第20話 事件後

「ユっちゃん、他に面白いゲームは無いの?」

「てか月希、お前も家事ぐらいやれよ!」

「えー。そういう気分じゃない。だってあれから三日経っているんだよ」


 テレビ画面からつまらなそうに顔を上げた月希に文句を言い、自分がしている作業の続きを虚ろな目で洗濯物を干す。

 三日も理由を聞かないで監禁されれば誰っだってそうなる。ここから出ようとするも出入りに使っていた生徒手帳は無反応で完全にここから出る方法を封じられている。

 周だって夕食で使った皿を生気の感じない表情で洗い続けている。

 いつも天真爛漫な笑顔がたえなかった月希も今や無表情でゲームをやり続けている。

 俺のクローンに膝枕をする雹は、とても幸せそうなこれは三日前と変わってないな。


 事件から三日後、俺達は先生達の都合上の理由で謹慎を喰らってホームで暇を弄んでいた。先生側も予想外のアクシデントが発生してその対応で忙しいらしい。


 アクシデントの原因は俺なんだけど。


 先生達は俺の元の体を人質として俺達にメテオの討伐を強要しようとしていたが、何らかの原因で人質だった俺の体は俺の元に前触れなくベッドに現れた。

 先生側はそれらのことは分からず突然消えた俺の体を必死に探した。


 それで三日前のホームルームには副担の一夜先生がやっていたのか。


 だが、そんな先生達に上司から一年をメテオの討伐のお達しがきた。

 先生達は俺達に人質が行方不明なのを悟られないようにメテオ討伐に向かわせた。

 先生達はどこで知ったか。そのメテオ討伐に先生達が所属する組織と敵対する組織が一枚噛んでいると分かったらしい。

 急いで先生が向かった。


 先生達は下っ端みたいにいろいろこき使われているな。いや、下っ端くらいの立ち位置なのか。


 現場に着いた先生達の前に俺達が敵対組織のメンバーと思われる仮面の人物と接触していた。それを危険視した先生達は強制的に教室へと飛ばした。その後、先生達VS敵対組織メンバーの展開はなく、仮面の人物にはまんまと逃げられてしまったそうだ。

 そしてすぐに教室にいた先生に事情を説明されて気づけばホームの中で今に至るというわけだ。


「もうそろそろ先生達から連絡があってもいいと思うんだよね」

「そうですね。あれから三日経ちましたから」

「私はこのままでも構わない。こうしていられるのなら。雪君もおいで」


 雹が俺のクローンを優しく抱きしめて俺を手招きする。

 少女が眠り続ける少女を抱きしめる狂気じみた光景に加わることがない俺は雹を軽くスルーする。


「照れちゃって可愛い」

「別に照れてねーよ。いつまでそうやっているんだ。いい加減返せよ」

「あらあら」

「俺はもう部屋に戻る」


 雹からクローンを奪い取る。もう満足していたのか抱きしめる腕を放していた。

 あっさりと取り返したクローンを自室へ運んでベッドに寝かせ、その隣に腰を下ろしポケットからカードフォンを取り出しSNSのアプリを起動する。


 起動したSNSの通知を確認するほとんどが姉と妹からのメッセージだったのでそれらを削除した。白城にからのメッセージを確認する。


 白城にはあるお願いをした。それは授業のノートを写させてくれという願いだ。

 三日間監禁された俺は三日の授業の遅れに危機感を覚えた俺はすぐさま白城に連絡を取った。

 白城は焼肉チェーン店の食べ放題の報酬で引き受けてくれたが、なぜか白城はクラスメイト二人にも声をかけたようだ。結果、追加でその二人の分まで焼肉食べ放題を奢らなくてはならなくなってしまった。

