第48話 異空間
「この工場だ!」
「本当に寂れた工場ですね。廃モールもそうでしたけどメテオってこういう場所が好きなのでしょうか?」
廃工場に到着した俺達は異空間に入った場所に向かっている途中で周がそんな疑問を漏らした。
「というよりも獲物が使っていた古巣を活用している感じだと思うわ」
「古巣を活用?」
「そう。私の推測でしかないのだけどメテオの習性かはわからないけどメテオは獲物の古巣を使うことで獲物を得ていると思うの。例えば、他の動物の古巣を使うことで天敵から身を守る動物がいたり、それを狙って巣に潜んで古巣と思って入ってきた動物を狩って餌場する動物もいる。それらの動物と同じでメテオも廃工場を住処と餌場として人がいなくなった建物に住み着いているかも。まあ、単なる偶然という線もあるけどね」
「うーん、ルイには難しくわからないよ。ヒョウちゃん、もう少し簡単に説明してほしいな」
周の疑問に雹が自分なりの考えを話す。
メテオの習性で廃モールに住み着いたか。人がいなくなった建物は野良ネコや野良犬の住処になるし、ネズミも住み放題だ。たまに肝試しとかのバカげた理由で人も入ってくるだろうけど、一般の人にとってメテオも十分脅威で簡単食べれらてしまう。
メテオにとって餌は尽きないだろう。
俺もメテオの存在を知らなければ化け物が出る廃モールとか廃工場の噂を聞いたら肝試しに行ったかもしれないけども。
学園やメテオの討伐をしている人達が気づかないままメテオが爆発的に増えると、前回の廃モールの一件はそれを未然に防いだ形なのか?
いや、ゾンビがいた。
それもたくさんいたから被害者は凄い数いそうだ。
まさか。最近、野良ネコや野良犬が見かけないのも、行方不明者がいるのもメンテの餌になっているのではないか?
俺みたいな下位の物がそんなことを気にする必要はない。しかも何もしらない一般の人がメテオの異空間に迷うい込んでいる状況だ。そんなことを気にしている時間があったら異空間から出る方法を考えるべきだ。
「メテオの習性なんて後で考えればいいだろ。今はメテオを知らない一般人を異空間から脱出させる方法を考えてくれ」
俺はこのチームのリーダーらしいことを述べる。
「そうね。雪くんのクローンを売ろうとしていた子に言いたいこともあるし、早く助けなくちゃね」
「雪さんの言う通りですね。いくら非行に走った方々とはいえ、一般の方が迷い込んでいるのは見過ごすことはできませんね」
「ルイはユッちゃんのクローンとクーを助けてメテオをいっぱい倒す!それに下品な車の人達も助ける」
廃モールみたいな先生からの任務ではないが、俺のクローンやクー、それに不良を助ける為に三人はそれぞれの思いを口にした。
廃工場の表に止めてあった不良達の車は月希目線では下品に見えるのか。月希は変なところでオタクだからな。無駄な騒音を出すあの車を見て思うところがあったのだろう。
月希の意外な一面だなって思ったが中学時代に車が大好きな女子がいたな。その子は月希ととても仲が良かった。その子の影響で車のことを詳しくなったのだろう。
「ここだ!俺とクーはここで異空間に入った」
俺とクーが異空間に入ったフェンスの場所に着いた。
「でも何もないよ?」
俺とクーが異空間に入った場所は不自然な物は何もなかった。そこに建物の壁とフェンスしかなく、俺達が異空間入った痕跡が無かった。
「おい!そこにいる奴ら何者だ!誰か、ここの下に行ってこい」
二階から不良が顔を出して来た。
異空間に入っていない不良が何人かいたみたいだ。
「あわわ、雪さん怖い人が来ますよ!逃げましょうよ」
と周が怯えた様子で俺の服を引っ張る。
不良よりも怖い怪物であるメテオと二回も戦ってきたのに今更一般人である不良にビビるとか、不良よりメテオの方が倍怖いだろ。
普通に人を襲うって聞くし。今は不良達の相手をしている暇はない。
「それどころじゃないだろ?あいつらを相手にしている暇がないぞ。月希、奴らが邪魔するようなら片づけといてくれ」
「そうですけど、怖い人は怖い人です」
「あはは、アマネンは臆病だな。ユッちゃん了解」
周を笑う月希を横目に痕跡を探すが、やはりない。
「雪くん他の場所も探したほうがいいんじゃないかしら?」
「そうだな。ここまで念入りに探しても何も見つからないし。メテオが工場に巣くっているのならほかの場所を探した方がよさそうだな」
雹の言う通り、ここを重点的に痕跡を探したより工場全体を探した方がいいかもしれない。
ただ問題がある。不良達という邪魔な奴らがいることだ。
アイツらのリーダー格の男は異空間で大人しく俺の指示に従っているのに、こっちに残っている奴らは大人しく指示に従ってくれるかどうか。
「うわわわああああああ」
と場所を移動しようとしたとき、複数の男達の叫び声が聞こえた。
不良がメテオに襲われたのか?
