第31話 メテオな異形達は星空の光を浴びる
ドォーーーーン。ガラガラッガッシャーーン。
俺達の耳に何か大きく硬い物を叩きつけた爆音と揺れを感じた。音が薄暗いモールの中に響く度にあの化け猫はびくと反応している。あんな化け物がビビるほどの化け物なんだ。しかし、化け猫と近づく何かは敵対しているのかまったく関係のない存在だと言うのがわかった。
ヤバい。近づく何かは廃モールの壁を壊してきてる。いや、一時撤退しないとこのままモールが完全に崩れ落ちて瓦礫の下敷きになるぞ。
暗くて正体は見えないが、これは絶対に人じゃない。人は破壊音をたてながら近いてこない。きっと巨大な新手のメテオだ。
「えっ?なになに!何なの?あれ!」
「モールの一角が崩れましたよ!ヤバくないですか?逃げましょうよ」
「逃げるって目の前の化け猫はどうすんだよ。俺達が逃げたらあの化け猫は街に行くぞ。こんなに派手にモールが壊されたんだ。化け物と爆音の正体を増援が来るまで食い止めるぞ」
「そんな悠長なこと言ってないで構えなさい。くるわ!」
化け猫に動きがあった。
近づいてくる化け物を恐れてか目の前の敵である俺達を手早く倒して逃げるのか。それとも三つ巴の戦いを避けて一騎討ちを持ち込むためか。再び襲いかかってきた。
「グァルルルァー!」
唸り声と共に爪による斬撃のラッシュがくり出される。
俺は自分達の回りに強い光と無数の細い金の棒を生成させて爪のラッシュをギリギリ受けた。強い光が目眩ましになって化け猫の視界の邪魔することができた。化け猫の鋭い爪で細い棒は包丁でごぼうを切るみたいに切断された。
化け猫は光で目をやられて数秒だけ隙ができた。そこを雹が刃が光でできた日本刀を振りかざして首に切りかかるが、メタリックな毛並みが肉体を傷つける刃を拒む。
確かに雹の刃が化け猫の首もとに直撃した。首に当たった時の音がキィンと鉄と鉄が当たる音がした。
メタリックな毛並みの下は鉄装甲になっているみたいだ。見た目通り硬い毛並みで勢いを殺して装甲の皮膚で受け止める。戦車みたいな体をしているな。耐久力も俺達以上にあるわけと言うのか。これじゃ勝てる見込みがないな。
「とても硬いわね。硬い表面をなぞるだけでとても首を切り落とせないわ」
(すぐに鉄板を出そうとしても無理か。でも細い棒は問題なく出せるが簡単に切られるとは出しても意味ないな。あんなに鋭いと俺達はナイフで切られるハムの如く簡単にスライスされちまう。もっと太くしないとダメなのか。太くしようとすると生成する時間がかかるな)
化け猫の二回目の攻撃がきた。
次の狙いは月希だ。月希の回りにさっきより太い棒を生成させて雹に目で指示を出す。
雹は軽く頷き剣を構える。更に月希と雹の回りに光の粒を展開させてカウンターの準備をした。だが、化け猫は月希の真上で空中ジャンプした。
月希を狙ったのはフェイントで、本当の狙いは周だ。周に鋭い爪が迫る。
「キャア」
周は可愛いらしい悲鳴を上げて、爪を紙一重で躱して見せた。今度は化け猫の顔面に周の右ストレートが迫る。周はビビって目を粒っている。ビックリして反射的に手が出たみたいだ。幸い足が地面についてない化け猫は周の右ストレートを避けられない。これはもろに入った。
と思ったその時、化け猫は体を寝返りをして空中で軌道修正をした。確実に当たると思っていた周の拳を躱した。
そして化け猫は躱された前足で再び振り上げて切りかかる。
散る赤い液体がモールの床を汚す。
「周!」
「アマネン!」
「八代さん!」
俺達はそれぞれ周の名を呼ぶ。
周は倒れることなく、化け猫の爪を右腕で受け止めている。しかし、周のうでには深々と爪が刺さり、赤い液体が垂れ出ている。
「アマネンから離れろ!」
月希が凄い早さで化け猫に銃口が太い銃で迫り、銃口を化け猫の体に当ててゼロ距離で発砲。
ようやく俺や周が襲われて化け猫を可愛い動物ではなく悪意のある敵と認識してくれたようだ。
バンバンバン
三回ほど撃たれた化け猫は周から離れた。そこから月希の猛攻撃が始まった。それは同時に弾雨の雨が降り始めると同義であった。
