41.意外な繋がり


「ん?あれって。」


ギルドへ向かう道すがら、和也の視界に見慣れた背中が映る。

煌めく銀髪に、モデルの様なすらっとした体型。

白く滑らかな肌はまるで白磁のようだ。

見紛うことなくエリナである。


何してるんだろ?

…ご飯でも誘ってみようか。


レーナの忠告を思い出し、エリナに声を掛けようと試みる。

距離があるため、和也がエリナの元へ近寄ろうとするが、


「お、和也。」


横から声を掛けてきた剣崎に阻まれる。

隣には彼の幼馴染である佐藤も居た。


デートだろうか。

羨ましい限りだ。


「今からクエスト?」

「う、うん。ご飯食べてから行こうかなって。」


横目でエリナを見る。

どんどん遠ざかって行くが、この状況を安全に切り抜けるコミュ力など、和也には無かった。

ここは出来るだけ話が早く終わることを願うことしか出来ない。


「そうなんだ。」


剣崎がニコッと微笑む。


どうしてここで微笑んだんだろ?

特に面白いことも無かったと思うけど。

これが所謂、上級者のコミュニケーションテクニックってやつかな。

これから真似しよう。


「でも、ちょっと昼飯にしては遅くない?もう2時だよ。」

「い、いや、さっきまで王城に呼ばれて面談してたからさ。」

「面談?何それ?」


剣崎が小首を傾げる。

隣の佐藤も不思議そうな顔をしていたから分からないようだ。


「えっと、勇者全員に行ってるんだって。剣崎君達はまだなの?」

「いや、まだだよ。面談か……確か正樹がなんか言ってたような。」

「私も恵果けいかが言ってたのを聞いた気がする。」

「あ、そうなんだ。」


ニコッとは微笑まない。

少しだけやろうかなとは思ったけど、やっぱり僕にはハードルが高かった。

慣れてない人がやっても不格好な苦笑いになるだけだろうし。


「2人は何してたの?」


ここで沈黙は辛いと、あんまり興味がある訳では無いが質問する。

本当は話を終わらしたかったのだご、あんまり話さない人との間の沈黙程キツいものは無いのだ。


「彩が新作のスイーツを食べたいって言ってたから今から行くとこ。」

「へー、そんなとこあるんだ。」

「あれ、知らない?結構話題になってたんだけど。あの、パンケーキみたいな。」

「ああ、あれ。」


この前エリナと行った所だ。


「新作が出来たんだって。」


佐藤がワクワクした様子で言う。

目が輝き、待ちきれないと言った様子だ。


「和也は行ったことあんの?」

「あー、うん、あるよ。」


中々美味しかった。

一人では行きづらいが。

行きづらいどころじゃない、一人は無理。

場違い感が凄い。


「エリナさんと?」

「!?」


不意に出たエリナの名前に驚き、肩を震わせる。


…なんで知ってるんだろ。


「……そうだけど。え、なんで知ってるの?」

「和也がエリナさんと仲がいいって、結構話題になってたけど、知らない?」


え、話題?

僕が?

アウトオブ眼中じゃなくて?

