32.声援


「クエストの完了を確認しました。追加報酬も加えて、銅貨60枚ですね。はい、どうぞ。」

「「わぁー!」」


ギルドに帰ってから報酬受け取った子ども達が、そのずっしりとした重みに目を輝かせる。

よほど嬉しかったのだろう、レントも声を上げ、喜んでいた。


「じゃあさっそく報酬の分配だな!」


レントが元気よく声を張り上げる。

一人分の報酬を計算していく内に自分の答えに自信が無くなった様に声が小さくなっていったが。


「あ、ちょっと待ってレント君。僕は報酬いいよ。」

「え、いいのか!?」

「ちょっとレントダメでしょ、報酬は山分けって最初に決めたじゃない!」

「カズヤおにいちゃん、なんで?」


喜ぶ者、それを戒める者、疑問の声を上げる者。

一気にパーティが騒がしくなってきた。


「僕は小遣いがあるから。それに、お金が必要なんでしょ。だから、いいよ。」

「ふんっ、哀れみって奴ね。…いいわ、貰ってあげるわよ。」


僕の態度が不服だったのか、ルルが不機嫌そうに頬を膨らませる。


「こら、ルル。なにかして貰ったら、ありがとうって言わなきゃダメでしょ。」


リリィちゃんがルルの態度を戒める。


「…なんで私がこんな奴なんかに。」

「言わなきゃお母さんに、この前ルルがおもらししたこと言っちゃうよー。」

「ちょっとリリィ!それは内緒だって言ったじゃない!!」

「ほら、さーん、にーい、いー。」

「わ、分かった、分かったわよ!」


リリィちゃんの悪夢のカウントダウンにルルが焦った様に声を上げる。

しかもちょっと涙目になっていた。


「……あ、ありがと。」

「どういたしまして。」

「……」

「?」


ルルの体がまるで何かを我慢しているかの様に小刻みにぷるぷると揺れ出す。


「……むー!!レント!早く帰るわよ!!」

「え、お、おう。じゃあカズヤ今日はありがとうな。また、よろしくなー!」

「うん、いいよ。じゃあまたね。」


1人で先行するルルを追いかけるレント達に手を振る。

するとルル以外の全員が手を振り返してくれた。


なかなか新鮮で楽しかったな。

皆しっかりしてるし、これからどうなるか楽しみだ。


そんなことを考えながらカズヤがギルドから出ようとしていると、


「ちょっとちょっと、カズヤさん。」

「な、なんですか?」


隣のカウンターから身を乗り出したレーナが、ちょいちょいと手をまねきながら声を掛けてきた。

その豊満な胸はカウンターに挟まれ、押し潰されて凄いことになっている。

ダメだと分かっていても自然と目が吸い寄せられる。


「どうしたんですか、あの子達。」

「あ、えーっと、成り行きで。」

「というと?」

「えっと、真ん中に茶髪の男の子居たじゃないですか、今朝あの子にパーティに誘われまして。クエストも初めてらしいから心配ですし、暇だから手伝おうかなって。」

「エリナちゃんは?」

「え?」


急にエリナの名前を出され、心臓が縮み上がる。


今日はエリナの名前がよく上がる。

まるで周りから見透かされているみたいだ。


「エリナちゃんはそれ知ってるんですか?今日も朝早くに1人でクエスト受注してましたよ。それに、最近カズヤさんと一緒に居るの見てませんし。何かあったんですか?」

「い、いや、特に無いと思いますけど。」


嘘だ。

僕が無意識に彼女との間に壁を作っている。


「エリナちゃんに聞いたら、最近カズヤさんから避けられてる気がするって言ってましたよ。それに、カズヤさんもずっと暗い雰囲気ですし。」

「……」

「相談に乗りますよ。何でも言って下さいね。」


意外と見てるんだな。


レーナさんは朗らかな笑みでこちらを見ていた。


……でも。


「…そう言って貰えるのはありがたいんですけど、自分でもよく分かっていないので別に──」

「分からないからこそ、人を頼るべきなんじゃないんですか。…まあ、無理強いはしません、色々あると思いますし。…でももし、頼りたくなったら何時でも来てくださいね。」


パチリと、レーナが不格好なウインクする。

反対側の目も閉じかけていてウインクと呼んでも良いのかは疑問なのだが。


「どうして。」

「?」

「…どうして僕なんかに、そこまでしてくれるんですか?」

「んーっとですね。」


レーナがそこで一旦言葉を切る。

掛ける言葉を探している様だ。


「…そうですね、私にとって困った人を助けるなんて、当たり前のことだからですよ。」

「……」

「私自身、困ってる人を助けたくて冒険者ギルドの職員になりましたからね。…まあー、最初は冒険者をやってたんですが、ほら、私ってドジじゃないですか。だから全然上手くいかなくてすぐ辞めちゃったんですけどね。」


レーナが冗談めかした口調で言う。

しかしその瞳からは悔恨の念が残っている様に見えた。


「だから、カズヤさんのお手伝いをしたいんですよ。」


果たして、僕にそこまでのことをしてくれるだけの価値があるのだろうか。

……無いだろう。

だって僕はモブ──


「あと、もう1つカズヤさんに言いたいことがあります。」


思考をかき消す様にレーナが言葉を発する。


「もっとしっかりしなさい。」


普段とは打って変わった強い語調に再び心臓が縮み上がる。


「カズヤさん、あなた今、自分にそんなことして貰うだけの価値があるのかみたいなこと思ったでしょう。」


図星だ。

何故分かったのだろうか。

新手のスキル?

それとも魔道具?

いや、魔法?


思っていたことを言い当てられたことに動揺し、思考がぐるぐるとこんがらがる。


「ふふ、当たりですか?」

「あ、はい。…どうして分かったんですか?」

「カズヤさんが冒険者になってからもうほとんど毎日顔を合わせてるんですよ。そりゃあ、カズヤさんがどういう性格の人なのかぐらい分かる様になります。その上で、しっかりしなさいって言ったんですよ。」

「……」

「カズヤさんは自己評価が低すぎます。自分をまるで物語の名前の無い脇役の様に扱っているでしょう。」

「……はい。でも──」

「まずそれを辞めなさい。」

「……」

「もちろん、こんなこと言われても急には変われないでしょう。でも、変わる努力をしなさい。そして、自分の周りを見て下さい。あなたは価値が無い人間なんかじゃない。カズヤさんを心配してくれる人はたくさん居ますよ。」

「……」

「あなたは脇役なんかじゃない。自分の人生は自分が主人公なの。」


まあ、これは知り合いの受け売りなんだけどね。とレーナが朗らかに笑う。


「ほら、カズヤさん。あなたのことを心配してくれる人が来ましたよ。」


レーナの指さす方向を見ると、そこにはクエストから帰ってきたエリナが居た。


「…エリナ。」

「彼女と話をしてあげて下さい。あなたのことを心配してましたよ。」

「……はい、ありがとうございます、レーナさん。」


再びレーナの方へと振り返り、感謝を述べる。


「どういたしまして!ほら、頑張って下さいね!」

「はい。」


レーナさんの声援に背中を押され、僕はエリナの方へと向かって行った。

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