第46話 クーと呼ばれた女の子
夕食を終えて、いざ明日の放課後クーとの約束を三人の少女に話す。
「昼休みの続きなんだが。実はさ、明日のクラスメイトのクーと遊ぶことになったんだよ。この話は昼休みに話したよな」
「クラスメイトの女の子に話しかけられるなんてユッちゃんも隅におけないな」
「茶化すな。クローンの方で誘われたんだぞ。ってこのやり取り昼休みにやった。月希はもう話の腰をおるなよ。話したいことはなんで俺を誘ったんだ?って気になっているんだよ。俺はクーが俺のメテオシルバーを狙っているんじゃないかって睨んでいる」
俺はクーが俺を誘うのはメテオ関係だと思っている。女の子がクラスメイトの女の子を誘うのはおかしくないと思う。けどなんで俺なんだよ。俺じゃなくても元気いっぱいの月希でも、大人しい周でいいじゃないか。クラスには他の女子だっている。
誘うのはなんで俺なんだ。
クーは見た目美少女だし、美少女に誘われたら正直な話嬉しいけど疑わしい気持ちでいっぱいだ。
こんな学校に入学しなければ、クーみたいな女の子に誘われたらホイホイ遊びについて行く自信しかないけど。メテオという名の地球外生命体を管理している学校だからこそクーの誘いが疑わしく感じる。
「うーん。クーって子はヒョウちゃんの下位互換みたいな子でしょ」
「下位互換?それはどういう意味でしょうか?」
月希が分かりにくい例えをあげて、夕食後の洗い物をしている周が首を傾げる。
下位互換って表情が少ないってことか?確かにクーもあまり表情の変化が少ないイメージがあるが、雹よりかは人間味を出して笑うと思うぞ。雹は笑う表情は綺麗だけどどこか人形めいていて怖さがある。
それと雹と違ってクーは普通に友達もいそうだ。
月希のヤツ。雹本人の前でそんなことよく言えたな。俺なら本人の前でそんなこと言えないぞ。近づきがたいからな。
「何かな雪君?変なこと考えていないかしら?」
「いいや、ただ俺は雹の笑い方が美しいって思っただけだ」
もしかして心を読まれているのか?雹にそんな力を持っているはずがない。それとも女の感っていうヤツか。俺も女の身体を手に入れたから女の感っていうヤツが芽生えるのかな?
「で話を戻すが、なんで何を目的に俺を誘ったのかが気になるんだ」
「クーは普通の女の子だからユッちゃんと仲良くなりたいんじゃないの?」
「そんなのわからないだろ?流桜学園に普通じゃない女の子がいるのに言い切れる?」
「ルイがそういうならそうでしょう。雪君も心配する気持ちが分かるわ。でも考え過ぎじゃないの?私お風呂入るわね」
「あ、雹さん洗濯機は私が回すので洗濯物は籠にいれてそのままにしてください」
話しがお開きとなった
俺はクーに対して考えすぎなのか?月希と雹に相談しても欲しかった返答出なかった。相談できる相手は一緒に住んでいる月希達しかないのに相談に乗ってくれないが、答えをくれた。それが俺が考えすぎている。
でもクーの誘いに裏のような何かがある気がする。俺の女の感がそう告げている気がする。
クーは普通の女の子でただ俺と仲良くなりたいだけでそれ以上の意味がないのか。
俺は普通にクラスメイトの女の子と遊んでいればいいのか。クローンで誘われているから相手は女の子同士と思っているけど。
俺が考えすぎなだけでいいが。
時間が経って次の日の放課後となった。
「ユッちゃんさん遊びに行きましょう」
俺(クローン)の前にクーがひょっこりと姿を現した。
俺はチラリと月希達に視線を送っても反応はない。
「行こう。遊ぶってどこで遊ぶの?」
「ユッちゃんさんを連れていきたい場所があるんです。私の後をついてきてください」
俺はクーと共に学校に出て、バスに乗り少し遠くへ。
クーは一体俺をどこに連れていくつもりなんだ。
バスの中のクーは一言も発せず、カードフォンを弄っている。
「ここで降りる」
「え?」
