第28話 モールのゾンビ

「なんでこんなにもゾンビわんさかいるんだよ!」

「そんな悠長なこと言っている場合じゃありませんよ。完全に囲まれましたよ!どうするのですか」


 俺と周はモールの中でゾンビに追われいたのだがいつの間にか何も無い真っ暗な空間に迷い込んでしまった。床はモールと同じ床だからここはモールの中で間違いないと思うが床以外何もない。壁や天井はなく不気味な暗闇の空間が続いている。

 俺達の後ろからはゾンビがのそりのそりと追ってきている。

 ゾンビに追いたてられているうちに俺達はいつの間にかゾンビに囲まれてしまった。


「やるしかないのか」

「えぇー、やらなければいけないんですか!こんなにいるんですよ」


 不満を漏らした周が言う通りゾンビの数は二十近くいる。二人でこの数を相手にするのは無謀かもしれない。しかし、逃げ道がない今は戦うしか道は残されていない。

 相手はゾンビ。人間と変わらないシルエットをしているが身体の至る所にメタルチックな色が見える。これらは全部メテオなのだろう。なんで人間の姿をしているのかはわからないが、モールに肝試し感覚で来た人間や業者を襲って補食して擬態で人間の姿を手に入れたのだろう。

 今は現実逃避で考察しても意味はない。今の現状から抜け出す術を見いださねばゾンビに襲われる。ゲームや映画のようにゾンビに噛まれたらゾンビになるなんてことはないと思う。


 囲まれている今逃げ道を確保するために目の前のゾンビを蹴散らす必要がある。拳ぐらいの金と光を混ぜ合わせた玉を生成して目の前にゾンビがちょうどやく三体横並びになっていたので頭に向けてなぎ払うように放った。

 三体の頭が消し飛んだ。頭が消し飛んだのに血吹きがなく、ゾンビは何事もなかったかのように動き出した。変わったことは頭がなくなったことによってうめき声のような声が消えたことだ。

 人間相手と思っていたが頭がなくなっても不自由なく動くとならばゾンビを殺しても大丈夫なはずだ。

 相手はゾンビだからもともと死んでいるのか?メテオの擬態しているだけだから人間じゃない。

 血吹きがないわけだ。

 先ほどゾンビの頭を消し飛ばした玉を操作して頭がないゾンビを片付けていく。

 玉にトゲをつけてゾンビをミンチにした。それを見た周は吐きそうな表情をしていた。人間の姿をした物がすりつぶされていくさまはとても気分が良いのものではないな。

 ゾンビ三体を倒したお陰で逃げ道ができた。ゾンビはミンチになっても動いていたけど。


「粉々になったのにまだ動くのかよ。見た目通りゾンビだな」

「ヒャッ!雪さん何をするのですか!」

「舌を噛むなよ。って無理だ」


 ゾンビを三体を倒した俺は周をかっこよくお姫様抱っこするつもりだったが、周を持ち上げることができなかった。この身体の筋力では無理だったので、また周の手を引いて開けたゾンビ達の隙間から逃げ出した。


「ハァハァ、雪さんまだ追ってきてますよ」

「そんなのわかっているって、そんなこと言っている余裕があるなら足を動かしてくれ」


 息をきらしている周がゾンビが迫ってきていることを知らせるが、そいつらから逃げているんだから追ってくるのは当然のこと。

 あいつらの仲間をミンチにしたからか声が大きくなった気がする。


「こ、これから、どうするのですか?行く先まっ!真っ暗ですけどモールに戻れるのでしょうかぁ?」

「戻れるかわからないけど!今はあいつらから逃げるしかないだろ!止まってあいつらの相手でもするのか!ごめん言い過ぎた」

「い、いえ、き、気にしないでください」


 周に少しイラッとして少しキツく言ってしまった。こんな状況でカッとしてしまった。

 迫りくるゾンビに焦ってしまった。少し頭を冷やした方がいいかな。

 だんだん息切れし始める周、もうすぐ走れなくなるだろうし、体力があるときに向かえ撃つしかないのだろうか?


