第49話 熊のメテオ

「グオオオオオオオオ!」


 熊のメテオは雄たけびを上げて前足を振り上げた。

 俺はそれを紙一重で躱すことができず、学園の制服が熊のメテオの爪によって胸元を引き裂かれた。幸い、制服だけが引き裂かれただけだから血とか出てない。避けるのをあと数秒ほど遅かったら熊のメテオの凶悪なほど鋭い爪で俺の胸板に致命傷与えられていただろう。

 それでか、俺が熊のメテオの攻撃を受けたからか、雹がこちらを凄い形相で睨んでいる。雹は二体の犬のメテオに苦戦しているからこっちに来れないようだ。


 クローン側は何もないので放置でいいだろう。熊のメテオは化け猫レベルの強敵だ。

 手を抜いて勝てる相手ではないだろう。

 向こう側はこっちが片付くまで放置だ。


「アマネン!ゾンビの囮をしているところ悪いけどルイの相手がそっちに飛んでいくよ。気をつけて」

「なんでですか!月希さんが片方をすぐに倒しちゃうからもう片方の注意を引いてって言ったからこうして逃げ回っているですよ!」

「だってゾンビの癖にノロノロと動かないんだもん。それにあれ賢いからしょうがないじゃん!」


 喧嘩なら後でやれと二人に言いたいが、言う余裕はない。


 片目で周達の方を見たら周は一台の車の回りを子供のゾンビのメテオとぐるぐると回っていた。

 周は子供のゾンビの鼻先すれすれでわざと拳を避けていた。それで子供のゾンビの注意を引いて逃げ回っている。子供のゾンビはメタリックに輝く虚ろな目で周を追いかけている。無邪気で一生懸命に蝶々を追いかけている幼児に見える。

 あんな弱そうなメテオは放置でいいと思うが、放置していたら逃げて行った不良達のところに行きそうだから周が相手をしているのだろう。

 もう片方のゾンビは月希の弾丸を受けて胴体に風穴ができていたり、腕がなくなっていた。

 月希は遮蔽物である車の影を縫うように素早く動いてゾンビの死角から打ち抜いていた。

 ゾンビは普通の人間が走る速度で月希を追いかけている。普通の人間が走る速さでは月希には追い付けないからゾンビは月希に背後に回られて被弾していく内に埒があかないとでも学習したかのように回れ右して周の方へ走り出した。


「こっちに来ないで!」


 周が足元にあったボーリングの球サイズの岩を走ってくるゾンビに向けて投げた。

 投げた岩はゾンビの右膝にクリーンヒットした。岩に当ったゾンビはバランスを崩して高そうな車の窓に頭を突っ込んでいった。


「アマネン危ない!」

「きゃ!」


 子供のゾンビの相手をしていたことを忘れて、走ってきたゾンビに岩を投げたことによって子供のゾンビに迫っていた。

 周が気づいたときには子供のゾンビが口を開けて周の手に噛みつこうとしていた。そこに月希が放った銃弾が子供のゾンビの頭を打ち抜いた。


「アマネン!」


 ゾンビはメテオに寄生されたとは言え元は人間だ。血は赤い。

 ゾンビの血を全身に浴びた周は気を失ってしまった。


「ユッちゃん!、ヒョウちゃん!ルイはアマネンを安全な場所で休ませるね」

「わかった。だが、もしかすると他にもメテオがいるかもしれないから周のことは頼んだ」


 月希は周を背負って廃工場の中へ消えていった。

 月希には俺の援護をしてほしかったが、気絶した周を放置できるはずもない。

 周を放置したら、どこかに潜んでいたゾンビに噛まれて周もゾンビになったなんて嫌すぎる。

 周が回復するまで月希に守ってもらうしかない。それまで熊のメテオと戦って耐えられるかわからない。


 雹の方は犬のメテオ共が一匹は雹の気を逸らしてもう片方が雹の死角からといった感じで連携して雹に襲い掛かっている。どう見ても劣勢だ。

 一匹だけなら雹は勝てたと思うが、連携する相手は分が悪いようだ。いや、今までは四人で戦ってきたから個人で戦うのは始めてな上に相手は連携を取れた複数のメテオ。倒すのは難しい。

