第34話 回転寿司より寿司だけが残りって回転はなくなった

「やったー!ルイのかっちー!!」

「嘘だろ!あと少しでKOで落とせたのに!」


 あれから話し合っても時間を浪費するだけなので周が頑張って準備してくれた朝食食って某格闘ゲームをやっている。俺と月希は。周や雹も誘ったのだが、周はゲームが苦手らしく隣でミケーを膝の上に乗せて画面を凝視している。雹は俺を膝の上に座らせて俺の頭部に顔をうずめている。

 幼女になった俺の頭っていい匂いでもするのか。もし男の方に戻ったら嗅いでみよう。


「くっ!手が縮んでなかったら今の試合は勝っていたのに。この身体ハンデすぎだろ」

「あっはは、ユッちゃん弱くなったね。でも今のは惜しかったよ。じゃあもう一戦やろう。今度はこっちのキャラでやるから」

「もうやめーた。全敗しているから今日はもうやりませーん」


 ゲームを始めてから数時間経ったが月希に一勝すらできていない。中三の秋に同じゲームをして十試合中に五勝でキャラの性能関係なくほぼ互角だったはずなのになんで勝てないんだ?いや、理由はわかっている。コントローラーがデカくなったからだ。

 俺の愛機が急激に大きくなったんだ。だって前まで親指が届いていたボタンが届かなくなった。半年近く遊んでいなかった俺の腕が落ちたわけでないはずだ。


「そんなこと言わないでよ。今度は手を抜くから」

「手を抜く俺はもうやりません。これは決定事項だ!」

「じゃあ別のやろうよ。パーティーゲームなんてどう?サブコンで四人でできるよ」

「もうしつこいぞ。どんだけゲームやりたいんだよ」


 幼女のように頬を膨らませて拗ねて見せる。雹に抱かれているから月希に俺の顔が見えるはずもなく。

 しかもゲームがやりずらい。雹の吐息が首筋に当たっってくすぐったくて集中できない。膝の上だから安定できない上に三時間以上同じ体勢で身動きが取れないから腰が痛くてしょうがない。雹はしっかり俺の身体をホールドして離してくれないようだ。もう限界でこれ以上我慢できない。


「ゲームは終わりましたか?せっかく学校がお休みになったのでお出かけしませんか?」


 周は俺達がゲームをやめたのを見計らってそんな提案を出した。


「それは何?それは買い物を行こうって?」

「それいいね。出かけようよ。ユッちゃんも起きたことだし遊びに行こうよ」

「そうね。昨日はコンビニでご飯を買いに出かけた以外、私達ホームに籠りっきりだったしね。最近ここに閉じ込められていたわけで精神衛生上よくないわよね。雪くんの枕も買えていなかったし、今着る服も下着も買わなくちゃね」

「それじゃ、決まりだね。ショッピングに行こう」


 三人の少女たちによって出かけることが決定した。俺に聞かないのね。

 しかし、出かけるにあたって重大な問題が発生している。雹が今の俺の服を買いに行く以前に今の俺の状態が着れる服がないことだ。そして今着ている服は月希の中学時代の半袖と半ズボンのジャージを着させられている。ここにある一番小さい服らしい。それでもブカブカで動けばズボンがずり落ちるんだが、その上パンツも履いてないからノーパンだ。起きてからこれを着させられていた。着ていた男物部屋着よりは小さいけど月希の匂いがしてドキドキする。

 それでこのホームには女児が着れる服がないわけだ。

 俺は履けるパンツもないのにどうやって出かければいいのか?みんなに聞いてみたら、こんな回答が返ってきた。


「ユッちゃんはそのままでいいじゃん?上下を安全ピンで固定すれば落ちないよ。確かヒョウちゃんが持っていたと思うよ?ヒョウちゃん持っているよね?」

「ええ、持っているわ。今、持ってくるわね」


 月希のやつに言われた。確かに複数の安全ピンで固定すれば落ちないだろうがノーパンだぞ。半ズボンの隙間から風が入ってスースーするんだぞ。お前もやってみろって言いたかったが、ノーパンスカートよりマシだと思い、それで妥協した。


