第25話 真夜中の任務
「オヤジー!また来るよ」
「あいよ。待ってるよ。嬢ちゃん」
俺達は会計を済ませてカラオケ店を後にした。
俺達は誰もいない路地裏に入ってホームに
明日も学校があるというのにメテオの討伐なんてありえない。あの先生は俺達の学園生活をメテオの処理に費やせとでもいうのか。俺達の学園生活を何だと思っているのだろうか?授業中の居眠りしてもしょうがないよね。学園側の依頼で夜にメテオ討伐をさせられているのだから。明日居眠りしても先生に怒られないよね?きっと?
それとも女の子的にお肌の心配した方がいいのか?夜更かしはお肌の天敵だって言ってさ。今夜の討伐任務はなくなるのかな?
そもそも新人4人だけで討伐任務とか何なの?普通は先輩とか先生がついてくるものじゃないの?四日前だって俺達四人で行って敵に捕まったよね。それなのに誰もつかないと。
俺達って裏側の人間なの?それで先輩や先生がつかないわけなのだろうか?
逆に考えるんだ俺。メテオは宇宙から来た謎が多い生命体なわけでオカルトが大好きな俺にとっては憧れの俳優と会うのと同じことだ。ただ最初のスライムズとの戦闘が小さなトラウマになっているが、それがどうした。スライムズは人口的に作られたメテオだったかもしれない。一歩間違えたらスライムズに殺されていたかもしれない。
かもしれないだ。今夜任務に行けば本物の宇宙人、宇宙から来た生命体に会えるんだ。
小さなトラウマ程度のことで宇宙人をこの目で見る機会を逃してなるものか。
っといった感じでホームに帰ってきてすぐ自室に籠りこんなことを考えていた。
行くことが避けられないため、自分のテンションを上げるために自分なりの行く理由を探していた。自分の好きなことと結びつけて無理に行く気にした。
「よーしこうなれば先生達に内緒でメテオの一匹連れ帰って飼ってやるぞ。メテオなんて生きた鉄屑なんだから餌もいらないはずだ!そうだよな。俺!」
メテオを生け捕りにすることを決めて、男の自分に語りかけた。
ただ語りかけた男の俺は返事することなく目をつぶって呼吸を繰り返している。俺の意思はクローンの中にいるのだから男の俺は返事をしないに決まっている。
だから意識なく眠り続けている。俺の意識がクローンの中にいる限り。
男の俺を押し倒して語りかけていた。ベッドの上で。
乱れた制服のリボンがほどけて、首から垂れ下がって男の俺の胸をくすぐっている。
吸って吐くことを繰り返す男の俺は意識なく、俺の叫びをなんでも受け止めてくれているかのような気がしていた。
「なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ。宇宙人をこの目にできたのは嬉しいが戦うはめになるとは。宇宙人というより宇宙から来た生命体か。俺は地球外生命体とは平和的に会いたかった。体も変なことになっちまった。お前は俺達はどうなると思う?俺は怪異みたいな存在になると思ううんだ」
徐々に自分への語り掛けがヒートアップしていき。
「お前もそう思うよな!その方が夢があっていいだろ?お前も俺なんだから!」
「雪さん大声をあげてどうかしましたか?入りますよ」
「周!ちょっと待って」
俺が大声を上げたことで不信に思った周がドア越しに声をかけてきて躊躇なく入ってきた。
「ええ!自分の体で何をしているんですか?」
「何をって、いうか。自分に語りかけていたといいますか。いろんなことを言って心のはけ口に使っていたみたいな?」
「はけ口!そんな雪さん!自分の体をそんなことに使うなんてエッチですよ」
「エッチって。こんな姿見られちゃ説得力は皆無か」
周に自分を押し倒している姿を見られた。
はたから見たら女の子が自分とそっくりな男の子を押し倒している光景だ。ただここは俺の自室だ。何してもいいはずだ!なのにいけないことをしているような背徳感があるのか?
くそ!見られたが何もなかったように振舞うしかない。
男の俺に掛け布団を被せ、乱れた制服を直してベッドに座り込んだ。
「あ、周どうしたの?」
「えっ!雪さんが大きな声で何かしゃべっていたので何かなって気になりまして来てみたら雪さんが雪さんを」
「最近、いろいろあったじゃんか。俺もさ。一人で部屋にこもって気持ちを爆発させたい時があるのよ。メテオってなんなんだって、またメテオと戦うのかよって。変哲もない高校に入ったと思えばこのざまだよ、自分の不運を嘆いていたんだ。男なのに情けないだろう?」
動揺して言っていることは支離滅裂だが、言いたいことがだいたいわかった。
俺も急に周が部屋に入ってきたもんだからびっくりして心臓がバクバクだよ。俺も言っていることめちゃくちゃ支離滅裂だけどさ。
今は女だけどな。
「そうでしたか。失礼しました。何かあったんじゃって思って、そのうえ部屋の前にカメラを持った雹さんがいたのですよ」
「そうかそうか。周には心配かけたな。それにカメラを持った雹も、ん?カメラを持った雹?」
カーフォを持った雹が周の陰から現れた。
「雪くんありがとう。いいのが撮れたわ。大切にしましょう」
えっ?いいのが撮れたって言った?なんのことだ?
