第35話 迷子の迷子の小雪ちゃん
「もうお腹いっぱいだよ」
「あれだけ食えば十分だろ。寿司屋に来たのに寿司を食わずにケーキばかり食うんだから」
寿司屋の会計を済ませた俺達は次の店、子供服が売っている店に向かった。
誰が払ったのかというと俺のカードフォンの電子マネーで支払われた。なんでや。ホームに置いて来たのに雹は抜かりなく小脇に抱えたポーチから取り出されたカードフォンのホーム画面に映し出せれていた待ち受けがちらっと見えたが、紛れもなく俺の物だった。そして俺が声をかける間もなく、気づいた時には支払いが終わっていた。
雹からカードフォンを奪い取るとやはり俺のだった。
そもそも俺のカードフォンの電子マネーは設定もしていないから一円も入っていないはずなのによく払うことができたなと聞いたところ昨日寝ていた時に雹が勝手にアカウントを作って設定したそうだ。そして一昨日の任務の報酬をそのアカウントに入金した。その額は5万もだそうだ。人が寝ている間にと思ったが許してやろう。
急な高い収入だが、メテオの脅威から街を救ったのに額が少ないのではないかと思ってしまう。強欲は人間の悪い部分だな。
「便利だから損わないわよ?今時キャッシュで支払うなんておじいちゃんおばあちゃんぐらいだわ。雪くんはご年配ね」
「ユッちゃんごちになります☆お寿司おいしかったよ」
って言われた。はいはい、俺はおじいちゃんですよ。いいじゃないか現金で支払うってのは。電子マネーは使った感じがしないからじゃんじゃん使っちまうんだよな。
ネットショッピングでも漫画とかいらない物でもいろいろ無駄に買っちゃうんだよ。そこが電子マネーの恐ろしいところだよな。
月希、お前は一貫も寿司を食ってないだろ。
「次は子供服を買うんですよね」
「うん、そうだよ。ユッちゃんに似合うフリフリのゴスロリドレスを買いに行こうよ。お金も入ったことだし、みんなお揃いですごく可愛いの買おうよ」
えっ?フリフリのゴスロリ買うの?嫌だよ。もうスカートとかは制服で間に合っているからドレスとかいらないよ。普通のTシャツとズボンでいい。上下千円ぐらいで安く済みそうだしさ。ゴスロリ買っても一回しか着ないから勿体無いと思うんだよね。あれって子供用も売っているの?大人が着るもんじゃないのか?
おっ?本屋だ!あの漫画の新刊出てないかな?都市伝説や怪談物も見てみようかな。
子供服を買うことを一瞬で忘れ、俺は本屋に入った。
最近、開店したモールであっても本屋にはあまり人がいなかった。いたとしても釣りのアウトドア系の本を立ち読みするおっさんや新刊ラノベを大人買いするお兄さんぐらいしかいなかった。人があふれている他のテナントと比べて異常なほど少なかった。
ここまで人がいないのは、電子マンガやネットショッピングが盛んで、試し読みという立ち読み機能で一部まで読めることができるから本屋に行かなくても家で自分好みの本が買えるところにあるだろう。それに電子書籍至ってはデータだから現物の本とは違って嵩張らないし、無くすこともない。便利な世の中になったが、昔に比べて本屋が減った気がする。不要になりつつあるから減少しているのだろう。
本屋独特の静かさや新刊の匂い中を進み、目的のコーナーで立ち止まった。
「お嬢ちゃん一人でどうしたのです?迷子ですか?この子誰かに似ていますね。誰でしょう。まいいか」
少年の漫画コーナーで新刊を見ていたら見たことがる女子高生に話しかけられた。っていうか野須原真友だ。しかも制服姿だ。
制服でこんなところにいるんだよ。学校が休みだから暇でいるんだろうけど。だからって制服でいるのかはわからん。女の子なら女の子らしい可愛い私服で来いよ。
知り合いに見つかるなんてついてないな。そっちが敬語で話すから俺も条件反射で敬語になっちゃったよ。
「お嬢ちゃん、着ている服ってここから遠い中学の体操服よね。着る服がないなら買ってあげますよ?」
