第27話 廃モールの中

 俺は月希が指した場所に光の玉を飛ばした。

 見た感じ何もいない。フライヤーと厨房に設置してある冷蔵庫の隙間に光の玉を入れたりしたがいなかった。冷蔵庫も開けた見たがいない。

 他に隠れられそうなキッチン設備の細かな隙間とかを念入りに見たがメテオはいなかった。

 月希は自分の影でも見て見間違いしたんだろう。


「いないぞ」

「いない?何かが横切った風に見えたんだけどな。見間違いかな?ごめんよ。ユッちゃん」

「いいさ。ネズミだったかもしれないし、俺達はこういうことをするのは初心者だからしょうがないだろ?メテオを身体に取り込んだことで神経を今までの倍に研ぎ澄ませられるわけじゃあるまいし。まっ、ここは何もいなかったことだし、雹達がいるテーブル席に行こーぜ。雹達の光の玉はそこにあるだけだし」


 俺と月希は厨房を後にした。


 俺達は気づかなかった。2ミリ程度の微かな隙間にメテオがいたことに。そのメテオは息を殺して隙間に隠れていた。


「そっちはなんかいたか?」

「いいえ、何も見つけてないわ」


 雹と周の二人はカードフォンの画面の光を頼りにレジ回りやテーブル席を見ていたようだ。それでほとんど見終わったところに俺達が戻ってきたって感じだ。

 俺達と同じで何かいた痕跡は発見してない。


「見てきた中でおかしくない?」

「えっ、何が?」

「ヒョウちゃんも思った?」


 月希と雹が何かに気づいたようだ。

 俺と周はハテナを浮かべた。


「痕跡が無さすぎじゃない?普通なら人の髪の毛1本ぐらい落ちていても不思議じゃない」

「こんな広い部屋で髪の毛1本探すのは大変じゃないか?数十分程度しか探してないからじゃないの?1日かければ見つかるんじゃないか?」

「そうじゃないの。ヒョウちゃんが言いたいのは動物の痕跡まったく無いって言ってるの」


 動物の痕跡がまったく無い?


「ええ、廃墟ならネズミ一匹ぐらいいそうなのにここはネズミの死骸、糞、足跡が無いの。私は最近のことしかわからないけど積もった埃には私達以外の足跡すらなかったことに違和感を感じたわ。それは先生も同じじゃないかしら?」

「ネズミとかの動物がここに住みはじめてメテオに食べられているのでしょうか?」

「だから先生は裏の倉庫で調べていると」

「そうね。ここがこんな感じだから先生も収穫はないのかもしれないわね」


 雹が言いたいことはほぼわからないけどわかったことはここにはメテオがいないから探しても意味ないってこととネズミとかの野生がメテオのエサになっていることか。

 先生が奥から戻るまでレジ回りやテーブル席を調べてみる。既に雹達が調べ終わっているだろうけど。

 先生が奥から戻って俺達が喋っいたらサボっているように見えるじゃん。やってますよってアピールしてないと怒られそうだから俺達は意味がなくても調べている。


「お前ら何か見つけたか?」


 奥から先生が戻ってきた。


「いいえ。ネズミ一匹いません。ネズミがいた痕跡すら見つけられませんでした」

「そうか。もしかしたらネズミに擬態して巣穴に隠れているのかもしれないと思ったのだけどな」

「先生。擬態とか巣穴ってというのは」


 先生が漏らした言葉に雹が聞く。


「あぁ、お前らはメテオの生態について知らなかったか?擬態って言うのはな」


 先生は進みながらメテオの生態について簡単に説明してくれた。

 メテオは食べた生き物に擬態できて、擬態を利用して擬態した生き物と同じ生き物に近づいて食べていくという。メテオ同種で共食いする時もあるそうだ。

 生き物はほとんど自分と同じ姿をした生き物なら油断するだろう。攻撃的で縄張りを持つ生き物なら縄張りに入ってきた同種に縄張り争いで近づいて食べられるとかありそうだ。

 これは日本の動物の絶滅が加速しそうだ。もう既に加速しているのかな?

 それでメテオは擬態のついでに厄介な能力を二つを持っているそうだ。一つ目は食べた生き物の記憶を得ることができるとのことだ。

 メテオを研究している時に起きた事故の話らしいだが、人がメテオに食われた話を聞いた。一人の研究者がメテオに食われてその数分後、メテオは食べた研究者に擬態した。そこまでは予想できていたが、自分を閉じ込めていたパスワード付きの研究室のドアの開けてしまった。 その事件によってメテオは食べた相手の記憶を得ることがわかった。それと滑舌と言っていることが意味不明な言葉を話すことができるようだ。

 もう一つの能力は時空を歪ませて移動するテレポートの能力だ。

 テレポートの能力は鉄球スライムと戦った時に見たから知っていた。テレポートは普通に生徒手帳で使っているがメテオシルバーを身体に取り込んだ俺達も長い距離はできないが、近い距離ならテレポートができるそうだ。

