第30話 モール内のボス

 俺達は天井や壁がない廊下だけのゲームの裏世界みたいな空間の中を子猫を追った月希や周からはぐれないように無我夢中で追っていて、気づいたら壁があって細長い通路を走っていた。


「ミケーどこ行ったのー。ここには怖いのがいっぱいいるから出てきてよー」

「あら?さっきまでと雰囲気が変わったわね」

「そうですね。ここは天井と壁が増えてありますね」


 子猫を追った先には先程いた場所とは別な場所に出てきた。と言うよりもいつの間にかここにたどり着いた。

 床は同じだが、そこに天井と壁が追加されただけだ。天井は照明がなく、壁には掲示物といったポスターなどがなくて部屋の中は家具類もなく違和感だらけの部屋だ。それらの違和感がここはまだ暗闇の空間と物語ってている。


 俺達は裏世界みたいな空間から抜け出していないようだ。


「お、おい、行き止まりだ。ゾンビ達が来る前に廊下から戻るぞ」


 俺達が入った場所は部屋のような場所だ。俺達の後ろに続く廊下以外この部屋からの出る道が無い。

 まんまと嵌められた。後ろの通路から大量のゾンビが来たら逃げ場なんて無い、これじゃ袋のネズミだ。


「待ってユッちゃん、ミケーがいないの。見つかるまで一緒に探してよ」

「子猫より自分の命が大切だろ?さっさと部屋から出るぞ!」


 月希が子猫を探すとごねている間に後ろを振り向いたら俺達が来た通路が消え去り壁になっていた。

 俺達は完全に閉じ込められた。


 なんかデジャブを感じた。来た通路がなくなった光景は学園内を彷徨っていたら、一夜先生がいる空間にたどり着いたな。あの後、双子のクラスメイトと戦わせられたな。


 現実逃避してみるが現状が変わることはない。


 月希は部屋の中を探し回っている。家具類がない何もない部屋だから小さい子猫が隠れる場所なんてないのだから探しても無駄だ。そう言っても月希は諦めないから言わないでおこう。月希と同じぐらいに子猫を可愛がっていた周は探してない。部屋の中を探しても無駄だと思ったのかもな。

 俺達は子猫使って誘き寄せられた。あの子猫もメテオなのか?子猫にはメテオ特有のメタリックな箇所は見受けられなかったけど体毛が普通でも地肌がメタリックになったりしてな。ゾンビだって肌の一部や髪だけメタリックになっていた個体がいたからメテオの線も捨てきれない。

 それか子猫から隔離するために俺達を閉じ込めたのかも。

 メテオの事情を考えるだけ無駄か。


 試しに壁ヘ攻撃してみた。

 脳筋な考えだと思うけど何もやらないよりはマシだ。

 攻撃と言っても懐中電灯として使っていた光の玉を金と混ぜて、思いっきり当てただけのことだけど。

 攻撃した結果、壁にへこんで傷がついた。ただそれだけのことだが、傷を付けられたならもっと強い衝撃を破壊も可能だ。見たところ再生する様子もないし、いけるかもしれない。


