38.洞窟探索


報告通り、洞窟内は光る苔とキノコで明るく照らされていた。


なんだっけこれ。

白く光ってるからシロヒカリゴケとシロヒカリダケだっけ。

確か、多くの洞窟に自生しているやつだ。

もちろん食用では無い。

毒はないけど、不味く、とてもだが食えたものじゃないそうだ。

どうでもいいけど、キノコを最初に食べた人って凄いよな。

あれを最初に食べるのは中々勇気がいることだと思う。

きっと最初に食べたのは女の人だろうな。

別に深い意味はないけれど。


「ん?」


視界の端で影が動く。

そこには薄く光る岩があった。


「お、本当に居た。」


和也は短剣を構え、隠密スキルを発動させながらゆっくり近づく。

まんま岩な見た目なのだが、意外と動きは素早い。

まあそれでも『意外と』というレベルなので別に速くはないんだけど。


和也は一息に漆黒の短剣を振り下ろす。

弾かれるのを予想していたのだが、そんなことはなく短剣はエクスロックの岩肌にくい込んだ。


「おおー、意外。刺さるんだ。」


倒したエクスロックから討伐証明を剥ぎ取った後、次のモンスターを探す。

苦労する間もなく、次のエクスロックが見つかった。


今度は、古い方の短剣を使ってみる。

漆黒の短剣との切れ味の差を比べるためだ。

長く使っていたせいで少しボロくなっているがこれも元は業物。

さっきほどまではいかないものの、少しは刺さるだろうと思っていたが、短剣はエクスロックに薄く傷を付けただけで弾かれた。


敵に攻撃されたことに気がついたエクスロックが逃げ出そうとのそのそ動き出す。

和也はそれを逃がさない様に漆黒の短剣でトドメを刺した。


元相棒の情けない姿に少し落胆し、新たらしい相棒の切れ味に歓喜する。


「これ凄いな。」


漆黒の短剣をまじまじと眺める。

かっこいい上に性能もいいなんて。

素晴らしいな。


討伐証明を取り、次の獲物を探す為に洞窟の奥へと歩き出す。


「ガウッ!」


ぞろぞろと、洞窟の奥から出てきたのは三体のコボルトだった。

和也を警戒しているのか、コボルト内で何やらガウガウ言っている。


「コボルトも居るんだ。3匹ぐらいなら別に問題ないな。」


相談が終わったのか、3匹同時にやって来るコボルト。

和也は慎重に攻撃をいなしてから、コボルトの首を撥ねていく。

いつもなら斬った時に嫌な感触が手に残るのだが、漆黒の短剣はそれを感じさせなかった。


短剣の血を丁寧に拭ってから鞘に仕舞う。

これをやらないと直ぐに剣の切れ味が悪くなるらしい。

刃物を扱う上でかなり大事なことだ。


獲物を求め、和也は洞窟の奥へとどんどん進んで行った。



────────────────────



少し日が傾いた後、和也は洞窟から出て、麓の町へ向かう。

あと1時間で馬車の時間だ。

それを逃すと今日はもう無い。

終電……いや、電車じゃないから終馬?

よく分からないが、まあ、それだ。


早足で山を降りる。

木の根に躓いて、何度か転けそうになったがなんとか着いた。

ベナン山脈の麓の町、ベナンだ。


ベナンは、至って普通な田舎の町だった。

初めに来た時は、元気に走り回る子供達が居たものだが、今はもう居ない。

家族と夕食でもとっているのだろう。

食欲がそそられる香りが鼻腔をくすぐる。

その影響か、和也の腹が小さく「ぐぅ」と鳴った。


「あー、お腹空いた。夕食も持ってくるんだった。」


一応、携行食は持ってきているが、日本育ちの和也にとって、出来ればあまり食べたくないものだった。


ちょっとしょっぱ過ぎるよな、あれ。


和也は携行食の干し肉を思い浮かべる。


長持ちさせる為に塩漬けされてるのは分かるんだけど、やっぱりなぁ。

美味しくないんだよ。

初めはジャーキーみたいなものかなって思って買ったんだけど、全然違う。

一口食べるだけで健康に悪いってのがはっきりわかんだねってレベルだ。

本当に。

その動物と、作った人には悪いけど。

逆にこの世界の人はどうしてるんだろ。あんなのよく食べてるな。

もしかして、食べ方が違う?

茹でるとか?