 後ろをチラッと見ると更にゾンビが増えていた。逃げれば逃げるほどゾンビの数が増えているのだろうか。

 最初の数体のうちにゾンビを倒しておけばこんな状況に陥ることはなかった。

 今やゾンビの数は40体は越えている。最早二人で倒す数ではない。

 先生達と合流しようとも先生達がどこにいるのかわからない。これだけのゾンビの数は対象できない。

 詰んだ。逃げることしかできない俺達にどうすることできないのか?

 周はこんな調子だから俺が頑張らないといけないけどどうすることもできない。


「雪さん! ゾンビ達の様子がおかしいですよ。弾ける音も聞こえますよ」


 周の言う通り何体かのゾンビが回れ右して別の方向に向かっていく。それに弾ける音というか銃声?のような音が聞こえるぞ。

 銃声?

 まさか、別の方向に向かっていくゾンビの先に月希達がいるのか?あの先に月希がいるのだったらひとまず合流するしかない。がこの数のゾンビを何とかする必要がある。

 ここは賭けるしかない。


「周、あのゾンビ達が行く方に向かうぞ」

「ソンビの行く先ですか?」

「そうだ。賭けになるがきっとあの先に月希がいる。銃声も聞こえるしな」

「わかりました。雪さんを信じます」

「それじゃ行くぞ!」

「はい!」


 俺の掛け声でも別の方向に向かうゾンビと同じ方向に走っている方向を進路を変える。急に進路を変えてもゾンビは元々足が遅いから転びはしなかった。進路を変えてからゾンビとの距離が縮まったからゾンビとの間に足止めで金の壁を生成してゾンビを囲むようにした。