「あの、大丈夫です。る、お姉ちゃんが買ってくれるので。あと迷子じゃないです。欲しい漫画を買いに来たの」
やべー、月希の名前を出しそうになった。ここは正体を隠して幼女のふりして野須原真友が飽きるまで付き合ってやるか。まさか三重も正体を隠すとは思わなかった。普通に考えて今の俺とクローンは姉妹になるんじゃないのか。超ややこしくなるけど両方は同じ身体なんだよな。嘘って重ねてつくっとバレやすくなるんだよな。だけど男の俺とクローンの俺は学校で二人でいるところを見ているはずだから、男の俺=クローンとは思っていないはずだ。
野須原真友も気づいてなさそうだからいいけどさ。
てか、いつの間にか月希達とはぐれちまったな。モールの中で一人でいると廃モールの記憶がよみがえって心細くなるじゃんか。目元がウルウルしてきた。これはトラウマになっちまったな。心の傷になったから先生に慰謝料請求したいぜ。
「る?お姉ちゃんと来ているのね?私もおねぇと着いるんだ。私は真友っていうんのですが、あなたの名前を教えてくれませんか?」
っえ?名前?名前聞かれたんだけど。俺には雪という親からもらった名前が一つありまして、それ以外にはあだ名しかありません。それで雪と答えたら、さらにややこしくなるぞ。今の俺の名前か。そんなの急にぼんと出てこないぞ。そうだ!小雪でいいぞ。
「急に私みたいなお姉さんに話しかけられて緊張しているのですね?ごめんなさいね」
「小雪」
「え?こゆきですか?」
「うん、私の名前。小雪といいます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、ところで小雪ちゃん。私はおねぇの買い物が終わるまで暇なのでそこのフードコードで何か食べませんか?」
え?見ず知らずの幼女をご飯に誘うの?新手のナンパか何かなの?普通、小さな女の子を誘わないよね。いや、でも俺迷子でも思われているのかな?保護者が来るまで保護しようとか迷子センターまで連れいかれのかな?高校生にもなって迷子センターに連れて行かれるのはちょっときついな。迷子じゃないって言ったから大丈夫だと思う。
寿司をさっき食べたばかりでお腹いっぱいなのに今度はフードコードですか。もう食べられません。
「知らない人についていくなと言われてますので私を連れてきた人が探していると思うので大丈夫です」
小さい子がこういえば大抵の人は引き下がるだろう。最初に迷子ではないと言っているし、そうそう迷子センターまで連れて行かれるのは避けられるだろう。
「そう言わずにパフェをごちそうしてあげますよ」
「お腹いっぱいなので遠慮します」
引き下がらなかった。しつこく言い寄ってくる真友にどうすれば逃れられるのか頭で考える。運がいいのか、真友の姉の優真が本屋の入口で誰かを探しているのが見えた。
俺はとっさに。
「あ、お姉さんの野須原優真さんがいますよ。迎えに来たみたいですよ。あっ」
しつこい真友から逃れることだけを考えていたせいで墓穴を掘ってしまった。初対面である今の状態の俺が真友の苗字や姉の名前が知っているはずがないのに俺の口から出てくるのは不信に思うだろう。真友は今こう考えているだろう。姉の知り合いか何かと。見ず知らずの女児と遊ぶのはあまり良くないが、知り合いであれば一緒に遊ぶことはセーフでいけると。
「小雪ちゃんはおねぇのことを知っているのですね。三人で遊びに行きましょう」
これ以上口を開くとさらに墓穴を掘りそうだったので俺は真友にうなづいた。面倒であるがこうなれば付き合うとしよう。状況がこれ以上変な方向に行くことはないだろう。
月希達と合流すればこの状況が解決できるのにな。
「あーいたいた。真友。こっちの買い物終わったよ。その子は誰、迷子?」
「迷子みたいですよ。それにこの子、小雪ちゃんはおねぇのことを知っているみたいです」
