第32話 異形達の最後と突然変異

 俺の全力を乗せた一撃でモールは光のベールに包まれた。

 後日何も知らない人達の間でこの現象は光の爆発現象と呼ばれることとなった。流桜市に新たな都市伝説が誕生した。後日、俺はその記事を読んでその都市伝説の原因が自分だと気付かずに興奮して、オカルトサイトの人々の考察記事をカードフォンで読んでいるところを雹に原因が自分達だと教えられてがっかりした。


「や、やったか?」

「ユッちゃん、それフラグ!言っちゃダメでしょ!」


 真っ白い光が視界を多い尽くす中、俺は月希に意味不明な突っ込みを受けた。

 今思えば、今の魔法染みた攻撃は某アニメ映画のお城崩壊させる呪文バ○スだな。月希の突っ込みもそれのネタなのかもしれないな。

 オカルトサイトばかり読んでないで高校生らしくラノベや漫画などを読んだほうがいいのかもしれないな。中学の時、クラスメイトの話題に度々つけていけなかったしな。月希からオススメを借りよう。そういう漫画を持っていたはずだから。


「おい!こういうことやるなら事前に言えよ!」


 爆発的な光で視界をやられた一夜先生が悶絶していた。大先輩で大先生なら俺がやろうとしていることを察して光から目を守ることができたと思ったのだが、守れなかったようだ。

 俺達を夜にこんな場所に連れ出して化け物退治させる先生に俺なりのちょっとしたかわいいイタズラだ。

 崩れた壁に隠れていた周や雹と月希は光が爆発する瞬間に目を背けていたので一夜みたいに悶絶することはなかった。


 人相手にこれは使えるな。一般の人には使わないけど月希達を誘拐した男が所属している組織、先生達と敵対しているようだから俺達もいづれ戦うことになるだろう。その時は奇襲の時に使える。もしかすると学園とも敵対するかもしれないかな?

 撤退するときにも逃げる際に目眩ましにも使える。


 徐々に光が消えて真っ暗なモールが視界に映る。

 化け猫と化け物が針に貫かれた状態で倒れている。そして少しずつ体が鈍い色へ変わっていった。

 それは学園の異空間で戦ったスライム達の最後の同じで、メテオが死んだと表している。

 しかしながら実感がわからない。こんな化け物二体を俺達が倒したなんて信じられなかった。片方は一夜先生と戦っていたようで多少消耗していたけど本当に俺達が倒したのか?


「終わったんだな」

「そうだよ。ルイ頑張ったよね?褒めてよ」

「あぁ、スゴイスゴイ」


 月希が自分の胸を俺に押し付けて褒めろと言うので褒めて、おまけに頭を撫でてやる。


「エヘヘ、今日は一緒にお風呂入ろうね」

「ルイ、それはいい考えね。私も混ぜてほしいわ」

「一緒に風呂なんか入るわけないだろう。俺は本体と入るんだよ。おい、胸を揉むな」


 月希と雹にじゃれつかれていると。


「ゆ、雪さん、化け猫の死骸に…」

「どうした?」


 周が何か気付いたようだ。

 周が人差し指を化け猫向けているので、視線を化け猫の方に向けると、化け猫の死骸に寄り添う小さな影が見えた。小さな影をよく見てみると。


「あの子は!」

「さっきの子猫だ」


 月希や周が連れ帰ろうしていた三毛猫だった。

 異空間の中で逃げたした子猫は鈍い色に変わっていく化け猫の死骸に寄り添い、もう動くことのない前足や顔を舐めてミィーミィーと鳴いている。

 その姿はとても悲しそうに見えた。


「あのメテオはあの子のお母さんだったのかな?」

「さぁな。もしかするとあの猫もメテオかもな」

「あの子がメテオでも飼いましょうよ」

「いやいや、それはダメだろう?黙ってこっそりホームに入れるのはできたと思うが、一夜先生の前でよく言えたな。あの人が見逃すと思うか?」

「あの子がもしメテオだったら実験台になるわね。可哀想だけどメテオは危険だからそういう可能性もあるわ」

「じっ、実験台、私達がちゃんと見るって条件はどうでしょうか?」

「そうだよ。アマネンの言う通りだよ。ルイ達がちゃんとお世話をしてあの子が危なくないって証明するの」


 そんなこと俺や雹に言っても仕方ないだろう。先生に直接言わないとダメって言わなくても月希と周はわかっているだろうな。俺が言わなくても二人の顔は諦めている顔だ。


「しょうがないわね。先生に四人で頼み混みましょう」

「ヒョウちゃん!」「雹さん」


 えっ?雹さん?四人って俺も入っている計算何ですか?俺一言も言っていないのですが。

 もうしょうがないな。二人はその気になっているから俺も先生にお願いするか。

 等の先生はカードフォンで何処かに連絡を取っているようだ。やっと今夜の任務はこれでおしまいと言うことか。本当に長かった。


 俺は三毛猫の子猫を保護するために化け猫と化け物の亡骸にそっと近づく。子猫が驚かないようにと鈍い色に変わっていくメテオがまだ生きているかもしれない。近づいた瞬間に襲ってくるかもしれないと注意しながら死骸を警戒しながら…


 あれ?頬に冷たくてゴツゴツした物体が当たっている。目に映る光景もおかしい。なんで横になっているんだろう?