まさか!そのカメラで俺の行動を一部始終写真撮って何かしらの交渉材料にするつもりなのか?雹のやつは。
クッ、弱みを握られた。学園中に自分に語り掛けていた写真をバラまかれた日には変な噂を流れるぞ。写真が拡散される前に今の内にあのカーフォから今撮られた写真のデータ削除せねば。
強奪が失敗すれば雹のお願いごとを聞かなければならない。それが嫌なら今撮られた写真がネット上に広まることになるぞ。女の子が兄弟らしき男を押し倒している写真が。それを見たクラスメイトが密かに俺の噂をして後ろ指刺されて学園生活しなくちゃいけなくある。それとその写真を見た俺の姉と妹が騒ぎ出して俺のカーフォに地獄のような通知がくる。
めんどくさい事になるのは間違いない。
「そのカーフォを渡せ!今の写真を消させろ!ゲッハ」
雹にカーフォを強奪しようと飛び掛かった。が雹はヒラリと飛び掛かった俺を躱した。俺はマンガのように壁に顔面から激突した。
なんで避けるんだ。ちょっと鼻血が出たじゃないか。
「嫌よ。それに私のカーフォを奪って消しても無駄よ。だって私のパソコンにメールで送ったの。だから私のカーフォ奪っても意味無いの」
「ぞしだらバゾゴンもげずまでだ!」
「ゆ、雪さん大丈夫ですか?鼻血出てますよ!ティッシュ持て来ます!」
雹が絶望的なことを言うが俺は諦めない。諦めた先はもっと絶望的な状況が待ち受けているから諦めるわけにはいかない。
鼻血が出たからなんかしゃべりにくいな。
「なんか騒がしいけどどうしたの?アマネンが急いでリビングに行ったけど?ユっちゃん鼻血出てるよ!」
周がティッシュを取りにリビングに向かっていった。周とすれ違いに月希がきた。
「丁度いいところに来たな。俺のことは気にするな。月希、お願いだ。雹を押さえてくれ。明日アイスを買ってあげるからな?」
「ヒョウちゃんを押さえたらアイス買ってくれるの?ほんと?わかった!ルイ、ヒョウちゃんを押さえるよ」
月希は二つ返事でOKがでた。アイスで釣れるなんてなんて安上がりな子だ。
このままアイス一個でなんでも言うこと聞くようだと変な男に騙されるぞ。それで頼み事をしている俺が言えたことではないが。
「雪くん、何度も言うのだけど月希に頼んでも意味ないわよ?」
「何が?」
「写真を送ったパソコンは実家に置いて来たの。雪くんは私のカーフォの写真を
消して私の部屋に行くつもりだと思うのだけど、残念ね。私の部屋にはパソコンは無いわよ」
「そんな!嘘だと言ってくれ」
俺は床に崩れ落ちた。
写真を送ったパソコンは雹の実家。カーフォを消しても意味がないじゃないか。
「ん?これはどういう状況なのかな?説明プリーズ」
「雪くんはこんな写真を撮られて恥ずかしいみたいよ」
「ほう!これはこれはユっちゃんがユっちゃんを押し倒している写真ですな。ほほう、なかなかのお宝写真ですな。あとで写真を送ってよ」
「いいわよ。今送ったわ」
「ヒョウちゃんありがとう。待ち受けにするよ」
月希の手にまで渡ってしまった。もう拡散を免れない。
そもそもなんでこいつらは俺が俺を押し倒している写真を欲しがっているんだ?
