第36話 小雪と白城

「やはり雪さんでしたね。本当に心配しましたよ。気が付いたら雪さんがいませんもの」

「ああ、悪い」

「もう悪い子は帰ったらお仕置きですよ」


 あの周さん、心配されたのはすごーく理解しました。俺は今現在こんな見た目ですが、あなたとタメなのですよ?そこはお忘れになられるとこちらとしては困ります。

 見た目相応の子供扱いされても本当に困ります。俺達同級生ですよ?


 迷子センター近くのベンチで少し喋って今に至るが、合流するまで周はがどれだけ心配したか注意された。どこに行っていたのか聞かれたので本屋に行ってゆままゆ姉妹とあったことや周達が俺を探していたを話し合った。

 周達三人は子供服コーナーでそれぞれ俺に似合う服を選ぶ際に店の中で別れだそうだ。その時点では俺がいないことに気づいていなかったが、周が服を選び試着してもらう際に俺がいないのに気付いてが、その時は月希か雹のところにいると思って二人に連絡したところ、二人も自分以外の二人と一緒にいると思っていたという。

 周は俺のカードフォンに連絡したが全く繋がらないので服の会計を済ませて三人で手分けして探すことにしたらしい。

 最初、迷子センターに来てないか見に来たらしいが、そこには俺の姿は無くてモール中を探し回ったらしい。数十分後に屋内放送を聞いて迎えに来たそうだ。

 まだ探しているであろう月希と雹に俺を発見したと連絡を入れたそうだ。迷子センター近くで待っていると伝えたそうだからその内来るだろう。


 連絡手段も持っていなかったし、俺が警備員のおじさんに捕まらなかったら周達はずっと俺を探し続けていただろう。これはこれでよかったのかもしれないな。

 ただ俺の見た目があれだけど今は15歳なのにこの扱いはきついぞ。この姿でも同級生として接してほしいものだ。


「ところでなんで雪さんは本屋に行ったのですか?欲しい本でもありましたか?あとなぜに小雪と名乗ったのですか?」

「それはだな、漫画を見たかったから中に入ったんだ。まあ、漫画を見ることなく、優真さんに絡まれたんだがな。それで名前を聞かれてとっさに小雪と答えたんだ」


 ゆままゆ姉妹や佐々木は俺のクローンとこの姿のクローンは同一人物とは思っていないはず、佐々木はいいとしてもゆままゆ姉妹はクローンの水泡雪の妹の水泡小雪と思ってくれるはずだ。我ながらいい気回りをしたと思う。

 クローンの方の俺には妹がいるってことになったがな。ややこしくなったと思うがあの状況で妹として思われた方がよかったはずだ。

 ゆままゆ姉妹に後日、小雪ちゃんに合わせて欲しいと言われたら、場合にとっちゃ難しくなるかもしれないし、逆にクローンの謎状態がこのまま続くかもしれないから先生に俺の状況を説明したら、学園の欠席表から水泡雪(女)の名前がなくなるかもしれないな。そうなったらこの姿のままメテオと戦わされるのだろうか?


「わはははっはー、ユッちゃんやめてよ。その年で迷子になって迷子センターのお世話になるのは面白すぎるよ。あっ、今は小雪ちゃんだったね」

「迷子になっちゃう雪くんも可愛いわ。雪くんに似合う服を買ったの。家に帰ったら雪くんファッションショーをやりましょう」


 周と喋っていたら月希と雹が合流してきた。やけに持っている荷物が多いなそれ全部俺に着せる服じゃないよな。揚げ物の匂いがするから今晩のおかずも混ざっているのだろう。だけどファッションショーはやらねーからな。

 何とか合流できたな。短時間でいろいろあったがこれで帰れるぞ。もう疲れたよ。早く帰って寝たいよ。


「みんな揃ったし、帰るぞー」

「あら?」

「お?」

「雪月花さんに海北さん。こんなところで奇遇ですね」

「後ろには八代さんもいるね。それに小雪ちゃんもいるよー。ということは水泡さんもいるのね」


 帰ろうと俺がベンチから立ったところそこにゆままゆ姉妹と遭遇してしまった。さっきの店内放送を聞いてゆままゆ姉妹も来たのだろう。まあ、自分達が保護をした子が店内放送で迷子で保護されていると聞いてはくるわな。フードコードで少し待っても帰ってこなくて、あの放送が俺のことだと気づいたと思う。来なくてもよかったのにきっと責任感が強い子達なのかな?

