第23話 放課後は
今日最後の授業が終わり俺の意識は男の方の体に戻ることはなく、クローンのままだった。休み時間にあっちの体に戻ろうと軽く寝てみてみたが結局戻れなかった。
クラスのみんなは俺達(クローンと俺の二人のこと)が意識が失うことは事故のせいと信じてくれているが付き合いの長い白城はなにやら疑うそぶりがある。俺が今女だからアイツが俺に話しかけてくることはないが、気か付けば男の方の俺と俺のクローンを見ている。
休み時間の間のクラスメイト達は意識のない男の俺に話しかけてくる奴はいない。雹と月希以外は。二人とも俺の事情を知っているから好き勝手に俺の体を玩具にしていた。
二時限目後休み時間に俺の体を玩具にしていたから一回追い払って、服装を整えると見せかけて胸元に入れておいた自分のカードフォンを抜き取っておいた。
三時限目以降の休み時間には雹達が悪戯をさせないように男の俺の席の近くの壁に寄りかかり先生達に見つからないようにカードフォンをいじっていた。ほとんど雹と月希に邪魔されてそれどころじゃなかったけど。
そんなこんなで放課後になった。
「学校終わった☆放課後何する?」
「俺は白城達とカラオケに行ってくるわ」
「雪さんそんな姿で行くんですか?」
「それもそうだな。今クローンの体ということを忘れてた」
周に突っ込まれたが、クローンのままじゃ白城達とカラオケに行けない。そもそも白城達と約束した体はクラスの一番後ろで眠り姫の如く意識失っているから白城達も俺がいけないことは承知のはずか。
戻れなかった以上白城達とのカラオケは諦めるしかないか。
「じゃあ、雪くんの放課後の予定はキャンセルね。私達でカラオケにでも行こうかしら?雪くんがこうしてカラオケに行きたがっているわけだし」
「ヒョウちゃんに賛成四人でカラオケに行こうー☆」
「俺はこういう形でカラオケに行きたかったわけじゃねーよ」
「雪さん口調口調、もっと女の子らしいしゃべり方した方がいいと思います。不自然ですけど雪さんはもう一つの体の方を俺やクローンと呼んでますが、誰も雪さんと雪さんが同一人物だと気づきくとは思いませんけど呼び方を変えた方がいいかと思いますよ」
「おっといけない。つい元のしゃべり方になっちまうな。」
男の時の俺と別なしゃべり方にしないと正体がばれちまう。男勝りなボーイッシュな女の子キャラで通したいが、ボーイッシュなイメージをつけるのはわからない。男の俺と同じ場所にいるんだから周の言う通り男の俺イコール俺のクローンだとは気づかないのでは?
何の引き金で正体がバレるかわからないから別の人格として振舞った方が都合がいいのではないだろうか。しゃべり方はもう遅いとして趣味や私物が別々にしていれば疑われないのか。
初めて体を二つ持って、二つの体は別々の人物として振舞うのは訳が分からない。
「わかったよ。俺達でカラオケに行くことはいいとして一つ問題がある」
「「問題?」」
「あそこに寝ているあれだよ」
首を傾げる月希と周よそに俺が指したのは意識なく机に倒れかかっている俺の体。
そう俺の体をどうするべきか。
教室でこのまま寝かしているわけにもいかないし、ホームに連れて行くにもクラスメイトの目の前でやるわけにはいかない。メテオのことを一切知らない生徒もいるわけだから今ここで生徒手帳を使ってテレポートさせたら騒ぎが起こるかもしれない。
体を人気がないところまで運んで、そこでホームにテレポートさせるしかないか。それしか方法がないけど一体どうやって体を運び出すか。
今話題に上がった俺の体は再び雹のおもちゃと化した。雹には机に伏せている俺の体が寂しげに見えたのだろうか?今思えばあの席に近づくのはその席の前に席があるクラスメイト以外俺達か白城ぐらいしか近づかないや。新学期だから最初はこんな物なのか?