化け猫が弾雨を浴びている間、俺と雹は周に駆け寄った。
「周大丈夫か!?」
「傷が深い早くなんとかしないと」
「ちょっと引っかかれただけです。右手もちゃんと動きますよ。イタタ」
「手当てするから動かないで」
雹がハンカチを取り出して、それを周の腕に巻く。止血するための応急処置程度だ。
完璧な手当てではないからこれが終われば、周をすぐに病院へ連れていかなきゃ腕に傷が残ってしまう。
あの化け猫は俺達を簡単に殺せる爪を持っているし、そして素早い。恐らく本気を出せば簡単に殺されてしまうだろう。それに比べて俺達は決定打を打てる術を持っていない。俺を含めて、月希の銃、雹の剣、周の拳、俺達の武器で傷つけることは可能だろうが致命傷を与えられるかは怪しい。先程のゾンビとは大違いな化け物だ。
それは彼女達は痛感しているだろう。
棒線一方な状況を覆せる策はないものか。
「アアアアァァァァァォーーーーー!」
どこからともなく咆哮が聞こえた。地震と 錯覚するほどの音の震動。まだ姿が見えていないのに耳元で叫ばれたような感覚だ。
「今のはなんだったのでしょうか?」
「今の声がこっちに近づく化け物みたいだな。あー耳がいてーな。どんな肺活量してればこんな爆弾みたいな声が出るんだよ」
「そうだよね?これうるさいよね?もう、近所迷惑を考えてもらいたよね?」
先程の声の持ち主はまだ破壊活動を止めていない。破壊音はまだ聞こえる。
月希は化け猫に弾雨を浴びせるのを止めていて化け物の咆哮に文句を吐いていた。撃ちまくった銃声も工事現場の作業音と同じくらいうるさかったぞ。それも十分近所迷惑だ。
化け猫はあんなに銃弾を浴びたのに特に変わった様子はないと見える。いや、心なしか疲れているように見えた。いくら効かないとはいってもあんなに浴びれば雀の涙ほどのダメージが蓄積されるか。当たれば痛いだろうし、全身に当たれば嫌だろう。弾丸だけじゃまだまだ倒せなさそうだ。
手強すぎる相手だ。
「近くに来てるわね」
「今の声の化け物ことか?」
雹の話しによれば、今の咆哮はすぐ近くだったらしい。
化け猫も今の咆哮に警戒を強めている。
「みんな後ろに飛んで!」
「ハァ?なんで?」
「いいから」
月希が後ろに飛ベと言うので負傷した周をお姫様抱っこで抱えて後方に飛ぶ。お姫様抱っこをした時、雹に凄い目で睨み付けられたのがなぜだろう。こういう状況だし考えるのは止めよう。
俺達がいた床から大きな手が伸びてきた。あそこに突っ立っていたらあの手に捕まってただろう。手を引っ込めたと思ったら俺達が立っていた床を破壊して化け物が現れた。
俺達は二階にいて、化け物は一階で暴れていたようだ。地下もあると思うけど。
「アアアアァァァァァォーーーーー!」
化け物は頭がカチ割れる音量で叫び、獲物を見つけて歓喜しているやように見えた。
天井が化け物の歓喜の叫びに耐えきれず崩れ落ちた。
化け物の姿はとてつもなくおぞましい姿をしていた。頭部は五つの人の頭が磁石のようにくっついていた。手足は人の手と足をそれぞれ束ねており、胴体に限っては人の頭から足まで合わせた大きな異形の怪物だった。ゾンビ映画に出てきそうなビジュアルである。
これがもしかしたらゾンビ達の親玉なのか?表面上の見た目はゾンビ達が寄せ集まって中心には本体である親玉がいたりしてな。そんな感じの見た目をしている。
実にえぐい見た目をしているな。
「何あれ!キモいのもほどかあるよ」
「ゾンビ達の親玉みたいですね」
暗闇の場所にいたゾンビと違う部分がある。ゾンビ達は化け猫と同様に体の一部がメタリックカラーになっていたりしてちぐはぐな感じだったのに目の前の化け物は全身シルバーカラーな光沢をしている。
見た目はまるでロボットのようだ。全身金属でできているように見えて凄く固そう。
「アアアアァァァァァォーーーーー!」
そんな化け物は俺達をロックオンしてこちらに奇声を発しながら向かって走り始めた。
「ちょっ、こっちに向かってくるよ」
