第47話 不良と異空間
「ここにもいるのかよ。ここは街か?一人であれを倒すのかよ。無理だろう」
「え?目の前が歪んだ?どうなっているの?え?何がいるって言うの?ここはどこなの?」
視界の歪みが治まり、目の前にあったフェンスや工場群がなくなっていた。俺達がいる場所はメテオが巣くう異空間に入ったはずなんだか、どこかの住宅街かと思わせる住宅が並ぶど街のような空間の真ん中に俺とクーは立ちすくんでいた。
メテオの巣はその場所の裏世界みたいな物だと思っていた。例えばこの間の廃モールの時だって無限に広がっていた空間だってモチーフは廃モールの中と同じだった。それのイコールその場所の裏世界のような場所だと思っていた。しかしここは、俺達がさっきまでいた工場群だったのにここはまるで街のような場所だ。
仮にここがメテオの巣による亜空間じゃなければなんだんだ。学園の研究施設か。それとも学園の敵対組織の拠点のどちらかだ。
俺達に迫っていた不良達も周りにいない。不良達の中にメテオがいたとは思えないから廃モールみたいにメテオが住み着いたみたいなもんだろう。廃モールの時は逃げ出した奴だっけ?そこら辺のことは詳しくわからないや。
「ねえ?ユッちゃんさんはこの場所がどこだか知りませんか?」
「ここは、まあ、化け物が住む場所。巣みたいな物だ。俺達はその巣にノコノコやってきた餌みたいな感じだな。いいか。何があっても俺から離れるんじゃねえぞ?」
「化け物?ここにそんなのがいるのですか」
メテオのことを話すべきか迷ったが、とりあえずここは化け物が住む巣みたいなものだと例えた。
クーが再び俺の手をぎゅっと握る。気づいたら意味わからない場所に気づいたらいて不安になるだろう。
俺は彼女を余計に不安をさせたくないが、場所が場所だ。何もない彼女が俺から離れたら恰好の獲物に成り下がるだろう。
「何も不安になる必要はない。俺がクーのことを守るよ。だから離れないで」
「ユッちゃんさん」
クーは何故か赤くなった。手も暖かくなっている。風邪でも引いているのか?
まあ、どうでもいいか。今はこの状況をどうにかしないと。男の方の身体を操作して助けを呼ばないとな。
男の方は今はホームで寝ているはずだ。
ホームには誰かいるはずだからそこで応援を呼んでもらおう。
うん、よし動くな。問題はない。
男の方の身体は離れた距離にある異空間でも意識を移せるし、動かせることはできた。
むくりと身体を起こしたら、ごつんと頭に固い物が何かぶつかった。
「あら、起きちゃったのね。残念だわ。もう少し見ておきたかったわ」
「雪さんこれはその、雪さんの寝顔を見ていたわけないですよ」
「えー、ユッちゃんもう起きちゃったの?」
男の方で雹と周がカードフォンを持っていたので大方俺の寝顔を撮っていたのだろう。それとなぜに月希をおでこを押さえてうずくまっているのだろうか。
今はそれどころじゃない。
ホームには運がいいことに月希、雹、周の三人がいた。三人が俺とクーがいる異空間に来てくれたら助かる。
「助けてくれ。俺とクーが」
「急にどうしたんですか?雪さんはクラスメイトの女の子とデートをしていたと思いますが?」
周が少し棘がある言い方で質問する。
何が気に食わないのか俺には理解できないけど今はそれどころじゃない。俺とクーはメテオが作り出した異空間に迷い込んだ。いつメテオに襲われてもおかしくない状況に置かれている。
一体程度なら俺も何とかできるが、廃モールみたいに無限にゾンビが出てきたり、化け猫みたいなメテオが出てきたら流石の俺も無理だ。
今は俺とクーの近くにメテオは見当たらないから大丈夫だが。
「雪君はまんまんとクーにハメられたわけね」
「クーは俺をハメたかったわけじゃないと思うけどな。不良達と何でモメたかは俺は知らないけどクーは不良達に指定された場所に俺を連れてきた。心細かっただろうな。それで二人で不良達から逃げた先にメテオの異空間に入ったわけだ」
三人に現在の状況を説明した。
「ユッちゃんはクーとメテオの巣と思われる異空間胃迷い込んじゃったわけね。面白そうなことになっているね。ルイもユッちゃん達についていけばよかった」
「あら、ついていっちゃたらさっきのことができなかったわよ?」
「そうだね。ユッちゃニウムが補充できなかったよ」
「あれはちょっとエッチすぎますよ。いくら雪さんが寝ているとは言えあれは」
「お前ら俺が、ってまいい。メテオと戦うかもしれないから早く準備してくれ」
こいつ等は俺の本体で何をしていたんだ。身体に触れて異常がないか確かめてみたが特にない。月希が俺に悪戯することを気にしてもしょうがない。
三人を準備させてホームから出発した。俺とクーが異空間に入った場所に着くまで一時間ぐらいかかる。それまで何も起こらなければいいのだが。
