第19話 事件の終
クローンがいる方向へ向かうほどその存在が強く感じる。お互いを引き寄せ会う磁石のように俺とクローンとの間に不思議な力があって、その力が俺を引き寄せているようだ。
磁石になった気持ちで俺を引き寄せている不思議な力をたどる。
「もうすぐだ!月希、雹、周、待っていてくれ!」
メテオに警戒し、森の様子を確認しながら走る。
メテオはあの3体だけとは思えない。メテオとは出会いたくないが、いつメテオに襲われてもおかしないのだ。
いつの間にか太陽が沈み、月が浮かんでいた。
月灯りは枝や葉っぱで遮られ殆んど足元が見えなくなった。森の中は異常な程静まり返り自分の足音だけが響いていた。
俺は幾らオカルト好きとは言え一人で肝試し擬きする程の勇気はない。精々、夜中に一人でホラーゲームやホラー映画を見る程度で一人でこういういかにも出そうと言った場所は一人で行くことはない。無理であった。
恐怖心を掻き立てられた夜の森は不気味に思えた。
それを消す為に光の玉を生成した。
「試してみるもんだな。この体でも力を使う分には大丈夫のようだ。メテオに見つかる前に行くか」
光の玉を作ったのはいいが、周囲を明るくしたことによりメテオから見つかる確率が上がった。
数分が経ちメテオとは一切見かけてない。暗闇の光から避ける習性でもあるのだろうか。
そんなことを思いながら森の中で怪しげな光を見つけた。怪しげな光はクローンがいる方向に光っており、俺は先程生成した光を消して怪しげな光へ向かった。
俺が行き着いた先はボロボロの民家が並ぶ古びた廃村だった。
「ここのどこかに月希達がいるのか?」
奇妙なことに誰も住んでいないはずの廃村には電気が通っており、道端の電灯だけが点滅しながらも電気が点いていた。ホラーゲームに出てきそうな廃村その物であった。
「ゾンビがいそうな場所だな、ここは。というよりメテオになったメタリックなゾンビだと思うけど」
銀色の光沢があるゾンビはチート級に強そうだ。ゲームの隠し要素のボスにありそうである。銃弾を弾きながら襲いかかってきて通常の銃では倒せなくて隠し要素の銃で倒す的な。
鉄球スライムは月希の銃でもバリバリ効いていたがリアルとゲームはやはり違うな。
体を金と光に変えられるゲームキャラみたいな俺が言えたことではないが。
今思ったが夜中の町の中で顔を隠して腕を光らせて金の板を生成させまくったら都市伝説になりそうだぞ。『流桜市に現る光る腕の人物が生み出す黄金の板』みたいな感じで取上げられて有名になったりしてね。
まっ、そんなことをして先生達にバレたらどうなることか目に見えてるから絶対にやらないけど。
自分の独り言に突込み、街灯に照らされた道を不気味に思いながら進んだ。
クローンの存在を辿りながら廃村の奥へ進むにつれてだんだんと街灯の数が減り暗くなっている気がする。
俺は廃村で唯一、灯りが付いた小屋のような小さな民家にたどり着いた。
民家の外から窓を覗く。
民家の寝室らしく、照明は点いているものの少し薄暗い。部屋の片隅に縄で縛られた月希達がマットレスの上に倒れている。幸いに窓ガラスは割れていて外からでも鍵を開けられそうだ。
ここから進入できそうですぐさま窓の鍵は開けて進入経路を確保できた。
窓から進入しようと足を掛けた時、図太い男の声が聞こえて慌てて隠れた。
部屋の中に誰かが入ってきたようだ。
「ありぃ?窓開けていたっけか?そんなことはどうでもいいかぁ。おうおう。まだ娘っ子は気持ちオネンネだねぇ。これから自分達がどうなるか知らずに。ひひひ」
気持ち悪く笑う男は月希達の様子を見に来たようでブツブツと独り言を呟いている。
「ボス、早くアジトから出てってくれねぇかな。ボスが出てってくれねぇと娘っ子をアジトに招待できねぇよな。早くこの胸がデケェ娘っ子をやりてぇよ。だけぇどつまみ食いしたらアニィキに怒られちまう」
やらしい目でクローンを一瞥し、残念そうに部屋から出ていった。
