第41話  強盗に遭遇

 ボルダリングを終えて。俺達はスポーツ店から出た。


「手に力が入らねえ。明日、絶対筋肉痛だわ。これ」

「そうだよね。普段使っていない筋肉を使ったからね。僕も腕が肩より上がらないよ」


 肩を回す俺に同調するかのように道面が自身の肩や二の腕を揉む。

 何かによじ登ったりしてなかったから、腕が重い上に不思議なほど掌に力が入らない。


「お昼どうする?動いたから俺はがっつり肉が食べたい」

「そうだな。動いたから腹が減ったな。ここら辺で美味しい店でもあったか?」

「商店街のど真ん中だから適当な店に入って済まそうぜ」


 確かにボルダリングでいい汗を掻いた。いい運動もした。生き物は動いた分、腹が減るわけで、俺の胃袋は食を求めている。

 ここは商店街の真ん中。周りには食堂やら、ラーメン屋やらが沢山あり、そこから流れ出る匂いは食欲を脳に訴えている。

 店は数多くあるため迷う。かつ丼や寿司屋にラーメン屋いろいろあって選べない。


「あそこでよくない?クラスの人から聞いたのだけどあそこって結構美味しいらしいよ。まだ人が少ないみたいだし、お昼はあそこにしようよ」

「ラーメン屋か。いいぜ」

「俺は食えればなんでもいい」

「早速、中に入ろう」


 道面が指したのはラーメン屋だった。満場一致でお昼はラーメンで

 ということで俺達はそのラーメン屋でお昼を取ることにした。


 入店すると目の前に券売機が設置してあり、その券売機で食べたいラーメンの券を買って渡す食券システムのようだ。

 券売機には五種類のラーメンのほかにチャーシューや煮卵、バターとかをトッピングができる。それと再サイドメニューで餃子やチャーハンもあるようだ。


 俺が選んだのはサッパリ系の塩ラーメンだ。トッピングにチャーシュー三枚とノリとメンマの食券を買い、給仕のおばさんに食券を渡した。

 食券を渡した際にニンニクと野菜はどうしますと聞かれたので普通でと答えた。

 それぞれ注文を終えて、開いていたテーブル席へ座る。

 談笑しながらラーメンを待つと。


「お待たせしました。こちら味噌ラーメンとトッピングの煮卵になります!のこりの注文の品は後程お持ちしますで少々お待ちください」


 テーブルの中央に置かれた大きい器に入ったラーメンには山ほど盛った野菜と分厚いチャーシューが乗っかっていた。俺達四人は戦慄した。

 この量で一人分と。

 周りの客が食べているラーメンのサイズを見るとこのラーメンと同じ物をがっついていた。

 そうして俺達は理解した。そうここのラーメン屋は次郎インスパイヤ系と呼ばれるラーメン屋だったのである。


 次に運ばれてきたのは俺が頼んだラーメンだった。やはり、さっき運ばれてきた味噌ラーメンと同じ量だった。違うのはトッピングのチャーシューと野菜の山の頂上にニンニクの塊が目立った。端には申し訳程度のノリとメンマがあったがこのラーメン上のモブに過ぎなかった。