月希が言うみたいなお宝写真な訳ではない。俺が恥ずかしいだけの写真でしかないのにそれをお宝写真だなんていうなんて理解できない。
俺の弱みとして交渉する以外で何を使うんだ?写真を加工してバラまくとか?月希にそんな技術があるとは思えない。
「雪さん!ティッシュを持ってきたので鼻血を拭いてください!」
「おふ、悪いな」
周が持ってきたティッシュを丸めて鼻に詰め込む。
拡散待ったなしのこの状況はもうあきらめるしかないか。学園で俺の噂があんまり広がらないことを祈るしかないか。
ちなみに雹が月希に見せた写メは今朝、雪がパジャマとして着ている部屋着から制服に着替える瞬間撮ったものだ。雪本人からしたらそれほど恥ずかしい物ではないが雹や月希にとって雪の生着替え写真はお宝写真と同義といえた。
月希は自分が着替えを写真を撮られるのは恥ずかしい気持ちがわかるので雪は自分の生着替え写真を消そうとしていて雹との攻防戦をしていたと思い込んだ。それの写真を消すために雪は自分に交渉を持ち込んで失敗した。
雪の生着替え写真よりも雹が先ほど撮ったクローンの雪が雪(男)を押し倒している写真を誰にも渡すつもりはないようで、雹にとって雪の生着替え写真より価値が高い写真であり一生誰の目にさらすことはないだろう。そして雪の盗撮写真を含めて自身で作成したアルバムの中に眠るんおだろう。これから盗撮していく写真や映像は雹の自身のカーフォの中やパソコンの中に蓄積されて雹の宝箱と化していくのであった。
「お前らこんなところで何してんだ?あと20分したら今夜の任務について説明するから今の内に動きやすい服に着替えて準備しとけよ?私はリビングでまってるわ」
一夜先生が来たようだ。どうやらリビングに誰もいなかったからホームの中を探し回って俺達が騒ぐ声を聞きつけて見に来たようだ。
先生は用件だけ言ってリビングに戻っていった。
先生に準備を促された俺達はそれぞれの部屋に行って各々で準備を始めた。俺は雹のおかげで乱れた制服を直して、ベッドに寝かせてある俺の本体と言える男の自分に毛布をかぶせる。
「元に戻ったら風を引きましたなんて嫌だからな。まだ春だから夜は冷えるからちゃんと暖かくしておかないとな。それとまた何かの拍子でもとに戻った時の為に制服はここに置いていこう。うんじゃ、行ってくるわ」
眠る自分にまた語り掛けて部屋を後にする。当然のごとく語りに対する返答はないが、いつか二つの体を同時に動かせる日が来ればいいなと思った。
俺は一夜先生が待つリビングに足を運ぶ。
「水泡お前が一番のりか?」
そこにはリビングに設置してあるソファーに足を組んでくつろぐ一夜先生がいた。
先生の目の前に立てば足の微かな隙間から先生の絶対領域であるタイトスカートの中が見えそうで見えない状態であった。
先生のきつめの性格と重なって男子ならこんな状況はドキドキしそうな状況なのだが、女になった影響かは知らないが俺はドキドキしていない。この人の怒り買って何されるかわからないのもあるが、ふしぎな気持ちでこの人の前だと頭が冴えてくるというか冷静になる。
先生のの恐ろしい部分を感じているのかもしれない。
「はい。あいつらももうすぐ来ると思いますよ?」
「お前さ女ってやつはどこかにどこかに出かけるときは時間がかかるもんなんだよ。男のお前には、って今お前は女だったな。わっはっは」
この先公は俺が逆らわないことをいいことに好き勝手言いやがって、今の俺は女の気持ちがわからない女ですよーだ。
「それでお前はなんで制服なんだ?制服じゃなくてもいいんぞ?」
「この体に合うサイズの服がなくてですね。はい。これしか着るものがないんですよ。普段着ている男物の服はサイズが大きすぎてパジャマとして着ている分にはいいのですが外で何かするとなると動きにくくて。それで制服しかないんです」
「フーンそうか。お前も女なんだから可愛らしい服で買えばいいじゃんか。例えばピンクそか空色のワンピースなんかどうだ?スカートには慣れただろ?」
「スカートなんか俺に似合いますか?」
男の俺がフリフリのワンピースなんか着るなんて恥ずかし過ぎるぞ。そもそも似合わないだろうが。
俺はジーンズとパーカーで十分。
「普通に可愛いんだから似合うだろ。回りに聞いて買ってみろよ。案外気に入るかも知れないだろ」
「そうですか。今度みんなで買い物に行った時に選んでもらいます」
俺がスカートを気に入ることは一生無い。特にフリルがついたミニスカートは履くことは絶対に無い。
元男の俺が履いたら気持ち悪いだけだし、女になってわかったがクラスメイトの男子の視線は胸元や脚を目みられていた。
ちょっと気持ち悪かったから俺は気をつけよう。もしかして月希や周の胸を無意識に見ていたかもしれない。俺みたいな気持ちにさせていたら申し訳ない。
そして雹の胸はないから見ていないと確信して言えるから大丈夫だろう。
「イエーイ!楽しい楽しい狩りの時間だー★アマネン早く早く」
「ううー。大丈夫なのでしょうか?これから行くところは楽しいじゃなくて危険な場所じゃないことを願います」
「こら、月希騒がないの。遊びで行く訳では無いの。それに周はネガティブにならないの。頑張ってくれないと困るわ」
姦しい声が聞こえた。月希達が準備を終わらせて来たようだ。
これから夜の任務が始まる。
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