第33話 っえ?小さくなっている?

「っはぁ?嘘だろ?体が縮んでる?俺また何かされたのか」


 いやいや、俺はどこぞの漫画の高校生探偵じゃないぞ。寝ている間に変な薬を飲まされた可能性があるかもしれないけど。正体不明な組織に身を置いている上、何かの実験で何かされたかもしれない。知らない間にクローンが作られたし、この体に何かしらの細工されていてもおかしくない。

 身体がいろいろおかしい感じがする。気だるいというか。頭がボーとしている感じだ。熱っぽい感じもするし、すごく体調が悪い。

 気だるい体を酷使してても確認しなくちゃいけないことがある。そはこの体がどっちかって話だ。

 俺には本体である男の体と自分のクローンの体がある。意識は片方しか乗り移れない。乗り移るとか自分が実態を持たない精神だけの存在に思えてすごく興奮するな。

 悪いことに意識が男の体になったり、クローンの方になったりと変わる。何がトリガーになっているのかわからない。自分で切り替えをコントロールできたらどんなにいいか。体が増えてからクローンの体に乗り移っている時間が多い。

 まだ一週間ぐらいしか経ってないが、女としの過ごし方に慣れたような気がする。


 今、俺の意識が入っている体はどっちなんだ。もし、男だったら某少年漫画の見た目は子供、頭脳は大人になってしまう。バカな俺の頭脳は大人とかは置いといて、今の体はどっちかって話しに戻るが、クローンの身体には胸があるが、今の身体はぺったんこだ。しかし、女性は必ず幼い時の胸は未発達だ。仮にクローンが縮んでも胸があるかはわからない。クローンが縮んでも胸があるなら幻のロリ巨乳が出来上がる。

 胸で本体かクローンかを確認することができない。なので股間部分で確認するしかない。


 履いていたズボンとパンツは布団から抜け出すときに脱げてしまったらしく今の俺はノーパンの状態だ。頭がボーとしているから股の感覚があやふやでズボンが脱げてしまったのは今気づいた。

 チンとタマの存在が感じられない。いや、これは具合が悪いから体調の感覚がおかしくなっているのであるのかわからなくなっているだけだ。目視と感触のどちらかで確認するしかない。

 なんで俺は本体かクローンかの確認するだけでこんなにビビッているんだ。男なら勇気をだして思いっきり触って確認するべきだろ。


 俺はブカブカになったTシャツの裾を左手で捲し上げて、右手で股間にゆっくり触れる。

 ゆで卵のようなつるんとした感触した。すすっと肌をなぞるように指を下の方に移動して確かめた。

 チンとタマがなかった。この体はクローンだ。

 心のどこかで安心している自分がいる。本体の方が縮んでいたら、今後の人生に問題が生じると思ったからだ。体が二つもあるから現在進行形で人生に問題が生じているが、数十年も生きてきた身体だ。それが幼くなったら嫌すぎる。小さい身体と生活に不自由を感じるし、月希や雹のおもちゃにされる。それは幼くなくたって変わらないか。

 あれからどうなったのか知りたいからとりあえず月希を起こすか。


「おい!月希起きろ!」

「うーん。お母さんもう少し寝かせて」

「クソ、こいつ寝ぼけてやがる」


 ベッドの上で寝息を立てている月希を揺する。

 身体が小さいから小柄な月希さえ大きく感じる。そして重い。月希を揺するだけでも重労働だ。


「ハアハア、こいつ全然起きないぞ。こんなことを続けていたら俺の体力が持たない。月希は諦めるか」


 月希に呼吸を止めさせて起こそうとしたが、顔を俺が包まっていた布団に埋めているから呼吸を止めて起こすのは無理だ。コチョコチョ攻撃しても起きなかった。これ以上したら俺が倒れる。