迷子じゃないって言っているのに人の話を聞いてくれないや。いくら迷子じゃないと言っても小さい子強がっている風にしか見えないか。
「親戚の子以外の女児に知り合いはいないんだけど。って!この子ユッちゃんに似てない?」
「ユッちゃんにですか?確かに言われてみると似てますね。てか瓜二つってレベルで似てますよ。小雪ちゃんはユッちゃん、お姉ちゃんと来たのですね。私と同じですね」
なんでそうなるの。お姉ちゃんということはクローンの妹って思われたようだ。男の方の俺の妹ってのも可能性だってあるだろう。現状証拠だけで決めつけるなよ。
しかし、俺に妹がもう一人増えて、その妹が俺自身、ややこしくなってきてそれはそれで嫌だな。そもそも俺のクローンが幼児化するのが悪いんだ。クローンのもともとあった特性かもしれないが、クローンが幼児化することを確認していない先生方も悪いんだ。
クローンの妹って思われたのはいいが、迷子の女の子から迷子の知り合いの妹にシフトチェンジしたぞ。迷子センターに連れて行かれることはなくなったが、このまま月希達と合流するまで連れまわされるぞ。
その流れで本屋からフードコートに連行された俺はできるだけ不安そうな表情をしている。隙をみて逃げようと考えたが、真友が俺の手をぎっしりと掴んで離さないから真友が余所見していても逃げることができない。
誰か、この状況から俺を助けてくれよー。おっぱいでも揉ませてあげるからって幼児のおっぱいを揉んでも嬉しくはないか。雹並みに胸がないからな。ワッハッハ。
「大丈夫ですよ。お姉ちゃんが来るまで一緒にいてあげるですよ」
「小雪ちゃんだっけ?何か食べたいのある?」
「お腹いっぱいだからいらないです」
幼女のふりをしているのが凄くつらくて仕方がない。正体を悟らせないためとは故、黒歴史になるかもしれない。
寿司でお腹いっぱいの俺にフードコートのメニュー表を押し付けてくる優真。
お節介を焼いてくれるのは嬉しいと思う。こんな状況じゃなければな。お昼は姉妹仲良く食べればいいじゃないか。俺のことはいいから早く俺を解放してくれよ。
俺の声は届かず、ゆままゆ姉妹はメニュー表を見て楽し気に談笑しながら、時々話しを俺に振る。俺はうんとかそうですねと返して凌いでいる。俺がここまで女の子と会話が成立しないことを初めて知ったぞ。白城のことをバカにできないな。
中学時代は俺に話しけてくる女子はいろいろぶっ飛んでいる月希ぐらいしかいなかった。白城とつるんでいたからな。女子はあまり俺達と関わろうとはしなかった。月希を除いては。月希のやつは、持ち前の能天気の部分や空気を読まずにズカズカと踏み込んで白城を悩ませていた。面白い話だが、白城は月希に苦手意識を持って、できるだけ関わらないようにとすごく努力をしている。運が悪いことに白城と月希は同じクラスなんだよな。アイツはアイツでメテオと戦っているようだし、アイツも結構不幸だよな。
「おー!優真ちゃんに真友ちゃんじゃん!二人で仲良く買い物?」
に声をかけたのは我がクラスのチャラ男こと佐々木だ。佐々木は私服でラフな感じだ。佐々木の向こう側に白城がポテトをつまみながらカードフォンをいじっていた。佐々木に誘われてきていたようだ。
てか、もしかして佐々木って女の子を下の名前でちゃん付け呼ぶタイプなのか?そういえば同じチームの子も下の名前でようでいたような。あんまり仲良くない女の子の下の名前で呼ぶのって気恥ずかしいていうか。すげー勇気いるのにすごいじゃん。本人はゆままゆ姉妹にウザがられているみたいだがな。
俺や白城なんかは苗字で呼ぶので精一杯なのにな。白城は女子に話しかけるどころか避けているがな。
変なところで関心してしまったが、面倒な奴が増えたな。俺の存在に気づかないでくれ。ゆままゆ姉妹にウザがられているからその内無視される続けて白城のところに戻るか追いはられるだろう。
