16.頑張れよ、少年!

今、あたしの目の前で凄いことが起こっている。

なんと、銀髪の女の子が、黒髪の男の子の傷口に塩を塗り込むように口撃しているのだ!

でも、女の子の方には悪意が全然見えない。

男の子は困っている。

超困っている。

目が遠泳をしてるのかってくらい、泳ぎまくっている。



どうしてこんなおもしろ─ゲフンゲフン、不思議な状況になっているのか。

それは少し前まで遡る。



「うわっ!」


あたしが試験の合格発表を待っていると、隣から驚きの声が上がった。

声を出したのはカズと呼ばれた黒髪の男の子。

中々可愛い顔をしてる。

けど、いつから隣にいたんだろ?

全然気付かなかった。

きっと緊張していて、視野が狭まっていたんだろう。

あたしのダメな癖だ。

きっと、彼の存在感が薄いとか、そんなはずじゃあ無いはずだ。


彼の方を見ると、どうやら、銀髪の女の子に声を掛けられた事に驚いている様だ。

銀髪の女の子は、お人形さんみたいに整った顔をしている。

同性のあたしでも魅入ってしまうぐらいに可愛い。


でもどうして、声を掛けられただけで、そんなに驚いているんだろ?

あたしみたいに緊張して、視野が狭くなっていたのかな?


おっ?


女の子が男の子に驚いた理由を訪ねている。

どうやら彼は、今までほとんど声を掛けられたことが無いらしい。

何ともまあ、悲しい理由だ。


「友達、居ないの?」


おおっと!

女の子の右ストレートが彼の無防備な鳩尾に入る!

クリティカルだ!


友達から『あんたって結構ズカズカ行くよねー。』とよく言われるあたしでも、これは聞かないレベルだ。

誰もが出来ないことを平然とやってのける!

そこにシビれる!あこがれるゥ!


「居ないの?」


なん、だと!?

まさかの2度目のクリティカル!

もう止めて!彼のHP(ライフ)はもうゼロよッ!

男の子は瀕死の状態だ。

見てられない。


あたしは顔を背ける。

耳はしっかり、音を捉えたままだったが。


「居ないよ……たぶん。」

「なんで?」


ここでまさかの追撃だと!?

折角勇気を出して答えたのに。

彼の死を無駄にする気か!

死んでないけど。


「な、なんでと言われましても。」


もう止めな、それ以上は己の傷を増やすだけだよ。


あたしは彼の最後の抵抗を、勇姿をしっかりと目に焼き付ける為、彼に向き直り、見据える。

決して面白いからとかそんな理由じゃあない、ないったらないのだ。


「…ふーん。じゃあ私が、友達になってあげる。」


なんだとう!

この子、まさかいい子なのか?

男の子を虐めてるだけじゃなかったのか!?

そういうプレイをしてただけじゃなかったのか!?


予想外の展開に驚き、目を見張る。


「私が友達第1号。」


女の子が微笑む。


いや、流石に1号じゃないと思うよ。

この年で初めての友達とか、いくら何でも、ねぇ。

もちろん言わないけど。


そうこうしている内に、彼女が手を差し伸べた。

きっと握手をするつもりなのだろう


男の子が凍ったように固まる。


そりゃそうだ。

友達もいない子に握手を、それも美少女が求めるなんて、流石に厳しいだろう。

いや、でも君なら出来る!

凶悪な言葉の猛攻にも耐えた君なら出来る!!


干渉するつもりは無かったけど、これぐらいはいいだろうと、あたしは彼に向かって親指を立てる。


なんだこいつと言った目で見られたが、まあいい。


彼は深呼吸を何度も繰り返した後、意を決した様に彼女の手をとる。


おおー!

心の中でパチパチと、大きく拍手をする。

よく頑張った!

君こそが本物の勇者だ!


彼女の手を握った彼があたしの方を見る。


ん?なんだい?

褒めて欲しいのかな?

この欲しがりさんめ。


あたしはもう一度グッと親指を立てる。

彼はあたしから目を離した。



ああー、いいもの見れた。

楽しかった。

これからも、彼には頑張って欲しい。

あたしも彼らも、合格していたらいいのになあ。

そしたら続きが楽しめ─応援出来るのに。


うん、がんばれよ、少年!


と、ミスティ・カーティスは心の中で、エールを送った。

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