「みんな車がある方から聞こえたよ」
「あの叫び声の原因ってもしかして」
「メテオが現れたみたいだな。行くぞ」
叫び声が聞こえた場所に移動する。
「なんなんだ!あれが!」
「化け物だ!誰か警察呼べよ!」
「俺の車があああ!」
6体のメテオが暴れていた。
一番大きい熊っぽいメテオが車の上に乗ってぺしゃんこにしていたり、犬みたいなメテオが二体が、良の腕に食らいついていたりと、表側が阿鼻叫喚の状態だった。
子供の姿をしたゾンビのメテオと空を飛ぶ鳥のメテオも二匹した。そのメテオは近くにいる不良を襲っている。
早く助けないと思った瞬間、ドゴーンと爆発する音が響いた。
音のした方へ視線を向けると月希が自分の背よりも長いスナイパーライフルを構えていた。
デカいスナイパーライフルから飛んでいた銃弾は鳥のメテオの一匹に当った。しかも当ったメテオは内側から爆発するようにはじけていた。
そのスナイパーライフルどんだけの威力だよ。
撃つなら撃つで一声かけろよ。鼓膜がいかれるだろう。
「よっしゃー。一匹倒したよ。ユッちゃん!もう一匹倒しちゃうね」
「私は犬の方の相手するわね。熊の方は雪くんの方で何とかしてね」
「俺は一番の大物が相手なのかよ」
雹は俺に熊を相手にするように言い残して不良達や車の間を縫うように駆けていった。
俺、デカいヤツの相手かよ。異空間で倒したヤツより一回り大きいぞ。あれは。
俺に倒せるかな。
「消去法で私はあの子供の相手なのですね。子供と戦うのは気持ち的に嫌なのですが」
「アマネン大丈夫。ルイが援護してあげるよ。っと!もう一匹の鳥を倒した!行くよー」
泣き言を言っている周を励ますように月希がもう一匹の鳥のメテオを倒した。
鳥のメテオを倒した月希はスナイパーライフルから軽量のサブマシンガンに持ち直して、周を引っ張って子供のメテオに向かった。
流石の月希もスナイパーライフルで子供の頭をぶち抜くのは嫌なのだろう。
「俺はあのでかぶつの相手か。三人が戦っているのに俺だけが見ているだけにもいかないか」
俺は熊のところに向かった。
熊は逃げ惑う不良達に夢中になっているから近づく俺に気づいていない。また不意打ちで倒せそうだが、不意打ちのレーザーを放そうとしたが、襲われている不良が邪魔で打てない。この角度で撃ったら確実に不良に当る。
一般人を傷つけてしまったら、一夜先生にどんな目にあうか。恐ろし過ぎて想像できない。
ここから不良達をどうやって逃がすか。
「誰か!警察を呼んだか!うわあああ。金色の壁がでてきた!」
「おい、俺らが食い止めている間他の奴らを連れてここから逃げろ!倒れているヤツも忘れるんじゃないぞ!」
「ああ、助かった」
一人の不良に向けて熊の振り上げれらた鋭い爪が生えた前足を金の板で間一髪で止めた。たった一振りで金の板が凹んだ。どんだけのバカ力なんだ。普通の人が食らったら肉片に変わるぞ。
この熊は月希並みのバカ力だな。
今しがた助けた不良に邪魔だから逃げろと言ってやった。
助けた不良は逃げていった。他の不良も俺達が化け物の相手をすると知って散り散りに逃げた。
これで邪魔がいなくなった。これでまともに相手ができる。
ドゴーンと火山が噴火したような轟音が発生した。熊のメテオが金の板を放り投げて車に直撃した。
車のエンジン部分に当たったのか、爆発がおきた。
『グオオオオオオオ!!!』
ギロリと俺を睨みつけた熊のメテオは周囲に獲物がいなくなったのは俺のせいと理解したようで頭が裂けるほど雄叫びをあげた。
「ちょっとユッちゃんうるさいよ。耳が死ぬかと思ったよ」
「そんなこと俺に言うなよ。なんならお前があいつを何とかしろよ」
子供のゾンビと戦っている月希からクレームがきた。
うるさいならドデカイライフルとかバズーカを出してあの熊ヤロウを黙らせてほしい。
不意打ちを狙っていたが、気づかれた状態で正面からデカブツと戦うか。
一方、異空間を彷徨うクローンとクー、その他の不良は。
「本当に助けは来るの?あれからだいぶ時間が経つけど」
「助けは既に来ている」
「本当!」
「おお!」
他の不良達が俺達の話を聞いて歓喜の声を上げた。
「だが助けに来た人達は工場に潜んでいた化け物と戦っている、みたいだ」
と言ったとたん歓喜の声が消えた。
「俺達、私達がこの異空間に入った場所を調べていたら、工場の入口に化け物が出現した、みたいだ。そして異空間に入れなかったコイツらの仲間を襲っていたそうだ」