 男二人だけで行くのはちょっとつまらない、多いほうがきっとおいしく食べられるし楽しいと思う。財布の中身は寂しくなるけど。


「おいおい、姉妹きょうだいの通知を見ないで消すとか酷すぎだろ。せっかくお前を心配しているメッセージかもしれないのによ」

「別にいいんですよ。姉と妹から送られてくる物はある程度予想できますので、それともうそろそろと思ってましたが、来るなら予め教えてくださいよ」


 カードフォンを除く女性を一目見る。

 彼女は疲れているのか酷くダルそうに見える。しかし、何か面白そうな物を見つけたような表情をしていた。


 彼女は俺達が所属するクラスの副担任であるためこうして様子を見に朝と夜に俺の部屋に来るのだ。何故か俺の部屋に。

 もちろん先生が来ていたことは全然話していない。

 一日目だけは一週間程の食料と俺の私物のゲーム機を持ってきたがそれ以降は俺に指示を出したり、月希達の様子を聞く程度だ。指示と言っても『いつでも学園へ行ける準備をしろ』だの、『私以外の人間が来たら攻撃しろ』だのと言ったものだ。

 前者は守っていたが、後者は誰も来なかったのが残念だった。だって監禁されている部屋の中にいきなり知らない人物が来たらホラー映画の展開で燃えたのに。人外だったら更に燃える。御飯を三杯いけるぞ。


「今日はなんですか?」

「何、前もって伝えに来ただけだが。明日、お前達には再び学園に投稿してえもらう。ただ、生徒手帳のロックの解除は明日の朝だ。解除する前にリビングに私が現れて女子三人に説明する」


 それだけ言い残し、用は済んだのか先生は煙が消えるようにいなくなった。


みんなのカードフォンは三日前から触れても何も動かずの状態だった。最初は故障と思い込んでいたが先生からの説明を聞いて先生側の都合でロックを掛けていたらしい。


 ピコンとカードフォンから通知音がなり、目を向けると月希からのメッセージだった。内容は『お風呂どうする?』と言った一言の内容だ。もちろん風呂は入りたい。

 ただ問題は一つクローンである。

 昨日や一昨日は周に頼んで入れてもらったが俺の記憶が正しければ、周はすでに風呂を終えている。月希に頼もうと思ったが濡れた髪でゲームをしている姿を思い出し、月希に頼むのは諦めた。

 雹は論外だ。雹に任せては何をされるかわからない。


 彼女達に頼むのはやめよう。

 クローンをここに運ぶ時、汗臭い匂いはしなかった。今の季節は春先だから今日ぐらいはクローンを風呂に入れなくても大丈夫だろう。

 女の子が一日風呂を抜いたらどうかと思うけど自分が一日動かしていた体だ。イコール自分の体と同等ということになる。

 しかし、男子高校生の俺は年頃の女の子の裸を見るにはレベルが高すぎる。

 スライムズと戦った時に散々、月希達の裸を見た俺が言えたことではない。あれは止むおえなかったし、クローンだったから俺的にはノーカンだ。


 早速、着替えを手に脱衣所に向かう。

 向かう道のりに月希、雹、周の姿をリビングで確認済みだ。脱衣所と風呂場でバッタリ会ってラッキースケベ展開になっては明日顔を合わせずらくなる。

 脱衣所に設置されているカゴに着替えと脱いだ服を奥半分と手前半分に分けて入れていく。


 風呂場に入り頭を濡らし、女子三人の私物のシャンプーを手に出し月希や周に教えられた通りに洗う。


 三人には三日前にちゃんとシャンプーやボディーソープを借りると伝えてあるからこうして使っている。女子に教わった洗い方をするのはもしクローンの体に戻った時に中身が俺だと周りに悟られないようにするための俺なり対策だ。


 シャンプーはピンク色でラベンダーの香りがする。シャンプーがどこのメーカーか気になりボトルを見るが、わかりやすいように手書きで『シャンプー』と書いてある以外何も書いていない。

 ボトルはホームセンターか100円ショップで買い、中身のシャンプーを詰め替え用で買って中に入れたのだろう。だからボトルには何も書いていない。書いてあったとしてもボトルを作った会社のロゴしかないのだろう。