男が出ていってすぐに部屋に進入した。そして月希達に駆け寄り、クローンを含め四人に息があることを確認して安心した。
男が戻って来る前に縄を程いてまず月希を起こした。
「おい、起きろ。月希」
「んっ、ユッちゃん?ここどこ?それよりもうちょっと寝させて」
「助けに来たぞ。早く目を覚ませ」
中途半端に起こすと目覚めが悪くなる手強い月希は寝返りを打って二度寝をかました。
この調子だと時間をおいてもう一度起こすと起きてくれるパターンなので月希は周と雹を起こしてからにする。
とりあえず二人の縄を程いて二人の体をゆさゆさと揺らす。
ムニュウ、ペタッ
「!」
「ハウッ、誰ですか?ひゃっ!男の人!」
「ムッゲッ」
「あら、雪くん。私を襲いに来たの?貴方なら大歓迎よ」
「えっ?雪さん?どうなっているですか?」
周は男に胸を触られたことでビックリして月希の上に転がり周のお尻が月希の腹の上に座るような体制になって月希の腹を圧迫している。椅子になった月希は苦しげな悲鳴をあげている。
雹は寝ぼけているのか夢だと思っているのか自分の胸に触れていた俺の手を引き寄せて俺を抱き込もうとする。
やっぱり平らだ。うん、平らだった。
雹の胸の感想は置いといて真面目に起こして周を落ち着かせないと。
「落ち着け、俺だ」
「えっ雪さん男になって、ヒャァ」
月希の上に座るってる状態の周の手を引いた。
このままだと寝起きの悪い月希がぶちギレるから早めに周を退かさないと大変なことになる。
月希は自分で起きると大人しいが誰かに起こされると手につけられないほど暴れてしまう困った子なのだ。
「ほら、雹も寝坊けてないでさっさと月希を起こしてくれ」
「男の雪くん。戻れたのかしら?そしてここはどこなのか説明してほしいわ」
「なんで戻れたのかは俺も正直知らん。ここがどこというと森の中にある廃村だ」
「雪さん!近い近い、えへへ男バージョンの雪さんも凛々しいです」
「周。俺が何だって。あっ、ごめん。手を握ったままだった」
雹に状況を説明してると横で周がブツブツと言っていた。多分手を握ったままだったから文句を言っていたのだろう。
「いつの間にか男に戻っていた俺はクローンの存在を頼りにここまで来たと言うわけだ」
「ふーん。あの部屋からここまでね。私達がなんでここで眠っていたのは想像できるわ」
詳しく説明してる暇が無いのでかなり纏めた説明になったが雹ならこれぐらいの説明でだいたい理解したはず。
「雪くんの言うとおりルイを起こすわね」
「雪さん雪さん。男の子に戻って良かったですね」
「あぁ、今は訳わからないけど正直ホッとしている。その代わりいつクローンに意識が戻るか不安なところがあるがな」
ようやく月希が起きてここからおさらばしようと民家から脱出を決めた時、部屋に男が現れた。
「おぃイ、やぅす!やけに戻リがおセぇじゃあねぇか。まさかヌけ駆けしておンなの味見してるんじゃ、おイ、おマエ誰だ!」
俺達の前に現れた男は見た目が人間半分メテオ半分をグルグルに混ぜ合わせたようなおぞましい姿をしていた。
ゾンビの方が何倍マシだった。
口元が銀色になっているせいかニュアンスすごくおかしくてすごく聞き取りにくい。
「シかもせっカくつカマえタ女タちがオキてるゾ。せっかクボスに内緒でナまァの女を犯セるノニよ。ホンもののじョシこウせイがよ」
男が喋ったお陰でで月希達を拐った動機はだいたいわかった。下衆なことに月希達を自分らの性欲の捌け口として使うつもりだったようだ。
「ユッちゃん、あの人私達にあんなことやこんなことを企んでいたんだって。気持ち悪いよ」
「あぁ、俺も同じ気持ちだ。一歩間違えたらと思うと正直鳥肌が立ってきたぞ」
「うぇー、雪さんが助けに来てくれて本当に良かったですよ」
手遅れになる前に着いて良かったと思うけど俺達の目的のメテオの親玉というかボスを倒す為にこの森に派遣されたのだが俺達の目の前にいる男はどうなのか。
「こんなの早く片付けて早く帰りましょ。じゃないと雪くんの枕を買いに行かないわ」