今日はほとんど机に伏せていて動いてないし、周りには寝ていると思われているから誰も近づこうとしない。もしかして入学早々に俺ボッチになっちゃった?いっそのこと片方だけ不登校になっちゃおうかな。
「雹のおもちゃと化している俺をどうするんだよ。いや、ク、雪をどうかたづけるんだよ」
「そんなのかんたんだよ。ルイがユっちゃんの部屋まで運んであげるよ」
「どうやって?」
「担いで運ぶんだよ。ね?簡単でしょ?」
「簡単でしょ?じゃねーよ。突っ込みどころが多すぎて大問題だわ。女子高生が男子高校生を担ぐ何てこと恥ずかし過ぎて許可できないわ」
高校生にもなって女子に軽々と担がされるなんて駄目だわ。恥ずかし過ぎて不登校になるわ。そもそも男子高校生を軽々と運ぶ女子高校生なんて怖いな。普通に考えてどんな筋力してんだよ。
月希がそんなこと言うから周がちょっと引いてるぞ。
「月希さん、普通の女の子は簡単に男の人運ぶことはできませんし、逆だと思いますよ」
「え?ルイは全然恥ずかしくないよ?ユっちゃんを運ぶなんて余裕のよっちゃんだよ」
「俺が恥ずかしーの。だからそれは却下。みんなが帰るのを待つしかないのか」
「そんなの駄目だよ。カラオケの時間がなくなちゃうよ」
「だったらいい案を考えてくれよ」
周が力こぶを自慢げに見せる月希に普通の女子の力では男の人を担いで運ぶのは無理と指摘するが周の言っている脳筋の月希には理解してくれない。かわいそうな周はこっそりとがっかりする。
我が道を進む月希に常識を求めては駄目だ。自分の価値観が少しずれているなんてこれぽっちも思っていないのが月希クオリティだから仕方がない。
三人でよさげな案を絞り出すがいい案が出るはずもなく、仕方がないから教室の中で徐々にクラスメイトが出ていくのを待つ。
それから待つこと五分で変化が表れた。
教室に残ったクラスメイトが俺達を除き、六人程になり、移動する準備を始めようと思ったとき、視界がグニャリと歪み始めた。
歪みが収まって目の前が無機質な部屋になっていた。どうやら教室からどこかの部屋にテレポートされたようだ。
「ありゃ、ここはどこかな?」
「またどこかに飛ばされたようね。部屋の形状から見て先生達が管理している施設かしらね」
「ということはモンスター退治だ☆」
「えー。また何かと戦わなくちゃいけないのですか?先週一件でもう懲り懲りですよ。もう教室に戻してください」
「ただ移動しただけだからまだ戦うと決まったわけじゃないぞ」
部屋には月希や雹、周がいた。それと男の俺も。
何故かテレポートされたことによりテンションが上がった月希がモンスター退治と喜ぶ。プチパニックになる周は泣きそうになる。冷静な雹は部屋を分析する。
メタルなスライムと戦った広い空間と似ているから雹が言う通り学園側が管理している一室なのだろう。ただ狭い無機質な部屋だ。
教室に何人か残っていただろう。そいつらの前で俺達がいきなり消えたら騒ぎになるだろう。先生達の息がかかっている生徒なら驚きぐらいはするけど騒いだりしないと思うからこちら側の生徒の可能性が高いな。
「誰もいませんね?」
「出口らしき扉も見当たらないわね。今度は何なのかしらね」
部屋には誰もいない。雹が出現させた刀の柄で壁を力任せに叩いたり、周がペタペタと触って部屋を調べているが、最近似た部屋に移動させらて脱出方法を模索して部屋を調べるけど何もないから調べても意味がなかった。今回のこの部屋も同様に部屋の壁や床を調べても意味がない。
何もない部屋に俺達は移動させられた。俺も現状把握のため部屋を見回したが俺達の荷物を枕代わりにしている俺、男の雪が横たわっていた。
雹が固い床に寝かせるのが忍びなく感じてせめて枕だけでもと頭と床の間に入れたみたいだ。