 頭の泡を洗い流し、シャンプーと同じようにボトルに『ボディーソープ』と書かれたボトルから中身を手に出し、肌に直接塗って洗っていると脱衣所に誰かが入ってきたようだ。


「雪さん。タオルここに置いて置いておきますよ」

「おう。ありがとうな」

「いえ、私が好きでやっているだけなので気にしないでください」


 入ってきたのは周だった。そしてタオルを持ってきてくれたようだ。

 そういえば頭を拭く為のタオルが無かったのを思い出し、周に感謝した。


「私はこれで。ひゃっ」

「おう。タオルサンキューな」


 体に塗った液体石鹸をシャワーで洗い流した音でよく聞こえなかったが周の悲鳴がしたような気がするが、足の小指を扉にぶつけたのだろう。

 扉がぶつかる音が聞こえたし、その後すぐに扉が閉まる音も聞こえた。

 その後、俺は気にせず湯船につかり、風呂の縁に頭部を乗せ風呂場の天井を見る。


 お湯は冷めてぬるま湯になっており、その丁度いいぬるま湯は俺をトロンとした睡魔へと誘い、時間が過ぎれば過ぎるほど瞼が落ちる。

 この絶妙な温度がすげー気持いい。

 このくらいの温度のお湯に入っている気づけば寝ていて、いつの間にか顔が沈み息ができない状況に陥っていた。

 酸素を求めて勢い顔を湯船から引き上げる。


「ぷっは!あーびっくりした!」

「きゃっ!雪君大丈夫?」


 顔を上げた目線の先にほんのり膨らんだ胸があった。目線をやや上に向けると冷たい表情をした彼女は心配そうに俺を見つめていた。

 そして彼女は俺の頬を両手でロックし、彼女と俺の唇が触れる。


「ちょっとまった!!」


 唇が触れ合うことは無かった。


「ひょうちゃんはユっちゃんに何をしようとしているの?」

「何って雪君が溺れていたから人工呼吸だけど。それが何か?」

「何がじゃないよ。ユっちゃんのキッスはルイがいただく予定なのに」

「ってお前らいつの間に入ってきたんだよ。さっき入ったばかりだろ?」

「えへへ、二度寝ならぬ、二度風呂ですよ。旦那」

「雪君がクローンを洗わないからこうして私達が入れてるのよ」

「ゆっ、雪さん。失礼します」


 シャワー片手にクローンを洗っている周の姿がある。全員裸だ。

 これはどういう状況なんだかわからない。風呂場で居眠りこいてたら風呂場が男にとって花園化していた。

 二度風呂ってなんだよ。ああ、二回目の風呂って意味か。てか意味そのまんまだって気づいた。

 今の状況が読めなくて頭が回らないわ。


「なんで裸なんだよ。こっちは男だぞ」

「えーなんで?こないだまで散々一緒にお風呂入っていたじゃん」

「それは小学生の時の昔だろ。今の自分の年齢を考えろ」

「この間、私達の裸見ていたのに今更そんなことを言うのかしら?」

「それはクローンだったからで、あれはノーカンだ。羞恥心を自覚しろ」

「嘘!あれは遊びだったのね。私の胸に触れといてそれはないわ。責任取るって言ってくれたのに。酷いわ」

「コラ。捏造するな。あれは事故のようなものだし、俺はそんなこと一言も言っていない」


 雹は何を寝ぼけったこと言っているが、不思議と罪悪感があるのは何故だ?雹の胸を触ったけど本当にそんなことが言った覚えがないぞ。いや、言った気がするぞ。

 あの時はみんなを起こすことに集中していたからあんまり何口走っていたかあんまり覚えてないな。

 これは事故の後遺症かもしれんな。


 器用に無表情で悲しそうにする雹を見ているとそう言った気がするがその件はうやむやにしてなんですでに風呂を終えた彼女達がいるのか。


「さっき風呂を入ったんじゃなかったのか」

「だってユっちゃん、お風呂に入ってから二時間経ってあがる気配がなくてさ。そりゃあ心配して様子見に行くでしょ?」


 入ってから二時間も経過していたのか。俺の体感では30分ぐらいだっと思っていたがそんなに入っていたか。

 居眠りで危うく窒息寸前だったが一緒に入る必要はなかったんじゃないかと思う。それに三人一緒に入る意味も分からない。仮にクローンを入れる為に二度風呂するのは俺が上がってからでもいいはずだ。

