第38話 異変と企み
「うーん、あっつ、重い。なんか乗ってるぞ。ってお前か。猫の癖に人様の腹の上に眠るなんてここの家主でもなったつもりかよ。どいてくれ。俺はトイレに行くんだ」
「こっちのユッちゃんが起きたー!じゃあこっちのユッちゃんはされるがままにしていいってことだね!」
「そうね。こっちの雪君が起きったってことはこの子を自由にしていいことね。私は男の雪君を」
「まってください。気分はどうですか」
「別に何ともないけど?まぁ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
真夜中、目が覚めた俺は腹の上で寝ていたミケーをどかしてトイレに向かう。
何故か月希達がいて騒いていたが、いつものことだろうと一人で納得して部屋から退出した。
周だけ心配してくれたが、いつものようなノリで答えた。
視線がさっきのと違うな。何かが違うのかわからない。うまく頭が働かない。月希達がなんか言っていたが何を言っていたのか理解できなかった。適当に受け答えしたけどなんかボーとする。まぁ、少し経てばシャキッとするだろう。寝すぎたかな。そんなことはなかったと思う。さっきまで月希達と何かしていたような。していないような。しかもいつもと感覚が違う感じがしているのはなぜだろう。感覚が二重になっているというか、うまく説明できない。
思い出せないのならそこまで大切なことじゃないだろう。トイレ行こーと。
やけに視線が高いと思いつつも暗い階段を下りてリビング通ってトイレで用を足した。
自室に戻るとやっぱり月希達がいた。騒いでいる。
てか、お前らクローンに何着せてんだよ。真っ白でフリフリなゴスロリ服を着させてキャッキャウフフしやがって、あれ?クローン小さくね?あーそいえば何故か縮んだんだった。人のクローンを着せ替え人形ようにして遊びやがって、意志はないからって本当に人形のようにしていいわけじゃないだろう。
あれあれ?俺の本体に戻ってるぅぅぅぅ!!さっきまで幼女だったのに今は元の身体になってる。
何が原因でもとに戻ったのかは知らないが、まずは風呂にでも入ってくるか。月希達は幼女になった俺のクローンで遊んでいるから乱入することもないだろう。ゆっくりお風呂を満喫して夜を明かそう。
俺の部屋には月希達が我が物顔で騒いでいることだし、この身体で風呂に入っていないしな。
お風呂に入って、夜を明かした。
俺の読み通り、月希達が風呂場に乱入してくることはなかった。
五時間ぐらい入った湯船は冷めてぬるくなっていた。それが逆に心地いい。今は春半ばだから上がると死ぬほど寒いけど、ほんとにこれがたまらなくて気持ちいい。
風呂から上がり、冷えた体をバスタオルで拭いて、着替えてリビングに出る。
ううさむ。
「ニャーン♡」
「お前だけか。起きているのは」
リビングに出てきたら、ミケーがすり寄ってきた。腹でも空いたのか甘えた声で俺の足に頭を擦っている。
「しょうがねえ奴だな。待ってろよ。どれどれ月希の奴餌をどこに置いて、子猫用ウェットフード?これか」
戸棚にいかになキャットフードが目について、手に取った。
改めて、手を伸ばせば何にでも届く便利さを実感した。幼女の時はイスの上に乗っても手が届かなかったから背の高い差は素晴らしいことだ。殆どの場所手が届くし、ミケーがイスに乗ったままでも軽々と運べる。
ダイニングの隅にペット用のトレイ二つあった。一つはミケーが食べ残した餌がありのトレイと何もないトレイ。何も無いのは水でも入れていたのだろう。
「お前食いかけが残っているぞー。最後まで食えよ。もったいないだろ。頑張って全部食えよ。終わりっと、そういえばカードフォンどこに置いたっけな」
