31.小さな冒険者
「なんだあの人。」
冒険者ギルドで食事をとっていると、入り口から甲冑姿の騎士が入ってきた。
騎士はギルド内をきょろきょろと見回した後、僕に向かって一直線で歩いて来た。
ああ、勇者関連か。
「カズヤ様、勇者全員に招集が掛かっています。明日のこの時間、王城に集合して下さい。」
『勇者』というキーワードに反応したのか、周りの冒険者達が聞き耳を立てていた。
カズヤは冒険者達からそこそこ知られているが、勇者だと知るものはあまり居ない。
ギルド職員、ドイルとそのパーティーメンバーとあと他に仲良くなった数人だけだ。
「何かあったんですか?」
「それは、その時に話したいと思います。」
「あ、はい。分かりました。」
「では、私はこれで。」
一礼した後、騎士が颯爽と立ち去る。
うーん……なんかちょっと無愛想だなー。
まあ、これで明日の予定は決まったからいいか。
…でもこれから何しようか。
クエストでも受けようかな。
そう思い椅子から立ち上がると、近くで聞き耳を立てていた12、3歳位の少年が話し掛けてきた。
「お前、勇者だったのか!!」
えー、何この子。
初対面の人に対してお前って。
まあでも、子どもだから仕方ない…のかな?
和也は改めて少年の服装を見る。
冒険者なのだろう。
使い古され、ボロボロ皮鎧に腰に下げた短剣。
こんな小さな子が、冒険者なんてやってるんだ。
…大変なんだな。
「おい、お前!聞いてるのか!!」
「ああ、うん。聞いてるよ。えーっと……なんだっけ?」
「やっぱり聞いてなかったじゃないか!勇者なのかと聞いてるんだ!!」
「レント~、やっぱり止めようよ~。」
そう言って、少年の後ろから近付いて来たのはそばかすの残るお下げの女の子。
同じく、簡素な装備に身を包んでいる。
「ニニャ!あっち行ってろって言ったろ!」
「で、でも~。」
少年と少女が言い合っていると、わらわらと少年少女が集まって来た。
どの子も装備を身に付けていた。
「ちょっとお前ら!俺が話すから待ってろ!」
そうレント少年が言い残し、和也の方へと振り向く。
「お前は、勇者なのか!?」
「…うん、勇者だよ。…一応、だけど。」
おおー!っと少年達が歓声を上げる。
…なんだか恥ずかしいな。
「お前、今暇だろ!」
「うーん…まあ、一応。」
ふふん、とレント少年が気を良くした様に胸を張る。
「光栄に思え!お前を、俺達のパーティに入れてやろう!」
「えっ。」
────────────────────
和也は、レント達と共にルーレンス大森林を歩いていた。
クエストはゴブリン5匹の討伐。
規定以上討伐で追加報酬ありだ。
レント少年のパーティメンバーは6人で構成されている。
茶髪で、勝気そうな顔つきのレントに、お下げのニニャ。
聡明そうで、将来はイケメンに育つであろう、ルークと穏やかなロイク。
パーティ最年少の双子で、金髪美幼女のリリィ、ルル。
この、6人だ。
和也は、別に断ってもよかったのだが、暇だし、この子達が心配で来てしまった。
僕も、強くなりたいし。
話を聞くと、これが初めてのクエストらしい。
…非常に心配だ。
「ねーねー、なんで、カズヤおにいにゃんは手伝ってくれうの?」
そう言いながら、僕の袖を引っ張るのはリリィだ。
まだ舌っ足らずの口調で非常に幼い。
正直、こんなに小さな子がクエストをするのはどうかと思う。
「そうよ!何か裏があるに違いないわ!」
そう、声高に叫ぶのはルルだ。
垂れ目でふんわりとした雰囲気のリリィとは反対に、つり目で、勝気そうな雰囲気だ。
「いや、君達が心配だっただけだよ。僕も、暇だったし。」
「心配なんかしなくてもいいわよ!」
「ルル、そうなこといっちゃだめー。」
リリィちゃんがルルを優しく注意する。
その後、「手伝ってくれてありがとお。」と満面の笑みで言ってくれるリリィちゃんは、まるで天使のようだ。
いや、天使だ。
そうに違いない。
「ねぇ、君達はなんでまだ子どもなのにクエストなんかやってるの?もう少し大きくなってからの方がいいんじゃない?そっちの方が、安全だし。」
それに答えたのは、ルークだった。
「僕達は全員、孤児院の子どもなんだ。」
「うん。」
予想は、していた。
「孤児院は、母さんと姉さんが働いて稼いだお金と、寄付で成り立ってたんだけど。去年、よく寄付してくれていたばあちゃんが死んじゃってさ。それで、お金が今まで以上に必要になったんだ。で、僕達も何か手伝いたくて、こっそり貯めた小遣いで装備を買ってクエストをしようってレントが言い出したんだ。」