無言の時間が続いて、声を出したと思ったら、降りるとしゃべった。バスから降りた工場地帯。
どう考えても高校生というか。若者が遊ぶ場所なんてない場所だ。コンビニすらない。
「こっち」
「どこに連れていくつもりなの?」
工場地帯を見て自分をどこに連れていくのか見当もつかない俺は女の子風にクーに尋ねてもクーは何も答えてくれない。
こんな場所に何かあるのか分からない。目に見えるのは○○株式会社とか○○第二工場の看板しか見えない。
進むクーの後を追うが何故か俺は好奇心が刺激されてワクワクしている。
工場地帯の奥へ進んでいく中で建物がだんだん古くなっていき、いかにも誰も働ていない工場が見えるようになった。古いだけで中には人はいるかもしれない。
「ここは何なの?寂れた工場ばっかりで」
「ユッちゃんさんはいいから黙ってついてきて。こっちです」
クーはそういって俺の手を握って引っ張る。
握られたクーの手は手汗がべっとりと掻いていて震えていた。
明らかに様子がおかしい。何かに怯えている。
クーはもしかしたら宇宙人に命令されて俺を工場地帯の奥にって、考えすぎか。やっぱりクーはスパイなのではないか。でもなんでこんなに怯えているのか分からない。
俺は黙ってクーについて行く。
「着きました。ここです」
「ここ?女の子が二人で来るような場所には見えないぞ。人はいるみたいだけど」
クーに連れて来られた場所はここらで最も古い工場の一つだった。中に入るのは老朽化で天井が落ちてくるんじゃないかと心配するほど古いが、工場の駐車場には車やバイクが止まっていた。
それも全部が暴走族が乗っているような派手な車やバイクが何台も。
こんなに車が止まっているなら建物の見た目が古いだけで中は普通なのかもしれない。こういうところに隠れた名店があったりしてね。
でもここにある派手な車が気になる。車についてはあんまり詳しくないが普通の車が見当たらない。ここにある全ても車やバイクが何かしら改造してある。素人の俺でも見れば分かるほどに。パリピな陽キャしか乗らんだろう。
ここに大勢で集まって何をしうているやら。パリピな陽キャが廃工場をクラブに改装でもしたのか?
「ここの中どうなっているの?」
「わからないです。ここには初めて来ましたので」
「誰かの命令でここに来たのか?」
俺の問いにコクンと頷くクー。
「誰かと一緒にって言われて」
説明が少なすぎるが、クーは誰かの命令でここに来たのか。こういう場所がどういうところなのかはわからないけどクーはひどく怯えている。何を怖がっているかは不明だけど、あの学校に所属している+誰かと行けっと言われたとなると先生の指示で来たのは間違いないだろう。
これはきっとメテオが関わる案件だな。俺がメテオと戦っている情報は誰に聞いたか知らないが、俺とクローンは同じ人格を共有していることはわからないようだ。
そういうことなら月希達も連れてきたのに。
クーはメテオと戦うのが初めてのようだ。いや、この仕事が初めてってことだな。
この車の数は建物の中に人がいることは確実だ。中に大人数の人がいるからメテオと戦う可能性は低いだろう。
クーはここに戦うのではなく、交渉か情報収集の目的で来ているかもしれない。あの学園に一般人もいるが、メテオに関わる人間がすべてメテオと戦うとは限らない。情報収集する人や物資を運ぶ人もいるはずだ。
クーは戦う以外のことをする学園の関係者だろう。メテオシルバーを使えるかもしれないが、能力的に弱いとかの理由でそういう役職についているのだな。
ただ、スパイ疑惑が消えたわけではない。
様子を見極めるためにこの後のことをクーに任せよう。運よくクーは俺のメテオシルバーを知らないぽいし、何かあれば目くらましして逃げることも可能だ。
「わかった。ここまで来たのなら最後までついて行くよ」
「ありがとう。奥にいるみたいだからついてきて」