「早く何か出てこないかー☆」
「雹、周部屋をくまなく調べても意味がないだろ?月希遊んでないでホームに戻れるか試してみるぞ」
無意味に部屋を調べていた雹と周、出現させた銃で遊んでいた月希に声をかけて生徒手帳を持たせた。
荷物を漁って生徒手帳とカードフォンを取り出して男の俺とホームへテレポートができるか試してみる。
生徒手帳を操作してテレポート開始する。視界が何もない無機質な部屋から今朝学園へテレポートしたホームのダイニングへ戻ってきた。
「ホームに戻ってこれましたよ。あの部屋は何だったのでしょうか?」
「何にしても出れたわね。あとは雪くんを寝かしてカラオケに行きましょう。月希、雪くんをベッドまで運んでちょうだい」
「はーい!」
雹が月希に俺の男の体を運んでもらうように頼んだ。
その間、俺は放課後カラオケに行く約束をしていた白城に「体調が悪くなったから今日は無理」とメールを送った。数分して白城から「OK。体調が戻ったら次は絶対」とメールの返信が届いた。
仮病を使ったような断り方だが、これで白城達のカラオケの約束がキャンセルになった。
「これで問題解決!カラオケいこー!」
男の俺を寝かせてきた月希がすごい笑顔で戻ってきたと思ったら一人で勝手に生徒手帳を操作してホームから出てっていった。
お前はどんだけカラオケに行きたいんだ。
数分前まで頭を悩ませていた男の俺をどうやって教室から運び出す問題が解決したからこれでカラオケに行けることになるが、問題が解決すれば新たな問題が発見する。
このままホームから出たらどこに出るか?さっきの無機質な部屋?それとも教室なのか?ホームから出ないとわからない。
しょうがないから俺達は月希を追うために生徒手帳を操作してホームから出た。
「よかったわね。教室は誰もいないわ」
「みんな何しているの?早くしないとカラオケする時間なくなっちぃうよ☆」
俺達は月希につられ気味に学園からカラオケ店がある商店街に向かった。
商店街は人々の行き来盛んで流桜学園の生徒以外に他校の生徒や近くの小中学校の生徒が買い食いしたり、ゲームセンターで屯っている。
「いつもお店でいいよね?」
「月希、いつものって言ってもわからないわ」
「いつものとはどこのカラオケ店なのでしょうか?」
「周と雹にはわからないか。俺や月希が中学生の時から行っているカラオケ店で、ここを真っ直ぐ行った先にあるカラオケ店なんだ。ちょっとボロいけど値段は安いしドリンクなんかは無料で飲めるからここら辺の学生とって有名な店なんだよ」
小さくて古ぼけた内装だけど値段が一時間100円で歌えるから学生に人気で有名なお店なんだよな。おまけにドリンクが無料なんだけどセルフなんだよな。あそこ。毎度ドリンクバーの前は混んで通路が邪魔なんだよな。
中学時代は実家から遠かったけどあまりの安さに友達と自転車を漕いで通っていたな。
注文できる料理が種類が少なくて全部冷凍食品なのがマイナスポイントで、学生は飲みのみかドリンクバーで混むことを嫌って持参した飲み物で歌って疲れた喉を潤す学生もいる。
ただ持参した飲み物を経営している親父に見つかると出禁になると噂で言われているが俺は出禁になった奴は見たことがないから眉唾な噂だと思っている。
「うわっ、ここ本当にやっているんですか?ここってカラオケ店言うよりあれですよね?」
「ラブホテルね。中は暗いからやっていないようだけど?雪君お店間違いないの?大丈夫?」
「昔はラブホテルで営業していたけど今は改装してカラオケで営業しているだよ。入り口は裏だから行こう」
ここはラブホテルでやっていたけど客があんまり来なかったから潰れてカラオケ店に変えたんだよな。それで経営している親父が改装の為に借金したって中学時代の俺達に笑いながら言っていたな。当時はそんな値段で大丈夫かよって思っていたけど言ったら値段が値上げしたら嫌だったから黙っていたな。