食いかけの餌に見つけたウェットフードを追加して暇になってカードフォンをどこに置いたか少し棒立ちになり。昨晩、クローンだった時に動画を見ていたことを思い出して自室に向かう。
自室にはファッションショーというか着せ替えで騒ぎ疲れた少女達が雑魚寝していた。
「夏でもないのにこんな寝方したら風邪ひくぞ。カードフォンはどこだ」
月希と雹はかき分けて自分のカードフォンを探す。
五分ぐらい探して見つけた。クローンの胸元に乗っかっていた。
俺はためらった。自分のクローンでさっきまで自分が動かしていた身体だが、幼女化した女の子の胸を触っていい物かと。逆にカードフォンは自分のでクローンは仮の身体だ。
ためらうのなら、身体を揺さぶって胸から落とせばいいと結論づいた。
ドキドキしながらクローンの身体を揺らしてカードフォンを落として素早くズボンのポッケにしまった。
そして誰にも気づかれないままリビングまで撤退しようとしたが、誰かが俺の足に絡みついた。それは周だった。
「雪さん、ぐすん」
俺の名前を呼んで、ほろりと周の右目から涙が流れ落ちる。
周はどんな夢を見ているのか知らんが、思いっきり俺の右足を抱きついており、足に周の胸が当っている。少し足を上げると足が周の胸に吸い込まれる。ムニョムニョした感触を楽しんでいきたいが、この状態で周が起きたら変な勘違いしそうだ。周が。
離してくれよ。リビングでカードフォンを静かにいじるから、朝ごはんを用意するから離してくれよ。
抜け出す方法を模索する。
右足部分だけを光に変えたら、周ホールドから抜け出すことに成功した。光は実態がないから周の腕をすり抜けることができたわけだ。
だが、一難去ってまた一難が出てきた。
雹と目が合った。雹の口が吊り上がったと思った瞬間に俺はバランスを崩し、雹に覆いかぶさるように倒れた。
「雪くんこれは夜這いかしら?そうだと嬉しいのだけど、私初めてだから優しくしてね」
「そんなわけないだろ。そもそも月希と周が隣で寝ているだろ」
「そうね。ここにはほかの子も寝ているわね。なら私の部屋に行く?あっ、でも雪くんが見られるかもしれないスリルを楽しみたいっていうなら私はそれでもいいわ」
「人の話を聞けよ。こっちの身体が動かしていなかったから体中バキバキのゴリゴリなんだ。それに疲れが残っているんだ。一人でゆっくり休ませてくれ」
身体の不調を雹に訴える。それを聞いた雹は何を思ったのか。
「私がマッサージしてあげるわ」
背筋が凍るような声そんなことを耳元でささやかれた。俺の中でヤバいと警報が鳴っている。
てか、スリルを楽しみたいならって雹は俺に何を期待しているんだよ。
「いや、結構だ。雹だって疲れているだろ?遅くまで月希達と遊んでいただろうし、昨日だっていろいろあったから朝までゆっくり寝てろよな。俺はリビングでストレッチでもしてほぐすからさ」
「遠慮しちゃって、可愛い。私は大丈夫よ。本当にここでしちゃう?」
雹はそういいながら自身の足を俺の足に絡めて、両手を俺の脇の下から背中へと伸ばしてがっちりと俺が逃げないように抱きしめているから俺がいくら身体を起き上がらせようとも腕に力を入れるが一向に身体が起き上がらない。
この状況を月希や周が見たら、俺が雹を押し倒して、雹がそれを答えるように抱きしめているように見えてしまわないか?恋人みたいにイチャイチャいている風に見えてしまうと妙に恥ずかしいな。ただ相手は雹だ。
触れる手や足が冷たくて、凍えるような声で冷汗が止まらない。目の前の白くて綺麗な肌にクリっとした瞳が素敵な美少女に対して冷汗が流れ落ちる。
互いの身体が密着しているせいで雹の胸から伝わる心臓の鼓動が強く感じる。雹のドキドキは何にたしてドキドキしているのか不明だ。