 月希をこのまま寝かせて置くとしよう。騒がしくなるだけだしな。

 月希の自室から出た俺は本体が眠る自室に入ろうとしたが。


「雪くんー♡。この匂いサイコ!」


 ヤバい声が中から聞こえた。急に変な汗がドバドバ出て回れ右をして引き返した。

 幼女な俺にはまだ早すぎる。

 あの声は雹だな。雹は一体、中で何をしているだ。恐ろしくて覗くことさえできなかった。


 喉が渇いたな。水でも飲みに台所にいくか。自撮り写メで時間を見ていなかったな。今の時間は4:00を過ぎている。この時間帯は誰も起きないだろう。

 今気づいたが、ダイニングの照明のスイッチには手が届かないし、この体が小さくて水道の蛇口に手が届かない。イスを動かして、それに上ってコップに汲むしかない。この身体にとって重労働だ。ほんと不自由過ぎる。

 誰だよ。クローンの身体を幼児化させたやつは。嫌がらせにもほどがあるだろ。

 イスが重いから照明のスイッチまで持っていって、そのあとにシンクの前までイスを運ぶのは面倒だ。明かりはカードフォンのライト機能で十分だろう。


「このイス凄く重いな。うわ!何か動いた」


 俺が持っていこうとしたイスに何かがいた。そいつは俺の手に触れた。すぐさまカードフォンのライトでそいつを照らした。

 そいつの正体は廃モールで出会った三毛柄の子猫だった。そいつはイスの上で寝ていたようだ。俺の手に触れてのはこいつの尻尾だったようで今もゆらゆらと揺らしている。

 月希のやつ、結局飼うことになったんだな。先生もよく飼うことを許可したもんだな。


「お前は確かミケーだったか?よかったな。飼われることになって」(月希が三毛猫だからミケーと名付けたみたいだ)

「ニャー」


 ミケーはウザそうに鳴いた。この猫はイスか降りる気配がない。別のイスを持っていくしかなさそうだ。その隣のイスを持っていこう。


「これも重いな」

「ニャー」

「えっ?お前さっきこっちのイスに寝ていなかったか?」


 いつの間にこの猫は移動したんだ?今度は正面のイスをミケーが乗っていないことを確認して引っ張る。


「重い」

「ニャー」

「またかよ。どうやっているんだ。お前はメテオなのか?からかいやがって、お前がその気なら俺だってお前が飽きるまでつきやってやる」


 イスの上にいないことを確認したのになぜかイスを引くと乗っている。どうなっている?ってこいつもメテオの可能性があるんだ。俺が気絶(?)する前化け猫の亡骸の回りで寂しげに鳴いていたんだ。あの場を見たらこいつを化け猫の子だってそう思う。メテオなら短距離のテレポートだって易々とやれるだろう。本当、先生こいつを飼うの許可したよな。

 月希がすごくゴネたのだろう。先生も気の毒にって勝手にクローンとか作られたから同情できないな。

 月希はちゃんとこいつの世話できるのだろうか。


 小一時間、俺とミケーの椅子取り大会が始まり、最終的に俺がバテた。

 力尽いた俺は小さい身体でソファーを上り、倒れた。


「うぐっ!」


 うつ伏せで横たわる俺の背中に何かが乗った。

 それは何かはわかっている。バカ猫め。人の上に飛び乗ってきたな。俺に追い払う気力がないことをわかっているのか。そのまま丸くなって眠りにつきやがった。

 俺がイスの上で寝ていたのを邪魔した報復なのか?

 このバカ猫をこのまま背中の上で寝かせるしかない。

 生き物が背中に乗っかっているから背中があったかい。寒い季節に抱いて寝るにはいいだろう。抱いて寝る分にはな。背中だけ温かくなっても肩や足先が寒い。毛布を持っていきたいがバカ猫が乗っかているから動けない。

 気だるい体を酷使し過ぎたせいでだんだん意識が保てなくなった。誰かが入ってきたな。誰だ?