 それも経験済みだ。鉄球スライムと戦った時に偶然できた、今でもどうやったかわからないけど。

 メテオは時空を歪ませる能力を利用して異空間を生成できる。これはホームの技術の元となった能力だ。これもホームに初めて入った時に宮守先生が説明してくれた。

 その能力で巣を作るのもその時聞いた。

 先生の話の腰を折るつもりはないので静かに説明を聞いている。


「任務中だからざっくりとした説明で悪いな。詳しく知りたかったら学園のサーバーから文書を抜き取って見せてやるわ」

「先生ありがとうございます。できればメテオを発見した具体的な内容や事件についてもお願いします」


 先生の話が終わったのを見計らって先生にメテオを発見した話やメテオにまつわる事件の資料もお願いした。

 オカルト好きな俺は先生の話を聞いてメテオに興味が湧いた。あまり戦いたくはないけど地球外生命の話を聞いたり、事件の文書を読むのは大好きだ。

 ネットで宇宙人にまつわるサイトを読んで丸1日が消えたことだってある。

 もしかして俺って自分で体験するより他人の着色された体験談を聞く読むのが好きだったりして。


「水泡、お前そう言うの好きなのか?」

「はい、オカルト話とか幽霊とかUMAとか好きです。超常現象の話なんて読んでいて飽きません。けど」

「けど?けどなんだ?」

「いいえ、なんでもありません。なのでメテオが関係する事件もお願いします」


 俺は戦うことは嫌だと口から出そうになった。今の状況で言うのは先生の怒りを買うかもしれない。好きで来ている月希や雹がいるが、俺と同じく嫌々来ている周が我慢してついてきているんだ。男の俺が腑抜けたことを言うのは情けなくなる。今言ってしまったら俺の中の何かが抜けてしまうと思う。それでメテオとの戦いから逃げ出してしまいそうだ。だから俺が逃げ出さないように誤魔化して口を閉じた。


「事件か。悪いなそういうのは読ませられないんだ。メテオが関わることすべて一般的に非公開なのは知っているだろう?そういうことだ」

「雪君一般の人に秘密だから関わる事件も秘密って訳よ。そしてそれらの事件は私達のような生徒でも見ることができない。そうですよね?先生」

「そうだ。雪月花の言った通り、水泡諦めろ」


 秘密裏の事件にしていることは底辺の俺達が知ることができないのか。もしかしたら現在行方不明になった人はみんなメテオに食べられたりしてな。それか何かの拍子にメテオシルバーを手に入れて俺達みたいにメテオと戦う羽目になったり、学園を管理している組織と敵対してテロ行為をしていたりしてな。

 テロリストがメテオの力を手に入れたら、いつか人と戦うのかな。

 先生達と敵対していた人達、4日前に月希達を小屋に閉じ込めていた人もメテオシルバーを取り込んだテロリストかな?

 水銀みたいなクスリを飲んだらそうなったって言っていたからそうなんだろう。

 その事は先生達の方で調べているみたいだから俺が口出すことをしなくてもいいだろう。


「あ!あそこに何かいった!」

「よくやった。それはどこだ!」

「先生あそこに何かいました。ユッちゃんあそこに明かりを向けて」


 先生の説明が終わり、俺は考えに耽っていたところ、また月希が何か見つけたようだ。

 月希に言われなくても光を月希が指した方に光を送った。光を送ったらガラガラガッシャーンと何かが崩れる音がした。


 確実に何かいるぞ。そいつは急いで逃げているみたいで音をたてながら俺達が離れていく。


「見に行くからお前達は離れずについて来い」


 先生は音を辿ってそいつを追った。

 俺達は先生の指示に従い、先生の後を追うのだがあまりにも先生の足が早くて追うことができない。

 男の身体では結構自身があって、先生のスピードにもついていけたのに女の身体の方の足は遅い。徐々に先生や雹、月希の背中が遠ざかっていく。そして体力的に限界が近い。

 この身体で走るのは初めてだ。そして作られたばかりのこの身体は最低限の筋力しか無いのかもしれない。


 後で先生に怒られそうだな。この身体でマラソンでも始めようかな?


 俺よりもヤバイのが後ろの周なのだが。


「はぁはぁ、雪さん私に構わず先に行ってください。私は後で追い付けるので」


 それは新手の死亡フラグですか?