「ミケー出てきてよ。出てきたら美味しいオヤツあげるから」

「諦めなさい。隠れる場所なんてないのだからここには子猫はいないわ。いくら探しても無駄よ」

「だって心配なんだもん。ねぇ?アマネンもそう思うよね?」

「私ですか?!そうですね。メテオに食べられちゃうかもしれませんし、あんなに可愛い子なので心配です」


 この二人はそれほど猫が心配なんだよ。

 いないならいないでいいじゃんか。それよりここからの脱出方法を模索しないと。出口が無い、食料も無いからこのままここに閉じ込められたら餓死するぞ。

 このまま燻ってもいてもしょうがない悪足掻きでもするしかないぞ。


「みんな聞いてくれ。このままいても何も変わらない。壁に攻撃するぞ」

「壁に攻撃ですか?」

「あぁ、そうだ。一生何もしないでここに閉じ込められるより何か行動する方がマシだろう?」


 もしかしたらここにじっとしてたら学園や一夜先生が探しに来るかもしれないがそんな確証はどこにも無い。俺達ができる選択は救助が来るまで待つか、行動をするしかない。

 俺達の中に怪我人がいたなら救助を待っていたかもしれないが、現状負傷者ゼロだ。全員ピンピンしている。

 この現状で行動するしかない。散々歩き回って多少疲れているが大丈夫だ。


「壁を攻撃ってどうするの?ミケーも探さなくちゃいけないのにユッちゃんはどう考えているのかな?」

「派手にぶちかますだけだ。猫は後で一緒に探してやるから月希も協力してもらうぞ。いや、みんなでやるぞ」

「雪くんはさっき壁に何かしていたわね。何か策でもあるのかしら?」

「ユッちゃんがそう言うなら任せてよ」

「これを見てくれ」


 三人に今攻撃でつけた壁の傷を見せた。


「壁に傷?これがどうしたのでしょうか?何もおかしいなところはそれしかないですか?」

「さっきユッちゃんがつけた奴だね。それがどうしたの?」

「二人とも気づかないのか。ここに全員の一撃を集中させるんだ。俺の攻撃でへこませたんだ。全員でやれば穴があくはずだ」

「なるほどね。考え方は脳筋だけど。全員の攻撃を集中させて出口を作るのね。無いなら自分達で作るってわけね」


 自覚しているが脳筋的な考えは余計だ。あそこを目印に一気に攻撃をする作戦だ。

 雹の言う通り、俺達は出口が完全に無い空間に閉じ込められたから自分達自ら脱出口を作る他ない。食料も無い、救助もいつ来るのかわからない。疲れているかもしれないが、暴れるだけの元気はあるはず。

 閉じ込められてじっとして精神をすり減らしながら救助を待つのは俺の考えが失敗した時にでもいい。今、余裕があるからやるならいまだ。


「まずはあそこに周の拳を叩き込む」

「はい!」

「そのあとに雹が切り込みを入れる」

「わかったわ」

「最大火力の月希の一発を入れて」

「一番の子を入れてあげる」

「俺が最後にでかいの叩き込む流れだ。我ながらシンプルな作戦だ」


 壁の先がどうなっているのかはわからない。無いかも知らないし、壁の向こうは元の廃モールに繋がっているかもしれない。やって見ないとわからない。


「準備はいいか?いくぞ」

「了解」

「はーい」

「わかりました。まずは私からですね。いきます!はぁー!」


 ドォコーンと周の光に包まれた拳が俺がつけた壁の傷をさらにへこませる。周と入れ違い様に雹の金と光の刃の無数の斬撃で切れ込みが入った。

 切れ込みの向こう側から微かな光が漏れていた。

 俺達にとってその微かに洩れる光はここから脱する希望の光に見えた。


「雪くん!」

「ユッちゃん!光が出てるよ!」

「わかっているから派手にやってくれ」

「わかった。ド派手にいくよー!ドドドドドド」


 月希はガトリングガンを出現されて、壁にガトリングガンから放たれる金と光の弾雨を浴びせた。

 壁の切り込みは弾雨を浴びて穴へと形状が変わり漏れ出る光が強くなった。


「ユッちゃん、ラストだよ!」

「おう」


 俺は光のレーザービームで穴を広げて、最後に金で作った俺の頭ほどの大きさの玉を生成して穴へ放った。

 玉を操って膨張させる。穴をもっと広げるためだ。

 人一人が通れるほど広げたら玉を消した。穴からは溢れるほどの白い光が出ている。

 この穴はどこに繋がっているかはわからないが不思議と安全な場所に繋がっているような気がした。


「みんなこの穴に入れ!」

「えっ」

「入いるしかないでしょうね」

「せっかくみんなで作った出口なんだし入る以外選択肢ないよね」

「皆さんがそういうなら私からいきます。なるようになれです」


 最初に周が飛び込むように入った。周は白い光に吸い込まれるように消えていった。

 周を追うように慌てて月希、雹、俺の順番で穴に入った。


「ユッちゃん、ユッちゃん。見てみて星空だよ」

「それに街の光が見えますよ」

「あの空間から出られたようね」

「よかった。でもなんでモールが半壊しているだ?俺達のせいか?」


 あのゲームの裏世界みたいな空間からなんとか脱出した。俺達4人は誰一人欠けること無く廃モールへ戻ってこれた。

 今いる場所はモールの中なのに街の明かりや星空が見えるのは天井や壁が崩れ落ちて外の景色が一望できるようになっていた。

 いつの間にこんなリフォームをしたんだ?