おでこから頬にかけて汗が風呂から上がったばかりなのにこんなに汗をかいて風邪をひくかもしらないな。もう一度風呂に入り直すか。しかしどうやって抜け出すか。
「少し熱くなってきたわね。雪くんも汗凄いわよ。大丈夫?本当に具合が悪いの?」
俺の汗の量に若干引きつつも心配そうに問いかける雹は俺を逃さないように絡めていた足や腕の力を抜いてくれた。そのおかげで起き上がることに成功した。この一瞬が勝負だった。起き上がって部屋の出入り口までマリオの大ジャンプ如く右腕を上げてジャンプして脱出に成功した。
自室からの脱出した俺は余っていた大きめの掛け布団を空き部屋に置いてあった物を持ち出して少女達にかぶせた。
「これでゆっくりできるな。ソファーでダラダラしようーと。汗かいたし先にシャワーを浴びるか」
さっきの雹との出来事を必死に忘れようとカードフォンを弄りながらリビングに降りて再度風呂に入り直した。
数時間後、風呂から上がったら七時を超えており、リビングには少女達が朝食の準備をしていた。
「雪さんおはようございます。昨日の夜に男の子の方の身体に戻ったのですね。それと女の子の方の身体で遊んでなんかすいませんでした」
「おはよ、別にいいよ。こっちはゆっくりできたし、楽しかったのならそれでいいよ」
邪魔されることなくゆっくり風呂で眠れたことだしな。
今朝食の準備をしていると言ったが、今キッチンに立っているのは雹だ。周はテーブルを拭いたりしているから朝食に周が作った料理が出ることはないだろう。月希は昨日の晩御飯で使った皿を洗っている。ホームに住み始めたばかりなので食器の数が足りないから洗わないと雹が作っている料理を何に載せて食べればいいのか。大きめのフライパンに料理を乗せて4人で囲んで食べれるしかない。
それが嫌だから月希が洗っているわけだ。昨晩、洗っていなかったんだ。
「雪さんは座って待ってくださいね。もうすぐできるようなので」
「俺も何か手伝うよ」
「大丈夫です。雪さんの身体は廃モール一件の後からずっと眠っていたのですから大人しくしてください。それに雹さんが言ってましたよ。辛そうに凄い汗を掻いていたとなので雪さんは座って待っていてください。女の子の方も幼児化したままなので何かあったら私達が困ります」
手伝うと言っても休んでいてくださいと言われた。今の俺には特に異常はないのだが、彼女達がそう言うなら従うしかない。三人で分担しているんだ今更来た俺が手伝えることなんてない。
雹が言っていたすごい汗を掻いていたはのは自室にカードフォンを取りに行った時の話だろう。あの時は冷汗が止まらなくなっただけで具合が悪いと思ったのは雹の勘違いだ。今は今年一番って言うほど調子がいいが今は彼女達に甘えよう。
暇なのでソファーに腰かけた。そしてソファーには先約がいた。
ミケーと俺のクローンが仲良く眠っていた。クローンは月希がここに寝かせたのだろう。ミケーはそこに俺のクローンがいたからそこに来ただろう。クローンの方は意識がないから眠っているように見えるだけでミケーの枕代わりに横たわっている。
クローンは幼女化したままだ。
とても柔らかいほっぺたをプニっと突いたり、顔をペタペタと触れる。これが昨日まで自分が動かしていたとは思えなくて、まるで親戚の子が寝ている感じでしてならない。
身体を揺らせば起きて、お兄ちゃんだれー?って言わるだろうか?一回揺すってみよう。
ゆさゆさゆさゆさ。
いくら揺らしても起きるどころか寝がいりすらしない。
って俺が動かしていたんだから呼吸をするだけの人形と変わらない。何かの境に俺の意識がクローンの方に流れて、クローンに乗り移ったら本体の身体の方が呼吸をするだけの人形になる。両方の身体の一部が金になったり、光になったりといろいろと人間をやめている。もはや人間ではない。人間の姿形をした化け物だろ。この身体やだよ。