 この体制ではドアのところが見えない。

 意識が落ちた俺はミケーを背中に乗せたまま眠りについた。


 ☆


「うっ、うーん体がめちゃ重い?いや、人の腕?」


 俺は何時間寝たのだろう。霞む目を擦りながら身体を起こそうしても起きれない。誰かに抱かれているようだ。もぞもぞと手を動かしていると俺を抱く誰かの手に触れた。

 何これデジャブな感は。さっきと同じ感じがする。でもすごくいい匂いがする。もう少しこのままでもいいかも。


 微睡み中の俺の頬を撫でた。

 フッと目を開けると絹のような綺麗な黒髪が目に入った。物理的に。

 目に入った髪を取り除き、再び目を開けた。雹と目があった。


「おはよう、お嬢さん。あなたは誰かな?」

「お、おはよう、雹そんな冗談はいい。早く離してくれ」

「あら、やっぱり。雪くんだったのね。こんな可愛くなっちゃって。うふふ」


 びっくりした。目を起きたら雹の顔がキスできそうなくらい近かった。状況が整理できなくて一瞬、脳が固まった。そのおかげで眠気が吹っ飛んだぞ。

 人の頭ってこんなに早く活性化できるんだ。不思議だね。

 雹は幼くなったクローンは俺だと予想していたようだ。しかし、なんでこいつは俺を抱いて横になっているんだ?

 よく部屋を見たらリビングじゃない。確かリビングのソファーで眠ったはずなのに。この部屋は雹の部屋か?俺はなぜ雹の部屋で寝ているんだ。うーん思い出せない。

 普通に考えて雹にベッドまで運ばれたのだろう。


「もう起きちゃったの?次ルイだったのに。ねぇ、もう一回月希と寝ようよ」


 部屋に月希が入ってきて一緒に眠ろうと誘ってきた。


「月希、お前な。夜中俺を絞め殺す勢いで抱きしめていただろ。あれ死ぬかと思ったんだぞ」

「やっぱり、ユッちゃんだったね。でもユっちゃんが幼児化していたと気づかなかったからあれはノーカン。ルイと二度寝しよ?ルイはユキニウムが足りないの。不足すると死んじゃうの!」

「中学時代俺の部屋に忍びこんで添い寝してたろ?ユキニウムってなんだよ?コラ、抱きつくな」


 月希は中学時代というかつい最近まで俺のベッドに侵入して添い寝した罪がある。

 母さんが月希を入れていたんだよな。姉も妹も黙認していたんだよな。不法侵入ではないけど、気づいたら月希が隣で寝ている状況はびっくりするんだよな。夏場とかめちゃくちゃ暑苦しいくてやめてほしかった。胸といつも触っていたりして少し得した気分でいたのは本人には内緒だ。最近は立場が逆転して月希が俺の胸をよく揉んでいるが。

 そして今は俺の胸は無い。あるって言えんば歩けど少しだけだ。膨らみかけっている感じだ。胸を揉まれることはなくなったが、今度は力強く抱きしめらるようになった。苦しいのだ。


「女の子が起きたんですね。よかった」

「そうだよ。ちなみに女の子正体は幼女化したユッちゃんだったよ。幼女のユッちゃんもすごくかわいいよね。寝顔なんて最高だよ!」


 俺達が騒いでいたからリビングで朝食の準備でもしていた周がエプロン姿で現れた。周は俺が寝ざめたところを見てほっとした表情をしていた。


 俺の寝顔なんてそんないい物でもないだろうに。月希のやついきなりハズいこと言ってんだ。それと抱っこをやめろよ。口元が胸に塞がっていきができねぇ。俺を窒息死させるつもりか。


「ふー。何とか抜け出せた。俺のことは構わなくていいからお前ら、今日学校だよな。さっさと朝ごはんを食べて学校にいけよ。俺は身体がこんな状態だからいけないけどよ。お前ら遅刻するぞ」


 月希のおっぱいプレスから抜けだした俺は雹のベッドに座り、睨んだが上目遣いで睨んでいるようには見えなかったようで月希に可愛いって頭を撫でられた。

 まったくよ。こいつ等ときたら、学校があるのにこんなにゆっくりしていいのか?いくらテレポートですぐに学校に行けるとはいえ三人部屋着じゃないか。さっさと行く準備をして学校に行かないと遅刻するぞ。俺は今、幼女の状態だから学校にいけないから今日は留守番になるが。

 三年間の皆勤賞を狙っていたが、入学式の初っ端から休んじまったからしょうがない。


「えっ?何言っているの?今日は金曜だけど学校休みだよ?」

「月希さん、雪さんは自分が二日間も寝ていたのを自覚していないのですよ。それに雪さんが寝ていた間のことも教えてあげないと」


 今日は金曜日!?それよりも俺は二日間も寝ていたのか?