……嬉しいような、気まずいような不思議な気分だ。


「付き合ってるの?」


佐藤が当然の疑問というように聞いてくる。


「い、いや、ただの友達だよ。」


和也は少し照れながらもそれに答える。

というのも、今まで友達が居たことが無かったから、友達という言葉を口にするのが恥ずかしかったのだ。


「えー、うっそだぁ。」

「ほ、ほんとだよ。」

「んー、じゃあエリナさんのことは好き?」


その質問に、和也は口ごもる。


正直、自分でもよく分かってないのだ。

当然エリナのことは好きだが、これが友人としての『好き』なのかそれとも違うのか。

そもそも彼女は僕にとって高嶺の花だ。

僕なんかが……くそっ、ネガティブ思考はやめようって決めてたのに。

どうしてもたまに出てくる。


答えあぐねた和也に申し訳なく思ったのか、剣崎が口を開く。


「ごめんね和也、昔からなんだけど、彩はこういう話が大好きで直ぐ首を突っ込むんだ。ほら、彩。早くしないとパンケーキが売り切れるぞ。数量限定なんだろ。」

「あ、そうだった!」


佐藤が思い出したように声を上げる。


「じゃあ、和也くん!また今度、続き聞くからね!」

「またね、和也。」

「う、うん。じゃあね。」


手を振りながら立ち去る2人に手を振り返す。

2人の姿は直ぐに人混みへと消えていった。


「はぁ、やっと終わった。」


エリナのが歩いて行った方の通りを見る。

そこには当然、エリナの姿は無かった。


ちらっと脇道を覗きながらエリナの進んで行った方向へと足を動かす。

ストーカーみたい、というかそのもののような気もするが、エリナの話をしたせいか、急にエリナに会いたくなったのだ。


「はぁ。やっぱり居ないか。」


見つからなかったことに、落胆する。


諦めてギルドでご飯でも食べよう。


そう思い、歩き出そうとすると、後ろから懐かしい声がした。


「お、カズヤじゃんか。」


声を掛けてきたのは意外としっかり者の少年、レントだった。

後ろには、彼のパーティメンバーも集まっていた。

他の子達も和也の顔を見るなり、次々と声を掛けてきた。

(ただし、ルルはムスッとした様子で明後日の方向を向いていたが。)


いつの間に嫌われてしまったのだろうか。

まったく身に覚えが無い。


「あ、レント君。ひさしぶり。」

「おう。」


そう言って、ニカッとレントが笑みを浮かべる。


お、おう、レント君も上級者テクニックを習得してたのか。

年下の子が出来るんだから、僕も見習わないとな。


「今からクエスト?」


和也は、レント達が装備を身に付けていることを確認してから問う。


折角だし、皆ともクエストに行きたい。


「んにゃ、今帰ってきたところだ。」

「あ、そうなの。」


残念。


「カズヤおにいちゃんは、なにしてるの?」


リリィが首をコテンと傾げる。


「今から昼ご飯を食べに行くところだよ。」

「じゃあさ、僕達も今から昼ご飯なんだけど、カズヤも一緒に来ない?この前のクエストの話をしたら母さんが1度会いたいって言ってたし。」


ルースがいい事を思い付いたとでもいうように顔を明るくさせる。


「あれ?お母さんには内緒にするんじゃなかったっけ?」


確かそんなこと言ってたような気がするんだけど。

記憶違いかな?


それを聞いたルースは頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。


「いやー、帰ったら母さんが待ち伏せしてて、バレちゃったんだよ。」

「ああ、なるほど。……お母さんはなんて?」


僕に飛び火してないだろうか。

少し怖い。


「理由を説明したら、怒ってたけど、嬉かったみたいだよ。クエストも制限付きだけど許してくれたしね。」


ルースがまるで自分の事のように喜ぶ。

それを見て、和也は心が優しい温もりに包まれた気がした。


母親思いのいい子達だな。

僕は………


「どうしたの?」


少し顔を俯かせた和也をリリィが覗き込む。

和也は「なんでもないよ。」と声を掛け、頭を撫でた。


「んにゃー。」


リリィが気持ちそさそうに目を細め、声を上げる。


やばい、天使すぎる。


「で、カズヤは来るの?」

「ああ、うん。じゃあ、おじゃましようかな。」



────────────────────



「着いたよ。」


レント達の孤児院は大通りの外れにあった。

小さく、年季の入っている建物だったが、丁寧に手入れされていることがよく分かった。


「母さんは今は仕事に行ってるけど、姉さんは多分居ると思う。」


客間に通され、ルースが「呼んでくるから待ってて」と言い残し、部屋から出る。

他の子達も着替えると言って出ていったので、一人になってしまった。


革張りのソファに腰掛け、戻ってくるのを待つ。


ああ、緊張する。

やっぱり来ない方が良かったかな。


遠い目で、窓の外を眺める。

綺麗に刈られた芝生が青々と茂っていた。


その時、


「連れてきたよー!」


扉が開き、リリィの元気な声と共に入って来たのは


「あれ、カズ?」


見紛うことなくエリナだった。

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