 なんか眠くなってきたな。連戦の数々で疲れたのかな?そうか。俺は倒れたのか。大型のメテオを二体も倒して達成感とこれで終わった安心感で気が抜けたのかな?


 子猫は俺が倒れたのに驚いて化け猫の死骸のしたに隠れてしまった。これじゃ保護するのが大変そうだな。

 誰かが近づく気配を感じる。月希達だろうか?俺が急に倒れたから駆け寄ってきたのだろう。みんなに心配かけちまった。

 終わったことだし、後はみんなに任せて眠ろう。


 ☆


「どうしよう。ユッちゃんが倒れた!」

「それは大変!早く帰ってベッドに運びましょう。今夜は雪くんのベッドで雪くんと川の時になって、ウフフ」

「さすがにヒョウちゃんでもユッちゃんがこんな状態だからって抜け駆けさせないよ。ユッちゃんが目覚めるまではルイが看病してあげるの!」

「羨ましい、私も看病したい、一緒に寝たい。でも二人圧が…」


 雪を巡る凄絶な牽制を繰り広げる月希と雹。それに混ざりたいと周が密かに思う。それを見てため息が零れる一夜は夜に浮かぶ月を見る。


「水泡は単に疲労で疲れたんだろう。お前らは入ったばかりだろ?残りは私が片付けておくからお前らは帰れ」

「先生待ってください。メテオの下に子猫がいて」

「子猫か。あー今日はもうめんどくさいからいいか。わかった。今回だけ見逃してやる。その猫に異常を見つけ次第即座に報告をするように」


 四人の少女達の会話である程度状況を察した一夜はメテオの死骸を軽々と落ちあげて下に隠れていた子猫の首根っこを掴んで月希に向け放り投げた。

 メテオ化した動物が子を育てることが多々あって、珍しいことではない。何せメテオを取り込んだ人間が身体の中のメテオを操ってメテオと戦っているんだ。メテオを取り込んだ動物が子を育てているなんて驚かない。

 一夜に取ってただ報告書に書く内容が増えるだけの些細なことだ。この後に今回の件について知っている同僚の回収班を呼んで死骸を回収した後、雪のデータをまとめたりといろいろな雑務が残っている。そこにプラスするように教員としての仕事が残っている。

 報告書に書く内容をなるべく減らしたい一夜としてはその子猫はただの猫として処理してお世話もろとも雪達に監視して異常事態の時に報告してもらえばいいと考えた。

 子猫の件については別件して先延ばしにしたのだ。子猫が後に凄い事態を巻き起こすことも知らずに一夜は胸ポケットにしまっていたカードフォンを取り出して同僚にメッセージを送った。


「さぁさぁ、学生は帰った。これからは私達の仕事だ。早く帰って休め。明日も学校があるだろ。明日に備えて帰れ」

「この時だけ子供扱いって酷くない?」

「でも先生は事情があるかもしれないですよ」

「そうね。しょうがないわ。先生は私達を秘匿したいでしょうし、面倒な後片付けをしてくれるって言っているの。ここは甘えましょう。子猫は私が抱くからルイは雪くんをお願い」

「この子の名前はミケーだよ。覚えてよ。それとアマネン帰ったら手の治療ね」

「わかりました。でもこんなの掠り傷ですよ。イタタ」

「掠り傷じゃないでしょ?血が出ているし、もしかしたら骨折しているかもしれないわ。雪くんを寝かしたら病院に行くわよ。学園の隣なんだし」

「あの病院ですか?あの病院はいやですよぉ」

「わがままはダメだよ。アマネン。ルイもついて行ってあげるから」


 四人の少女が半壊したモールから姿を消えてかしましかった空間に静寂が訪れた。その数分後一夜の同僚の回収班がきた。


「お疲れ様でーす。今回は派手にやりましたね。建物が半壊じゃないですか。しかもこんな大物ですし手こずりましたか?」

「まぁな、さっさと仕事をしろ。早く帰って一杯やりたいんだ。さっさと終わらせろ」


 お調子者の同僚にうんざりする一夜はイライラしているんだぞと言わんばかりに足でトントンと地面を蹴る。ちなみに同僚はスーツを着た男である。

 男は一夜の仕草に気付いていないのかペラペラしゃべり続ける。

 同僚の男は一夜にとって嫌いな相手だ。いらないことを言うところとか聞いているだけでイラっとさせてくる。

 しかも職員室では隣のデスクだ。地獄でしかない。


「相変わらずつれないですね。裏の仕事ばかり任せられても待遇は下っ端のままですもんね。お互い嫌になりますね」

「これ以上いらないこと言うとボコボコに殴るぞ?」

「ひゃーコワイコワイ、これが上が騒いでいたヤツなのかい?」

「人型のヤツは例の組織の置き土産だ。その件も含めて報告書に書くんだ。関係者全員にメールを送るからそれで確認してくれ」


 同僚はカードフォンでメテオの死骸を撮りながら一夜に疑問を投げる。説明をするのがめんどくさいからか男の疑問を適当に受け答えする。


「一夜先生は相変わらずだな。ほんと」

「お前もな」

「よっと、今日の仕事はオーワリっと」


 男が写メを撮っていた二体のメテオが綺麗に消えた。

 メテオは男が所有する亜空間ボックスの中に入れられたのだが、試作品である携帯用亜空間ボックスは先生達が所属する組織では持っている者が限りられており、知っている者が少ない。なのでメテオすら知らない人から見たらマジックでも使ったかのように見える。


