことは分かったが部分的に意味不明な点があったことが気になるがそこは置いといて要するに全然女の子として感じられず、逆に仕草が男子として物凄く感じると言いたかったのだろう。そもそも優真さん、いきなり鎌を振り下ろすやめてもらえませんか。俺の首と一緒に妹さんの足も飛びますよ。


 先ほど真友が落とした大槌振り回して、金板で振り下ろされる大鎌を防いだ。


 当たり所が悪かったのか大鎌の刃が折れ、ギィィンと真友の足元に刺さった。

 折れた刃に驚いた真友はお持ち直した大槌が友の手からスポッと取れて明後日の方向に飛んでしまった。


「あらら、折れちゃった。いっか。でもね私。見た目が美少女なユっちゃんのこと仕草からして同性とは思えないの。これはマジの話しで」


 うん、それはそうだ。轢かれるまでは平和に男として生きていたんだからな。その上事故から目覚めたら女になっていた上に戦えだの何だの無茶苦茶なことを言われて、女の子らしい仕草はできるはずもなく素のまんま振る舞ってしまうのはしょうがないから見逃して欲しい。

 そのうち雹先生に女子道を叩きこんでもらって女子力を高めるしかないな。


 予習として女の子の嬉しい時の仕草と何をほめると喜ぶかを見よう。


 まずは相手をほめるところから始めるかな。

 今日の運動着の採寸の光景を思い出して真友の褒める所を選ぶ。


「随分と可愛いの履いてるね」


 何気なく褒めたつもりだったのに真友は今世紀最大の赤面顔でポカポカと殴ってくる。

 第一歩からハズレみたいだ。


「私が言いたいのはそういうところですよ」

「いくら私でも今の状況で、いくらなんでも女の子同士でパンツを褒めるなんて変態ぽいなーって思うよ。少しは空気、読もうよ」

「そうそう、おねぇの言う通り、いくらなんでも場をわきまえて欲しいですよ。まるで野獣のようでしたよ」


 何に対して言われているのか分からないが、さすが双子。息がぴったりの連携が取れている罵倒だ。


 そして周、引き気味な目で俺を見ないでくれ。


 さすがにパンツを褒めるのがダメだったのか時と場所が悪かったのか分からない。お互い下着姿になっている状態で褒めるべきだったか、それともほかの所も褒めるべきかも。

 うむー。乙女心は奥深い。女になっても理解できないなんて一生理解できないかもしれないぞ、これは。

 これは本格的に雹先生にお願いせねばならない。


「便乗して言うけど。雪君が履いているパンツ。私は好きよ」


 雹が危ないことを言うので一瞬お年頃の女の子の様にスカート抑えてしまった。当然、中身は男物のパンツ、俺のことを知っている三人はともかくこの二人には見せたくない物だ。今、制服の胸あたりが破けていて、こんにちは状態の俺のポヨンポヨン揺れているお胸さんはいくらでも見てもいいんだが、なんも知らない二人に今履いているパンツ見られたらどんな痴女と思われるか。

 いや、男だと疑われてる現在。女装していると思われても不思議ではない。


「雹!危ないこと言うな。パンツ見られたら恥ずかしくて死んでしまうわ!」

「えっ!ユっちゃんどんなエロいパンツ履いているの?確かにブラは結構、アダルトなヤツ付けてるし。どんなの穿いているのか見てみたい!」


 何を勘違いしたのか。優真は俺が穿いているパンツがエロい物と思ったらしいが今俺が履いているのはエロくない普通のトランクだ。


 遅かれ早かれ知り合いに気付かれる前に女子道を究めなければ中身が男だとバレたら、いい笑いものだ。最悪の場合、今の俺はクローンの体なのだからみんなにバレたら一夜先生あたりに「お前は、今すぐ殺処分だ」とか言われそうだ。

 これはもう遅いかもしれない。今朝、白城とばったりあった時にいつも通りに素の自分を出してしまった。奴にはバレているかもしれない。


 今思えば女嫌いの奴が何故、近くに男子校があるに女子が通うこの学園に入ったのか不思議だ。


 女が嫌いならその男子校に行けばいいのに。


 そんなことは後で考えられるか、今はお遊びに近いこの模擬戦闘をやるしかない。


「もう怒りました。そんな野獣みたいなユっちゃんにはお仕置きが必要みたいです」


 ムスッと言うと大槌が鉄球スライムを倒した後みたいなドロッとした銀色の液体みたいに溶けて真友の手に集まってくる。


 銀色の液体は鎖、棘がついたボールへと形成されていく。

 完成されたそれは偽鉄球のスライムではなく、トゲトゲしい鎖に繋がれた本物の棘付の鉄球だった。

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