「バラバラに離れましょうよ。そうしたらあの怪物が迷うはずです」
「今バラバラ散ったら化け猫に狙われるぞ!」
化け猫は化け物が来てから大人しく物影に隠れている。化け物は化け猫の存在に気づいているようだが、化け猫には見向きもしない。
化け物と化け猫は敵対関係なのか。それとも無関係で化け猫は見たことのない化け物が来たから隠れたのか。
今は大人しく隠れている並んでいいが、自分に敵意がないことを知って二体で俺達に襲いかかった来たらたまったもんじゃないぞ。
「雪君、私達の前に壁出せる?」
「壁?まぁ、出せるけど。まさか、あいつの視界を遮る為にか?そんなの止めとけ。時間稼ぎにはならないぞ」
「いいの。お願い、今度は私に考えがあるの。だから聞いてちょうだい」
俺は雹の言う通りに俺達の前に大きな壁を生成した。化け物は俺達の動きが見えなくなった。逆に俺達も化け物の動きが見えなくなったのだが、化け物が奇声や足音が聞こえるのでこっち走っているのはわかっていた。ただそれだけだ。
「おい、これからどうすんだよ」
「しっ。任せて」
雹は金の壁の端の影に隠れて化け物の足音が止まるのを待つ。
俺は雹がやろうしていることを考える。そして化け物が取ると思われる行動は。壁に突進する、壁を避けて壁の向こう側にいくの二つのパターンが思いつく。
壁に突進したら俺達がいる方向に倒れてきて俺達はぺしゃんこになる。雹が狙っているのは壁を避けてこちら側に周りこむ時だと思う。雹は化け物が周りこむと同時に化け物に不意を突いて切るつもりでいるみたいだ。
それが上手くいくかどうかはわからない。突進してきたら俺達は壁に潰されてしまう。そうなる前に頑張って避けるが雹の狙いが外れることになる。そうなった場合彼女はどうするのか。運良く体制を崩した化け物に一斉攻撃をするか?
そもそも何の説明がないからこれらのことは俺の予想だ。雹の本当の狙いなんて雹の頭を覗かない限りわからない。
雹が静かにコクっと頷くと同時に化け物の足音が止まった。なぜ化け物が止まったのかは俺にはわからない。ただ雹の考えていたことが上手くいったようだ。
数秒後に壁の向こう側から化け物のシルエットがあらわれた。
化け物は俺の予想通り周りこんできた。後は雹が不意を突いて斬りかかればいいものだと思った。
それが予想外のことが起きた。壁の向こう側から姿を現した化け物は拳を振り上げていた。化け物は賢く俺達の考えを読んでいた。
予想外の出来事が起きても雹はタイミングを見計らって拳を振り下ろす化け物に斬りかかった。
雹は華麗な動きで化け物の拳を躱し、そして金色に光輝く刃は腕の輪郭をなぞるように化け物の首へと吸い込まれていった。
見事に化け物の首を切り落とすことに成功した。
「やったか?」
「ユッちゃんそれはフラグー!」
月希に訳のわからないことで怒られ銃口を向けられたが一体のメテオを倒したことは大きい。
後は化け猫を何とかすれば帰れると思っていた。
そんな甘い考えをしていた俺達に現実は酷いことを知らしめる。
雹が切り落とした首の切断部から煙が出てる。本体の化け物は拳を振り下ろしたまま固まっていた。その状態を死んだものと思っていた。煙を発していた頭部が液状に溶け出して、完全な液体状態で自らの足を登り出した。
「マジかよ。首を落としても死なないのかよ」
液体状態となった頭は首の切断部に集まり、再び頭を形成し始めた。数秒後には頭が元通りになった。
「元に戻ちゃったね。首をはねるても生きているなんて本当にゾンビだね」
「不死身ってことじゃないですか。私達はどうすればいいのですか。そうだ。腕とか斬り落として液状になった時に雪さんに、フグッ」
「止めて、これ以上は言わせないわ」
雹が俺達の元に戻り、何かを言おうとしていた周の口を珍しく慌てたようにふさいだ。
何か隠しているな。気になるが女子の秘密を聞くのは野暮ってもんだ。化け物二体いるまで隠していることを無理に聞きだしている余裕はない。
今の俺は女子になっているがな。
「お前らこんなところにいたのか。まったくよ。今までどこに居やがった?後で説教してやるが今はメテオをヤるのが優先だ」