 雹のやつが安全ピンを手に「私がやってあげるわ」と言いながら俺が着ている半袖の中に手を入れようとしたので噛みついて雹の手から安全ピンを奪って、自室に逃げてきた。雹は恐怖を感じてかなりヤバかった。あれはホントに妖怪氷結女だった。無表情で迫ってくるんだもん、誰だって噛みついて逃げるはずだ。


 自室に戻った俺は半袖の脇の下と半ズボンの腰の部分に安全ピンで留める。かなり上げパンになったがこうしないと歩きにくくて転んでしまいそうだ。

 ほんと小さい子供の身体は不便だよな。某少年漫画の幼児化した少年探偵もこんな苦労したのかな?女児化はしてないと思うけど俺もあんな風に幼児化して小学生として小学校に通ったら天才として扱われるのかな?

 小学生程度の問題を解いてホルホルしている自分を思い浮かべたら、なんだか虚しくなった。


 安全ピンを装着した俺はカードフォンと財布を持てば準備OKだ。ホームから出るために必要な生徒手帳は持って行かない。それは月希達に三人にくっついていれば外に出られるのは確認済みだ。

 しかし、普段ズボンのポケットに入れているカードフォンと財布がこの状態だとポケットに入れられないので手に持つしかない。無いと落ち着かないのにこれほどカードフォンと財布を邪魔だと感じたことは初めてだ。

 丁度いい鞄とかあるといいのだが、元男の俺だ。そんな物部屋に置いてあるはずもなく、泣く泣くカードフォンは置いていくはめになりそうだ。


 財布を持ってと出ていこうとしたがベッドから寝息が聞こえた。ベッドには男の俺の上にミケーが気持ちよさそうに眠っていた。あたかもこいつは俺のベッドだと言っているようだ。

 男の俺も寝息をたてているが、ミケーも負けじとフゴフゴと変な寝息をたてている。これは寝息というよりいびきと言ってもいいほどデカい寝息だった。

 季節は春先で寒かったからミケーを部屋から追い出さずにそのままにしといた。俺のモコモコな毛布がよほど暖かくて気に入ったようだ。男の俺が風を引いては困るし湯たんぽ代わりになるから今は見逃してやろう。


「お前という猫は、猫の癖に俺の上で眠るなんて生意気な猫だな。粗相したら部屋から一生入れてやらないからな」


 文句を言いながらもリビングに出る前にドアを閉じないように開けたままにしておく。ドアを閉めておくとミケーが粗相をして男の俺が猫のトイレ代わりにされかねない。


「みんな遅いな。まだ準備しているのか?女子は準備が長いな。今の俺も女子だけど」


 リビングに来てみたが誰もいなかった。まだ、準備をしているようだ。テレビを見ながら、しばし待つことにした。平日の午前なので面白い番組はやっているもなく、ニュース番組しかやっていなかった。

 興味のないニュース番組を見ながら月希達が来るのを待っていると昨日のニュースと思われる報道が流れた。


『私は今ガス爆発が起きた流桜学園に来ています。御覧ください。一部の校舎が半分崩れています。なぜ大規模なガス爆発が起きたのか原因は調査中ですが、急ピッチに校舎の修復をしているようです』


 テレビに映し出されたのはアナウンサーのバックに破壊された校舎を複数の作業員が修復作業をする光景であった。崩れた個所は俺が学ぶ教室ではなかったが、通う学校がこうも報道されていると学校が破壊されて休校になった理由を考えさせられる。

 表向きではガス爆発が起きて休校になっているが、本当の理由は学園のメテオを狙う何者かの手によって破壊された。このニュースを見ている人はメテオなんて知らないだろう。

 ガス爆発もだいぶ大事件だと思うが、俺は人類の捕食者であり、敵であるメテオを同じ人同士が奪いあうのは理解できない。メテオの死骸はテレポート装置などに使われているから権力者や化学者達にとって優良な素材であるが何も知らない一般人にとって未知のモンスターでしかない。