俺とクーは同じ住宅が無限に並ぶ異空間で無意味にジッとしていた。
「待って、声が聞こえた。少し声がする方に行ってみよう」
「え?待ってください。急に行かないでくださいよ」
住宅の向こう側から声がしたのでクーの手を引いて声がした方に向かう。
さっき微かに人の声が聞こえた。その声の主がさっきの不良達だったら助けたい。クーに対していろいろ要求してきたと思うが、彼らも一般人だ。一般人がメテオに襲われていたら助けるのが筋ってもんだろう。クーがどう思うかはわからない。身体を要求されてたし、クーにとっては嫌かもしれないけど助けなくちゃいけないと思う。
メテオに襲われて廃モールのゾンビみたいになっていって、後々なって襲われたら面倒くさいことになるだろう。
廃モールのゾンビってどうなったんだろうか。まあ、学園が全部持ち帰ったのだろう。
「くそが!なんなんだ!このクソでけー化け物は」
「兄貴!富岡が化け物やられました」
「バカか、お前は見ていたからわかる。誰か富岡を後ろに運べ、怪我したヤツを守りながらあの化け物を倒すぞ」
先ほどの不良達は熊のメテオと戦っていた。不良という生き物は仲間意識が強いみたいで動けなくなった仲間を守りながらメテオと戦っている。クーに対していろいろ要求していたのに少し見直した。
そしてメテオ側は不良達の攻撃なんて全く効いてなくて不良達の手や足を食べている。まるで子供がお菓子を遊びながら食べているように感じた。しかもメテオが食べた部分から血が出てない。
防戦一歩の不良達はまともに動ける人数を減れしてきている。
「熊?人が熊に襲われている?でもあの熊はロボット?」
クーは不良とメテオが戦う異常な光景を見てそうつぶやいた。
メテオの存在を知らない一般人がメテオをロボットというのは気持ち的にわかる。メテオって動物の形をしているのに表面がメタリックな色合いだから初見で見たらロボットって言ってしまう。
近くにいたら駆動音が聞こえてきそう。
今のところメテオはあの熊のメテオだけのようだし、このままただ見ているだけだと不良達は全滅するので加勢する。
「ちょっくら行ってくる。ウラ!」
「え?」
クーに声をかけて、一発レーザーをメテオにお見舞いした。メテオは不良達に気を取られていたからメテオの背中に簡単にあてられた。
レーザーがメテオの胴体に穴をあけた。胴体に穴をあけたのに倒れる気配がない。
流石はメテオだ。そう簡単にやられないか。
「なんだ?あれは」
「兄貴!さっきのJKですよ」
「なんでJKが?しかも化け物の腹にでかい穴をあけやがったぞ。何かしたのか」
不良達も俺に気づいたみたい。
当然メテオも俺に気づいた。振り向くと同時にただいま開けた穴に銀色の液が出てきて穴を閉じようとしていた。
『ぐおおおおおおおおお!』
メテオは雄たけびを上げて突進してきた。俺はそれをスレスレで躱してメテオの前に金の壁を生成する。
突進してきたメテオは金の壁に頭から突っ込んだところを真上から一メートルくらいの金と光の針の雨を降らせる。
身体に針が刺さっているのにメテオは俺に襲い掛かってくる。メテオは右前を振り上げて俺の胴体を切り裂こうとするが、振り上げた右前が消失する。
俺の後ろには光の球を複数生成していて、そこからレーザーを照射させた。後は俺の一方的に蹂躙するのみで複数の光の球からレーザーがメテオの身体を貫いた。
最終的に身体中を穴だらけにされたメテオは身体を鈍い色に変えて息絶えた。
この力を得てから俺は変わったな。まだ数週間しか経っていないのに力を思う通りに使いこなしている。まだいろいろ不明な部分があるにしてもこんなメテオ程度なら一人でも十分戦える。
「お、お前一体何者なんだ?それにこの熊みたいな化け物はなんだよ?」
「見た目道理の化け物で生き物を食べる。俺も似たような物だ」
メテオが絶命していることを確認してクーのところに戻ろうとしたら、不良のリーダー格に止められた。
リーダーの質問に簡単に答えてクーのところで戻った。
クーは魂が抜けたような顔をしていた。
「どうした?何かったのか?」
「え?あ?ユッちゃんさんは、貴女は本当に何者ですか?あんな化け物を簡単にやっつけるなんて普通の女の子じゃないですよね?」
俺は普通の女の子ではない。本当の俺は男だ。今の身体はクローンの身体で女の子だが、そこは置いといて、どう答えるか。
「待ってくれ、俺達を置いて行かないでくれ、またあの化け物みたいなのが襲ってきたら次に確実にやられる。ここにいない仲間もいる上に怪我人もいるし、見捨てないでくれ」
不良達が怪我をした仲間を背負ってきた。
