第8話 俺には帰る場所がないのだが
「歴史の話はここまで、何か質問ある人いる?」
「はい」
宮守先生は右手を上げ、質問のある者を求めると雹が手を上げた。
「なんで私たちがこんな格好で戦う羽目になったのかしら。それとどうして私達は裸なのか教えて貰えます?」
「それはあなたたちが適性であるかどうか検査してもらったの。それで検査がより優秀な結果だったから入学してもらったわけ。とてもいい誤算もあったけれどね。裸になってもらった理由はどんな能力か体全体で観察するためよ」
「・・・・」
雹は一番気になることが最低限知れたからか波のように引き、無表情な顔を俺の頭にうずめた。
てか雹、俺の頭の臭いをクンカクンカするのやめろ。
お前にされてると背筋がぞっとするだろ。
「そろそろお前ら離れたらどうだ?気が散ってしょうがない」
ようやく話すタイミングを掴めて、押しくら饅頭状態の俺達をうっとおしく見ていた一夜先生は熱苦しいと思ったのか離れてほしそうに言った。
俺的には雹と周には苦しいから離れてほしいが、周はともかく雹は自分の意思を曲げないタイプの人間だ。どうしても離れそうにないと思う。
ない胸を押し付けられるこっちの気持ちを考えて欲しいと思ったが後ろから切られそうな悪寒がしたので黙っておく。
「別にいいじゃない。一夜」
「なんでですか。先輩こっちは本当に気が散って困ります」
一夜先生は宮守先生に対して気が弱くなって頭が上がらないようだ。なんでだろう。
「だって、一昔前に流行ったユルフワアニメみたいで落ち着くじゃない」
宮守先生は和やかに俺達を見ていたが、値踏みをしている人のような目をしていた。
「本題はこれから、もう質問はないよね。この学園の生徒はメテオシルバーを取り込んことで特殊能力のような物に目覚める生徒が大勢いるの。それはあなたたちと同じように入学してから取り込んだ者、メテオに襲われた時に取り込んだ者。どっちが多いというと後者の方ね。だけど一年生は半分くらい何も知らずに入学した子が多かったから無闇に喋っちゃダメよ」
いたずらっ子の表情で続けて。
「そして次に命の心配は小さいわ」
「なんであんな怪物と戦って命の保証ができるというのですか?」
自分口から出た質問にビックリした。ずっと理解できない話が続いて脳がショート寸前だったからか、命に関わることだったからかはわからない。
それにしてもあんな化け物と戦うというのに死ぬ心配をしなくていいというのはどういうことだろう。
「それはメテオシルバーを取り込んだことで通常より体が丈夫になったからだ。これからは部隊で戦ってもらう。一人で大勢と戦っても負けるなら仲間と一緒に戦えばあんまり死なねーよ。手が届く範囲なら学園がてめーらを全力で守るから安心しとけ。死ぬようなケガをしてもすぐに治るしな」
と俺の突然の質問に一夜先生が宮守先生の代わりに暴論を説明した。
「そして戦う方法も二種類ある。形が決まっている物を出して殴ったり切ったり撃ったりする物理タイプと自由に物体を生成して、それらを操れる魔法タイプ。例えば魔法タイプは体を金や光に変えられる力。水泡君、今のあなたのように」
宮守先生は魔法タイプの部分の説明を強調しつつ俺を見た。
「魔法タイプはとても貴重な存在でね。この学園の中では私や水泡君を含めて四人、生徒だけで三人しかいないの。魔法タイプには奇妙な特徴があって信頼できる者に力を与えることができて、与えられた相手はその代償として武器を借りれるの。それは手渡しでなければいけない条件付きだけどね」
宮守先生は何かを隠しているように見えた。
次に雹、月希、周を見据えて
「さっきの闘いを見ていたけど雪月花さん、海北さん、八代さん、あなたたち三人はとても強いけど、あなたたち、三人は水泡君なしではメテオと戦えない。だから、あなたたちは四人一グループで戦ってもらうわ。そのうち何人かメンバーが増えるかもしれないけれど基本は変わらないわ」
