第39話 ドッキリは成功。俺は出かける

「せっかく男の方に戻れたことだからユッちゃん今日は何するの?」

「あー、ゲームでもして暇を潰すわ。気だるいし、ゆっくりだらけるわ」

「今日も何もやることが無いんだね。今日もお出かけしようね」

「えっ?出かける?俺の話聞いていたのか?」


 朝食を食べ終わりってこれから何をするかって話になった。月希に問われてとりあえず俺はみんなを驚かせるためにはどうすればいいかを考えていたため、適当に答えた。

 俺の回答が気に食わなかったのか月希は暴論を言いやがった。やることは無いんだけど今日はゲームしながらだらけたい日なのにこいつは俺の意見を無視して我の意見を押し進めるんだ。


「そうね。今日も出かけるのはいいわね。どこに行くの?」

「えー!ヒョウちゃんも付いてくるの。ユッちゃんとデートしようと思ったのに」

「雪さんとデート!そんな抜け駆けはひどいです」


 少女達が俺の意見を聞かずに話を進めているよ。「本当にだらけたいのだが」と言ったら雹に「せっかくの休みなのに家に引きこもるなんてもったいないわ。だから出かけましょう」とこちらも俺の話に声を傾けてくれない。

 これなら奥の手だ。


「そういえばさっき白城からお前元気なら遊ばね?って来てたんだ。この間バックレた感じで誘いを断ったしな。悪いな今日はそっちに遊びにいくわ」

「シロシロから?ほんとうかな?」

「本当なんだよ。それが。九時ぐらいに出るから」

「でも昨日、あのネクラ君に痴漢されたのに遊びに行くの」

「そうですよ。服の中に手を入れられたのにそれでもですか」


 お前ら白城に対してひどすぎやしないか。確かに服の中に手を入れられて尻を揉まれたが、あれは事故のようなものだろう。女嫌いなアイツがあのような趣味があったとは少し引いたが、友達なのは変わらない。気のいいやつだからな。


 そうだ。ドッキリ方法が思いついた。

 これで月希達は俺と出かけるって言わなくなるだろう。俺が出かけたらすぐにネタ晴らしすればいいしな。俺とクローンが離れたら、クローンの身体を操れるか心配だ。


「俺は着替えてくれるからな」


 俺は朝食の片づけを月希達に任せて部屋に向かった。食べて片づけは彼女達に任せるのは少し悪いと思ったが、昨晩俺がカードフォンを弄っているところに急にファッションショーを始めやがった上に男に戻ってもクローンを着せ替え人形として遊んでいたから皿洗いぐらい丸投げにしてもいいはずだ。


 部屋に入ってすぐに白城にメッセージを送る。

 内容は「今暇なんだけど遊べるか?」と送ったら一分ぐらいで「俺も暇だ」と返信が返ってきた。

 昨日あんなことがあったのに意外と大丈夫なようだ。

 白城を誘ったことだし、さっさと着替えて始めるか。


 俺が着替えている間にクローンの身体を起き上がれせて、朝食の後方付けをしている周の裾を引っ張る。


「どうしたのですか雪さん?ってえ?もうクローンの方に戻ってしまったのですか?」

「なになに?ユッちゃん?もうこっちに戻ったの?それは残念だったね」

「これじゃネクラ君と遊びに行けないわね」


 俺がクローンに戻ったと思っているらしく月希と雹が妙に嬉しそうだ。ドッキリを成功させるように頑張って小さい子のふりでもしようか。


「お腹すいた。ご飯」

「ご飯?ユッちゃんさっき食べたばかりじゃないの?もしかしてボケた?って冗談だよ。こっちの身体の方はご飯食べていなかったよね。雹ちゃん残っている?」

「ええ、残っているわ。雪くんも本当に残念だったわね。男の方に戻れたと思ったら数時間でこれよね。待ってて、今温めるから」


 俺がクローンに戻ったと本気で信じている雹は冷蔵庫にしまおうとしていた朝食の残りを電子レンジで温めて俺の目の前に出してくれた。

 俺はできる限り子供っぽく「ありがとう」と言って朝食の残りを食べ始めた。


「すまん。白城と待ち合わせしていた時間を間違えていたわ。あと片づけ全部任せてしまって悪い。それとクローンのことは俺のベッドの上にでも寝かせたままでいいから」


 男の方の俺が着替え終わったから月希達がいるリビングに顔を出して、あたかも急いでいるみたいなことを言い残して出かけたが、本当は白城との待ち合わせの時間なんて全く決めていない。