 一般人や外国にはメテオの存在は厳重に秘匿されているようだが、カードフォンでいろいろ調べてみたがメテオ関わっているっぽい事件はいくつも個人サイトに書かれている。ほとんど怪しげなオカルトサイトだ。内容は当たらずも遠からずと言った感じだ。

 俺が小学生から見ていたオカルトサイトもそれらしい記事があった。銀色に輝く狐や複数の動物が合体したみたいなキメラな生き物を山や森で見たって記事を見たことがある。見間違いやホラ話だと思っていたそれらの記事は偶然一般人が発見したメテオに関する情報だろう。

 元一般人だった俺は社会の裏にこんな危険生物がいたなんて知らなかったし、地球外生命体のヒントがこんなに散りばめられていたことに気づかなかったなんて少し悔しくと思った。知っていたらこんな危険と隣り合わせな学校に入学することもなかっただろう。俺は安全圏でオカルトという名の娯楽を楽しみたかったのだろう。それはもう過去のことで、過去の卑怯な自分の考え方に嫌になった。


「お待たせー!!」

「待っていたようね。すぐに行くから雪くんは私に抱きつなさい」

「やっときた。もう少しで寝落ちしそうになったぞ」

「雪さん、ごめんなさい。月希さんが私のズボンをとって返さなかったので」

「だってアマネンはジーンズパンツよりワンピースの方が似合うだもん。そっちのほうがいいよって言ってもワンピースを着ないんだもん。それにヒョウちゃんだってムゴッ」

「はーい、おしゃべりはここまでにして買い物に出かけるわよ」


 月希達がようやく準備をリビングに来た。

 俺に抱き着こうとした雹を躱し、文句を言いながらテレビを消して三人を見上げる。

 パジャマから私服に着替えるときに月希の悪ふざけがあったり、雹は雹で何かしていたようだ。それを言おうとした月希が雹に口を塞がれている。

 それで時間が長くなったのか。月希が何を言おうとしていたのか気になるが早く行って早く帰って休みたい。せっかく学校が休みになったんだ。ベッドの上でゴロゴロしたい。


 俺は周の右手を握り、周の反対手に持った周の生徒手帳を周の写真を長押しタップすると視界がぐにゃーって歪む。歪みが消えれば校舎裏に俺達は立っていた。

 俺は顔を空に向けると校舎の角が崩れているのが目についた。直接自分の目で確認すると学園でイレギュラーが起きて学校が休みになったんだと実感する。


「すごい!ここまで直ったんだね」

「直った?」

「そうだよ。あっちとかあそこも崩れていたんだ」

「そっちは第二校舎の方だよな?あれも崩れていたのか?」

「ええそうらしいわ。私は聞いただけでホームで雪くんを見ていたから見ていないけどルイや周さんはどこが壊されていたのか知っているはずよ」

「そうなんですよ。昨日行った時は半分が瓦礫の山になっていたんですよ。でもたったの一日で元通りにするなんて驚きました」


 月希が指した第二校舎の方には建物修復に使ったと思われる重機や骨組みが置いてあった。第二校舎には崩れているようには見えない。物が置かれているだけに見える。

 昨日買い出しに出かけた月希と周は昨日の惨状を目撃したようで修復作業がここまで進んでいるとは思っていなかったようで驚いていた。


「まずはどこに行きましょうか?」

「そうね。ショッピングモールに行きましょう。あそこなら寝具から子供服まで売っていそうだわ」


 どうやらショッピングモールに行くらしい。一昨日の夜でモールは懲り懲りだが、ほかに行きたい場所もないから付いていくしかない。

 俺達四人は丁度良く学園の近くで停車したバスに乗ってショッピングモールへ向かった。バスの中は空いていたのにも関わらず雹の膝の上に座らせられた。

 バスに揺られながら小一時間、到着したショッピングモールの駐車場は寂しさを感じた廃モールの駐車場とは大きく異なり平日なのに数多くの車で埋まっていた。


「さすが今月開店したばかりは混んでるわね。雪くん迷子にならないように手をつなぎましょう」