 俺の方も熊のメテオに対して防戦一方だ。隙を作るにしても熊のメテオの攻撃が重い。


「ガアアアアーーーー!」


 熊のメテオが改造高級車をちゃぶ台返しの如く投げつけてきた。

 が、俺の頭を超えていった。そんな無意味な攻撃をスルーしてすぐに熊のメテオに接近した。

 左手から光を集める。

 熊のメテオにゼロ距離でレーザービームを放てばいくら巨体で頑丈な熊のメテオでもひとたまりもない。

 最大まで左手に光を収集させていく。

 改造車を持ち投げた熊のメテオの腕は上がったままで無防備に腹部が開いている状態だ。

 流石にこの距離から放てば避けることも防ぐことも無理だろう。


「食らいがれ!」


 ふっと熊のメテオと目が合った。

 その目には俺をあざ笑うかのように滲み歪んでいた。そして熊のメテオのメタリック化した目に映るのは、持ち投げた改造車がバウンドして犬のメテオと戦う雹の後ろ姿だった。


 コイツは俺を狙って車を持ち投げたわけじゃない。仲間のメテオを手助けするために持ち投げたんだ。

 舐めた真似をした熊のメテオは自分は仲間のサポートしながら俺と戦えるとでも言いたいのか。メタリックな目を歪めていた。


「雹!」


 俺は雹の名前を叫ぶが遅い。

 雹が振り向いて避けられない距離まで迫って来ている。

 なら、車を止めるまでだ。


 左手に収集してきた光を振り向きざまに放った。

 レーザービームは雹に迫る車に当り、雹の頭を超えて行った。


 雹が怪我をしなくてよかった。


「雪くん!後ろ!」


 俺は熊のメテオに対して無防備に背中をさらした。

 それを狙っていた熊のメテオは前足を振り下ろした。

 雹の叫ぶが、避けられることができない俺は易々と背中を切り裂けれてしまった。

 焼けるように痛み始めた背中を我慢して熊のメテオから距離を取った。


「ああ、いでぇ。あの熊ヤロウがテカテカと光沢あるくせにパワーとスピードがあるわ」


 狡猾な方法で俺や雹を追い詰めようとする熊のメテオに中指を立てた。

 熊のメテオは俺をバカにするように俺の背中を切り裂いて血や皮膚片がついた爪を至極うまそうに舐めている。赤い蜂蜜を舐めている。

 俺が負傷するとは思わなかった。周に続いて俺も戦えなくなると雹や月希に迷惑が掛かる。今俺が諦めたら熊のメテオの相手は雹がしなくてならなくなる。

 任された相手だ。応援が来るまでできるだけやってやろう。


「メタリックなプーさんだな。凶悪すぎてこれを見た子供は泣くだろう」


 くだらないことをつぶやいていると俺を休ませることなく、熊のメテオが四足歩行で突進してきた。

 突進したおかげで雹との距離ができた。熊のメテオが車を投げても雹のところまでは届かないだろう。

 熊のメテオに少しでもダメージを与えようとまた自分と熊のメテオの前に壁を生成させた。

 これで顔から突っ込んで怯んでくれれば、思いっきり反撃できるのだが。


 壁の陰に隠れて雹の様子を確認する。

 俺が怪我をしたせいで雹のヤツ、俺の方をチラリと見るときがあって動きがさっきと動きが悪くなっている気がする。心配をさせてしまったようだ。自分の見落としを救ったせいで怪我をしたとして気にしているのだろう。