 そして月希達は男の俺が顔を出したことで狐につままれた表情を見せてくれた。俺はホームから出たが、月希達の反応が面白かったのでもう少しこのまま子供のふりを続けることにした。

 ホームから出てもクローンの操作は続けられるみたいだ。どこまで離れたら操作できなくなるかは試さないと分からないが、今は問題なくクローンを動かせられる。


 俺はホームから学園へ転移して、学園から近くの公園のベンチに座り、カードフォンとクローンを操作しながら月希達を観察した。

 それと破壊された校舎はすでに修復作業が終わっていて、本当に校舎が破壊されたのか分からないほどだった。修復作業が終わったことは明日からまた学校が始まる。

 クローンが幼児化した上に男とクローンの身体を自由自在にできるようになった俺の置かれている状況がさらにややこしくなるだろう。


 さて、幼児化を一夜先生に相談すればいいのか。このまま隠しておくか迷う。先生に相談しないまま、バレたらシバかれると思うけどな。

 そんなことは明日にでも相談するか。シバかれたら明日の俺が何とかするだろう。


 さてと白城は確か、男子寮に住むことになったってメールで言っていたな。男子寮はどこだが知らないが学園の近くだろう。学園の近くに団地みたいな建物があったはずだ。そこが寮だろう。歩きがてらクローンを操作して月希達をおちょくるとするか。


 意識はホームに戻ってして。


「えっ?これはどうなっているんですか?」

「ユッちゃん?今のユッちゃんだったよね」

「私もそう見えたわよね。この子は一体?」


 うろたえているな。俺の意識がクローンに戻ったと思ったら、俺が出て行ったもんな。そりゃびっくりするわな。

 朝食も食べ終わったし、何して遊ぼうかな。小さな女の子って何して遊ぶのだろう。小さい頃の月希はかくれんぼして遊んでいたけどあいつ家でどうしたのだろうか。あいつのことだからアイツの戦隊ごっこで遊んでいそうだ。姉貴達は人形遊びとかおままごととかで遊んでいなかった。女児アニメもあんまし見ていなかった思う。俺と一緒に幼児番組は見ていたけど、姉貴達は女の子らしい遊びはしてこなかった。

 たくよ。参考にならないな。カードフォンで調べてみよう。


「ねえ。ユッちゃん、だよね?」

「ん?う、うん、ゆきだよ」


 カードフォンで調べていたから月希に不意を突かれて声を掛けられて素で返しそうになった。危ない危ない。月希の奴め、なんちゅうタイミングで声をかけてくるんだ。

 女児の真似なんてすげーつらい。まだ5分すら経ってないのに根を上げてしまいそうだ。

 素で答えたら、即座にバレるからネタバラしするまで気を留めないと気づかれる。いや、受け答えを月希みたいな感じにすればいいじゃないか。あいつ子共ぽいところあるし、しかも小さい頃の月希のモノマネならいけるぞ。


「ゆきちゃん?これ食べる?」

「お腹いっぱいだからいらなーい」

「ゆきさんご本を読んであげますからソファーに行きましょう」

「っうん」


 確か小さい頃の月希はこんな感じだったはず、それと俺が思い描く幼女はこれだ。

 何して遊ぶか考える必要はないな。月希達が必死にクローンの相手をしてくれている。小さな子が何して遊ぶか考えなくて済むから楽でいいな。


 周がご本を読んでくれるというからその誘いに乗り、何を聞かせてくれるか楽しみに待っていると周はカードフォンを操作し始めた。


 ちなみにホームには幼児向けの絵本なんて当然無い。俺らしか住んでいないからだ。高校生が幼児向けの本を持っていたら、そういう趣味か絵本作家になりたいんだろうなと思うけど、周達にはそういう趣味も夢も持っていないはずだ。