 まさか俺達の攻撃がモールをこんな姿に変えたのか。一夜先生に怒られるのでは?


「出られたことだし、ミケーを探しに行こう」

「待って、建物影に何かいるわ」

「またゾンビですか!もうこりごりですよ」


 能天気に子猫探しを再開始めようとした月希を雹が止める。何かが潜んでいるらしい。

 いたとしてもゾンビ立ち退き生き残りだろう。それよりもこれをどう説明するんだよ。


 俺は心の中で半壊したモールの言い訳が思い付かないことに嘆いた。

 モールを壊して怒られる以前に収穫ゼロの時点で怒られるのでは?

 ならばそのゾンビを捕獲して今回の成果にすればいいんじゃないか。先生が言っていたターゲットかは知らないけど。

 モールが派手に壊れているから俺達が見逃ば、そいつは街へ行ってしまう。被害が拡大する恐れもある。


「戦うしかないだろう。こんなのが街に解き放たれたらゾンビ映画の如くパニックになる」

「じゃあ、ルイはゾンビを撃ち殺す女主人公だね」


 月希は某ゾンビ映画の主人公みたいな銃を構えてポーズを取る。

 痛い月希はスルーして、いつの間にかに消えていた明かり用の光の玉生成して俺達の回りを照らす。


 明るくなり、雹が言っていた潜んでいたメテオが姿を表した。

 そいつはメタリックな虎のようなメテオだった。正確に言うとネコ科動物に擬態したメテオだった。

 そのメテオは尻尾が二股になって、体は虎と同じくらい大きく、全身メタリックな白黒のハチワレ模様のネコの姿だ。

 簡単に言うなら化けネコだ。


「いやいや、本物の化けネコに会えるとは夢にも思わなかった」

「えっ!?何を言っているんですか!雪さん相手はメテオですよ」

「ボーとしているとやられるわよ。ルイもシャキとしなさい。くるわ!」

「ヒョウちゃん、あんな可愛いネコちゃんと戦えないよ」

「やらなければこっちがやられるわよ?それでもいいの?」

「だって」


 相手は大きなネコと思って固まっていた月希は雹の声に弱々しく反応する。


 こんな恐ろしい化けネコを可愛いネコちゃんと呼べる月希パネェー。体が小さくてシャーシャー言っているネコを可愛いって言うならならわかる。でもこれは違う。明らかに俺らに対してキバを剥いてガルルって唸っているじゃん。メチャクチャ攻撃的じゃん。こんなにでかいじゃんか。こんなのを可愛いって言えるのか?

 ネコってレベルじゃねーぞ。虎とかライオンぐらいの猛獣レベルだぞ。メテオなら猛獣も食い殺せそうだけど。


「消えた?あのメテオどこにいったんだ?まさかもう外に」


 化けネコのメテオから目を離した瞬間煙のように消えていた。嫌な考えが頭をよぎった。

 派手に壁が崩壊して外へいつでも行き来できてしまう状況下で化けネコのメテオは外へ行ってしまったのかと。

 これで被害者が出たら怒られるだけではすまないぞ。人体実験行だ。


「あのメテオを追うぞ。急いで見つけないと被害者が出るぞ」


 ただの高校生に訓練もなしにこんな任務を任せるなんて無理だったんだ。引率者の一夜先生はどこかへいなくなるし、ゾンビに囲まれたし、終いには街にメテオを放ってしまった。

 もう帰って寝たい。


「ぐぇっ」

「何しているの!ボーとしてると命がいくつあっても足りないわよ!」


 雹に首根っこを掴まれて引っ張られた。俺の目の前に大きな爪が横切った。間一髪で助かった。

 どうやら消えたと思った化けネコのメテオが襲いかかってきたようだ。それを雹が察知して俺の首根っこを引っ張った。たいした怪我はない。腹に引っ掻き傷ができて少し血が出て、履いていたスカートが爪で破れた。このスカートは履けないな。今の俺はパンツがもろに見える。微妙に恥ずかしい。