……分からないな。

また今度、エリナに聞いてみようか。


時計を開き、時間を確認する。

馬車の時間まであと5分。

適当に何か買う時間も無いだろう。


……仕方ないか。

無いよりましか。


和也はマジックボックスから干し肉を取り出し、小さく切ってから口に放り込む。


獣臭さと、しょっぱさのオンパレード。

悪夢の共演だ。


「……やっぱ無理。」


水筒を開け、一気にそれを傾け、口の中のブツを流し込む。


「っぷはぁ。」


それでも消えない獣臭さ。

ふぉーえばー。


てくてくと馬車停?に向かう。

しかしその足取りは重い。

一日中歩いたせいで、脚がだるくなっているのだ。


これでもほぼ毎日動いてるんだけどな。

流石に山登りはキツいか。

帰ったら直ぐに体を休めよう。

明日、エリナとのクエストだし。


馬車停に着き、備え付けられた長椅子に座る。

「誰も居ないからいいや」と、足を伸ばしてだらけていると、直ぐに馬車がやって来た。


運転手に挨拶をしてから馬車に乗り込み、ゆっくり腰を下ろす。


王都までは2時間あるし、終点だから起こしてくれるだろう。


そう思った瞬間、気が抜け、和也は眠りについた。



────────────────────



運転手に起こされた和也は、礼を言い、代金を払って馬車から降りる。

まっすぐ向かうのはもちろん冒険者ギルドだ。



冒険者ギルドに着いた和也は一目散に、レーナさんの元へ行く。

ステータスプレートの更新をするためだ。

数は数えていないが、結構な数のエクスロックを倒したからレベルがどれくらい上がっているのか楽しみだった。


……ステータスプレートを更新しないとレベルが分からないのは不便だな。

レベルが上がった時に分かったらいいんだけど。

力が漲ってくるとか、全能感がするとか、ファンファーレとか。

なにかいい道具とかあったらいいんだけど。


ちなみに、多く居る受付からレーナさんを選んだのは、レーナさんがルール違反をしているのがほかの受付員にバレないようにという配慮だ。

レーナさんの受付は人気で、列が出来ていたが、時間が遅いからかいつもより人が少なかった。

そのおかげで、あまり待つことなく和也の番となった。


「あ、おかえりなさいカズヤさん。……それで、どうでした?」


気持ち小声でレーナさんが聞いてくる。

目が輝いていることから、レーナさんも楽しみにしているのだろう。


「ほんとにエクスロックがいっぱい居て、驚きましたよ。あんなとこあるんですね。他のモンスターもあんまり居ないし。」


和也はレーナにプレートを手渡しながら洞窟の感想を述べる。

和也が洞窟で出会ったモンスターは全5種類。

エクスロック、スライム、ゴブリン、ホブゴブリン、コボルトだ。

どれもランクが低いので、簡単に倒せる。


「どれくらい上がってるんでしょうね。私も楽しみです。」


レーナがステータスプレートを更新する魔道具を使用しながら言った。


「はい、出来ました!」

「ありがとうございます。」


手渡されたプレートに書いてあったレベルは26。

行く前が20だったことから、6も上がったことが見て取れる。


え、これ普通にヤバくない?

まだレベルが低いからってのもあるけど、一日で6も上がるなんて。

僕なんか3ヶ月ほぼ毎日クエストに行って、やっと20になったってのに。

しかも、行った時間も遅かったから一日というより、半日だし。

エクスロックもいっぱい出るし、他のモンスターも弱いし。

最高のレベリング場所じゃないか。


「6も上がってました。」


和也は、レーナにプレートを手渡す。

レーナも、和也のレベルの上がりように目を剥いていた。


「え、これ凄くないですか?6って。私もこんなに一気に上がった人見た事無いですよ!凄い狩場なんですね。」

「……でも、この情報を流すのはちょっと考えた方が良くないですか?」


自分とギルドの人しか知らないから、狩場を独占出来ると思ってした発言では無い。

この情報は冒険者や騎士の戦力増強にかなり特になるが、扱い方を間違えれば酷いことになる。

冒険者同士の争奪戦が始まるだろう。

エクスロックは狩り尽くされ、次に湧くのを待つ。

そして、それの奪い合い。

最悪死人が出るかもしれない。

それくらい、この世界においてレベルは絶対的で、重要なのだ。


「……そうですね、私もギルド長に話してみます。」

「よろしくお願いします。」

「……あ、カズヤさんは晩御飯食べました?」


レーナがそこで話を切り替える。


「いや、まだですよ。」

「私もまだなんですよ。」

「……」

「……」

「?」

「……はあ。」


レーナさんが大袈裟に溜息を付いた。

え、なんだろう。

何かした?

普通に分からないんだけど。


「そこは普通、それなら、ご飯一緒にどうですか?って誘うものですよ。」

「あ、そうなんですか。…ええと。」


女性を食事に誘うなんて気恥しいな。

歳も全然離れてないんだからもっと気軽に言えるようになりたい。


「ご、ご飯、一緒にどんですか?」


噛んだ。

なんだよ、一緒にどんですかって。

丼物でも食べるのか。

恥ずかしい。


「…はあ、それでエリナちゃんをしっかり誘えるんですか?…折角私が練習の機会をあげてるのに。」

「あ、練習の機会だったんですか。てっきり僕からお礼と称して夕食を奢らせようとしているのかと思いましたよ。」


練習だったのか。

勘違いしてた。

今度から気をつけよう。


「そ、そんなこと無いですよ!お腹空きました。さあ、早く行きましょう!」

「あ、はい。」


慌ててる。

怪しいなあ。

まあでも、レーナさんにはお世話になってるし、別にそれくらいならいいか。


レーナの態度を不審に思いながらも、和也はギルドの食事スペースに向かって行った。

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