 さて、周は何を聞かせてくれるのだろうか。


「えーと、あるところに勇者エクニスがいて、とても悪い魔王を倒しました」


 はっ?勇者エクニス?魔王を倒した?

 周は何を読んでいるんだ。勇者エクニス?どこかで聞いたことがあるような。てか、絵本が無いからカードフォンで見繕ったのか。話の冒頭だけで推察するに見繕ったのはラノベか、web小説なのだろう。黙って周がせっかく選んでくれた物語を聞いてやろうじゃないか。


「そして勇者エクニスは共に悪い魔王と戦った仲間達に裏切られて、ひどい目に会いました。そして勇者エクニスは人生のどん底でかつての仲間達に復讐を誓うのでした」


 俺は周の聞いている内に、なんの作品かを思い出した。勇者エクニスって最近アニメ化した作品じゃないか。友達の家で漫画一巻だけ読ませてもらったことがあるが、特に普通の復讐系の成り上がりファンタジー漫画だったような、暇つぶしがてら読んでいたからうる覚えでストーリーは覚えていないや。

 小さい女の子に復讐系を聞かせるのは教育上よろしくないと思う。周の趣味かもしれないけど、俺はゆるフワなストーリーを聞かせた方がいいな。


「勇者エクニスは街へ入りチンピラ崩れに絡まれていたベレー帽を被った女の子を助けたのでした。勇者エクニスはその女の子と旅に出るのでした」


 さらに黙って聞いていると違和感を覚えた。

 あれ、この話ってこんなざっくりとした話だった。しかもところどころ端折った感じもするし、もしかして周って俺が理解しやすいように周なりにストーリーをかみ砕いて、脳内変換して話しているのか。

 なんて器用なことをするんだ。周ってドジって感じがしていたから、こんな器用な芸当をできるなんてびっくりした。ただストーリーで大切な部分を端折ったりしているからあんまりストーリーが分からないな。

 すまない。周。漫画を読み聞かせられても物語のストーリーが頭に入ってこないや。


「っふわ!」

「どうかしましたか!何か気に入りませんでしたか」

「ううん。なんでもない。少し眠くて、あまねお姉さんごめんなさい」

「お、おねえさん。大丈夫だよ。眠かったら寝ていいよ」


 カードフォンとクローンの操作に集中し過ぎて、男の方の俺が前方をよく見ていなかったから電柱にぶつかってクローンの方でも変な声を上げてしまった。歩きカーフォンは危ないな。今回はぶつかったのが電柱だったよかったものの。またトラックに轢かれたらシャレにならない。

 俺が声を上げてしまったことで周を驚かしたようだ。なんとなく声を上げた理由をつけて子供っぽく謝っておいた。

 男子寮に着くまでクローンの操作はやめておこう。周の話を聞いている間に眠ってしまったことにしてしまえば不自然じゃないはずだ。


「やっぱり雪くんがいないわ。本当に出かけてしまったわね」

「出て行ったのがユッちゃんだったとしたら、この子に自我が芽生えたというのかな?」

「別に自我が芽生えてもおかしくないわね。今までの二つの身体で一つの人格の状況がおかしかったのよ。何かの拍子に自我が芽生えたのよ。きっとね。だからあの子は雪くんじゃなく雪くんのクローンの小雪ちゃんなのよ」