 雹が引っ張ってくれなかったらあの爪でもっと深い傷になっていた。化けネコのメテオは外へ行ったと見せかけて襲う機会を狙っていたようで雹はどうやって気づいたのか聞きたい。

 俺なんかすっかり騙されて街へ出たと思ったぞ。


「悪い助かったよ」

「また来るわ。雪くん早く構えなさい。ルイも周も貴女達もビックリしてないで今度はこちらから仕掛けるわよ」


 周や月希も騙されて豆鉄砲食らった顔をしていた。二人とも街への出口が開いているからゾンビ達を蹴散らした俺達を無視してほぼ無抵抗の人が闊歩している街に行ってしまったと思っていたに違いない。

 その考えは外れて化けネコは脅威となる俺達を襲ってきた。化けネコの考えは知らないが、俺達を殺してからゆっくり街へと向かう腹図もりなのか、メテオの基本的な本能で目の前の獲物である俺達を食うつもりとかだったりしてな。


「あー、あんなに可愛い子を撃てないよ。気持ち悪い見た目なら心置きなく蜂の巣にできなのに」

「友好的で恐ろしくないメテオだったらよかったのに」

「そこ無駄口を叩かない」


 月希や周は雹に注意されている隣で化けネコを見る。こういう時はよく観察するってどこかで書いてあった気がするから化けネコの動きを見る。

 見れば見るほど普通のネコを虎サイズまで大きくしたようにしか見えない。まぁ、敵意を見せず尻尾が二又になってなければただの体が大きいネコなんだがな。

 のそのそしてたゾンビと違ってでかい図体の割に身軽で素早い動きをする。鋭い爪で攻撃されれば引っ掻き傷程度ではすまない。


「迫力ある顔をしてるよな?あんな凶悪な面虎でも食ったのかよってぐらいでかいな」

「また考え事?そんなのあれを倒してからにしてちょうだい」

「観察してんだよ。何か弱点でもあるかなって思ってよ」

「ユッちゃんはあんな可愛い子でも戦うの?」


 月希がトンチンカンなことを言う。

 相手は敵意丸出しで殺しにかかってきているのに俺達は化けネコのされるがままでいられるかよ。月希みたいに化けネコの凶悪な見た目を可愛いいと言うほど特殊な感性を持ち合わしてない。


「雪さんあれを見てください。様子がおかしいです」

「何がおかしいだ?」


 化けネコが唸る度にガクガク怯えている周が化けネコの異変に気づいたみたいだ。


「耳の方向がおかしいです」

「耳の方向?それがどうしたって?」

「ネコ科の耳って危険を察知したり、獲物を探す時にあのような感じに耳を動かして周囲の音を探るんです。獲物がいると無意識的に耳を獲物がいる方向に向けるんですよ。でもあのメテオは落ち着かなく動いてます」


 ネコは耳で感情表現をするってテレビでやっていたな。ネコの耳は気持ちの他に動き一つで周囲を探っているなんてこともわかるのか。

 相手がメテオだが、動物の習性でも図鑑で調べてみよう。今後動物に擬態したメテオと戦う可能性が高いだろうし、それがメテオと戦う上で役立ちそうだ。


「ということは近くに私達以外の何かがいるから警戒しているってことね」

「そうです。もしかしたら近くに一夜先生がいるのかもしれません。なので一旦先生と合流してみてはどうでしょうか?」


 それが一夜先生とは限らないが、あの化けネコが周囲を警戒していることはイレギュラーな状況なのは確かだ。それが先生か、それとも最悪の事態を呼び込む要因なのか。

 先生だったらいいが、他のメテオや人だったりしたらヤバいぞ。

 夜に建物がこんなに崩壊しているなんてじゃじゃ馬が見に来る恐れもあるし、化けネコ以外にもメテオが潜んでいる可能性だってある。

 一般の人はメテオに襲われれば抵抗できずに食べられてしまう。新手のメテオなら俺達4人じゃ無理だ。トロいゾンビ相手なら何体でもなんとかできたが、化けネコの動きを追えないのに他のメテオにも集中品茶いけなくなる。

 素早い化けネコの他にメテオも相手にするなんて最悪だ。

 メテオなのか人なのか。一旦何なんだよ。

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