 俺のことは気にせず戦えとまでは、心配はしなくていいのに。

 それで雹が怪我をしたりして戦えなくなった目を当てられない。その上死んだら悲しい。それなら命に代えてでも雹を守って見せる。月希も周も。

 こっちが死んだらクローンの方がどうなるかは知らない。クローンも死んだら異空間にいるクーは取り残されるな。学園側が頑張って救出してくれるだろう。


 いつまで経っても熊のメテオが壁にぶつかってこないので壁の陰から車の陰に移って熊のメテオの死角から攻撃しようと移動した。

 俺が壁の陰から出た瞬間、二枚刃の牙が襲ってきた。後ろに転ぶことで新たに負傷することはなかったが、さっき熊のメテオにやられた背中の傷が深くなった。

 転んだ先にガラスの破片が落ちていたのだろう。

 すぐさま回避したが、二枚刃の牙は虎バサミが閉じるみたいにガチンと音をたてていた。

 熊のメテオは俺が壁から出てくるのを待っていたようだ。顔を出したら顔を食い千切る腹つもりでいたらしい。

 熊のメテオの狙いは外れて、俺は滑るように熊のメテオの股下に吸い込まれた。背中を取ってようやく攻撃できるタイミングを手にできた。

 決定打を打つことはできない。一番ダメージ与えられるレーザービームも熊のメテオを与えられるかどうかわからない。

 狡猾で俊敏なメテオだ。

 レーザービームをもろに食らわせっることは難しいだろう。レーザービームを放とうとすれば例え後ろからだったとしても持ち前の瞬発力と野生の感で躱すに決まっている。

 やる前から決めつけるのは良くないが、目の前のメテオはそれぐらいやってのけそうな化け物だ。

 敵の視界から外れて視覚の外からどでかい一発をぶちかましたい。一撃で倒すことはできなくても、いいや。もっといい方法があるはずだ。


 俺は熊のメテオの股下から車の陰に逃げ込んだ。

 俺を見失ったクマのメテオはグルングルンと回るように俺を探し始めた。

 狙い通り俺を見失ったようで、車の陰に隠れながら熊のメテオから距離を取った。

 光の玉をいくつか生成して上に飛ばしたり、車の下に転がすように飛ばした。

 飛ばした光の玉から弱ちいレーザービームを放つ。熊のメテオの真上や車の下から放った。三百六十度、全方向からレーザービームを浴びた熊のメテオは完全に俺を見失ったようでさっきまでさらさなかった背中をさらしてくれたが、今は攻撃をしない。

 弱ちいレーザービームでは熊のメテオのメタリックカラーの毛皮を削ることしかできない。だけど陽動程度ならできる。

 それでいい。俺の狙いは熊のメテオの足元だ。


 俺は熊のメテオが上から下からレーザービームの雨を浴びている間にトラップを仕掛けていた。

 雹と距離を開けつつも熊のメテオの足元にトラップを仕掛けていた。

 ピュンピュンと豆鉄砲程度の攻撃を顔に当てて熊のメテオを一歩一歩トラップの場所まで誘導する。

 いくら弱ちいとはいえ顔にレーザービームをしつこいほどあてられたら、痛いし、いやだろう。顔ばかり当って、周りがよく見えていないからレーザービームが薄い方へ自然に体が動いていくだろう。

 その先が俺のトラップだ。


 足元には緩やかな坂上の金の壁ならぬ、金の地面を生成した。高い場所には光にしてある。光の地面の下には針山のような金の針が無数に生成してある。

 落とし穴作戦だ。

 熊のメテオが光の部分を踏んだ時、光の地面を通り抜けて金の針に刺さると寸法だ。

 後退する熊の顔面にレーザーを当てていく。たまに熊のメテオの頭上に金の塊を落としたりして後退する場所を調整する。


「いで、お前は」


 ぬるりと車の間を移動していると鋭い痛みが走った。

 見ると鼻から上が穴だらけの子供ゾンビのメテオが俺の脹脛を噛みついていた。

 月希が雨のように弾丸を浴びせたはずなのにまだ倒されてはいなかったのか。こいつは。月希のヤツに倒したかどうか確認させるんだったぜ。

 倒されたと思って油断した。こいつ、這って俺のところまで来たのか。ご苦労なことだぜ。倒されたふりをしていればよかったのに。

 ゲシゲシ蹴って子供ゾンビの牙から逃れようとするが離れない。

 子供ゾンビは脹脛に噛みつき、俺の足首と膝を爪を立てて手放すつもりはないかのようにぎっしりと掴まれている。

 足元の転がって金属バットを拾って殴りつけても離してはくれない。


「しょうがない」


 子供ゾンビのメテオに向けてレーザーを放ったが、俺のレーザーで胸から下が消滅したのになおも弱々しくも噛みついてくる。


「くそう。放しやがれ!」


 身体のほとんどが消え去った子供ゾンビのメテオを殴り続けているが、このままでは熊のメテオを落とし穴に落とす作戦が水の泡になってしまう。水泡だけに。

 無駄なこととしょうもないことを考えている間にすでに遅かった。熊のメテオは俺に向かって走ってきている。このままだとあの巨体の突進をもろに食らってしまう。

 子供ゾンビのメテオに気にせず、傷みに怯まずに、あのままレーザーは放ち続けれていれば熊のメテオを落とし穴に落としていた。致命傷とは言えずとも大きなダメージを与えられていた。