さっきの闘いで月希たちの武器が銃弾が出なかったり、刃がなかったりして使えなかった理由はそういうことだったのか。完全に力が目覚めていなかったから使えずにいた俺達は逃げ回っているうちに自然と力が目覚めてたまたま倒せたわけか。
雹、月希、周の三人は黙って宮守先生を黙って見ていた。
雹は黙っていればもっと有力な情報を聞けるから黙っているのだろうけど月希に関しては宮守先生の見た目が幼く見えるからに心境が子供のお遊びに付き合っている感覚かもしれないな。月希はそういうやつだからそうに違いない。周は話についていけずに混乱しているから話の内容についていけないようだ。
俺も周と同じで会話の内容が理解できずに相槌を打ちながらただ聞き流しているだけ。
「水泡君には一つ謝らないといけないことがある」
相槌をして聞き流していた俺の耳が反応して宮守先生の話に集中する。
「君のその体、クローンの体を女性にしてしまったのは私なんだけど。君の意識を受け継ぐとは思わなくて、いろいろと試しているうちについ夢中になったというか楽しくなっちゃって、最終的に体が女性になったのよ。本当にごめんなさい」
宮守先生は申し訳なさそうに俺の顔を覗き込んでいた。
こうなってしまっては後の祭り。恨むことはできても事故を受けた体は治るまで何もできないからしょうがない。体はどうなったのか知らないが。
それにこんな見た目の小さな子を怒ることなんて出来ない。
「もういーですよ。先生。こうして生きていますし、なんか漫画の主人公になったみたいでちょっとは新鮮な気持ちですよ」
女になったのはちょっと納得がいかないけど今の心境はラノベや漫画の主人公になった気分でワクワクしている。ゆるいマスコットがいれば満足なんだが、リアルは漫画のようにできていない。
「じゃあ、ユっちゃんが主人公ならルイはメインヒロイン志望だよ」
状況を理解しているのか、してないのか、分からないけど月希は無邪気に自分がヒロインだと名乗り上げた。
昔からこいつの無邪気なところを見ると落ち着くというか和む。気持ちがふわふわしているような感覚が体中に広がる。
「私も負けていられないわね。私もヒロインに立候補するわ」
雹もヒロインだと名乗り上げた。
また、変な茶番が始まったぞ。さっきの告白もそうだったが俺はこいつが言うこと全て冗談と思っている。
あまり雹のことはよく知らないがきっと冗談だったんだろうって。イメージ的に俺みたいな特徴がなく冴えない男に惚れたりなんかしないだろう。このクールガールは。もっと独特なオーラを出している大富豪の男性が似合うと思う。
そして、雹の表情を窺おうと顔を見ると顔が髪に隠れて見れない。顔を隠すのは俺が冗談を真に受けたと思って笑っているのかもしれない。
会話に混ざらない周は先生方の話を理解しようとフリーズしていた。
「話を戻すけどこれからの説明は今後の貴方たちのことだからちゃんと聞いてね。そしてフリーズしている八代さんにはみんながちゃんと説明してあげてね」
頬を叩いても反応がない周を宮守先生は置物をなでるように触れながら話した。
「今まで戦いを見ていたけど、あなたたちはとても奇妙で特殊な関係下での能力があるように見える。そこで秘密裏にあなたたち四人を秘密精鋭部隊にしたいと思うの。これは学園内では秘密。ここにいるあなたたちも含め、私と一夜しか知らないようにするに細工したいから大丈夫。学園の裏でも何か怪しい動きがあるみたいだし、安全に備えるのも大切なことよ。特に水泡君、貴方は特に気を付けて欲しい。体から形ある物ではなく、形を操れる金や光を出せるあなたは貴重な魔法タイプの中でも二つを操れるハイブリット級。人道的なことに興味がない人間に見つかれば即グロモルモットになるわね。きっと」
「担当が私と宮守先輩でよかったな。グロモットの運命を辿らなくて、人生かけて運命の神様に感謝しな」
一夜先生は品がなく乱暴に言う。
先生。グロモットって何ですか?怖くて震えが止まりません。もっと酷い人体実験があるのですか?!