不良達を指す。
「なんでお前は助けが来たことを知っているんだよ。今まで俺らとこの同じ家が続く場所を彷徨っていたじゃねえか!連絡とっている素振りを取ってないお前はどうやって知っているんだよ。お前が俺達をここに閉じ込めているんじゃないのか!」
「そうだ。三年間工場に入り浸っていたが今までこんなことはなかった。コイツが来てからこんなことが起きたんだ!」
「コイツがあの化け物を俺達に襲わさせたに違いない」
「この女は化け物の仲間だ」
不良の一人が俺に詰め寄って怒鳴りちらす。
それを便乗する不良達が騒ぎ出す。
おい、静かにしろよ。メテオが来るだろう。俺がメテオの仲間か。案外間違いではないな。身体にメテオシルバーを宿しているしな。
「バカヤロウ!止さないか!」
すぐさまリーダー格の一斉で不良が黙った。
「コイツがどうやって外と連絡しているかは俺も知りたい。得体のしれないヤツだがコイツは俺達を助けたじゃないのか?それに化け物が出たらコイツ無しで化け物を倒せるのか?倒せないだろう。俺達はコイツに頼るしかないんだ。なら黙ってコイツに従うしかないだろう。俺が間違っていると思うなら意見しろ」
「・・・」
熱い熱弁を披露してくれた。
リーダー格の話を聞いて他の不良達はグーの音もでない表情をしている。
不良達は意味わからない場所にいて、化け物に襲われて、何かに当りたい気持ちは理解できる。この状況でストレスが溜まるし、また化け物に襲われるかもしれない。襲われたら誰かが死ぬかもしれない。それが今日現れた女が原因だと言って精神を安定させるのも化け物を倒せる正体不明な女が化け物の仲間だと思われても仕方がない。
「こいつらがすまない」
「気にするな。こんな状況だ。ポッと出の奴を信用できないのはわかる。俺、私も似た状況で取り乱したことがある。しょうがないさ」
交通事故から目覚めたら裸で手術台の上で手足を固定されて、いきなり現れた一夜先生が味方には見えなかった。その後にスライムの化け物と戦わせられたからな。
今でも一夜先生には信用できない。が今の俺達は一夜先生を頼らずにはいられないし、言うことを聞くしかない。
「歩き疲れただろうからここらで休むか。とは言っても水も食料もないけどな」
俺はそう言って塀に背を預ける。
今は男の方でメテオと戦っているからそっちの方を集中させたい。本体である俺の身体が死んだら俺の精神はどうなるかはわからない。
俺が死んだらクローンも死ぬ可能性がある。そしたらクー達がここに取り残される。
クーを助ける為には向こうで頑張るしかない。
そもそも一人暮らしするために離れた学校に通うことを判断した中学時代の自分が恨めしいぜ。
そして二つ目の身体は女子だし、化け物と戦うハメになったな。
「つくづく嫌な道を進んでいるのかもしれないな」
「いきなりどうしたの?」
俺の隣にクーが来た。
「いやな。なぜこうなったのかなって改めて思ってな」
「ごめんなさい。私はこうなると思わなくて、でも」
「違うよ。ごめん、そういう意味で言ったわけじゃない。化け物が工場に出る時点で遅かれお、仲間達とここに派遣される可能性があった。ついてきて後悔しているんじゃないんだ。なんで今、死ぬ思いで戦っているんだろうなって思っただけだ」
男の方で熊のメテオと死ぬ思いで戦っている。この道に進んでしまった以上はしょうがないけど、つくづくこうなってしまったか不思議でしょうがない。
今もなお男の方で熊のメテオに飛ばされて車の屋根を潰した。攻撃を避けるので精一杯でとても二つの身体を操作できる余裕がない。
攻撃を仕掛けるのにクローンの方の操作をいったん止めるしかない。それを休憩という形で男の方に集中させる。
クーも不良達も歩き続けて疲れて来ただろうからな。ここいらで休憩もいいだろう。
「ユッちゃんさんは今戦っているの?休憩しているじゃなくて?」
「こっちの話だから気にしないで。それとお、私少しの間ボーっとするけど気にしないでね」
俺はクローンの操作をやめたが、こっちで何が起きていても対応できるようにしている。雹や月希がメテオを倒してくれればいいのだがな。雹の方も苦戦しているから期待はできそうにない。
こっちは二つの身体を操作しているのに一番の大物をヤレと言う雹さんはとても鬼畜なことを言う物だ。今は片方に集中するけど。
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