何を間違えたらこんなややこしくて面倒な状況になるのだろうか。クローンを見ていると涙が出てくる。
しかし、本体である男の方の身体に戻った今、感覚がおかしい。今朝クローンから本体に戻った時の体格差による違和感かと思ったが、そうではない。感覚というか神経が二重になっている新感覚だ。しかも凄く調子が良い。
今ならクローンの身体を動かせる自信がある。
「うお?」
動けっと試しに念じてみた。その結果幼女姿のクローンの目が開いて、むくりと起き上がった。本体の俺と目があったっというか、俺の中では本体の俺の顔が俺見つめて、クローンも俺を見つめている。二重の視界がある。不思議な感じで少し気味悪いが、これは鏡がいらないな。朝、片方の寝癖がひどい時は片方で寝癖を直せばいいし、鏡では見えないところ、後頭部の寝癖も直せるぞ。そして複数人でするゲームを実質俺一人で二人プレイでできるようになったぞ。シングルプレイで苦戦するような敵がいたら、クローンと協力してできるな。そうならゲーム機をもう一台買わないとな。
「どうしたの?ユッちゃん?変な声出して」
「それがだな。いや何でもない。ミケーと遊んでいただけだ」
意識が本体にやっどっていてもクローンを動かせることを月希達に言うか迷ったが、少し驚かそうと思う。しかし、よかった。クローンが起き上がったところは見られていないようだ。クローンの目を瞑ってまた寝かせた。
どうやって驚かすかは朝食を食べながら考えよう。
「ニャーン♡」
「どうしたんだ。クローンの手に何かついているのか?」
ミケーが甘えた鳴き声を出してクローンの手をぺろぺろと舐め始めたり、頬をすりすりし始めた。そしてクローンの指先にカプっとかぶり付いてチュパチュパと吸い始めた。
なるほどこれが子猫の指しゃぶりってやつか。猫が愛情に飢えている時に飼い主の指をしゃぶりながらフミフミする動画サイトでよく見かけるありふれた子猫の特有の行動だ。
可愛いが動画サイトでは見飽きているから動画でも取るか。SNSで動画投稿すれば俺もバズるかもしれないしな。
クローンの顔を写さないようにミケーの指しゃぶりを録画する。なんとも幸せいっぱいの表情をするミケーの顔をアップにして撮ったが、見慣れた猫の指もしゃぶりはリアルで見たら凄く可愛いくて死んでしまいそうになる。
「えー!ミケーが指をしゃぶっているよ!可愛いー。ユッちゃんなんで早く行ってくれないの。ひょうちゃんにアマネン見て見て。ミケーがちぃっちゃいユッちゃんの指を吸っているんだよ」
「おい、静かにしろよ。驚いてやめるかもしれないだろ?」
「雪さん動画撮っているんですか。あとで私にその動画送ってくれませんか?」
「私も欲しいわ」
「わかった。あとで送るから静かにしてくれ」
ミケーの指しゃぶりは月希達に見つかったが、ミケー本人は幸せそうにクローンの指をチュパチュパと音を発てて吸っている。もし、ミケーが喋れたら「あーこれなんだよ。生き返るわー」と言いそうなほど目を細めてクローンの指を堪能している。
俺達は数分間、ミケーが指しゃぶりを終えるまで眺めた。
「ミケー今度はルイの指も吸っていいよー」
「私もどうぞ。吸ってください」
月希や周が自分の指も吸って欲しいのか手をミケーに差し出すが、ミケーはもう十分満足したのか月希や周の手には見向きもしなかったが、俺が手を出したらペロペロと舐めてくれた。その後月希が拗ねて慰めながら朝食をとった。
どうやってドッキリを仕掛けようか。
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