もう怖すぎて何も聞けなくなったじゃないですか?
「一夜先生、そういう乱暴な態度だと婚期が一生きませんよ。あなたが結婚に興味がないのなら止めませんが」と口で言うと拳骨が飛んでくるので止めといた。
「水泡雪、今お前変なこと考えただろ?」
「そんな滅相ない」
「はっ、嘘だね」
「先生、部隊というのは一体どのようなことなのかしら?」
雹は呆れたように一夜先生を見て、一夜先生の憎まれ口よりもこれから起こる自分たちのことを聞きたがっていたようで話を逸らしてくれたぽい。
ナイス雹。態度は冷たいがナイスアシスト。
「水泡君、説明はちゃんと最後まで聞きなさい。この学園ではランクというのがあって、それぞれ上からSABCDEの六つがあるの。ランクに合った部隊を編制するのだけど水泡君は珍しさが大きくてランクS、ほかの三人は水泡君がいて全員ランクA以上の実力と言ったところかな。本来なら身の丈のランクにしたいけど、さっき言った通りだけど安全を考えて四人とも最低クラスのEと記録しておくわ。ランクと言っても珍しさや強さで判断している部分が大きいけど学年のクラス分けには関係していないから大丈夫」
「こういっちゃなんだが、そのうちオリエンテーションでやるからそこんとこ、今は理解しなくてもいいから「こんなことかな」って思てればいいよ」
宮守先生たちの説明が終わったと判断した俺は一番大事なことを聞こうと思う。
それは俺の今後の私生活ついてだ。こんな体になったことで家に戻れなくなったからどうすればいいのか迷っていた。月希の家に居候する覚悟が定まらない。よく考えたら月希の家に俺の姉と妹が来る可能性が高いからダメだ。
「先生、俺はこれからどこに住めばいいでしょうか」
すると先生は
「え?貴方一人暮らしでしょ?あの家に住めばいいじゃないの」
「なに当然なことを聞いてんの?」と言いたそうな表情で先生は俺を見ている。
あの家は男の俺で住んでいる家でこの体で住み始めたらいろいろと問題が出てくるわけだが、決して「嫌です」とは言えない。てか、先生、俺が一人暮らしなのを知ってるの?
「冗談よ。冗談。これから四人で暮らしてもらうから大丈夫よ。あと私たちで監視もしたいし、怪しい動きをしている人たちには監視してもらいたくないから」
俺が一人暮らしをしている情報や後半部分がよく聞こえなかった部分は住める場所を提供してもらえるから今は気にしないでおこう。
「ところで私たち四人で同居する場所ってどうゆうことですか?」
とやっとフリーズから回復した周が四人で同居と聞いて、自分なりの疑問を宮守先生に聞いた。
「私が管理する学生寮と言えばいいのかな。そこであなたたちに住んでもらおうかと思ったの。私物の持ち込みは各自で判断して構わないわ」
宮守先生は少し困った顔で何か言いにくそうに言った。
俺がこの流桜学園を調べたところ学生寮がある情報が無かったが、裏で怪物と戦っている学校だ。秘密の学生寮があっても不思議ではない。正直、学園内で武器を売っていても当然かなと思えてくる。
「こうなるとあらかじめ予想して、鍵はあなたたちの生徒手帳に書き込んでおいたわ」
宮守先生はカード状の端末 流桜学園の生徒手帳を差し出した。
皆それぞれ、手元に自分の生徒手帳が来ると何が変わったのか調べ始めたが、元々書き込まれていたのか特に目立ったところは変わりなく、俺達はどこが変わったのか?マークを頭に浮かべ四人同時に黙って宮守先生を見た。
「簡単なことよ。まずはホーム画面を長押しするだけで行けるぞ」
先生の言う通りに従い、それぞれ生徒手帳のホーム画面の適当なところで長押し数十秒後。
「IDを確認。これよりHOUSEへ移動します」
機械じみた声が発し、生徒手帳の画面から眩い光が出てきて俺達の体を包んだ。