「待ってくださいよ。あの方を片付けるのですか?見た感じ人じゃないですか」
「アマネン、あれは人じゃないよ。間違いなくゾンビだよ」
「いやいや、どう見ても人に見えますし、喋れているじゃないですか」
聞き取りにくいニュアンスは置いといて半分人間の男は果たしてメテオなのかという疑問が浮かんだ。
「たくぅよ。みハりのヤぅすはドこ行キやガッたんだよ。ボスからいただいた犬コロは一匹もいねぇしよ。イッタイどうなってるだよ。まぁい、そんなことより女ドもを大人しくしてもらおうか。犬コロ行けぇ!」
男の影からメタリックカラーな獣が出てきた。
獣の姿はとてつもなく恐ろしく、人間や動物を混ぜ合わせてできているかのように獣の胴体は熊で、前足は人の腕が生えており、後足と尻尾には猫のようなしなやかな形状をしていた四足歩行の化け物が俺達の目の前に現れた。
「へへ、コイツはボスが造り上ゲた犬コロよ。見た目はキショイが従順でな。ほカぁの犬コロと戦わせてみたところ負けナしの文字トおりの化け物だ。今なら大人しくすればイノちだけは助けテやる。その代ワりおレのグヘヘェ」
「嫌」
「嫌です」
「嫌だよね」
月希達の胸元を見て気持ち悪く笑う男に対し、彼女達の回答は当然だ。男が命を対価に要求する物は男の視線の先を見れば分りきっている。
そして戦うすべを持っている彼女達は諦めない。
武器を出して構えている。
クローンを背負って、俺も彼女達に合わせて光の玉生成して、レーザー光線で軽く民家の壁を破壊して密室空間を開放的にする。
「そンなもノどこから出しヤがったんだ?まァイや、イやなら痛ミつケてわからセてやる。や、ヤっちマエ!」
俺のレーザー光線にビビったのか男は少し弱腰になっている。
男の声に合わせるように獣は俺に向かって突進をした。
クローンを背負っている俺は突進を上手く避けられないので獣前に金の板を生成させ突進を中止させる。
「ひょうちゃん、アマネン。今だよ!」
「ルイ、わかってるわ」
「ひゃあ、私もですか?」
「私が切りつけるから八代さんはそのあとに化け物を殴りればいいわ」
「わっ、わかりました」
獣の動きが止まったところを月希の掛け声で雹が切りつけ周が獣の脇腹に拳を入れる。
ジャァァァァッ!!!!
獣が痛みに叫ぶ。
獣がギロリと雹と周を睨む。
雹達の方に矛先を向けられる前に怒りを宿した獣の目に金で生成した杭を刺して視界を奪った。
「ユッちゃんヤルッー!ルイもさっそく」
月希が構えたポンプ式のショットガンからは金と光を混ぜ合わせた弾が雨の如く降り注ぐ。
金と光のシャワーを浴びた獣は月希から逃げるように距離をおいたがそれでも月希のシャワーは止まらない。
俺達に手も足もでない獣は男の命令には逆らえないのか決して森に逃げる様子はない。そもそもまともな自我を持っている様子はないと思われる。
命令に忠実な化け物形をした肉人形なのかもしれない。
「オォい、何ヤってる!このマヌケめ!なんでガキドも相手に痛めつケられてるンだ!殺シてモいい、ガキドもをヤレェ!」
今までアングリと一方的にやられてる獣をただ見ていただけの男はようやく状況を飲み込めたのか表情に焦りが見える。
「オゥー。焦ってる焦ってる。ご自慢のペットが痛ぶられて男の人面白いぐらい焦ってるよ」
「ルイ?無駄口叩いてないで引金を引きなさい。せっかく雪くんが目を潰したから攻撃のチャンスは今よ」
「分かってるって。ひょうちゃんは節介だなぁ」
「あわわわっ、月希さん危ないじゃないですか。ちゃんと怪物を狙ってくださいよ」
「アマネン、ごめんよ。化け物が暴れるから狙いが定まらないんだよ」
雹に注意された月希の流れ弾に当たりそうになった周が月希に文句を言う。月希は周の文句を軽く聞き流して適当に言い訳を言う。
獣は視界を奪う前から暴れ回っていたから月希の言い分はただの言い訳にしか聞こえない。
雹に注意されたから手元が狂ったのではないだろうかと思うのだが?