俺とクーは建物の中へ入った。
中は外よりも老朽化が進んでいて壁の塗装が剥がれていたり、天井の一部が落ちている。照明が着れているらしく暗い上に家具とかは無く、ガランとして何もない。まあ、飲み捨てた缶ビールの缶がちらほら落ちていたりしているから人がいるのは確かだろう。
クーに手を引かれて奥へと進んでいくと声が聞こえた。それも複数の男の声だ。
「来ました!」
奥にある壊れたドアを潜り、大部屋に入るや否やクーが大きな声でそう叫んだ。
中にいた男達が静まり返って一斉に俺とクーを見た。
大部屋は窓や壁が破壊されて部屋の中が光が差し込んでいる。男達はどうみてもヤンキー漫画出てくる喧嘩上等と旗を掲げていそうな不良連中だった。
「すみませんでした。これで許してください」
クーがいきなり二つの封筒を差し出して頭を下げた。俺もクーにつられて頭を下げた。手は握ったままだ。
封筒の中身はきっと金だ。一つの封筒の中身は百万ぐらい入っていそうな分厚さだ。
クーは不良連中を前にして今にも泣きそうな顔で震え上がっている。ここに来るまで何かに怯えていた理由が理解できた。
クーはスパイではなかったようだ。しかもメテオ関係のない不良連中を怖がるただの一般の女の子。クーはこの不良連中に何かしらの弱みを握られてここに呼ばれたみたい。
こんなか弱い女の子がスパイだと疑っていた自分が恥ずかしい。
てか、工場の前にヤンキーが乗っていそう車やバイクがあったから、工場の中にいるのが不良がいるって推測できたわ。
「おい!このアマが、昨日も言ったよな。俺達は金はもういらねえっと言った。俺達はただ誠意ある謝罪を求めているんだよとも言った。女が男に誠意ある謝罪というのものは身体で尽くすものだよな?それでお前はなんていった?全員の相手できないから時間をくださいって、言っておいて連れてきたのは一人だけかよ。俺達はよぉ?お友達をもっと連れてくると思って仲間に声をかけて大勢呼んじまったよ。これどうすんだな?お前とそちらのお友達で相手できるってわけか?全部お前が先伸ばしたせいでこうなったんだよな?」
男は気持ち悪くニタニタ笑う。後ろに控えるクズの仲間の中には腹を抱えて爆笑している者もいる。
ざっと見て30人くらいいると見える。
状況から察するにクーはこいつらと何かしらのトラブルを起こして謝罪を要求されていて、俺はクーに売られそうになっていたんだ。しかし、クーは売らなかった。クーの心情はわからないけど。そして分かったことが一つ。それがこの不良連中との間にトラブルを起こして今に至るということ。
当たり前か。そうなっていなかったらこんな状況になっていないか。
あー、面倒なことにって俺の判断でクーの後をついてきてこの言い方はダメか。俺も男だ。降りかかった火の粉を振り払うように目の前の奴らをやっつけちゃうか。
それが赤の他人から振りかけられた火の粉でも俺の知り合い、クラスメイトに振りかけられてもな。
その前に一般生徒のクーに見られるのはNGなのでクーはクローンと一緒に避難してもらうか。
「クー目を瞑って」
「え?」
俺は男達に向けて手を翳して強い光を放った。
俺達は男達が目くらましを食らって呻いている間にクーの手を引いて、逃げ出した。しかも金の板を作り出して俺達が潜った壊れたドアを塞いで。これで逃げる時間を数分ぐらいは稼げる。
しかし、俺はいくらメテオシルバーを使えるからと言って30人ぐらいの人数を相手にできるか問題だ。
しかも相手は一般人。メテオシルバーを使っていいか迷う。迷った時は即行動って言うよね。でも一般人相手にメテオシルバーを使って怒られたらって一般人に対して使っちゃダメじゃん。今普通に使ったけど、相手が怪我していないからノーカンだよな。
うーん、どうしたもんか。男の方の俺はホームにいるからすぐにここにはこれないし、月希達はホームにいない。助けを呼ぶにも相手はメテオじゃないから先生を頼れない。