 雪がクローンの操作をやめてカードフォンを弄りながら流桜の街を歩いている間に月希や雹が明後日の方向に勘違いをし始めるのだった。

 男子寮に到着した俺は白城の部屋が何階なのか知らないのでカードフォンで白城に電話をかけてみることにした。


『もしもし、雪か?』

「おー、少年D朝早く連絡をかけてすまないな。男子寮の目の前にいるんだが、お前の部屋何階だっけ?」

『お前早く来すぎだ。まいいけど。俺の部屋は4階だ』

『白城誰と電話しているんだ?女か。女なのか。女の子なら代われ』

『ちょ、待った。女じゃな』


 電話が切れた。

 電話した向こう側にもう一人いたな。声からして佐々木だ。ルームメイトとして白城と住んでいるのだろう。

 どの部屋か聞くのを忘れた。白城は4階と言っていたから4階まで行けばわかるだろう。

 男子寮のエントランスに入ろうとしたら、自動ドアが開かない。近くを見回したらポストと壁にインターホンとタッチパネルがある。タッチパネルの隣に流桜学園の生徒は生徒手帳を翳すと開きますと書かれたメモが貼ってあった。

 メモに従って生徒手帳を翳したと自動ドアが開いて、男子寮に入ることができた。

 生徒手帳を翳すだけで入れるって防犯的にどうなのよ。生徒が落とした生徒手帳を拾えば入れちゃえば誰でも入れちゃうよ。防犯面何とかしてくれっと思ったが、白城みたいにメテオみたいな化け物相手に戦う生徒が住んでいるから大丈夫なのか?

 泥棒しに部屋に入ったら偶然に部屋の住民に出くわして、それが武装してましたってオチは泥棒がかわいそうだ。普通の生徒ならメテオシルバーを自室で出さないと思うけど。


 4階まで登った。部屋の表札に部屋に住む生徒の苗字が書いてありことに気づき、一つ一つ部屋の表札を確認する。

 白城と書かれた表札を発見した。そして佐々木と道面とも書かれている。この二人は一緒に住んでいる白城のルームメイトなのだろう。そして一つ空白があった。もう一人住めるとことだろう。ホームで嫌なことがあったら、家出先にしよう。

 道面か。珍しいが、見たことががる苗字だな。確か同じクラスの奴だったか。苗字は覚えているんだが、顔としたの名前が思い出せない。ごつそうな苗字だし、野球部とか柔道部とかに入っているゴリゴリでムキムキの男だろう。


 とりあえずピンポーンとチャイムを押した。数分後に「はーい」と男子にしては少し高い声が部屋の奥から聞こえた。玄関が開くとシャツとハーパン姿の背の小さな男の子が出た。

 見たことがあると思ったら、同じクラスの子だ。こいつが道面ってやつか。

 ごついと思ったらこんな可愛いらしい男の子だったとは大きく予想が外れた。ショタが好きそうな女子が好みそうな見た目している。女装させたらガチで似合うんじゃないか。


「おー。水泡くん。遊びに来たの?」

「そんなところ。白城いる?遊ぶ約束したんだけど」

「白城くんね。呼んでくるからリビングでくつろいでいて」


 クラスメイトを全然覚えていない俺とは違い、向こうは俺のことを覚えていたみたいだ。俺は珍しい苗字だったから苗字は覚えていたが、顔は覚えていない上にクラスメイトの名前を全く覚えていない。学校が始まったばかりだからクラスメイトの名前を覚えていないのはしょうがないよな。

 リビングに案内されて座ると道面は白城を呼びに行った。


「お?水泡じゃないか。来てたのか?」

「おう、邪魔しているぞ」

「そっか。ゆっくりしてけ。俺は遅くまでゲームしていたから眠くてよう。シャワー浴びてくるわ」


 白城を待っていると寝ぼけた眼の佐々木が現れた。俺がいたもんだから二度見をしていた。

 どうやら白城から俺が来るとは聞かされていなかったようで驚いたみたいだ。凄く眠そうで目を覚ましにシャワーを浴びに行ってしまった。

 少し時間ができたから月希達の方はどうなったのか様子見に意識をクローンにする。

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