 壁を作ったことによって少し頭がクラっと来たがもう少しで月希と合流できる。気合いで意識を保たなくては。


 壁から逃れた別の方向に進むゾンビは俺達のことを気にすることはなく進んでいる。あっちのほうを優先しているようだ。

 ある程度距離を置いてゾンビの後をついていくと銃声が大きくなっていることに気づいた。

 話し声も聞こえるぞ。きっと月希達だ。


「ゾンビウィルスがこんなに蔓延しているなんてテロリストの仕業かしら。私達も噛まれたらお仲間ね」

「ルイふざけていないでちゃんと倒して!」


 月希がふざけてゾンビ映画のセリフを言いながらゾンビ達の眉間に風穴を開けていた。風穴が空いたゾンビは怯む隙を狙って雹の刃がゾンビをサイコロステーキに変えている。


 あんなに動くサイコロステーキは嫌だが、月希と雹のコンビネーションは凄い息がぴったりで1体づつ銃弾を当てて動きを止めさせて切ることで処理している。

 サイコロステーキになってもゾンビは月希達にジリジリ近づいている。

 雹はなんで片手で刀を持っているんだろうか?左手は腹付近を押さえている。もしかして怪我でもしたのかと思ったが二人のやり取りを見ても怪我をしていなさそうだ。

 合流したときに聞こう。


「雪さん!こちらも来てますよ!」

「わかってる。せっかく月希達と合流したんだ。このまま月希達のところまで行くぞ」

「わかりました。行きましょう。月希さん達もピンチなようですし」


 俺達の後を追ってきたゾンビと月希を襲っていたゾンビが俺達に気づいて俺達に近づいてくる。

 なんだよ。さっきまで見向きもしなかったのに。

 俺と周は暴れまわっている月希と雹コンビのところに向かった。向かう途中さっきの金光の玉を生成してゾンビの肉塊を増やしていく。


「ヒョウちゃん!みてみて、ユっちゃん達だよ」

「無事だったのね。よかったわ」

「おい!何やってるんだ!後ろ!」

「「えっ?」」


 俺達に気づいた二人は安堵の言葉を漏らしている。それで気が緩んだのか二人の背後から忍び寄る影が二人を襲った。


「クソ、届けぇぇー!!」


 渾身の思いで光と化した左手から光の光線を出した。

 間一髪のところで光線が影に命中した。


「ウワッ!ユっちゃん何するの?危ないでしょ」

「雪くんは私達を背後から襲おうとしていたメテオを狙ってのよ。責めるんじゃなくてそこはありがとうでしょ?」

「えっ?そうなの?全然気がつかなかったよ」


 月希に銃口を向けられたが影に気づいた雹が弁明してくれた。

 その小さな影は光線にあったが、亡骸はなかったから逃げたのだろう。逃げるということはゾンビとは違うメテオみたいだ。影はゾンビの親玉なのかもしれない。

 俺が放った光線に殺傷能力があるのかは自分でもわからないけど命中したとき影を飛ばせたから攻撃としては使えるみたいだ。


「ユッちゃんありがとうねー。ユッちゃん?」

「ちょっと、雪さんどうしちゃんですか?!」

「雪くん!嘘でしょ!周は雪くんに群がるそれをどかして」

「わかりました」


 ゾンビを撃ちながらお礼を言う月希の姿が霞んで見える。いや、目に写る物全てが霞んでいる。

 力を使いすぎたようだ。徐々に力が抜けてうまく立てない。前に能力を使った時は少ししんどかった。生成される金と光は俺の身体の一部からできているのは予想していた。使いすぎるとこうなることはわからなかったな。今回は無駄に生成し過ぎて、最後の光線で使い果たしたみたいだな。


「フッ、最後に月希と雹を守れてよかった」


 体にドンと衝撃を受けた。どうやら倒れてしまったようだ。霞む視界には雹が切り刻んだゾンビのサイコロステーキが俺によってくるのが見えるけど耳には何も入ってこない。

 どうやら俺はもう駄目だ。身体も思うように動かない。耳は聞こえなくなったし、見える物が霞んで見える。俺はこのまま死ぬのかな?

 なんか眠くなってきたな。死ぬのって何も感じなくなって眠る感じなのか?


「雪さんしっかりしてください!このままだとメテオに食べられますよ!ゾンビになちゃいますよ」


 周は意識を落とした雪に群がるゾンビの肉片を取りながら必死に呼び掛ける。


「私とマラソンをしてくれる約束はどうしたのですか!私、雪さんと一緒じゃなきゃ嫌です。雪さんもいやですよね?起きて、くださいよ」


 ぽとぽととこぼれ落ちる周の涙が雪の顔に落ちるが反応がないが、息をしているからまだ生きている証拠だ。回りはゾンビだらけの謎空間だ。何が起こるかわからない。

 仲間一人が意識不明の状況が彼女をパニックさせた。


「周。雪くんの様子はどうなのかしら?」


 雪を抱き止める周の元に月希と雹が駆け寄ってきた。


「い、息はしているので生きてますが目覚めないんです!」

「またあっちの身体に戻ったんじゃないの?」


 月希が言うあっちの身体というのは雪の本体とも言える男の身体のことだ。

 月希も雪のことが心配しているが、敵がいる前で冷静さを失うのはいけないことだ。冷静さを失うのは大きなミスに繋がることも、大事な仲間を失うことだってある。

 月希はサバゲーの大会で冷静さを失って負けたことが星の数ほどある。

 そして月希はゾンビに囲まれている状況の中で冷静でいることはチャンスを掴む手段と考えている。

 いつものようにふざけた風に言うのは自分を落ち着かせるのと周を安心させるため、雪の無事を祈っていた。


「でも!明らかに様子がおかしかったんです。フラフラしたと思ったら倒れたんです」

「確かに様子がおかしかったのは確かね。ルイ、雪くんを背負いながら戦えそう?」

「うん、今のユッちゃんは軽いからバリバリいけるよ!でも火力が落ちちゃうけどね。ヒョウちゃんも片手で大丈夫?」

「ええ、問題ないわ。この子も大人しくしてくれるから」

「えっ?その子は」


 周の心配を軽くスルーした月希と雹コンビは次の行動について話し合う。周は雹に抱かれる子猫が目に入った。


「さっき見つけたのよ。この子も迷い込んだみたいね。ルイ、雪くんは任せたわ」

「受けたまりっと、待ってメテオが!」


 月希の手元に今まで使っていた銃器が消えてハンドガン1丁が出現した。

 近づいてきたゾンビの頭部に一発当てた。


 月希は驚きの声をあげた。今倒したゾンビに気を取られている間、サイコロステーキと化したゾンビの肉片が近づいてきているのを気づかなかった。気づいたときには肌色だった肉片が銀色のドロドロに変わり雪の金と光と化した両腕に吸い込まれていた。