 俺はこれを食べきれるのかと心配になってきた。

 運動後疲労感で感覚がマヒしていたのと食欲と言う名のスパイスで余裕で食い切った。

 滅茶苦茶うまかった。


「みんなごめん。こんな大盛りのラーメン屋とは思わなったよ」


 小柄な道面は何とかラーメンと格闘を頑張ったが、半分ぐらい食べて惨敗した。それを残すのがもったいなかったから道面が食えなかったラーメンは三人で分けて食べた。

 こういうのを貧乏性と言うのだろう。

 三人で分けて食べている間、道面が恥ずかしいそうにしているのが気になったが、間接キスでも気にしているのだろうか。同じ男同士でも誰も気にしてないだろう。


「ふー。食った食った」

「ウエー。もう何も食えないよ」


 動けないほどお腹いっぱいになった俺達は重たい腹を抱えながら商店街を彷徨っていた。


「次はどこに行く?」

「激しい運動は避けたい。走ったり飛んだりしたらさっき食ったラーメンが口からでそうだ。スポーツ系はの遊びはごめんだぜ」

「確かに絶対吐く自信しかねぇや」

「どこかで休まない?お腹いっぱいで動きたくないよ」


 歩きながら四人で次どこ行くか話していると今会いたくなかった人物の後ろ姿が見えた。


「わりぃ。急に用事を思い出したから俺はこれで」

「なんだよ。水泡。誘っといてそりゃあねえだろ?」

「お?ユッちゃんだ!おーい」


 白城達と別れて離れようとしたら、見つかってしまった。


「え?雪さんがいたのですか?どこに?月希さん?どこ?」


 月希に見つかってしまった。そして月希の声に反応して周が周囲を見渡している。


「ユッちゃん捕まえた。ルイから逃げるなんて100年早いよ。ワッハッハ」

「っく、月希か」

「ハア、ハア、月希さん急に街中で走り出すなんて危ないですよ。人にぶつかったりしたらどうするのですか」


 ボルダリングをして疲れている+月希の天才的な運動神経で接近されて逃げる前に捕まえられた。周が遅れて俺の下へ来た。


「海北さんに、八代さんに、急にどうしたんですか」

「なによ。走り出して知り合いでもいたのってあなた達偶然ね」


 月希と周にはもう二人連れがいた。

 二人というのはゆままゆ姉妹と戦った日の任務で白城と組んでいた女子二人だった。

 片方は澪って呼ばれていた気がするけど、もう一人は名前なんだっけ?名前が出てこないからツンちゃんって呼ぼう。


「二人とはさっきばったり会ってね。ちょっとお茶しようってなってね。ユッちゃんも一緒にどう?」

「白城達と遊んでいたところだ。お前はお前で遊んでろ」

「えーん、ユッちゃんが冷たいよ。そうだ。みんなでお茶しようよ。みんなでお話したりすればきっと楽しいよ。やっほー、シロシロ」

「そうだそうだ。水泡、女子がせっかく誘っているんだから男として付き合ってあげるべきだろう。白城嫌そうな顔をしない」


 月希が俺に力いっぱい抱き着いてきて苦しい。そしてお茶に誘ってくる。

 別々で遊んでいたから街中でばったり会っても合流はしないだろう。逆ナンかよ。

 お茶って俺達はラーメンを食べたばかりでお茶なんて入る腹なんかない。

 佐々木は女子と遊べると思って乗り気でテンションが高い。ただ女嫌いな白城の目が死んでいる。

 佐々木には少し黙ってほしい。


 ボルダリングをして疲れて、ラーメンを食べてきたから月希に付き合う気力がない。

 お連れの二人も月希を説得してほしい。


「いいんじゃないの?私達は構わないわよ。ネクラ君がいるのは少し気に食わないけど。いいわよねえ。澪」

「そうですね。水泡くんには少し気になっていたので。それに白城くんと佐々木くんと水泡くんの三角関係をナマで見られるわけですし、特ですよ」


 ちょっと待って白城くんと佐々木くんと水泡くんの三角関係って何?俺達はそういう関係じゃないぞ。コラ、周も期待に満ちた目で俺を見るんじゃない。月希も爆笑するんじゃない。

 誤解されたままいられるのも困るからしょうがなく俺達は近くのファミレスに入った。


 大きいテーブル席に案内されて全員ドリンクバーを頼んだ。

 何故か俺は月希と周に挟まれている。くっつき過ぎて腕が二人の胸に埋もれている。


「なんで水泡ばかり女子に挟まれているんだよ。羨ましいから席代われ」

「ダメだよ。ハヤン。ルイはユッっちゃんの隣がいいの。ねー。アマネン」

「はい!私も雪さんの隣が良いです」


 月希と佐々木がバカみたいに場を盛り上げている間俺は意識をクローンの方へ移した。

 雹と二人きりになったクローンが気になったからである。


 クローンはソファーの上で雹に膝枕をされていた。雹はクローンの寝顔を母親のように見守っていた。

 目が合うとニッコリと微笑みかけてきた。


 目を開けて、目が合った瞬間雹が怖かった。頭から食われるかと思った。


「あら、起きたのね。お昼の時間だけどご飯にする?」


 雹に怯えているとグーっと腹の虫が鳴いた。

 クローンの方の身体は少し腹を空かせていたのでうんと頷いた。


「じゃあ大人しく待っていてね。作ってくるから」


 テレビで丁度、刑事物の昼ドラが流れていた。それを見ながら待っているとテーブルに置かえた雹のカードフォンが鳴った。見る気はなかったが、目に入ってしまったのだからしょうがない。