「先生!」
化け物が現れた穴から全部金属製の釘バットを担いだ一夜先生が何年前のヤンキー風体で出てきた。
一夜先生が現れたことによって状況が一変した。
一夜先生は長年メテオと戦ってきたプロだ。例えメテオが二体いたとしてもプロがいたら余裕でしょ。って?先生の左腕が…。
「先生?その手どうしたんですか」
「あっ?これか?ミスっただけだ。こんなの相手してたらなん本も折れるもんだ。そんなの気にするより目の前のメテオを気にしろ。ガキが」
先生の左腕は肘から先が変な方向に曲がっていた。どうやらさっきまであの化け物の相手をしていたらしい。でさっきまでの破壊音は先生と化け物の戦闘音だったようだ。
「で?お前ら怪我は?」
「周が腕をやられました。周以外は無事です」
「負傷者一名か。ふん、お前らの顔を見ればわかる。何体かのメテオと戦ってきたんだな?日が浅いのになかなかの上出来じゃないか!」
俺達の現状を報告すると褒められた。先生は絶対褒めて伸ばすタイプじゃないはずだ。無数のゾンビ達と戦ったがそんなこと顔に出るのか?それともどこかで見ていたとか?
いや、俺達から離れたことや周が怪我をおったことに非があるとでも思っているのか?
「先生、救援は来るのですか?私達には手に負えません」
「来るわけねーだろ。調子に乗るなよ。ガキ。上のミスかもしれないのに救援なんて寄越すと思うか?上はひた隠しにしたいから救援なんて望めない。自分らで何とかするしかねーだろ?」
「二体もいるんですよ。先生だって怪我しているじゃないですか。こんな状態でメテオ二体も相手にできるはずないじゃないですか」
「こんなの怪我じゃない。駄弁ってないで自分らで何とかするもんだろ?私がいない数時間何とかしてたんだろ?私が見守ってやっから気合いで何とかしろ。お前ら」
なんて横暴なこと言うブラックな先生なんだ。五人であの化け物どもを共闘すればいけるかも知れないのに今度体罰で訴えてやる。
先生は崩れた壁に腰を預けた。
俺は先生が凄く辛そうな表情を見逃さなかった。
先生は化け物と戦って相当ダメージをおったのかもな。あんなに威張っていたんだから俺の気のせいだろう。
「あのセンコー、いつか目にもの見せてやる」
「それより雪君あれを見て」
一夜先生の愚痴を溢していると雹が化け物を指した。
俺が先生と話し合っている間化け物に変化があったようだ。化け物が化け猫を襲っていた。
化け物は化け猫に絡み付いて、化け猫のメタリックな毛皮を噛み千切り体内に取り込んでいた。人の形をした肉食動物が猫を補食している光景はエグい、原始的に見えた。
今まで興味すら持っていなかった化け猫を食らっているのか疑問を持った。雹が首を斬り落としたのが以外とダメージが大きかったのか。それ以前に一夜先生と戦ってかなり消耗していて何かを補食するためにここに現れたのか。
「メテオがメテオを襲っているね。共食いってヤツだね」
「仲間だったのではなかったのでしょうか」
「いやいや、化け猫は様子を見てただけだからな。化け物に協力するようこと見せてないだろう?しかし、何であーなっているんだ?」
「悠長なこと言っている暇はないわ。メテオ同士で争っている間がチャンスよ。あの二体が固まっているからあそこをみんなで叩けばいけるわ」
「あー、こうなれば自棄糞だ。俺は全力でいく」
「雪さん待ってください。また倒れたら」
周がなにやら言っていたが気にしない。両手を怪我しているから大人しくしていてくれ。
自棄になった俺は全集中して争っている化け猫と化け物の周りに眩く輝く光の粒を生成した。それは暗闇に輝く星々のように浮かび、辺りを煌びやかに飾つけた。
化け物達は星々に気づいて逃げ出そうとしたが既に遅い。星々の中には混じっていた金色の星が針へと変化して化け物達の体を貫き、動きを封じた。
光輝く白い星が膨張し、化け物達を覆った。
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