 よかった。月希達がいるイコール俺(クローン)もいると思ってくれたようだ。ゆままゆ姉妹が思っている水泡さんは幼女姿の俺なのでどこを探してもいない。

 さらに嘘をついて俺は苦しいよ。俺の嘘を疑いもなく信じ切っているゆままゆ姉妹を見ていると心が本当に痛いし、幼女として接してくるのが辛いから月希の後ろに隠れよう。


「小雪ちゃんひどいよ。急にいなくなるんだもん」

「そうですよ。私もおねぇも心配しました。でもお姉ちゃん達と出会えたのですね」

「ごめんなさい。あのあと、警備員のおじさんに迷子と思われて迷子センターに案内されました」


 月希の後ろでぺこりと頭を下げてゆままゆ姉妹に謝る。

 頭を下げたら弾力がある月希のお尻にぶつかった。わざとじゃないけどプルンとした尻の弾力が気持ちかったのは秘密だ。


「水泡さんがいませんが、彼女はどこに?」

「お姉ちゃんは今トイレに行きました。なのでお姉ちゃんが戻るまで雹お姉ちゃん達と待ってい、ます」


 きついロリのふりを頑張っていたが、急に雹の目の色が鋭く変わったのでびっくりしてどもってしまった。雹の前でできるだけロリのふりをするのはやめようかな。

 てか、迷子じゃなくなったから早くどっか行ってくれないかな?


「おねぇ、小雪ちゃんが水泡さん達と再会できのですから私達は帰りましょうか」

「そうだね。小雪ちゃん、バイバイ。海北さん達もまた学校でね。水泡さんによろしくね。それに私達学園に呼び出しくらっちゃってさ。せっかくの休みだと思ったのにひどい話だよ」


 ゆままゆ姉妹は学園に呼び出されて手を振ってどこかに行った。俺は後ろ姿が見えなくなるまで手を軽く振りづづけた。

 学園に呼び出されたていうことはメテオ関連のことだろう。せっかくの休みなのにご苦労なこった。


「何とか乗り切った。こんな姿で小さな女の子のふりはつらいな」

「雪くんお願いがあるんだけどいい?」

「ん?なんだ?」


 雹がお願い事があるようで身構えながら聞いてみる。雹が俺にお願い事するのは背筋が凍るほど嫌な予感がビンビン感じるぜ。


「ホームに帰ったらもう一度私を雹お姉ちゃんって呼んで欲しいの。いい?」

「そんなことか。今でも呼んでやるよ。雹お姉ちゃんってな」

「ルイも呼ぶよー。ヒョウお姉ちゃん!」

「ルイもそうじゃないの。さっきみたいに小さな女の子みたいに可愛く呼んで欲しいの。しかも言っている姿を動画に収めたいわ。それに今日買った服も着てもらいたいわ」

「あの雪さん。私も呼んで欲しいです。私可愛い妹が欲しかったんですよ」


 ホームに帰っても幼女のふりをしなくちゃいけないのかよ。やだよ。なんで小さな女の子にお姉ちゃんって呼ばれたいんだ?新手のプレイなのか?

 帰ったらすぐにベッドにダイブしたいのに雹のお遊びに付き合わなちゃいけないんだ?それに周まで雹に便乗するなんて珍しいが、お姉ちゃん呼びになんのメリットがあるんだよ。ただ呼ばれるだけなのにな。俺にとって黒歴史が増えるのだが。

 そういうことか。動画に残すことは俺を動画でネタにしてからかうことが目的なんだな。そういうことなら断るぞ。

 それに周もだ。周が一人っ子なのかは知らないが、妹なんていい物じゃないぞ。小さい時は純粋無垢で可愛かった。それは姉も同じか。思春期に入ればうるさいだけで可愛さなんて一ミリもない。あれで学校で意外とモテるって聞いた(月希の弟情報)時は耳を疑うほどだ。


「嫌だよ。恥ずかしいから勘弁してしてくれよ。この話は終わりだ。誰かに絡まれる前に帰るぞ」

「雪さん、走ると危ないですよ。人にぶつかりますよ」

「っうわ!」


 俺は話しをごまかすように走りだした。そして周の忠告を無視した報いなのか人にぶつかって、その人に押し倒された。


「ユッちゃん大丈夫?それにシロシロじゃないか。君も来ていたの」


 どうやら俺がぶつかったのは白城だったようで、今現在白城に押し倒されている。

 白城は心配するぐらいヒョロヒョロな男子のはずなのにわりと重い。体格差もあると思うが、普段運動しているからかヒョロヒョロな見た目なのにちゃんと筋肉があってがっしりしている。脂肪よりも筋肉の方が重いから白城という重りで床に押し付けられている俺は抜け出すことができないでいる。

 なんでこうなったのか俺の襟首に白城の手が入って、白城の手の甲が胸に当っていて、反対の手が俺のお尻を掌で包んでいる。受け身をとろうとして潜り込んでしまったのだろう。この状況は何なの?


 人が見ている。だんだん人が集まってくる。

 時間が経つほど現状女児を押し倒している白城くんの社会的な地位が悪化しているのに白城がピクリとも動かない。

 俺の顔には白城の胸がって心臓の鼓動が感じるから生きているのは確かだ。心なしか鼓動が早くなっている気がする。

 気絶しているのかと思ったその時にお尻にもみもみと揉む少しくすぐったい感触があった。

 え?白城?自分で言うのもあれだが見た目が女児のお尻を揉むってお前そういう趣味だったのか?相手が俺だから完全な女児ではないけど同年代の女の子が嫌だからってペドに走るのは引くわ。見損なったぞ。