 月希からのメールのようだ。

 メールの内容は「ユッちゃんと合流。お友達がいるからコユっちゃんのことはまだ話してないよ」だった。

 月希が隣でこそこそカートフォンで何をしているのかと思ったら雹へメールを送っていたのか。

 月希達はまだ俺とクローンの人格が別々だと思い込んでいてくれている。月希達が帰ったらネタバラしでもしようかな。

 雹のカードフォンを置いてドラマの視聴を継続する。

 一方、本体の俺がいるファミレスでは雑談(クローンを操作していた俺と異性恐怖症な白城と周は雑談に混ざれていない)の中でなんと強盗が入ってきた。


「ゴウ盗だ!かネをあるブんだせ!」

「今時強盗かよ!」

「すごーい。ユッちゃんモノホンの強盗だよ!初めて見たよ。すごいよー」


 突然のバカな奴が入ってきたと佐々木と月希のバカがテンションが上が上がるに対して気が弱い周と澪や他の客はどよめく。

 佐々木が言うように現代のほとんどが電子マネーの支払いなのに現金で払うのはよほどの変わり者で物好きかジジババしか現金を使わないこんなご時世に強盗なんて最近のドラマでも見ない。店内に監視カメラもあるだろうから警察へ通報すれば日がくれる前にはあの強盗は豚箱に入るだろう。

 化学が発展した世界で強盗するのは捕まるリスクが大きいってことだ。

 ってコラ。月希、ナイフとフォークで強盗に立ち向かおうとするんじゃない。お前が運動神経が良いからって相手は興奮しているし、片手には包丁を握っている。流石のお前でも怪我をするからやめとけ。

 てかあの強盗の様子がおかしい。


 強盗の右目が義眼なのだろうか?目の白い部分が銀色に見える上に金属を磨いたような光沢がある。

 全身ダボダボなパーカーとスウェットだから体格が分からないけど一瞬服の隙間から肌ではなく金属みたいな無機質な物が見えた。


「おい。あの強盗おかしくないか?」

「ええ、そうね。言動もおかしいし、呂律が回っていないわね。前へ後ろへふらふらしているわ。みんなも観察しなさい。もしかしたらメテオシルバーを使うかもしれない状況になるかもしれないから備えたほうがいいかもしれないわね」


 佐々木が強盗を見ていう。それに答えるようにツンちゃんが念の為に戦う準備をしろとここで戦闘が起きるみたいに言う。

 一般の人もいるのにメテオシルバーを易々と使っていいのかと思う。

 そういわれて俺は右手の中に光の球を生成してもしもの為に備えるが、俺が動かなくても白城や佐々木が先に動いて何とかしてくれると期待する。

 もしかしてあの強盗メテオに寄生されていないか?と強盗を見て思った。新人の俺の勘違いで、あの人はメテオだというのも自信がないが、森や廃モールで見たメテオと同じ特徴があるように見える。

 あの強盗も時間が経てば廃モールにいたメタリックなゾンビになるのではないだろうか?


 ドカン!と何かが吹っ飛ぶ音が店内に響いて店の壁には強盗の型の穴が開いていた。


 音の犯人は白城である。

 白城は他の客から見えない位置で自身の球体状のメテオシルバーを出してそれを蹴った。そのメテオシルバーは凄い勢いで強盗に当り、店の壁を突き抜けて外に吹っ飛ばしたんだ。