「待ってください。今のは何ですか?ユッちゃんさんの手から光が」
「あれ?メテオなんて知らないでしょ?あれは秘密なんだ。クーがこっち側になったら教えてあげる」
「メテオ?隕石がどうしたのです?今のピカーンの技名ですか。こっち側って」
「喋ってないで足を動かして、喋っている余裕はないぞ。あいつらに追いつかれるぞ」
今度は俺がクーの手を引いて逃げる。
後ろを確認して不良達が来ていないことを確認する。不良達がここを根城にしているなら出口に先回りされている可能性がある。ゲームとかラノベでこういう敵の本拠地から逃げる際には出口に先回りされているから出口に向かっても捕まるだけだ。どこかに息を潜めて隠れてもいずれは捕まる。
仮に工場から抜け出せたとしても相手には車にバイクがある。女子の走りじゃ見つかって追いつかれて捕まる。
走って捕まるなら、瞬間移動で逃げればいい。
そうだ。メテオは空間を操る特性がある。体内にメテオシルバーを取り込んでいる俺なら瞬間移動ができるのではないか?練習したことはないし、メテオシルバーを取り込んでから数日しか経っていないけど。スライムと戦った時無意識の内にスライムの攻撃を瞬間移動でかわすことができたんだ。あの時は数メートルしかできなかったけど、壁の向こう側に行くぐらいはできるはずだ。それに数回ほど学校から無機質な空間へ強制的に空間移動をさせられたんだ。あの感覚を思い出せば行ける。
他者の意図での強制だから感覚というか違和感程度しか感じたことが無いけど。
「クー、俺に抱きついて」
「ちょ!なんなんですか?!急に」
戸惑うクーを抱き寄せて、目を閉じて学校内から無機質な空間への空間移動の感覚を思い出しながら壁の向こう側へ移動するイメージを思い浮かべる。
意識が軽くなってスーと抜けていく感じが身体中に駆け巡る。
「え?何が起きたのですか?」
さらに戸惑うクーを無視して目を開けると壁の向こうは部屋だった。
「よし、成功した!」
「今のはなんだったのでしょうか?さっきまで私達は廊下にいましたよね?でも今は部屋の中に。ユッちゃんさん、これがどうなっているかを教えてください」
「だから秘密って言っているでしょ?知りたいなら一夜先生に聞いてみたら。まあ、おすすめはしないけど。お!窓があった。クーここから出られるぞ」
初めての瞬間移動を成功させた俺は思わずガッツポーズする。
運がいいことに移動先の部屋には窓があってここから外へ出られそうだ。
クーが今の瞬間移動について聞きたがっているが、口が裂けても言えないので一夜先生に聞けと言った。一夜先生も多分教えてはくれないだろう。知りたければ体内にメテオシルバーを取り込んでこっち側に来るしかない。
それはおすすめできないな。メテオと言う名の化け物と戦わなくちゃいけなくなるからな。世の中知らないままでいいこともある。それを自分から望んで進むのはバカのやることだ。
俺の場合は望んでこうなったのではなく、無許可にメテオシルバーを取り込んでこうなったがな。
外に誰もいないことを確認して窓を開けて外に出た。窓の外はフェンスがあり、フェンスを突破すれば脱出できそうだ。
出口の方には行かずにこのままフェンスの向こう側に行けば、不良達に気づかれないだろうと考えて、指先から細いレーザービームを出して、フェンスの一部を焼き切って俺達が潜れる程度の穴を作る。
「女どもがいたぞ!」
「ユッちゃんさん見つかっちゃいましたよ!」
「わかっている。待て!何かおかしいぞ」
フェンスを切っている間に不良達に見つかった。
クーに急かされながらフェンスを焼き切っていると視界がグニャリと歪んだ。
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