「どういうことなの?」


 月希達が躊躇っているうちにまたゾンビの肉片が近づいては銀色のドロドロになって雪の両腕に吸い込まれていく。


「次々と雪さんの手に入っていきますよ!」

「そんなのわかってる!」

「ヒョウちゃん!ゾンビの数が増えてルイには手におえないよ~」


 周の言葉に雹が珍しく声を上げる。

 彼女達がどんなに頑張って雪に群がるゾンビの肉片を取り除いても彼女達に休む暇を与えずに次から次へと群がり続けて雪の両腕に消えていく。

 彼女達に迫るゾンビの数が増えて、雹と周が雪の両腕に消えていくゾンビの肉片を取り除く作業をしている間、ゾンビの排除は月希一人で頑張っていたが頭を吹っ飛ばしても迫るゾンビの数の暴力に勝てるはずもなく、彼女達に近づくゾンビはおぞましく唸った。


 ☆


「全くよー。アイツらどこにいきやがっんだ?高校になってまで迷子になるとはアイツらはバカなのかよ」


 一夜は廃モールの中で一人雪達を探していた。


「逃げたやつは見失うしよ。今日はついてねーな。今回の任務はめんどくせー」


 彼女の任務はモールに逃げた実験用のメテオの捕獲・排除たのだが、もう一つ雪達に話していない彼女に与えられた任務がある。それは雪達の力量を見ること。

 雪達はイレギュラーな存在。特に雪は実験用クローンと雪自信の身体を自由に操作できる上、貴重な魔法タイプの男子。他の三人は雪を中心とした物理タイプ。

 彼らにメテオを取り込ませた初日に類を見ない現象が起きた。入れ替わり現象だ。

 数十分のできことだったが、未だに現象の原因がつかめない。彼ら四人は何かしらの繋がりがあるのかもしれない。


 組織内では彼らの存在を報告してないが、一夜千陽や宮森雅の上司には報告してある。

 その人の命で雪達と今回の任務にメテオの確保と雪達の監視もとい観察が一夜の任務だ。

 それなのに彼女は肝心のメテオを逃し、観察対象である雪達からはぐれてしまった。


「すみません。先輩、水泡達とはぐれました。彼らはメテオの巣に入ったと思われます」


 ポツンと廃モールに残された彼女はひとまず、先輩である雅に報告の電話をかけた。

 簡易的に報告を済ませた一夜は巣の入り口を探すためにモール内の空間の歪みを探した。


「おやおや、犬が迷い込んだみたいですね。こんなに早くにも学園に勘づかれるとは思っても見ませんでした?」

「お前はこの間のテロリスト!」


 メタリックに輝くスーツ姿の男が闇の中から現れた。


「あなたがいるのならもうここは使えませんね。いいエサを与えていたのにもったいないですがいいでしょう」

「お前の独り言なんて誰も聞いてないんだよ。お前はここで何をしていたんだ!」


 一夜は右手に無数の釘が刺さった金属バットを生成して男に向けた。


「大人しく喋る訳ないよな。まいい。前は逃がしたが今回は逃がさねぇぞ!」

「おーコワイコワイ。そんな物騒な物を取り出して相変わらず怖い女ですね。サンプルは回収しましたし、怖い女に見つかってしまいましたので私はこれでおいとまさせてもらいましょう。」

「逃がさねぇって言ってんだろ!」


 一夜は男に迫って金属バットを振りかぶるが、スイングが空をきる。

 男はその場から消えた。一夜の足元に置き土産を残して。

 置き土産はドロっとした物体で沸騰したようにブクブクと泡をたてている。


「クソっが!また逃げやがったな!今度会ったらただじゃおかねぇからな!」


 一夜の声がモールの中に響く中、置き土産は泡をたてながら盛上り、質量がどんどん増えて異形な怪物へと変化した。


「テメェが私の相手をするのかよ。私も舐められたもんだよな。こんなもんで私を殺せるとでも思ったのか」


 怪物と一夜の戦いが始まった。

 事件後、ニュースで廃モールの一部が半壊する報道が流れた。

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