「ちょっとネクラ君!他の人がいるのよ。私は確かにメテオシルバーの準備をした方がいいって言ったけど今のは判断が早すぎるわ。もう少し様子を見るべきだったのよ」

「いや、メテオの兆候が見えた。これがベストだ。そして荒っぽいことは俺達がする。おとなしく待ってろ」

「そういうことだ。面倒なことは男の俺達でやってくるわ。女子は会計を済ませてくれ。あと丸々全部、請求は水泡にしてくれよな」

「なんで俺が払わないといけないんだろ?こういう時は割り勘だろ?」

「まあまあ、落ち着いて僕も少しは出すからさ」


 全員で店内からいなくなると目立つから会計を女子達に任せて俺達はどよめく店内から抜け出して白城が飛ばした強盗の下へ駆けつけた。

 強盗と出くわしたら警察が来るまで店内で大人しくした方がいいだろうけど白城や佐々木が確認しなちゃいけないことがあるって言うから強盗のところにいくわけだ。

 警察に取り調べを受ける前に確認することってなんだよ。新人の俺のも何を確認するのか搔い摘んだことでもいいから教えてほしい。道面やツンちゃん達ももその確認する理由も知っっているようだ。俺と月希、周の三人だけが知らないようだ。

 道面もこちら側の子なんだ。メテオシルバーを知っている口なんだ。誰が一般の生徒でそうじゃないかわからないや。

 俺達の跡についていこうとした月希は周に手を掴まれて止められていた。月希が来たら騒がしくなるだろうから何を確認したか後で話すから月希も大人しく待っていてほしい。

 てか佐々木。俺が月希と周に挟まれていて羨ましいからってドリンクバー代を俺に請求させるつもりかよ。ドリンクバーくらいなら出せるが、白城が壁を破壊したからその請求も俺に来るんじゃないのか?


「みんなメテオシルバーを持ったか?」

「持っているっていうか。みんな宿しているよ」

「道面こういうのはノリってもんよ。シリアスな感じの中でネタを言って場を和らげるみたいな。もう面白みがかけるな」

「ごめんね。冗談で言ったんだね」

「ふざけてないで強盗を店の裏に運ぶぞ。ユッちゃん、足の方を持って」

「わかった」


 佐々木のおふざけの真面目に受け取った道面とのやり取りを横目に白城と俺でのびている強盗をファミレスの裏に運ぶ。

強盗は遠くに飛ばされていて、駐車場のアスファルトに刺さっていた。運よく駐車場には誰もいないし、見ていないことを確認した。ファミレスの店内は警察に通報したりとパニック状態で白城がぶち抜いた穴から駐車場を覗く人はいない。


「水泡君もメテオについて知っているんだね。どうやってメテオに適応したの?」

「適応って、交通事故にあった日だよ。病院に運ばれて副担任の一夜先生にメテオシルバーを注入されたよ。いろいろあったけど目覚めてすぐに先生達が管理されているメテオと二連戦で戦わされたよ。あの人スゲースパルタだよな」


 強盗を運びながら道面は俺がメテオについて知っていたのが意外だったらしくそんなことを聞いてきた。

 俺のクローンの身体でスライムなメテオと戦ったことを話した。戦ったのは本体のこの身体じゃなくてクローンの方の身体だったけどな。クローンのことは話さないけど佐々木や白城は森の一件でメテオについて知っていることを知っているから普通に話すけど誰が一般の生徒なのか知らないからうかつにメテオについて喋れないけど。


「なんだよ。お前はそっち方面だったなのか」

「そっち方面ってなんだよ」

「メテオに適応って言ってもよ。パターンがあるんだよ。お前みたいにメテオシルバーを直接体の中に入れられるヤツとかメテオに寄生されてメテオに打ち勝ってメテオシルバーの力を手にするのがある。それがメテオシルバーを直に入れられたのかって言いたかっただけだ」


 その話は一夜先生も言っていたな。殆どがメテオシルバーを注入方法だとっていていたが、稀だと思うが寄生されて自我を保ったまま力に目覚めるパターンもあるのか。


「佐々木は寄生されて打ち勝った方なのか?」

「そうだ。深く聞くんじゃねぇぞ」


 佐々木にも言いたくない事情があるようだ。俺もクローンの件もあるし、人はそれぞれ言いたくないことがあるだろう。

 これ以上聞かない方がいいだろう。

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