「なんでだよ。俺は子供じゃねえよ。子供扱いするな」


 悪態をついたが今の俺は幼女で説得力は皆無だ。一人でモールの中を行動したら迷子センターのお世話になってしまうだろうけど、中身は高校生だ。手をつなぐ必要はない。

 しかし、こんなに駐車場が埋まっていると思ったら今月開店したばかりのショッピングモールだったのか。この車の量はモールの中は人であふれているに違いない。

 うっ、頭が、モールの駐車場に立って嫌な記憶がよみがえる。最近の廃モールでのあふれるほどのゾンビに囲まれた記憶が...。よりにもよってモールは無いだろうって思い始めてきたぞ。


「ユッちゃんお腹すいた?もうお昼だもんね」

「ん?気にしないでくれ。別に空いたわけではないが」


 暗い中のゾンビの記憶を思い出して俯いていたら、月希が腹が空いたもんだと勘違いしたようだ。昼の時間帯はきっとモール内はどの店も混んでいるだろう。平日だから本当に混んでいるかは知らないけど。

 できれば買い物を済ませてモールから早く出て、おうちに帰りたい。

 なんでみんな大丈夫なんだよ。俺が腑抜けなだけなのか?あの時と違って外も中も明るくて人もあーとかうーとか唸ったりしてないけど一昨日の夜のこと思い出さないのかな?


「確か入口に回転ずしがありましたハズですがそこがいいと思いますよ」

「お寿司か。いいね。アマネン」

「回転寿司ね。久しぶりだわ。雪くんもいいわね?」

「ああ、なんでもいいよ。寿司だろうが、ハンバーガーだろうが、食べたい店に決めてくれ」


 早く決めてパパっと食べて帰ろうや。早く。

 お昼はモールの入口にあるテナントの回転寿司になった。さっそく三人の少女達に連れられて入店した。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

「四名で」

「四名様ですね。こちらのテーブル席へどうぞー」


 俺達の入店に気づいた店員が話しかけてきてので雹が受け答えをして、店員に席まで案内された。レーン側に周と雹が座り、通路側は俺と月希が座った。ちなみに俺は周の横だ。


「最近の回転寿司って回っていないんだよね?衛生上の問題かな?」

「そうですよね。最近まで回っていたはずなんですけどいつの間にかタブレット端末で注文するようになったのですよね」

「これの方が寿司を長時間放置して痛めることはなくなったじゃないのか?焼肉とかのチェーン店もこういう注文システム多くなっていないか?こういう時代になった実感はわくけどな」

「雪くんは何食べたい?先に決めていいわよ」

「雪さん、お茶どうぞ」

「あんがと、って注文は俺からか?こういうのはレーン側に座ったやつから注文するんじゃないのか?」


 と言いつつもテーブルに設置してあった注文用のタブレットを雹から受け取り、画面に表示されたメニューとにらめっこする。

 腹の空き具合はほんの少し空いている程度。この身体に慣れていないからどのくらい食べらるかわからない。幼女が食べられる範囲は少ないだろ。

 サーマンとマグロとイカを注文した。


「注文したぞ。次は誰だ?」

「はーい。次はルイが注文する!何がいいかな?ケーキもいいし、パフェも捨てがたいよね。うーんどれにしよう」


 寿司屋に来てスイーツかよ。本人が食べたいならいいけど。

 数分経っても月希の注文は決まらず、タブレットがポロローンと鳴った。どうやら俺が注文した寿司が来たようだ。寿司は回転していたはずの回転レーンの上を新幹線を模したレーンが注文した寿司を運んできた。


 回転寿司も変わったものだな。昔は回転寿司から回転がなくなるとは思わなかったぞ。その分数分で注文した品が届くシステムに変わったがな。

 それにしても寿司屋なのにスイーツの種類多くないか?


 向かいに座る月希が各種のスイーツをタップする姿を見ながらマグロを頬ばった。

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