一般人がこの異空間で生き延びるのは過酷すぎる。いつメテオに襲われるかわからないし、ここから抜け出す方法だってわからないだろう。
俺もこの異空間から抜け出す方法は知らないけど。
「クーはどうする?」
「え?」
「だから俺はクーの意見を聞いているんだ。このままこいつらと行動するのは正直俺にとってはどうでもいい。てか、俺こう見えてもペーペーなんだよ。メテオの巣に来たのはこれで二回目なんだよ。普段はチームで行動しているのに不安でしかない。俺だってこの状況を生きて帰れるかわからない」
このクローンの身体がもし死んだら意識は本体である男の方に戻るだろうか。それとも人格が死んで男の方は動かなくなるか。
自分を殺すなんて試したくはないな。
「私は大丈夫。人は多い方が心強くていいと思う」
「わかった。不良どもついてこい。ただし、俺の指示に従わない奴は見捨てるつもりでいるからな」
「おう」
俺はクーと不良を引き連れて移動した。ここで派手に暴れたから近々メテオが来るかもしれないから保険として移動する。不良達のリーダー格のお願いで彼らの中も探すこととなった。
「あの化け物はなんだ?それにあんたは何者なんだ?」
「俺は流桜学園に所属しているただの高校生だ。彼女もそうだ」
「お前みたいなJKがいるはずないだろう?そう簡単に教えてもらえるはずはないよな?なあ?ここから出られる見込みはあるのか?」
「ここから出られる方法はわからん。ここの巣穴の主を倒せば出られると思うが確実じゃないと思う。まあ、すでに助けを呼んである」
移動している間、不良のリーダー格の男が根掘り葉掘り聞いてくるから俺は不良のリーダー格の男の質問答えた。聞いてくる内容はクーと全く同じだ。
そして移動している間、救援を呼んだ。
「え?ユッちゃんさんいつの間に助けを呼んだんですか?カードフォンも圏外で呼べる方法なんてないですよ?どうやって?」
救援を呼んだことに驚いたクーはカードフォンを起動させているが、圏外表示で外部との連絡がつかないことにどうやって助けを呼んだのか知りたがっていた。
「さっきも言っただろう?クーもこっち側に来たら教えるって」
俺のことは流桜学園の中でも極秘中の極秘。クーがメテオを取り込んでも教えるつもりはない。クーがもし、俺のチームに入ったら話は別になるけど。
「誰に助けを求めたかは教えてやる。一夜先生だ」
「え?一夜先生?あの怖い先生?なんで」
「そうそうその一夜先生にメールをした。あの化け物の関係者だ。一般人もいる中で話すのもなんだと思うけど、まあ、クーもメテオを見ているだしいいか。俺達が通っている学園は闇深い学校だよ。俺達はとんでもない学校に入学してしまったね。お互い」
一応電話も掛けたが、先生は出なかったからメールを一通送った。見てくれるかどうかはわからない。電話を掛けたんだあの人がいくら忙しかろうと電話が着ていたことに気づいてくれるだろう。メールも。
世間に隠しているメテオをクーや不良達、一般人にメテオを見られているからメテオについて話していく。あの化け物が何なのか知りたがっているみたいだしみんな。
知ったからと言って今の状況で何かできるわけでもない。無事に助かったてもその後どうなるか俺は知るすべはない。
クーに関しては流桜学園の生徒だ。生きて帰られたら、メテオを体に取り込ませられて俺達のようにメテオと戦う人間になるだろう。クーは。
不良達についてはわからない。無事に戻ってこられてもその後はメテオと戦う人間になるのか。映画みたいに記憶を消されて今まで通りの日常を過ごすのか。
下っ端の新人の俺は知らないし、知らされないだろう。
本体の方は今しがたバスに乗ったようだ。
「ユッちゃんバスが来たよ?どこにメテオが現れたの?」
「市の端にある工場地帯の奥にな。熊みたいなメテオと戦った。化け猫ほど強くなかったが廃モールのゾンビよりかは二倍三倍強かった。メテオを倒して今のところは危険な目にあっていない」
月希達に状況を報告していく。
ゾンビより強いって言う話は少し盛ったけど、明らかにゾンビより強いのは確かだ。
しかもメテオが不良達に集中している時に後ろから大きいのをぶちかました。不良達を囮に使ったのは黙っておこう。
「雪くん一人で大丈夫だったの?」
「ああ、何とかなった。クーに絡んでいた不良達の何人かは怪我をしたみたいだけどな」
状況を報告している内に工場地帯に到着した。
そこから俺のクローンとクーがいる異空間辿りつけるかは運次第だけど。月希達や来る途中で呼んだ一夜先生が辿り着けなければ俺達はヤバい状況になる。
食料もない状態でこの異空間で生きていく自信がないぞ。
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