 終わった。とは言えないな。ここで諦めたら目の前に迫っているメタリックな熊ヤロウを誰が倒すんだ。雹は犬のメテオに苦戦しているが、まだ雹は諦めていない。

 月希だって周だっている。俺がここでこいつを食い止められなかったら、俺達はそれで終わる。

 なら、ガッツを見せてこの熊ヤロウを食い止めて見せる。


「ガアアアアアアァ!」


 左手に光をチャージして奴の顔面に向けて放った。

 奴は雄たけびを上げて迫ってくる。

 俺が狙うのは口だ。メタリックな毛皮に当たっても掠る傷程度にしかならないのならば口を狙うしかない。奴は大きな口を開けている狙わないわけにはいかない。


 レーザーが差し迫るところで熊のメテオは器用なことに走りながら身を屈めた。

 このままいけば俺が放ったレーザーは熊のメテオの頭を掠めただけで終わってしまう。

 と思った。


 どこからかポン!と甲高く気の抜けた音がしてすぐに熊のメテオの鼻先で爆発が起きた。そして熊の頭部にレーザーが炸裂した。

 よく見ていてなかったが、光の塊のような物が飛んでくるのが見えた。


「イエーイ!ユッちゃん!見ていてくれた。ルイのかっけーとこ」


 廃工場の二階からブイサインを向ける月希が叫んでいた。

 その手には大きな銃口の銃が握られていた。いわゆるグレネードランチャーと呼ばれるものだ。あそこから狙いを定めて撃ったようだ。


 肝心の熊のメテオはレーザーを顔面にもろに受けて吹き飛んだ。だが、先ほどまで走っていた運動力は健在で頭部を失っても俺に向かってくる。

 頭部を失った熊のメテオはそのまま車を巻きこんで突進をした。

 巻き込まれまいと横にスライディングをしてなんとか躱した。

 いくらメテオに寄生されているとはいえ流石の熊のメテオは頭部を失って動けるわけもなく、ひしゃげた改造車に埋もれながらメタリックな身体は鈍い色に変わっていった。

 手こずった熊のメテオはなんとか倒した。


 足に噛みついていた子供のメテオを引きはがしてとどめを刺した。

 子供ゾンビが足に噛みつかれたせいでうまく歩くことができない。血をダラダラ流しながら足を引きずることで辛うじて歩くことができるが、とても戦えることはできそうにない。

 悔しいが、今の俺は戦い続けている雹の手助けはできない。いや、メガティブな考えはよそう。戦うことはできなくてもサポートはできる。

 俺は怪我したが、さっきとは状況がいい方向になっている。

 残りのメテオは二体。

 廃工場の二階から月希に狙撃してもらうこともできる。俺がレーザーで倒すこともできる。 


「雹!こっちは片付いたぞ。残りはこいつらを始末するだけだ」

「熊のメテオを、って雪くん足がっ!」

「俺のことは後だ。よそ見をするんじゃない!」


 犬のメテオと戦っていた雹は子供ゾンビに噛まれた俺の足を見て動揺をあらわにする。

 全部片付いていたら動揺しても構わなかったが、まだメテオは二体も残っている。

 一体の犬のメテオが雹に飛び掛かる。

 パアーンと弾ける音共に犬のメテオの胴体が大きな穴をあけて地面に倒れた。

 もう片方の犬のメテオは俺が左手でチャージしていたレーザーで胸部を消し飛ばして倒した。


 被害が出たもが、なんとか六体のメテオを倒せた。

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改造人間の異生物狩り 七刀 しろ @nanatusiro

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