そんなこと思っていたら真友が。
「Aランカーの優等生さんが私達に何のようですか?」
「冷たいな。そんな俺っちでも今期の精鋭部には選ばれなかっただよな。二人はCクラスでもメンバーに選ばれているじゃん。俺っちよりすごいよ」
へー、佐々木はAランクなのか。それでゆままゆ姉妹はCランクだけど精鋭部っていうのに選ばれたのか。断片的には理解していないがみんなすごいな。
俺なんか底辺のEランクだよ。俺に比べたらみんな優等生だよ。
「私達よりも私達のクラスにはもっとすごい子達がいるんですけど」
「ちょっと真友!それは先生達に止められていることでしょ!それと小雪ちゃんが聞いているでしょ?小雪ちゃん今のことは学校のお友達や先生達には秘密ね」
真友が姉の優真に注意を受ける。真友が俺を見て少しバツの悪そうな表情をした。
メテオ関連のことは一般人には極秘されている。それで優真は俺に秘密にしておくようにと言っているのだろう。
俺も君達と同じ学校に通っているのに寂しいな。それも秘密なんだけどね。
ていうか、メテオ関連のことをこんなところでしゃべっていいのかよ。学園での極秘事項なんだろ?こんなところでメテオ関連のことを喋っていたことを先生に知られても知らんぞ。一般の人はゲームかなんかの話をしているもんだと思っているようだ。
「ところでその子は誰だ?小雪ちゃん?どこかで見たことがあるような。どっかで俺とあったことある?」
「小雪ちゃんこの人の質問には答えなくていいですよ。二百円を上げますのでそれで好きなジュースを買ってくるといいですよ。それとこの子ことはあなたには関係ないです」
真友は俺がジュースを買って戻ってくる間にその間に佐々木を追い払うつもりなんだろう。佐々木は白城を置いて女子のところに行くひどい男だったが、男だけで遊ぶ分には楽しい奴かもしれない。友達を置いて女子に話しかけに行くのはどうかと思うぞ。ただ知り合いの女子がいたから話しかけただけかもしれないが。陽キャだね~。
俺がジュースを買って戻ってくるとでも思っているのか二百円を真友から渡された。
ようやく解放されたと思ってフードコートの出口に向かう。真友から渡された二百円は今度学園であった時に渡そう。妹がお世話になった礼を込めて。
出口向かう途中に白城の横を通った時に。
「お前も大変だな」
と白城が呟いた。
俺はびっくりして白城を見た。白城は相変わらずカードフォンをいじっている。俺の親友は俺の正体に気づいたのか。アイツのことだ。気づいたとしても誰にも話さないだろう。
もしかして写メを撮られたか。白城だし、いいか。俺が女でいる間は近づいてこないだろう。
俺は財布を抱きかかえ、月希達を探しにいった。
その数分後。
『ピーポーパーポーン。迷子のお知らせです。小雪ちゃんの保護者の方は迷子センターまでお越しください』
結局俺は万引き防止で巡回している警備員のおじさんに捕まり迷子センターまでご案ないされることになった。最終的にお世話になる羽目になった。
空いた穴があったら入りたい。
俺のほかに迷子センターには二人の男の子がいて迷子センターの人の手を焼かせていた。それを見ながら俺は迷子センターの隅っこで白城顔負けの誰も関わるなオーラを纏い迎えが来るのを待った。
放送で言われちゃもう諦めるしかない。自分で探すよりもこっちまで来てもらう方が早いだろう。学園まで一人で帰れるよ。でも俺が一人で学園まで帰ってもホームには入れない。生徒手帳もカードフォンも置いて来たんだ。連絡もできないからここで待つしかないんだ。
「月希にバカにされるんだろうな。お?あれは」
「あのーここに小雪ちゃんって子がいると聞いて来たのですけど」
項垂れていると紙袋を抱いた周が迎えに来てくれた。
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