「ああ、それで。」
パーティの先頭で、ゴブリンを探しているレントの方を見る。
いい話だな。
意外としっかりしてるじゃないか。
最初会った時は生意気な子どもとか思ったけど。
兄弟達を守る為に強気に見せてるのかも。
「レントはえらいっ。」
「うん、そうだね。えらいね。」
はしゃぐリリィちゃんの頭をよしよしと撫でる。
さらさらな髪がとても気持ちよかった。
「えへへー。」
やばい。
なんだこの生物。
可愛過ぎる。
「おいっ!居たぞ!ゴブリン2匹だ!!」
キギィと汚い声を上げながらゴブリン達が近づいてくる。
子供たちも剣を構え臨戦状態になっていた。
なんだ、思ったより動きも悪くないな。
僕は──危なくなったら助けに入るか。
「俺とロイクで左のをやる!ルークとルルは右のを!ニニャは怪我した人を回復で、リリィは待機!」
「「うん!」」
レントとルークが剣士で、ロイクは槍士、ルルは盗賊だ。
ニニャは僧侶、リリィちゃんは魔法使いと、中々バランスの取れたパーティと言える。
「僕は、どうしたらいい!?」
「俺達でやるから、カズヤはそこでリリィを守ってろ!!」
「分かった!」
リリィちゃんを連れて少し後ろに下がり、子ども達を見守る。
あの様子じゃ、ゴブリン2匹ぐらいなら余裕かな。
攻める時は攻め、深追いし過ぎない。
誰かに教わったのだろう、基礎がしっかりなっている。
「ねーねー、レント達だいじょうぶ?」
「うん、多分大丈夫だよ。基礎もしっかりしてるし、戦い方も安定してる。」
「リリィも魔法、うちたいなー。」
「うん、また今度ね。」
リリィちゃんを撫でながら戦闘を見守る。
数分後、最後の1匹をレントが突き刺し、決着がついた。
「ふぅーー。」
ドサッと戦闘をしていた四人が腰を下ろす。
「おつかれ。」
僕がそう声を掛けるとレントはニヤッとして
「おう。」
と拳を上げた。
「どうだった?」
そう聞いてくるのはルルだ。
戦闘のことだろう。
「よかったよ。皆、基本がしっかりと出来てたし、連携もよかった。深追いもしないし、焦ってもなかった。ただ、ちょっと慎重すぎるかな。もう少し肩の力を抜いた方がいいと思うよ。」
「へへっ、当然だろ。」
「調子に乗らない。」
「あいてっ!」
調子に乗るレントに、それを戒める
ルーク。
場は、一気にほのぼのとした空間となった。
リリィちゃんも凄い、凄いと手放しで喜んでいる。
ガサガサ。
「皆、何か居る。」
聞き耳スキルが拾った音を皆に伝える。
すると直ぐに戦闘態勢に入った。
おお、凄いな。
感心するも束の間、物音は段々近くなっている。
そして、木の影から出てきたのは、3匹のフォレストウルフだった。
フォレストウルフか。
この子達じゃ、ちょっと厳しいかも。
「レント、僕が右の2匹をやるから、皆でもう1匹の方を抑えてて。直ぐに行くから。」
「わ、分かった。」
さっと懐からナイフを出し、フォレストウルフに投擲する。
それは、一番右のフォレストウルフの首辺りに刺さり、一瞬怯ませる。
「ギャウッ!」
仲間を攻撃されたことに怒ったフォレストウルフが和也に向かって飛び掛る。
それを、バックステップで避け、首を落とす。
怯みから回復したフォレストウルフが飛び掛ってくるが、顎を蹴りあげ、再び首を落とす。
直ぐに片付けた和也がもう1匹の方を見ると、レント、ルークが主体となってフォレストウルフを押し留めていた。
「代わって!」
「おうっ!」
レントがフォレストウルフの攻撃を剣で弾き返し、後ろに下がる。
僕はその間に入り込み、またも首を落とす。
あまり肉を断つ感触が好きではない和也は、モンスターを倒す時は首を優先的に狙う。
そうすることで、一撃で倒すことが出来る。
これにも、いい加減慣れないとな。
剣に付着した血を拭いながらそんなことを考えていると、周りの子ども達がはしゃぎだした。
「カズヤおにいにゃん、凄い、凄い!」
「ほ、褒めてあげるわ!」
「すげー!」
あまり人から褒められたことないから、恥ずかしいな。
「皆もこれくらい直ぐに出来るようになるよ。」
「ほんと?」
「うん。」
「やったー!」
その後も、着々とモンスターを狩っていき、クエストを完了した。
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