目の前の光景ががらりと変わり、声が反響する露骨で寂しい鉄の空間からどこかの別荘と思われる広々とした何もない真新しいダイニングが視界に広がった。
「広くてきれーい。ルイたちこれからこの寮に住むんだよね」
「先生たちの言うことが冗談ではなければ。家具とかないがこれから自分たちで買って置くとして、キッチンもあるし、風呂があれば満足だ」
月希の問に答えながらダイニングを見渡す。何もないダイニングの中に大きいオープンキッチン、二階へと行く階段、窓の外には一面の白ユリの海が果てしなく広がり、点々と小島のように白い花が咲く桜の木が生えている。空は暗闇の中に月がぽつりと明るくユリの海と桜の小島を照らしている。
実に俺好みの風景になっている。
「ここに来て窓の外?ユっちゃんは相変わらず窓の外が好きなんだから」
窓の外を見ていた俺を見てウンザリしたように月希が言う。
別にたまたま目に入った窓で外を見ていただけなのにその言いぐさはないんじゃないか。窓の外が好きではなく、綺麗な光景が好きなだけなのに。
「・・・」
「ここはどこかしら」
改めて、ダイニングを見ると雪はポカーンと俺には見えない何かを見ている。雹はブツブツと呟きながら壁に沿って調べて歩き回っている。
「ここは地球の次元を無理に歪ませた空白を固定させて創った場所」
そこにはダイニングから見かけなかった宮守先生がいた。
「要するに人工的に創った空間ってわけね。恐らく、さっきまでいた場所も」
「あたりよ。雪月花さん。さっきの場所も、ここも、メテオの源の塊、メテオシルバーの特性を利用して人工的に創った空間。メテオは空間を歪ませて巣を作る習性があるの。その特性を利用して機械化に成功したわけ」
化物が空間を歪ませる話とか単なるアニメやラノベになかなかない中二設定だ。さぞ、二次元だったら面白かっただろうに。
俺は正直、入れ替わりがあって、戦いがあり、そして疲れた。そして眠い。この先どんな話になるだろうが正直どうでもいい。話は別の日にして欲しいところだ。
「約一名くたびれた様子の子がいるので、話はここまでにします。皆さんも疲れているでしょうからここの管理者として私が皆さんの部屋に案内していきます」
宮守先生に思いが伝わったのか。部屋に案内してくれるらしい。
「ただしルールがあります」
寮と今回のことをほかの生徒には知られてはいけない。特に水泡君は男だったことも知られてはいけないですからね。
自分たちで家事をやってください。
好き勝手にインテリアを置いていいがお金は自分たちで出すこと。
以上、これから最低限ルールを守って自由で楽しい寮ライフを楽しみましょう。
というわけで案内された二階の十畳ほどの無駄に広い部屋にいるわけだが、今の体が女性な上、未知の生命体と戦う羽目になった今この頃、本音は漫画の主人公になった気分だがこのままどうなるんだという心配が頭の中でぐるぐる回っている。
明日から、通常の学校生活が始まって過ごしていくわけだが流桜学園には少なからず知り合いはいる。他人のふりをしていけば大抵の知り合いは誤魔化せるが女嫌いのあいつはどうだか心配だ。
まだわからないことをいつまでも心配していたってストレスになるだけなので部屋を見回してみる。
部屋には女生徒の制服・女性の下着(上だけ)・男物のトランクス(私物)・部屋着×3(私服として使っている私物)が綺麗に畳んで置いてあった。服以外にはベッドしかなく寂しい広い部屋だ。
ずっと裸だったからまず、トランクスを履き、三枚の中でお気に入りの部屋着を着て、あとのことは明日の自分にまかせることにしてベッドにダイブインして眠りに就いた。
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