俺がいなくても彼女達三人で化け物を倒せそうなので俺は男から情報を引き出すことに専念しよう。
「俺達を痛めつけるんじゃなかったのか?逆にお前の可愛いペットが痛ぶられてて可哀相と思うのだが」
「ダまレ!ガキが。ただの高校生の分際でバカにしやがって。今ニ見やがれ」
人は頭に血が上ると判断力が低下するってどこから聞いたことがあるので男を小馬鹿にして怒らせる。
小者だから怒らせることによってきっとペラペラと俺が知りたいことを喋ってくれるはずだ。
「ところでさぁ。お前ってなんなの?」
「ガキがなめヤがって、おレがなんナのかはガキのお前に関係ネェエ」
そう言って男は殴りかかってくる。
クローンを背負っている俺は男の拳を避けなれないから男の頭上に大きめの金の塊を生成させ男に落とした。
金の塊にメキョッとコミカルな音を発てて押し潰された男は虫のようだった。
「グゥゥ」
「もう一度聞くぞ。お前なんなの?体がメタリックカラーな光沢けどあの化け物とは違いまだ人間としての意識はある」
この男はメテオに見える特徴があるのに人間としての残っている部分と人の自我を持っていることからメテオとははっきりと言えない。
後で先生達に聞けば何か分かるかもしれないがもし、先生達が知らなかった場合を考えて男から情報を引き出してみたい。
「そんナことオれはシラん。数日前、ボスから水銀みたいな薬を飲んでカラこんな体になっちまった。その代わりニ犬コロと意志を伝えられるようになったがな」
薬を飲んでこんな化け物みたいな体になったって言うのか?もしかして変な注射を打たれた俺達もこの男と似たような姿になるかもしれない。
こんなメタリックな人間になるなんて嫌過ぎる。
「おやー?私の力作の子が檻から出ているなって思って様子を見に来てみたらもう学園に見つかってしまいましたか」
声がした方に振り向くと性別がわからない仮面を被った人物がそこに腰を下ろしていた。
いつの間にいたのか全く気づかなかった。
「ボスゥ!!たスけに来てくれまし」
「お黙りこの役立たずが!誰のせいでこんなに早く学園に勘づかれたのか自覚しないさい。私の力作までこんなになるまで使うだなんてあり得ない」
仮面の人物が指をパチンと鳴らすと男の体がメテオが死んだ時のようにドロドロに溶け始めた。
「ユッちゃん!怪物が消えたよ」
月希達が戦っていたはずの化け物の姿が無くなっていた。化け物が消えたことにより彼女達の視線は仮面の人物に変わっている。
「あなた達の仕事はここまでよ。あとは私達に任せなさい」
「本命のテロリストがようやく登場しやがったな。ご苦労だった。コイツは私らが片付けるからお前らはもう帰っていいぞ」
物陰から雅先生と一夜先生が現れた。
「先生!」
俺達は先生達が現れて驚いている間、一夜先生が手を翳すと目の前が暗くなって何も見えなくなった。
クローンを含め俺達四人は気づいたら教室の中にいた。
今後俺達はバトル漫画みたいな日常を繰り広げることになった。
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