 最近はホーム《ここ》に慣れてきて日に日に風呂に入って時間が長くなってきていて物音も絶てなくて彼女たちが心配しているのは分かる。

 俺がわかるのはここまででそれ以上の彼女達の心意は俺には理解できない。


「雪さん、体洗い終わりました。今度は自分を洗います」


 クローンの体を洗い終えた周はクローンを風呂場の隅に移動させ自分の体を洗い始めた。


「あれ?周、風呂入ったんじゃないのか?」

「いえ、私と雹さんはまだ入っていないですよ」

「そうなのか?」

「そうよ。雪くんの背中を流す為に待っていたのよ」

「てかもう体は洗い終わっているわ!お前らは俺に裸見らてなんとも思わないのか」

「今更そんなこと言うの?それおかしいわ。私と雪君の中じゃない」

「私は普通の男の人なら戸惑いますが雪さんとの初対面がクローンさんの方だったので雪さんに見れてもあまり恥ずかしくないですが逆に男の人の裸は見慣れて無いので雪さんはそのまま湯船に入ったままでお願いします」


 雹はしれっと言うが何故に二時間の時間を置いてから入ったのかこれも不明だ。いろいろと感覚がおかしい雹はひとまず置いといて、周の中では俺に見られるのは問題ないが、それ反対に俺の裸を見るのはNGの謎感覚だ。

 前はクローンのだったから何とも思わなかったが今の俺は男なわけで社会的にまずいと思うのだが。クローンだった時も中身が男な訳だからそれでもまずいのか。

 そう思うとだんだん罪悪感があるな。


「俺はもうあがるわ。そして寝る」

「待って」


 明日は学校が有り、二時間も風呂を入っていた。そして自分の体を洗う周を横目にこれ以上彼女達と一緒に入るのはまずいと思いもうそろそろ上がろうとしたとき、雹から待ったがかかった。


「私達入ったばかりよ。もう少し一緒に入りましょうよ」

「そうだよ。ユっちゃん、女の子とお風呂だよ。男の子が泣いて喜ぶエッチなイベントだよ。もう少し入るよね?」

「雪さん待ってください。後ろを向いて目を閉じますからまだ上がらないでください」


 彼女達からの待ったをかかったがその内の二人の訴えを無視する。周が湯船から背を向けるのを確認して立ち上がって風呂場から出ようとしたが右手に月希が、左手に雹に捕まってしまった。

 少女の手を振り解こうと両手を激しく振り落とした動作でツルっと足が滑った。俺の体は座らせていたクローンに倒れこむ....。


「はっ!!」


 ビシャと顔が湯船に落ちた。

 湯船から顔を上げると先ほどまでいた少女達の姿はなく、自分一人だけが湯船に浸かっているだけだ。先ほどの出来事は全部夢だったようだ。


「ユっちゃん!いつまではいっているの?もう7:00過ぎているよ。もしかしてまだ寝てるの?入るよ」


 心配した月希の声が聞こえた。

 さすがに一日24時間の四分の一以上入って一晩こせばいれば心配するか。


「あー。今起きたからそのまま脱衣所から出てってくれ」

「むう。やっぱり寝てたんだね。まったくユっちゃんはいつになったらお風呂で寝る癖直したほうがいいよ」

「あぁ、いつか直すから早く出てってくれ。湯船が冷めて寒いから服を着たい」

「毎回そう言って直す気ないな。それより早く着替えて台所に来てよ。昨日の残りを温めておくから」


 シャワーから勢いよく出るお湯を湯船から上がり冷えきった体で浴びる。

 体は震えるほど冷えていたのかシャワーから出るお湯が心地よく徐々に体を温めていく。だんだんと脳が覚醒していく中で今日は学校に行くという昨夜、一夜先生から言われたイベントを思い出す。


「そういえばさっき一夜先生が来たよ。私達、今日から学園に行けるみたいだよ。じゃあユっちゃん早くあがってね」


 月希はそう言って脱衣所から去っていった。

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