 この状況から誰か助けてくれよ。月希達は面白い物を見ているかのようにただ見ているだけで増えていくじゃじゃ馬共と同じで誰も動こうとしない。

 月希に至ってはカードフォンで写メを撮っている。


「そこの君!何している!」


 うわー。俺をさっき迷子センターにご案内してくださった警備員のおじさんが駆けつけてきた。これ以上面倒になるのは避けたいし、白城も同じなはずだ。


「おい、白城そこどけよ。ヤバいことになるぞ!」

「・・・」


 俺は自分が女児になっているのを忘れて俺の尻の感触をいつまでも楽しんでいる白城に訴えるが、返事がないただの屍のようだ。

 廃モールの時と同じくらいヤバい状況だぞ。どうにかしないと白城が最悪の場合だと警察沙汰になるし、俺の場合は両親を呼ぶかもしれない。この体の俺には両親と呼べるような存在なんていない。

 それどころか、クローンなんだから戸籍が存在しないんだよ。月希みたいな学生が俺の保護者になれるわけもなく、本当の両親を呼ぶわけにもいかないし、最悪警察沙汰になったら児童養護施設に預けられるのかな?

 俺がこの状態になっていることは先生達にはまだ話していないみたいだから先生達に知られたらモルモットになるんですかね。俺。早く元の状態に戻らないとヤバいな。


「雪くんさっさと行くわよ」


 白城の身体が浮いたと思った時、俺は雹に抱きかかられていた。面白がって傍観していた雹達もこの状況がヤバいことに気づいてくれたようだ。月希が白城の足を掴んで放り投げて、雹が俺を抱きかかえたようだ。俺達は集まったじゃじゃ馬に紛れてそそくさとモールから脱出した。

 後のことは白城が何とかするだろう。女嫌いと思っていたのに人の尻をいつまでも揉んでいたからそのくらいはしてもいいだろう。


 そのあとの帰りのバスで俺は疲れて寝てしまった。目を覚ましたらホームのソファーで寝ていた。


「ユッちゃん起きたの?」

「うん?ああ、いつの間に寝っちまった。悪いな」

「気にしなくていいよー。寝顔がすごく可愛かったから。これこれ見て見てバスでユッちゃんが寝ているところを撮ったの。可愛いでしょ?」


 月希が見せてくれたカードフォンには俺の寝顔の写真が写っていた。それをニアニアと見せびらかしていた。

 恥ずかしいところを撮られてしまったな。まいいか、ここまで運んでもらったし、今日はいろいろあったから流石に疲れたよ。普段の俺でも怪力の月希からカードフォンを取り上げるのは至難の業だし、この身体ならなおさらだ。

 あの写真で喜んでくれるならそいつはよかった。


「そうだ。今、ヒョウちゃんとアマネンがゴハンを作っているよー。もうすぐできると思うよ」

「そうか。わかった」


 カードフォンをニマニマ眺めている月希の言うには雹と周が晩御飯を作っているそうなのでソファーから起きてキッチンを覗いた。そこには雹の指導の下で周が食材を切る様子が見れた。

 そういえば、周は料理が苦手って言っていたような。練習で作っているのかな?

 料理が得意と言っていた雹も一緒に作っているみたいだし、周が言っていたみたいな料理を焦がすことの失敗は無いだろう。


 この身体じゃなきゃ手伝えるのだが、この身体だとシンクにさえ手が届かない始末だ。イスに上らないとテーブルの上に何かあるか見えないから料理の配膳もできない。ここはおとなしくするしかない。


 ソファーに戻り、暇つぶしがてらテレビを眺める。現時刻六時半の興味が沸かないつまらないニュース番組を眺めていたら図々しくもミケーの奴が俺の膝の上に乗ってきた。

 重いがどかすのもだるいから撫でてテレビを眺める。子猫特有のサラサラな毛並みを堪能しながらニュース番組は廃モールの崩壊や流桜学園の校舎破壊をやっていた。内容は俺が知っている表向きの物と大差なかった。ただ廃モールについては老朽化が進んで自然崩壊とされていたのは知らなかった。映像を見る限り、化け物が破壊した箇所や化け猫の爪でつけられた傷が映し出されいていた。あれをどうやったら自然崩壊と説明できたのか不思議だ。

 テレビ局に学園とつながっている人物でもいるのだろう。

 廃モールは安全上の都合で取り壊すことにが決まったそうだ。メテオに関する物の証拠隠滅のためだろう。一般人に対してメテオを隠しているから街の中にこんな化け物がいたら流桜市がパニックを起こすだろう。


「ご飯ですよー」


 周のご飯コールを聞いて、テレビを消して月希と共にテーブルに向かう。

 俺の前に置かれたのはお粥みたいな水っぽいご飯が盛られた茶碗と灰色の液体が入ったお椀。

 何これ?お粥っぽいご飯は食べ物として認識できるが、灰色の液体って何?何が入っているのこれ?ゴマか何かのスープ?

 月希の顔を見ると表情が引きつっているぞ。こんなレアな月希はテストの点数が一桁代だった時以外で見たことがない。


「すみません、水の分量を間違いまして、ご飯がこんなにべちゃべちゃになっちゃいました」


 べちゃべちゃなご飯よりこの灰色のスープは何なんだー!

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