「そうそう、忠告するけど、先輩方が必死に隠そうとしている生徒のことなんだけどっ、待って待って、肝心なところを言ってないよ」


 男の視界に釘バッドが掠めた。男の鼻から赤い液が滴り落ちる。


「ちっ、カスったか。運がいいヤツは嫌いだ。お前それをどこで聞いた?」

「どこだっていいじゃんか。そんなことよりあの子達を嗅ぎ回っている人がわんさかいるみたいだよ。中には悪いことを企んでいる人もいるから気をつけてね。言いふらしている訳じゃないからそこは勘違いしないでね。じゃまた明日」


 男は逃げるように一夜の前から文字通りに消えた。


「クッ、嗅ぎ回っている人間か。だいたい予想するが何人もいるから困る。まず先にどこから漏れたか突き止める必要がありそうだな。クソッまだまだ夜が長くなりそうだ」


 その日の夜は一夜は寝ることができなかった。


 ☆


「身体重い。って俺昨日メテオと戦ってそれで」


 昨夜のことを思いだして俺はすぐさま起き上がろうとしたが、何かが覆いかぶさって起き上がれなかった。というか俺は布団に包まっている状態のようだ。春巻き状態の俺を抱き枕のようにして誰かが寝ているのだろう。

 誰が覆いかぶさっているなんとなく二人ほど予想はできいる。昨夜の俺は急に倒れて心配をかけてしまったので抱き枕の刑は甘んじて受けよう。


「いや待てよ。今日も学校じゃないのか。今何時だよ」


 抱き枕になり、二度寝を試みようと瞼を閉じて、ふと学園の二文字が浮かんだ。

 そうだ。昨日は平日の水曜日一晩眠り次の日がくれば平日の木曜日になる。俺達は学生。学生は当然学校に行かなけれならない。

 遅刻、無断欠席をすれば一夜先生が鬼となり、事前連絡なしの鬼畜なメテオ退治に行かされた。昨夜のメテオ退治だってカラオケをしていた俺達をメールで呼び出して夜の廃モールに連れてこられたんだ。あの時は一夜先生が怖くて逆らえなかった自分が憎いが、今は教室で俺を怒鳴りつける一夜先生の顔を想像する。

 あんな学園に勤めている先生だ。体罰以上のことをするに違いない。

 人体実験の被験者になりたくはないので、体を必死によじって布団から抜け出そうと試みる。


「くっ、力が強い。これは雹じゃなくて月希だな。おい、月希起きろ。うっぷ、これ以上締め付けるな」


 月希の締め付け地獄を耐え抜き、顔だけ抜け出すことに成功した。

 さすが男の俺を軽々と持ち上げられる女だよ。こんなに暴れているのに起きないのか。月希も疲れているのか?

 顔だけ出たので部屋を確認する。

 部屋の中は暗くてうっすらとしか見えないが、部屋の私物を見る限り俺の部屋ではないことは確かだ。部屋のあっちこっちにぬいぐるみが置かれている。女子の部屋なのはわかった。前に覗いた時にあったわ。


 サバゲーばかりしているイメージが強いけど、月希って意外とぬいぐるみとか好きだもんな。

 あれ、おかしいな。月希の部屋広くね?俺と同じぐらいの大きさの部屋のはずなのに二倍ぐらい広く感じるぞ。もしや、これが噂に聞く不思議の国のアリス症候群というやつか。見えるものすべて大きく見える。あたかも自分が小さくなってしまったかのようだ。テレビとかで見て本当にそうなるのかよってバカにしていたが、距離感がわからないな。もっと深刻になれば色や光の幻覚が見えてくるのだろうか?

 俺も相当疲れてるのか?


 さらに時間をかけて布団から抜け出した。


 抜け出すだけでも一時間もかかっちまったよ。あー身体が重いし、なんだか熱っぽいな。今日は学校休もうかな。俺のカードフォンはどこだ。先生に連絡して今日は休みますって連絡しまいと。

 ブルッ、なんだか寒気もするし、無理をし過ぎたか。


 ポーンと通知の音が聞こえて、音が聞こえた方に四つん這いで進む。ベッドの上だと忘れて落ちたが、カードフォンを手にした。


 パシャ


「うわっ、写メか。間違えて押してたか。えっ?俺幼い?」


 操作を間違えて撮った写メを見て驚愕した。そこには幼い俺が写っていた。

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