あれからもう2年もたつのか。時間が経つのは早いな。
俺達は入り口がある裏口に回った。
裏口には五人ぐらいの柄の悪い高校生グループが屯っていた。それらをスルーして店内に入る。
「思っていたのと違うわね。受付はホテルの受付と同じだと思っていたけど普通のカラオケ店だわ」
「そうですね。ボロいけど普通ですね」
雹と周はそれぞれの感想を述べた。
店内は薄暗くて、壁の塗装は剥がれかかっているがそれ以外は普通カラオケ店の物と変わらない。
「オヤジー!部屋空いてる?」
「なんだい。嬢ちゃんか?久しぶりだな。この時間帯は混んでいるんだが嬢ちゃん達は運がいいよ。さっき丁度小部屋が1部屋空いたぞ。何時間使うんだい?」
「二時間ぐらいかな。みんなもそれでいいよね?」
月希がカウンターにいた親父に部屋が空いているかフレンドリーに聞いたところ1部屋空いていると言う。
月希がフレンドリー過ぎて周が少し引いていたが、月希の性格を熟知している雹は特に気にしてない様子だ。
カラオケ店の親父もフレンドリーな月希を気にした様子はない。親父はあたかも知り合いが自分の家に来たみたいな感じで接客しているから初めて来た周や雹にとって違和感なのかもしれない。
親父の人柄なのか親父は学生達に人気なのだ。
俺も親父の性格は嫌いじゃない。
親父にカラオケをする時間を聞かれて月希が返答する。返答後、月希は俺達に二時間でいいか確認する。
そういえばどのくらいカラオケするのか決めてなかった。月希はとっさに二時間って答えたが俺達は生徒手帳をいじればホームに帰られるので門限がないのでいつまでも歌っていられるけどこれからお店が混むことを考えて二時間いいと思う。
「それでいいわよ」
「あぁ。いいんじゃないか?いつでもホームに戻れるんだし」
「そんなに長いんですか?私歌うレパートリー少ないですよ」
「歌わなくてもアマネンはみんなが歌うのを見るだけでいいよ。決まりだね。オヤジー二時間で!」
周が少し気にしていたが二時間で決まった。
「あいよ。G部屋な」
「ありがとう!みんな行くよ」
「そこの嬢ちゃん、どこかで会ったことないか?客で来たなら覚えているんだが嬢ちゃんは初めてのはずだからこんなのがあるはずはないんだがどこかで会ったことがある気がするんだよな」
「オヤジー、気のせいだよ。ユッちゃんはユッちゃんでユッちゃんとは関係ないんだよ」
「そうだよ。おじさん誰かと間違えているんじゃないかな?」
親父からマイクと部屋の鍵を受け取った月希が親父に呼び止められた俺を誤魔化して、俺の手を引き連れていく。
このカラオケ店は伝票の代わりにバーコード付きの部屋の鍵とマイクが渡される。鍵のバーコードに人数と何時に来店したのか登録されて会計時に登録されたデータをレジで読み取って精算された金額を支払うシステムなのだ。
今の時代こんなシステムを使っているカラオケ店はここしかないだろう。
しかし、危ない。こんなところで俺とクローンが似ているから気づかれるんじゃないかってヒヤヒヤしちゃったぞ。
親父は変なところで敏感なんだから。
「何歌う?ルイ先に歌っていい?いいよね?まずボカロいいかな?」
「いいぞ。周と雹が楽しめるように誰でも知っているヤツを歌ってくれ、マイナーなアニソンやボカロ曲じゃなくてさ、ちゃんと周や雹が知っている曲をな」
「そんなことわかっているよ。んじゃ、最近トレンド入りしたのを一曲歌いまーす」
月希がボカロを歌い始めた。
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