 俺が寝ている間何が起きたのか気になるが二日も寝ていたなんてへこむな。この身体は幼児化したし、体調が変になっているのかな?


「私が説明するわ」


 雹が俺が寝ている間の2日間、何が起きたのか説明してくれるらしい。

 月希や周より状況を理解していそうだし、適任だろう。


「雪くんが寝ている間、昨日の朝ことなんだけどガス爆発がおきて校舎の一部が壊されてそれで今日がお休みになったわけよ」

「それだけか?たいしたことないな」


 何が大事件でも起きたと思ったが、なんだガス爆発で学校が休みになったのか。身構えた俺がバカみたいだ。


「そんなの表向きに決まっているじゃないの。本当は何者かの破壊工作らしいわ。そして学園が保管していた実験用メテオも何体か、無くなったらしいわよ。それで昨日と今日はお休みになったの」

「そんなことより昨日の朝ソファーに幼児化した雪さんが寝ていたんですよ。私達の中で大騒ぎでしたよ。朝なんとなく起きてリビングが騒がしかったので見に行ったみたら小さな女の子がソファーに寝ていましたからびっくりしましたよ」


 自分達が通っている学校が破壊されたのにそんなことって言っちゃったよ。通っている学園の校舎が何者かに故意的に破壊された大事件なのに俺が幼児化したことの方が衝撃的な出来事だったのか?

 ん?昨日?


「昨日ってどういうことだ。俺はこの状態で丸一日寝ていたのか?」

「はい。それはとてもびっくりして雹さんや月希さんを起こして介抱しました」

「それでね。ユッちゃん。ユッちゃんを発見したアマネンがすごく面白くてね。リビングに知らない女の子がいます。雪さんが見当たりませんって大騒ぎだったんだよ。その動画を撮ったからあとで一緒に見よ?」

「それは雪さんには内緒の約束だったはずですよ。なんで言っちゃうのですか!動画も撮っていたのですか!雪さんには見せちゃだめです。すぐに消してくださいよ」


 どうやら俺はこの状態で丸一日寝ていたらしい。

 周の大騒ぎの動画は後で見るとして、この状態になってから24時間以上経過してもクローンの身体は変わりなく、見た目が幼女のままの状態ってことはクローンはこのままになるってことなのか。この身体で過ごすなんてやだな。イスの攻防戦で体験したがこの小さな身体は不自由過ぎる。背が低くくて力がない。こんな状態ならメテオとの闘いは免れるかもしれないが、神は俺に女子として小学生からやり直せと言っているのか。神様も嫌がらせじみた無理を言うな。


「先生にはまだ雪くんは眠っているって伝えているわ。あながち嘘ではなかったしね。雪くんが幼児化したのは正直私達も困惑しているわ」

「ヒョウちゃんが一番ユッちゃんを堪能していたけどね」

「雪さんを私のベッドで寝かせていたのですが、私達が目を離した隙に雪さんのベッドに連れ込んで川の字で寝ていたんですよ」

「それはあれよ。先生達が勝手に雪くんのクローン二号を作って、その面倒を私達に見させるように連れてきたと思ったのよ。雪くんの幼女のクローンはそれは私の娘なの。娘と一緒に寝るのは当然のことよ?」

「この姿で学園に行けなくったが、これからどうする?ずっと先生達に黙っているわけにはいかないだろ?一夜先生に連絡して今後について話し合ったほうがいいんじゃないのか?」

「ちょっとー無視ってどういうことよ?」


 雹がヘンテコ論理を展開し始めた。意味わからなかったからスルーしといた。

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