34.武装変更


王城前に着き、そこらで適当に時間を潰した後、和也は騎士に促され王城に入っていった。


案内するのは端正なルックスの金髪の騎士、確か──ルークさんだ。


「あ、あの、これから何があるんですか?」


あと数十分後には始まるだろうからそんなに急いで知りたくはなかったのだが、無言で歩く気まずさについ適当な質問をする。


「うーん、話しては駄目と命令されてますので。すみません。」

「い、いえいえ、そういうことなら、大丈夫です。…すいません、無理を言って。」

「いえ、こちらこそすみません。……えっと、この部屋で待機していて下さい。全員が集まり次第始めますので。」

「分かりました。」


案内されたのはいつもの円卓の部屋だった。

僕はいつもと同じ席に座り、机に突っ伏す。

十数分経ったぐらいか、徐々に人が集まっていきすぐに集合が完了した。


「では、全員揃った様なのでそろそろ始めますね。」

「え、信宏が居ないんだけど。」


開始を宣言したルースに坪倉が声を上げる。

前田信宏、勇者組では数少ない生産職であり、チート系鍛冶師だ。


「あ、前田さんは──」

「待たせたな、坪倉。」


ルースの声を遮り、前田が台車を押しながら入室する。

前田の背後にも同じ様な台車をついた執事が数人居た。

台車の上には布が被せてあり、荷物がなんなのかは分からなかった。


「おう、前田、ひさしぶり。……何だそれ?」

「ふっふっふ、ちょっと待て。……えーっと、皆!今日は皆に渡したい物があって、ルースさんに頼んで集めて貰ったんだ。」

「渡したい物って、それか?」


坪倉が台車を指差しながら問いかける。


「そう、これが!」


前田と執事が芝居がかった風に布を剥ぎ取る。

そこには光輝く様々な種類の武具があった。


「「おおー!」」


金属の上げる煌びやかな光沢に全員が感嘆の声を上げる。


「えっ、これどうしたんだ?」

「俺が作ったんだ!自信作なんだよ!」


凄い!


シャンデリアの光に反射して目が痛いくらいに輝く武具達を見る。

和也は詳しいわけではないのだが、その輝きだけでかなりの業物ということがひしひしと伝わってきた。


「えっ信宏、いいのか?」


剣崎が疑問の声を上げる。

流石の剣崎もサプライズには弱い様で、その声からは少しの動揺が感じられた。


「もちろん。…俺は戦闘職じゃないからさ、ちょっとでも前線で戦う皆の役に立ちたかったんだ。それは今の俺が作れる最高の武具で、師匠にも褒めてもらった。俺にはこんなことしか出来ないけど、最大限協力するからさこれからも頑張ってくれ。」

「ああ、ありがとな。」


勇者組の面々が次々にお礼を言っていく。

皆からお礼を言われた前田は、頬を少し赤らめて照れていた。


「じゃー皆さん、配るの手伝って下さい。」


前田が背後に整列する執事達に頼み、武具達が配られ始める。


「はい、どうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」


和也の元に配られたのは夜の様に暗く、光を吸収しそうなほど黒い短剣だった。

その短剣に合わせたのだろう、暗い色の防具もあった。


え、なにこれ……かっこいい。


剣の見た目も和也の趣味にドンピシャで、初めて触ったのに今まで連れ添ってきた相棒の様に手に馴染んだ。


「ユニークスキルの指示通りに作ったから合わないなんてことは無いだろうけど、もしなんかあったら教えてくれ、すぐ直すから。」


鍛冶神の加護。

凄いユニークスキルだ。



「ほんと、何から何までありがとな。」


剣崎が感極まった様にお礼を告げる。

前田は、


「それぐらい別にいいよ。」


と、至って普通の事のように言った。


今まで使ってきた短剣もそろそろ変えようと思ってたし、丁度良かった。

前田には本当に感謝しかない。


「じゃー解散な!うん。もっといいのが出来たらまた渡すだろうからそれまで使ってくれ。」

「ああ、ずっと使うよ!」

「傷とか付いたら直ぐ持ってこいよ。俺は基本工房に居るから。」

「おう!」

「よし、じゃあ今度こそ解散!また今度な!!」


その掛け声を尻目に、僕達は部屋から出て行った。



────────────────────



ギルドにすぐさま駆け込んだ僕は、手際よく装備を身に付けていく。


今は一刻も早くこの短剣を振るいたい。

モンスターを殺すことに多少の嫌悪感を持っていた和也がそう思う程、その漆黒の武具達に魅了されていた。


「よし。」


過去最短タイムで防具を身に付けた和也は意気揚々とクエストカウンターに向かう。


「あれ?カズヤさん、装備変えたんですか?」


僕を見かけたレーナさんが声を掛けて来る。


「あ、はい。勇者組の鍛冶師がさっきくれまして。」

「それで早速使おうってことですか。」

「あ、はい。」


心の内を見透かされたことに若干の照れを感じつつもすぐさま返事する。


そういえばあの日のこと、まだレーナさんにお礼言えてなかったな。


「あ、あのレーナさん。」

「はい?」

「昨日はありがとうございました。」


深く頭を下げて、レーナにお礼を告げる。


「いえいえ、ただのお節介ですので。…それで上手くいったんですか?見た感じはいい雰囲気でしたけど。」

「はい、一応は。」

「次はいつ会うんですか?」

「あ、明日です。」

「……準備は出来てるんですか?」


レーナさんの質問に、和也は目をそらしながらはぐらかす。


「……え、ええっと。」

「…はぁ。私が言うのも何なんですけど、こんなとこ居ていいんですか?」

「えっ、いや、でも。」


新装備使ってみたいし。


「その様子じゃ、明日どういう所に行って何をするかとか決めてないですよね。」

「いや、別に今までそんなに考えたこと無かったから別に良いかなって。」

「ダメです。」


僕の考えをレーナさんが速攻で否定する。


「…私、あと一時間程したら今日は終わりなので手伝いますよ。」

「えっ、いやそんなの悪いですよ。」

「特に予定は無いので大丈夫ですよ。」

「…でも。」


気が引ける。


「エリナちゃんと装備、どっちが大切なんですか?」


その質問で、はっとさせられた。

うん、そうだ。

装備は何時でも使えるんだからいいじゃないか。


「それはもちろんエリナですけど。」

「それじゃあ決定ですね。」

「…お願いします。」

「でももし、」

「もし?」


レーナさんが、一拍置いて言葉を溜める。

この先に何か重要なことがありそうでつい聞き返してしまった。


「もし、悪いと思っているのなら態度で示してくれて結構ですよ。」


……本命はそっちか。

まあ、助かるのは本当だし、それくらいいいけど。


レーナさんの笑顔の裏に隠れた作戦に気付き、苦笑する。


「そういうことなら。はい、お願いします。」

「ではあと一時間程待ってて下さい。」

「あ、はい。分かりました。」

「ではまた後でお願いしますね。」

「はい、お願いします。」


あと一時間。

どうしようか。

とりあえず、部屋に戻って装備を外しておこう。


僕はギルドを後にした。

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