 まだ少ししか走ってないのに周はもう限界で走れないといった感じだ。運動音痴なのかな?俺も同じで走れなさそうで情けないけど。


「ハァハァ、少し休もう。先生達が早すぎるんだよ。きっと」

「いっ、いえ。わた、私は運動音痴なので凄く運動をするのが苦手なんです」


 自分達が追いつけなかったのを正当化しようとして周を慰めようとしたらそう返されてしまった。

 今の俺も体力無いですよ。男だった時は結構足も早くて、持久力もそれなりにあったのにこの身体が体力が無いのが原因であって男だったらついていけたと思う。


「少し休んだら行こう。先生達も心配するだろうし」

「はい、雪さん私の為に」

「いいよ。気にしないで俺も走れなさそうだったから」


 周は俺が自分の為にここにいると思っているようだ。今の俺も周と同じくらい体力がなくて走れないのに。


「皆さん足早いですね。羨ましいです」

「周って中学の時部活は何してたの?」

「部活ですか?恥ずかしいのですが私運動が苦手だったので三年間文芸部に所属してました。こんなことになるならなんでもいいから運動に入ればよかったですよね」

「そんなことは無いと思うぞ。三年間文芸部で頑張ったんだろ?」


 文芸部って何をするのかわからないけど。卑屈になっている周を励ますか。


「まぁそうですが」

「今失敗したら次頑張ればいいじゃんか。今の俺も周と同じくらい体力がなくてさ、もう限界で走れないんだ。明日から朝早く起きてマラソンでも始めようかなって考えていたところなんだ。周も一緒にどうかなって?」

「マラソンですか?私凄く足遅いですよ」

「構わないよ。俺もこの身体も同じくらいだからさ、一緒に頑張ろうよ」

「はい、雪さんがいいので」

「しっ!何が音がした」


 周を慰めていたら足音が聞こえた。

 ペタペタと裸足でゆっくり歩く湿っぽい音。


「先生達が戻ってきたのでしょうか?」

「先生達じゃない」


 先生達だったら裸足で歩くような足音がしないはず、靴も掃いていたし。先生達じゃないならいったい誰がこんな廃墟にくるんだ。しかも裸足でだ。こんな夜に肝試しでもしに来たのか。それだとなんで裸足?それとも廃墟に住み着いた人か?人がいた痕跡は無かったのにまだ見ていない場所にいたのか?


「ヴゥゥゥー。ヴゥゥゥー。」

「キャーーーー!」

「うげっ、キショい」


 足音の正体はゾンビだった。ただのゾンビじゃなくて所々にメタリックなゾンビだ。

 見た目が気持ち悪い姿をしていて周が悲鳴を上げていた。俺も変な声が出た。

 これが先生が言っていたメテオなのか?服は着ているけど肌が肌色のメタリックな上に目が虚ろだし、どう見ても正気な人じゃない。

 メテオが人を食べて擬態している姿かな?


「雪さんこの人ってメテオですよね?人じゃないですよね」

「俺もそう思うけど。これが先生が探していたメテオと言うことだろう」

「先生達が追っているのは何なのでしょうか?」

「ネズミかなんかだろう。とりあえず倒すしかないだろう」


 先生達が追っているのはなんであろうと目の前のゾンビを倒すしかないだろう。先生は生け捕りとか言っていなかったから普通に倒しても問題ないだろう。


「雪さん」

「あぁ、アイツを倒すぞ。何してくるかわからないから気をつけいくぞ」

「そうではなくて、雪さんあれを見てください」

「なんだよ。先生達を呼んでくる暇はないぞ。呼んでくる間にアイツが逃げたら俺達が先生に怒られ、おいおい、マジかよ」


 どこに隠れていたのかぞろぞろとメタリックなゾンビが出てきた。

 ゾンビが一匹いたら他に三十匹以上いるのかよ。


「雪さん逃げましょう。こんなに大勢相手にできません」

「そうだな。先生達を追うぞ」

「雪さん!手!」


 気づいた時には出口の方にはゾンビが溢れるていて廊下を埋めつくされている。来た道を戻ってモールから出ることは不可能だ。

 他の出口を探して外に出ることは出きると思うけどゾンビのことを先生達に伝えないと。

 俺はとっさに周の手を掴んで先生達を追った。

 周が声をあげていたがゾンビがすぐそこまできていたのだろう。


「休憩はもう終わりだ。走るぞ」


 俺と周はゾンビに追われながも走った。周の手を引っ張って走っているから周は少し走り憎そうだが、手を放したら周と別々になりそうと思ったので手を繋いだまま走っている。

 俺は後方を確認してゾンビ達を見る。ゾンビ達は走れないのかのそりのそりと追ってくる。

 ただ違和感がある。

 本物のゾンビは肉体が腐っているから走れないのかなと納得できるがアイツらは身体の一部がメタリックな色合いなだけで腐ってもいないから普通に走れそうな気がする。

 走れたら俺と周なんてすぐに捕まりそうだけど。


「雪さん、もう無理れすよ。少し歩きましょう」


 ほんの少ししか走ってないのに周がバテ始めた。俺もキツいけどもう少し頑張れそうなんだが、本当にマラソンが必要だろう。

 ゾンビ達から距離がとれたから少し歩いても追いつかれることはないだろう。


「しかし、モールの中にゾンビなんかいるんだ。ホラー映画じゃあるまいし、ゾンビの呻き声がうるさくて先生達がどこに行ったのかわからなくなったぞ」

「はぁはぁ、雪さん、私達って廃モールにいましたよね?」

「そうだけど」

「こ、ここはどこなんでしょうか?」


 俺達はモールの廊下を走っていたがいつの間にか別の場所に辿りついたようだ。

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